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東京弁護士会が安倍元首相の国葬に反対、撤回を求める会長声明公表~第一の理由は法的根拠がないこと

 安倍晋三元首相の国葬に対し、東京弁護士会が8月2日、反対を表明して撤回を求める会長声明を公表しました。弁護士会の反対声明は初めてのようです。
 声明は反対の理由を、順序立てて挙げています。わたしなりに要約すると、以下の通りです。
 ①国葬には法的根拠がなく認められない。
 ②国葬は弔意を事実上強制する契機となり、憲法19条の思想・良心の自由との関係で好ましくない状況が危惧される。
 ③安倍政権の集団的自衛権の容認と安全保障関連法などに対し、違憲として反対してきた。これらを国への功績と評価する国葬を行えば立憲主義及び憲法の基本理念を揺るがす。

 共同通信が7月末に実施した世論調査で、国葬への反対が53%に上ったように、民意は反対多数です。ただ、その理由については、ネット上などで目にする限りですが、安倍元首相が国論を二分するような政治課題で、ことごとく数をたのんで国会採決を強行し、社会に分断をもたらしたことなどを強調して、「国葬に値しない」とする言説をとても多く目にします。ひと言で言えば「安倍元首相だからダメ」とも受け取れる内容です。
 わたしも今回の国葬には反対です。ただ、理由の順位ははっきりしていて、安倍元首相の業績の評価以前に、国葬そのものが法的根拠を欠く、日本社会の法治の中では認められていない、との点が第一です。安倍元首相でなくても、ほかの、どんなにすばらしい業績を残したと評価できる政治家であっても、政治家の国葬はだめです。
 東京弁護士会の会長声明が上記のように、この点を第一にして順序立てて反対理由を整理しているのは、さすが法律家だと思います。
 国葬に法的な根拠がない、少なくとも明記がないことは争いがなく、国葬を強く支持する産経新聞も社説で「元首相の国葬後に、国葬に関する法令の整備を進めてもらいたい」(7月26日付「主張」)と書いているほどです。そうした国葬が、そもそも法治の観点から許されるのかどうか、社会全体で冷静に考えたい。安倍政治への「非」の意見をことさらに強調してしまうと、「是」とする意見との間で分断が深まり、非寛容の雰囲気が高まるばかりのように思います。

 東京弁護士会の声明は以下で読めます。
※「安倍晋三元内閣総理大臣の『国葬』に反対し、撤回を求める会長声明」=2022年8月2日
https://www.toben.or.jp/message/seimei/post-663.html

www.toben.or.jp