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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

「共謀罪」施行1年

 犯罪の実行ではなく計画段階で処罰の対象とする「共謀罪」の趣旨を含んだ改正組織犯罪処罰法の施行から、7月11日で1年です。東京発行の新聞各紙の中では、朝日新聞と東京新聞が11日付朝刊で、毎日新聞は12日付朝刊で記事を掲載しました。それぞれの記事の見出しを書きとめておきます。

▼朝日新聞 11日付3面
「共謀罪 検察受理件数はゼロ/施行から1年」
「捜査機関への情報提供『公表を』市民団体/LINE開示942件」

▼東京新聞 11日付1面
「廃止求める動き 続く/『共謀罪』法施行1年」

▼毎日新聞 12日付29面(社会・総合面)
「『共謀罪』適用報告なし/施行1年 法務省『ハードル高い』」

 朝日新聞は、「共謀罪」の施行によって、通話やメールの内容が証拠として使われる可能性があることについて、「通信事業者は、捜査機関への情報提供の状況を公表すべきだ」と求めている市民団体などの指摘を紹介しています。裁判所の令状を伴った要請については開示し、その件数を公表したLINEの例もありますが、国内の事業者は実態の公表に必ずしも積極的ではないとのことです。既に「監視社会」は到来していると受け止めた方がいいと、あらためて感じます。
 ほかに共同通信は10日付朝刊用に「『共謀罪』適用ゼロ/弁護士ら、運用注視を/あす施行から1年」を配信しています。全国の地方紙に掲載されていると思います。
 新聞各紙の11日付の社説では、ネットで検索した範囲では、北海道新聞と信濃毎日新聞が取り上げました。それぞれ、一部を引用します。

▼北海道新聞「『共謀罪』法1年 やはり廃止するべきだ」

 さまざまな問題をはらんだ法律であるにもかかわらず、政府は昨年、参院の委員会採決を省略する「中間報告」という奇手まで繰り出して強引に成立させた。
 施行から1年がたったからといって、国会審議をないがしろにした極めて乱暴な手法を不問に付すわけにはいかない。
 安倍晋三首相は、昨年の通常国会閉会後の記者会見で「共謀罪」法について「必ずしも国民的な理解を得ていない」と認めている。
 ところが、その後、国民に誠意を持って対応しようとする姿勢は皆無に等しい。
 「丁寧な説明」を口にするだけで、実行を伴わない不誠実さは国民軽視のそしりを免れまい。
 「共謀罪」法を巡っては、いまも全国各地で反対集会やシンポジウムが続いている。
 政府は市民の根強い懸念に向き合う必要がある。
 野党の責任も重い。国会で議論を巻き起こし、粘り強く法の問題点を追及すべきだ。

▼信濃毎日新聞「共謀罪法1年 厳しい目、向け続けねば」  

 共謀罪法(改正組織犯罪処罰法)が施行されて1年が過ぎた。内心の処罰につながり、民主主義の土台を揺るがす危険性をはらんだ法である。時間とともに社会の関心が薄れていないか、気がかりだ。
 広範な犯罪について、計画に合意しただけで処罰できるようにした。実行行為を罰する刑法の基本原則は覆され、刑罰の枠組みそのものが押し広げられた。
 合意という意思を罰することは内心の自由や表現の自由を侵し、人権と尊厳の根幹を損なう。その危うさは、思想・言論が弾圧された戦時下の治安立法に通じる。
 共謀罪が適用された事例はまだない。強い批判を押し切って成立させただけに慎重に対応せざるを得なかった状況がうかがえる。
 ただ、捜査当局による運用実態を把握する仕組みはない。恣意的な運用の歯止めもないに等しい。社会が厳しい目を向け、縛りをかけていくことが欠かせない。 

 1年前の去年の7月11日に、わたしはこのブログに以下のように書きました。今も考えに変わりはありません。まずは黙らない、語り続けることが大事です。  

 だから、「共謀罪」の乱用を許さないためにも、まずは黙らない、語り続けることが大事なのだと思います。そして、マスメディアは黙らずに語り続けることができる社会を維持するために、語り続けようとする人たちを支えていく役割があるのだろうと考えています。
 戦前の治安維持法がそうでしたが、悪法は小さく生まれて大きく育つ場合があります。「共謀罪」は導入されてしまいましたが、これで決して終わりではありません。 

news-worker.hatenablog.com

 

【追記】 2018年7月13日8時
 徳島新聞も11日付で社説を掲載しました。一部を引用します。

▼徳島新聞「『共謀罪』施行1年 今なお不安が拭えない」 

 改正法の施行後、目に見えて犯罪の摘発が勢いづいたり、通信傍受が強化されたりしているわけではないが、じわじわと市民への監視が強まっていく可能性がある。
 こうした懸念に対し、兵庫県宝塚市が講じた措置は注目に値する。
 市は、街頭に設置を進めている防犯カメラの映像を捜査機関に提供する際、共謀罪に関する場合は、裁判所の令状がないと認めない運用要綱を定め、昨年10月から適用している。市民の共謀罪への不安や人権保護に配慮した市の姿勢を評価したい。
 ごり押しで成立に至った改正法の危うさは、施行後も何ら変わらない。市民は、共謀罪への不安や疑念を訴え続けていく必要がある。