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軍拡の中で自衛隊に何が起きているのか~中国領海航行の護衛艦、正確な位置を艦長把握せず

 海上自衛隊を巡って共同通信が配信したニュースを見て驚きました。
 ことし7月4日、中国東部浙江省の沖合を航行していた護衛艦「すずつき」が一時、中国の領海内に入ったという出来事がありました。当時、中国軍の訓練の監視任務に当たっていました。中国側から退去勧告を受けて、領海の外に出たと報じられています。共同通信の報道によると、その領海航行について日本政府は中国に、「すずつき」の艦長が自艦の正確な位置を把握していなかったと伝えたとのことです。

※「中国領海への誤侵入、艦長更迭 海自艦、位置把握せず」(共同通信)
=2024年9月23日05時14分

 【北京共同】海上自衛隊の護衛艦「すずつき」が7月に中国領海を一時航行したことについて、艦長が正確な位置を把握せず誤って領海侵入したと日本政府が中国側に伝達したことが22日分かった。海自は重大なミスがあったとして艦長を事実上更迭した。乗員の処分も検討している。複数の日中外交筋が明らかにした。海自の能力が疑問視される事態で、日本の安全保障にとって大きな不安要因だ。

www.47news.jp

 正確な位置を把握していないとは、自衛官でなくても、船乗りとして資質や能力、適性を疑わざるを得ない事態です。現に海自は艦長を事実上更迭したとのことです。艦長として艦全体を掌握することができない、そのような人材が武装した軍用艦の艦長の職に就いていたことは、海自が深刻な人材不足の状況にあることを疑うべきではないかと感じます。
 今年7月、防衛省が大規模な不祥事処分を発表したことに対して、何が本質だったか、このブログでも触れました。海自の護衛艦で特定秘密の違法運用が続いていました。個々人の規律(気の緩み)の問題を超えて、組織を想定通りに機能させることができない構造のとの構造的な問題です。自艦を掌握できない艦長の存在は、根は同じです。できもしないことをあれこれ自衛隊にやらせようとしているのではないか-。そう疑った方がいい状況であるように感じます。

 海自は「すずつき」の中国領海航行の調査結果を公表しない、とも共同通信は伝えています。危うさを感じます。

news-worker.hatenablog.com

 海自では今年4月、哨戒ヘリ2機が伊豆諸島の鳥島東方海域で衝突し、乗員8人が死亡する事故が起きました。乗員の見張りが不十分だったとの調査結果を海自は公表しています。共同通信が新聞用に配信している長文のサイド記事によると、防衛省内では、海自でミスが相次いでいることに対し、訓練の熟練度を高める取り組みが不可欠だとの意見が高まっているとのことです。しかし、問題は訓練の不足なのでしょうか。訓練を強化して何とかなると本気で思っているのだとしたら、旧日本軍の精神主義の再来になることを危惧します。
 現在の日本政府の軍拡と自衛隊の現状をどうとらえるか。マスメディアの報道の視点も問われると感じます。

[写真]護衛艦「すずつき」(出典:海上自衛隊HP)

【追記】2024年9月24日21時15分

 海事に詳しい方からご指摘をいただきました。船橋当直者がプロであろうが素人であろうが、今の船には、全地球測位システム(GPS)、電子海図(ECDIS)、船舶自動識別装置(AIS)などがあり、自動車のカーナビより正確な位置情報が自動的に表示されているとのことです。
 護衛艦でこうした設備が通常どのように運用されているか、はっきりした知識はないのですが、民間で活用されている技術の水準を見ても、基準排水量5100トン、乗員約200人の軍用艦の艦長が、自分がどこを航行しているのか分からなかったとすれば、極めて異常な事態です。艦内でいったい何が起きていたのか。よほどのことがあったのか。だから公表を控えるというのでしょうか。
 大規模な軍拡が進んでいる中で、自衛隊が身の丈に合わない任務を負っていることの歪みが表面化した可能性がある、と受け止めた方がいいように思います。軍拡でいくら最新の兵器をそろえても、今の自衛隊は運用する態勢が追いつかないのではないでしょうか。