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「恥ずかしさを感じてもらいたい」沖縄知事の激しい怒り~事故、トラブル続発でも飛行やめない米軍機、止めない日本政府

 沖縄で先週末の連休中、米軍ヘリの不時着が相次いで起きました。6日の土曜日に、うるま市伊計島の砂浜にUH1が、次いで成人の日の祝日の8日、読谷村の廃棄物処分場の敷地内に攻撃ヘリAH1がそれぞれ不時着しました。いずれも海兵隊普天間飛行場の所属。けが人がなかったとはいえ、それぞれ住宅やリゾートホテルまで100~数百メートルだったと報じられています。沖縄では昨年10月11日、普天間飛行場所属の大型ヘリCH53が東村高江の牧草地に不時着して炎上。12月には宜野湾市の保育園にヘリの部品が落下し、小学校の校庭には操縦席の横の窓が落下しました。それ以前にも普天間所属の輸送機オスプレイが大分空港に不時着したり、豪州沖で訓練中に墜落したりしています。年が改まっても、米軍機のトラブルは収まりません。
 9日午前に行われた小野寺五典防衛相とマティス米国防長官との電話会談では、小野寺防衛相は再発防止策や点検整備の徹底などを申し入れたものの、抗議はせず、沖縄県が求める全機種の飛行中止も要求しませんでした。マティス長官も謝罪はしたものの、事故が頻発している理由は説明しなかったとのことです。
 沖縄県の翁長雄志知事は9日午前、記者団の前で、米軍と日本政府を批判しました。沖縄タイムスの電子版記事によると、「言葉を失う。日本政府も当事者能力のなさを恥ずかしく感じてもらいたい」と述べたとのことです。東京発行の新聞各紙夕刊では、1面で報じた毎日新聞が詳しく、それによると知事の発言は「日本国民である沖縄県民がこのように日常的に危険にさらされても何にも抗議もできない。当事者能力がないということについて恥ずかしさを感じてもらいたい」というものでした。何と激しい言葉かと思います。「恥ずかしさを感じてもらいたい」とは、つまりは「恥を知れ」ということです。また、琉球新報によると翁長知事は「(日本政府が)『負担軽減』『法治国家』という言葉で押し通していくことに大変な憤りを改めて感じている。日本の民主主義、地方自治が問われている。単に一機一機の不時着の問題だけではない」と述べ、沖縄の声が日米両政府に聞き入れられない構造的問題にも言及しました。
 読谷村の不時着ヘリは9日午前、自力で普天間に戻った後、午後には飛行を繰り返しました。UH1やCH53、オスプレイを含めて普天間飛行場所属の海兵隊機はこの日、通常通り訓練を展開したと、沖縄タイムスや琉球新報は伝えています。訓練続行に対して、日本政府からはアクションはありません。沖縄県民を危険にさらす状況が続いています。同じようなことは、沖縄以外の日本国内でも起こり得るのでしょうか。翁長知事が「日本国民である沖縄県民がこのように日常的に危険にさらされても何にも抗議もできない。当事者能力がないということについて恥ずかしさを感じてもらいたい」と、「恥を知れ」と激しい怒りを直接投げ掛けた先は日本政府であるとしても、沖縄以外の日本国内に、この知事の言葉は広く知られる必要があると思います。

 以下は沖縄2紙の関連記事のリンクです。

ryukyushimpo.jp

www.okinawatimes.co.jp

ryukyushimpo.jp

 2件の不時着を東京発行の新聞各紙(朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、日経新聞、産経新聞、東京新聞)はどのような扱いで報じたか、それぞれ7日付と9日付の朝刊の主な見出しなどを書きとめておきます。

【7日付朝刊】
▼朝日
社会面3段「米軍ヘリ また不時着 沖縄の砂浜」写真・住民が撮影した不時着ヘリ(沖縄タイムス提供)、地図
▼毎日
1面3段「米軍ヘリ不時着 沖縄・伊計島」写真・不時着したヘリ(住民提供)、地図
第2社会面3段「『被害なしは偶然』/米軍ヘリ不時着 住宅まで130メートル」写真・不時着ヘリ、小型無人機で撮影(琉球新報提供)
▼読売
第2社会面3段「米軍ヘリ 砂浜に着陸 沖縄」写真・不時着したヘリ(提供写真)
▼日経
社会面2段「沖縄、米軍ヘリ不時着/伊計島の砂浜、けが人なし」
▼産経
第2社会面2段「米軍ヘリが不時着/沖縄・伊計島、けが人なし」写真・不時着ヘリ(小型無人機から、琉球新報社提供)、地図
▼東京
社会面トップ4段「沖縄で米軍ヘリ不時着/伊計島 砂浜 住宅まで100メートル」写真・不時着ヘリ(小型無人機から、琉球新報社提供)、地図/「『米に申し入れる』河野外相」
社会面3段「保育園部品落下1カ月 原因究明進まず」

【9日付朝刊】
▼朝日
1面3段「米軍ヘリまた不時着/沖縄・読谷 住宅地から300メートル」写真・住民が撮影した不時着ヘリ(沖縄タイムス提供)、地図
社会面3段「不時着『なぜこんなに』/米軍ヘリ わずか2日後、憤る沖縄」写真・伊計島のヘリは撤去
▼毎日
1面3段「米軍ヘリまた不時着/沖縄・読谷村 ホテルから数百メートル」地図
社会面4段「『沖縄の空飛ぶな』/米軍ヘリまた不時着 県民怒りの声」写真・住民が撮影した不時着ヘリ(沖縄タイムス社提供)
▼読売
第2社会面3段「米軍ヘリまた不時着/沖縄・読谷 ホテル近く けが人なし」写真・不時着したヘリ(住民撮影)
▼日経
社会面4段「米軍ヘリ また不時着/沖縄・読谷村 付近にはホテル」地図
▼産経
第2社会面3段「米軍ヘリ また不時着/沖縄・読谷村 伊計島の機体は撤去」写真・伊計島のヘリをつり上げる大型ヘリ、地図
▼東京
1面トップ4段「沖縄米軍ヘリ また不時着/読谷村 ホテルまで250メートル」写真・不時着したヘリ、地図
社会面トップ4段「続く不時着『極めて異常』/怒る沖縄 突然異音 低空飛行」※琉球新報 表・沖縄県での最近の主な米軍機トラブル
社会面3段「『北朝鮮よりも脅威』『米軍機恐怖感じる』」/2段「伊計島 不時着ヘリ撤去」写真・ヘリをつり上げる大型ヘリ

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写真:読谷村での攻撃ヘリ不時着を1面で報じた9日付の朝日、毎日、東京各紙朝刊

 

■追記1 2018年1月10日8時25分
 共同通信の出稿によると、河野太郎外相は9日午後、ハガティ駐日米大使と電話会談し、沖縄で米軍ヘリのトラブルが相次いでいることに対して抗議を申し入れたとのことです。

 

■追記2 2018年1月10日23時30分
 9日午前の翁長雄志・沖縄県知事の発言を、東京発行の各紙はどう報じたか、直接引用の部分を書きとめておきます。
・朝日
「米軍のだらしなさ。日本政府も当事者能力がないことに恥ずかしさを感じてもらいたい」=9日夕刊
・毎日
「日本国民である沖縄県民がこのように日常的に危険にさらされても何にも抗議もできない。当事者能力がないということについて恥ずかしさを感じてもらいたい」
「本当に言葉を失うほどだ。何としても悪い循環を断ち切るようにしないと、沖縄のみならず日本の民主主義や地方自治が問われている」=以上9日夕刊
・読売
「日本国民である沖縄県民が日常的に危険にさらされても抗議もできない。日本政府は当事者能力がないことに、恥ずかしさを感じてもらいたい」=9日夕刊
・日経
「本当に言葉を失う。県民が危険にさらされている」=10日付朝刊
・産経 ※夕刊発行なし
「県民が日常的に危険にさらされている。日本政府は当事者能力がなく、恥ずかしさを感じてもらいたい」=10日付朝刊
・東京
「本当に言葉を失う。(再発防止について)何一つ前に進まない」=9日夕刊

 

■追記3 2018年1月12日6時50分
 2件の不時着事故を伝える琉球新報の紙面が手元に届きました。1月7日付、8日付、9日付です。
 6日に不時着した多用途ヘリUH1の機体は8日、米軍の別のヘリがつり上げて現場から撤去、回収しました。同じ日に攻撃ヘリAH1の不時着があり、9日付の紙面はそちらの方が大きな扱いになっているのですが、このUH1の回収方法にも批判があったようです。社会面の記事によると、つり下げられた機体は、うるま市伊計島から海上を飛んで約10分後に米海軍ホワイトビーチのヘリポートに下ろされました。飛行コースは、沖縄本島と津堅島を結ぶ民間フェリー航路を突っ切っており、数分後にフェリーが通過。ヘリを目撃したフェリー乗客の「風であおられて落ちないかねと怖かった」との証言を紹介しています。フェリーの運航会社の代表も「定期船は安心・安全が第一だ。一歩間違えれば事故につながる」と憤慨。ヘリ移送の通知があったのは約1時間前のことで「ウチナーンチュが見下げられている」と批判したとのことです。在京紙の報道にはないに欠けた視点です。

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