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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

「あってはならない」基地被害が続く沖縄~被害者を疑い誹謗中傷するグロテスクな光景 ※追記:原因「人的ミス」、米ヘリ飛行再開を日本政府容認

 沖縄県宜野湾市で12月13日午前、米軍普天間飛行場に隣接する市立普天間第二小学校の校庭に、米海兵隊の大型ヘリCH53Eから操縦席横の窓が枠ごと落下しました。当時、校庭では児童が体育の授業中でした。窓枠はおおむね90センチ四方で重さ7・7キロ。はねた小石が当たって児童1人がけがをしたと伝えられています。落下場所がどこか別の所なら許されるというわけではないのですが、授業中の小学校の校庭に軍用機が部品を落とすとは、沖縄県外の日本本土に住む誰であれ、わが身とわが地域に置き替えて考えてみれば、沖縄の人々が受けている基地被害の深刻さ、苛烈さが分かるはずです。菅義偉官房長官も小野寺五典防衛相も、記者会見や記者団のぶら下がり取材に、口をそろえるように「あってはならないこと」と述べたと報じられました。「あってはならない」ことが起こってしまったというのに、そして基地による住民被害は変わらず続いているというのに、それでも「あってはならない」などと口にしてしまうのは、単に危機感を演出しようとしているだけということを問わず語りに語ってしまったようにしか、私には思えません。あるいは、ほかに言葉が思いつかないくらいに国語力が乏しいということでしょうか。

 東京発行の新聞各紙の初報は13日の夕刊でした。朝日新聞、毎日新聞、東京新聞は1面トップなのに対し、読売新聞は1面の3番手、日経新聞は社会面トップ。産経新聞は東京では夕刊を発行していません。経済紙の日経はともかくとして、朝日、毎日、東京の3紙と読売の扱いの差は、普天間飛行場の辺野古移設問題を含めて沖縄の基地集中の問題の報道ではいつも通りのことです。朝日、毎日、東京は1面にそろって沖縄タイムス提供の写真やヘリの資料写真、普天間飛行場周辺の地図なども併用しました。

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 翌14日付の朝刊では、四国電力伊方原発3号機を巡り、広島高裁(野々上友之裁判長)が運転を差し止める決定を出したという歴史的なニュースがあり、朝日、毎日、読売、東京の4紙が1面トップでしたが、朝日、毎日、東京の3紙は沖縄のヘリ窓落下の続報を2番手の準トップに置き、総合面や社会面にも関連記事を載せて詳しく報じました。読売の続報は、本記が社会面準トップで政治面に関連記事、この朝刊が初報となる産経は本記が2面、政治面と社会面に関連記事が載りました。新聞はニュースの格付けに意義があるメディアです。ここでもやはり、朝日、毎日、東京と読売、産経とでニュースバリュー判断は2極化しています。

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 今回の窓落下で、住民の生活の場と隣り合う普天間飛行場の危険性があらためてクローズアップされました。わたしが危惧するのは、そのことをもって、「だから辺野古への移設を急がねばならない」との言説が勢いを増すことです。普天間飛行場の危険の除去ということだけを見るなら、それも合理的なように思えるかもしれませんが、日本全体の安全保障という観点に立ち、なおかつ沖縄の現代史を踏まえるなら、地域に大きな痛み、犠牲を強いる基地負担を、地域の反対にもかかわらず沖縄に押し付けることのいびつさに目を向け、沖縄だけにそういうやり方が許されると考えることの恥ずかしさに気付くべくだろうと思います。ほかに受け入れる地域がないから沖縄に、という日本政府の政策は、かつて民主党に政権が映っても最終的には変わらなかったのですが、それでも日本が民主主義国ならば、選挙を通じて政策を変えさせることが可能なはずです。しかし現実にはそうなっていない以上、沖縄県外の日本本土の日本国民は、日本国の主権者としてだれも等しく、沖縄に苦痛と犠牲を強いている責任を問われる立場だろうと思います。もちろん、わたし自身もです。

 宜野湾市では窓落下の前の12月7日、普天間飛行場から約300メートルの保育園の屋根に、円筒形の物体が落ちているのが見つかりました。米軍ヘリが上空を通過し、直後にドーンという音を職員や園児が聞いていました。屋根にへこみも見つかりました。物体は米軍のCH53Eヘリのものであることを米軍も認めましたが、ヘリからの落下は否定したと報じられています。飛行前に取り外す部品であり、数はそろっているというのです。

 このトラブルに関連して伝えられたニュースにとても残念な気がしています。米軍が落下を否定していると8日に報じられて以降、保育園には「自作自演だろう」「うそをつくな」などの電話やメールが連日、届いているとのことです。

 ※共同通信「沖縄の保育園に中傷メール ヘリ落下物は『自作自演』」=2017年12月12日

 https://this.kiji.is/313215116650775649?c=39546741839462401

 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)近くの「緑ケ丘保育園」の屋根に円筒状の物体が落下したトラブルで、米軍ヘリから落ちたと主張する園に対し「自作自演だろう」といった誹謗中傷の電話やメールが計数十件寄せられていたことが12日、分かった。神谷武宏園長が明らかにした。

 園長によると、米軍がヘリからの落下を否定した8日以降、「うそをつくな」などの電話やメールがあったという。園長らはこれに先立つ7日に「米軍ヘリが上空を通過後に『ドン』という音がした」と証言していた。

 園の保護者らは12日にトラブルの原因究明や園上空での米軍ヘリ飛行禁止を求める嘆願書を県などに手渡した。

   ※朝日新聞「米軍ヘリ部品発見の保育園、中傷メール・電話が相次ぐ」=2017年12月16日

 http://www.asahi.com/articles/ASKDH5DS6KDHTIPE01X.html 

 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)から約300メートルの場所にある緑ケ丘保育園には連日、なじるようなメールや電話が舞い込んでくる。「自分たちでやったんだろう」「教育者として恥ずかしくないのか」……。

 7日午前、大きな音が響き、屋根の上で見慣れない物体が見つかった。円筒形で高さ9・5センチ、重さは213グラム。米軍は翌日、大型ヘリCH53Eの部品だと認めた。一方で米軍は「飛行する機体から落下した可能性は低い」とした。メールや電話はそれから相次ぐようになった。

 多くは「自作自演だ」など園側を疑い、中傷していた。ウェブにも同様の臆測が流れた。嫌がらせのメールをはじく設定にしたが、それでも1日4~5通のメールが毎日届き、電話もしばしばかかってきて相手は名乗らない。

 部品が見つかった屋根にはへこんだ痕跡があり、宜野湾署も確認している。職員や園児が「ドーン」という衝撃音も聞いている。神谷武宏園長は「じゃあ、部品はどこから来たんですか。私たちじゃなく、米軍の管理の問題でしょう」。

 「そんなところに保育園があるのが悪い」。そんな電話もある。園長はこう反論している。「基地より先に、住民がいた。園だって生活に必要だから、先人たちが建てたんです」 

 電話やメールを発する人たちは義憤に駆られてのことなのかもしれません。しかし、一般論としても、被害を訴えている同胞がおり、なお真相は明らかになっていないのに、駐留外国軍は無条件で信用できると言わんばかりに同胞を非難するというのは、わたしの目にはグロテスクな光景に映ります。

 やはり、せめて太平洋戦争末期の沖縄戦や、日本の敗戦以降の米統治を踏まえた沖縄の現代史が広く日本の社会で、知識として共有されることが必要だと感じます。それはマスメディアの大きな課題の一つであることも痛感します。

 

 13日のヘリの窓落下を報じる14日付の琉球新報の紙面が手元に届いています。最終面は写真特集です。沖縄でこの出来事がどのように受け止められているかを少しでも知るよすがになれば、と思います。写真は順に1面と最終面、総合面(2、3面)、社会面です。

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 社説は「普天間飛行場の即閉鎖を」と主張しています。

 ※琉球新報 社説「米軍ヘリ窓落下 普天間飛行場の即閉鎖を」=2017年12月14日

 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-630559.html  

 これほどの重大事態にもかかわらず、政府は同型機の飛行停止ではなく、飛行自粛を求めただけだ。あまりにも弱腰すぎる。全ての訓練の即時中止を求める。

 事故を受け菅義偉官房長官は「(事故は)あってはならない」と発言した。「あってはならない」事故が引き起こされるのは、沖縄に米軍基地が集中しているからである。県民の命を守るためには、海兵隊の撤退しかない。 

 

【追記】2017年12月19日8時30分

 米軍側は18日に、事故原因を人的ミスと発表しました。ヘリの機体の構造的な欠陥はないとして、19日以降に同型機の飛行を再開します。日本政府もこれを容認しました。米軍は今後、普天間飛行場を離着陸する全米軍機の搭乗員に対し、宜野湾市内全ての学校上空の飛行を「最大限可能な限り避けるよう指示」したとのことですが、いつものことながら「最大限可能な限り」の留保が付いています。実際は、ヘリがまた学校上空を飛行しても米軍は「必要があった」と言うだけでしょう。日本政府が自国民を守るためにできるのは、ここまでのようです。 

※共同通信「政府、米軍ヘリ飛行容認 近く再開、沖縄の反発必至」=2017年12月18日 
 https://this.kiji.is/315415487327503457?c=39546741839462401 

 防衛省は18日、沖縄県宜野湾市の市立普天間第二小に米軍のCH53E大型輸送ヘリコプター操縦席窓が落下した事故を巡り、同型機の飛行再開を容認する方針を発表した。米軍から事故原因に関し「人的ミスと結論付けられた。窓のレバーが緊急脱出の位置に動かされたことで離脱した。事故は当該機固有の問題だ」と説明を受けたと明らかにした。政府関係者によると、米軍は19日以降に飛行を再開する見込みで、沖縄県側がさらに反発を強めるのは必至だ。
 在日米海兵隊は18日の声明で「安全な飛行のための全機の包括的な点検を行った」などとして、同型機の飛行再開の準備が整ったとの認識を示した。 

※琉球新報「CH53飛行再開へ きょうにも、政府容認 米軍「学校 最大限回避」 普天間第二小・ヘリ窓落下」=2017年12月19日

ryukyushimpo.jp

 この窓落下事故でも、普天間第2小学校に誹謗中傷の電話が相次いでいるとのことです。沖縄の現代史の中での基地の成り立ちへの無知、無理解ゆえだと思うのですが、マスメディアはこうした無知、無理解あるいは誤解に対して、一つひとつ、ことあるごとに、誤りを指摘していくべきだろうと思います。

 以下は沖縄タイムス、琉球新報の19日付社説を紹介しておきます。

▽沖縄タイムス「[米軍ヘリ飛行再開へ]負担の強要 もはや限界」
 http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/185362 

 普天間飛行場は、住民の安全への考慮を欠いた欠陥飛行場である。普天間飛行場の辺野古移設は「高機能の新基地を確保するために危険性除去を遅らせる」もので、負担軽減とは言えない。
 一日も早い危険性の除去を実現するためには、安倍晋三首相が仲井真弘多前知事に約束した「5年以内の運用停止」を図る以外にない。期限は2019年2月。
 そこに向かって、不退転の決意で大きなうねりをつくり出し、目に見える形で県民の強い意思を示す必要がある。命と尊厳を守るために。 

▽琉球新報「CH53E飛行再開へ 米本国では許されない」
 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-633426.html 

 海兵隊は普天間第二小学校の喜屋武悦子校長に安全点検と搭乗員に対する教育を徹底できたとの認識を表明。最大限、学校上空を飛ばないようにすると米軍内で確認したことを伝えた。これに対し「最大限の確認では納得できない」と喜屋武校長が述べたのは当然だ。飛行禁止にすべきだ。
 結局、防衛省は飛行再開のために必要な措置が取られたとして、飛行再開の容認を決めた。県民にきちんと説明しないまま、米軍の言いなりである。これでは米軍の代行機関ではないか。
 この1年間、米軍機の事故が頻発している。その都度日本政府は、米軍の飛行再開を容認してきた。翁長雄志知事が指摘するように「当事者能力がない」。