ニュース・ワーカー2

組織ジャーナリズムに身を置き40年余

改憲、年金、消費税~参院選公示、在京紙の報道の記録

 参院選が7月4日、公示されました。21日の投開票日まで、各党、各候補者の訴えが続き、マスメディアにとっても大きな報道テーマになります。
 東京発行新聞各紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京)の5日付朝刊もそろって1面トップの扱いでした。各紙の1面の見出しを追っていくと、憲法(改憲)、年金(社会保障)、消費税(増税)といったところが共通しています。主見出しで朝日新聞「安倍政権6年半 問う」と毎日新聞「安倍政権7年審判」が同じテイストなのが目を引きました。一方で産経新聞は1面の主要な記事、見出しをほぼ憲法、改憲に絞っています。
 個人的には、この長期に及ぶ安倍晋三政権のもとで「あったこと」が「なかったこと」になってしまうことが起きていること、官房長官記者会見での東京新聞記者に対する質問妨害のように、マスメディアにも直接的に攻撃が加えられていると言っていい事態になっていることなどに対して、マスメディア自体が当事者性を自覚して、選挙の争点掘り下げをどう報道で展開していくかに注目していこうと思います。
 備忘を兼ねて、5日付の東京発行各紙朝刊の1面、総合面、社会面と社説の主な見出しを書きとめておきます。

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【朝日新聞】
・1面
「安倍政権6年半 問う/年金・増税・憲法 焦点に/参院選公示 21日投開票」
「不安にふたせず 論戦を」佐古浩敏・ゼネラルエディター
・2面「政治の安定 内実は」「与党 数の力誇示、不都合隠し」「共闘野党 長期政権 是非訴え」
・3面「各党の政策 争点は」※「消費税」「憲法」「老後不安」「外交・安保」「人手不足」
・社会面
「これからの6年 託す 選ぶ」※「東京五輪・パラ」「復興期間終了」「普天間返還」「65歳以上が3割」「やまゆり園事件」「森友・公文書改ざん」
・第2社会面
「議員に嘆き『品位・信念を』■就活『東京と格差』」「『#わたしの争点』SNSで」#ニュース4U(for you)
▽社説「参院選 社会保障への不安 負担と給付の全体像を示せ」/「痛み」を語らず/新たな政策課題も/政治の責任は重い

【毎日新聞】
・1面「安倍政権7年審判/改憲3分の2焦点/年金・消費増税論戦/参院選公示 21日投票」
・2面「野党 焦点の1人区」「共闘『立』『国』足並み乱れ」「複数区は候補者乱立」
・3面・クローズアップ「首相 改憲を前面に」「『宿願』に公明は慎重」「勝敗ライン下げ躍起」「長期政権 外交力強調」
・社会面トップ「暮らしの課題 答えは」※「年金」「消費増税」「陸上イージス」「被災地」「外国人」「地方創世」「女性活躍」
・第2社会面「世間話に『行った?』」粟島浦村・新潟県/「多忙『行かんでも…』」浪速区・大阪市(高低 投票率のまちから)
▽社説「19年参院選 安倍外交 米国との距離が問われる」

【読売新聞】
・1面
「年金・憲法で攻防/参院選370人立候補/21日投票」
「令和の針路 託すのは」東武雄・政治部次長
・2面「第一声『安定』『安心』」「首相6年の実績強調/枝野氏『老後2000万円』批判」
・3面・スキャナー「1人区 全面対決」「自民 幹部集中投入/野党共闘 温度差も」「党内競争激しく*比例選」
・社会面トップ「舌戦 雨中の号砲/『令和初』与野党が激突」/「女性対決■『忖度』巡って」
・社会面準トップ「若者の一票 誰に」「旗、漫画で投票呼びかけ」/「『年金政策見比べる』『弱者に寄り添って』/有権者の声」
▽社説「参院選19 参院選公示 政策と実行力を吟味したい」

【日経新聞】
・1面
「社会保障・憲法で論戦/改憲勢力2/3焦点に/参院選公示370人立候補」
「中長期の日本 議論を」原田亮介・論説委員長
・3面「改憲論議の行方左右/勝敗ライン」「信認確保へ最低目標 自公53」「『3分の2』発議可能に 改憲勢力86」「改選過半数『安定多数』に 自公63」
・社会面トップ「暮らし託す一票見定め」※「社会保障」「消費増資」「子育て」「沖縄」
▽社説「19参院選 女性が立候補しやすい社会に」

【産経新聞】
・1面
「改憲勢力の維持 焦点/参院選公示370人立候補/21日」
「3分の2 高い壁/首相『全体の過半数守る』」
「令和の国家像を語れ」佐々木美恵・政治部長
・2面「32の1人区 攻防激化」「与党 『激戦』東北テコ入れ」「野党 前回の11勝超えるか」
・3面「有権者に響く声は/党首ら第一声」
・社会面トップ「令和 安心求めて/東京 年金・五輪・子育て 未来占う」/「有権者 何望む?/自動運転技術■若者の支援を■待機児童解消■忖度に歯止め」
・第2社会面「大雨かすむ争点」「宮城 復興は道半ば『声を届けて』」

【東京新聞】
・1面「憲法 暮らし 未来選ぶ 論戦火ぶた/参院選公示 21日投開票」
・2面・核心「戦略二分」「『政治の安定』与党強調」「年金・消費税 4野党焦点」「参院選訴え 維新は独自路線」
・3面「改憲左右」「3分の2維持 反体制紙手順加速」「大きく割れば 20年施行は困難に」
・特報面(28、29面)
「弱者軽視『上から目線』「品格失い忖度が横行」民、侮るなかれ 参院選2019
・社会面トップ「年金 老後の要 議論を」「赤字生活『一票で変えたい』/『若者も当事者意識持とう』」
・第2社会面「憲法 安保どうあれば」「自衛隊の活動制限なくなる■軍備増強せず平和を/国を守るため軍に位置付けて■法の拡大解釈怖い」
▽社説「19参院選 党首第一声 有権者の胸に響いたか」

「2000万円貯蓄」問題 安倍政権への視線は厳しいが~6月の世論調査から(備忘)

 6月に新聞・放送などのマスメディアが実施した世論調査結果のうち、目に止まったものについて備忘を兼ねて書きとめておきます。安倍晋三内閣の支持率は、6月上旬実施のNHK調査と6月下旬の朝日新聞調査は前月と変化がありませんでしたが、6月半ばに実施した毎日新聞、産経新聞・FNN、共同通信の3件の調査では、そろって支持率が3ポイント前後減少したのが目を引きました。ただ、支持率自体は40%台後半と高い水準の調査結果が目立ちます。

【内閣支持率】※カッコ内は前回(前月)比、Pはポイント
▼朝日新聞 6月22、23日
 「支持」45%(±0)
 「不支持」33%(1P増)

▼毎日新聞 6月15、16日
 「支持」40%(3P減)
 「不支持」37%(6P増)
 「関心がない」21%(2P減)

▼産経新聞・FNN 6月15、16日
 「支持」47・3%(3・4P減)
 「不支持」36・5%(1・6P増)

▼共同通信 6月15、16日
 「支持」47・6%(2・9P減)
 「不支持」38・1%(1・9P増)

▼NHK 6月7~9日
 「支持」48%(±0)
 「不支持」32%(±0)

 個別の設問では、95歳まで生きるには夫婦で2千万円の蓄えが必要とした金融庁金融審議会の報告書を、麻生太郎金融担当相が受け取り拒否した問題を巡って、朝日、毎日、産経・FNN、共同の各調査が尋ねています。総じて、この問題を巡っては世論が安倍政権に対して厳しい目を向けていることがうかがえます。しかし、朝日新聞の調査では参院選の投票に当たって年金の問題を重視すると回答したのは51%であり、内閣支持率の水準の高さをも考え合わせると、7月21日投票の参院選への影響は、現状では限定的なようにも思えます。
 以下に各社の調査の主な質問と回答状況を書きとめておきます。なお、読売新聞は6月28~30日に世論調査を実施し、結果は7月1日付の朝刊に掲載しているようです。同紙のサイトによると、内閣支持率は前回比2ポイント減の53%、不支持率は4ポイント増の36%でした。


▼朝日新聞
・金融庁の審議会が、公的年金だけでは老後の生活費が2千万円不足するとの報告書をまとめました。この報告書が出たことで、年金について不安が強まりましたか。
 不安が強まった 49%
 それほどでもない 45%
・老後の生活費についてのこの報告書が、世間に不安や誤解を与えたとして、金融担当の麻生大臣は受け取りを拒否しました。この問題をめぐる安倍政権の対応に納得できますか。
 納得できる 14%
 納得できない 68%
・安倍政権は、年金制度の改革に、十分に取り組んできたと思いますか。
 十分に取り組んできた 14%
 十分ではなかった 72%
・今度の参議院選挙で投票する政党や候補者を決めるとき、年金の問題を重視しますか。
 重視する 51%
 重視しない 41%

▼毎日新聞
・夫婦の老後資金として、公的年金だけでは「約2000万円不足する」と試算した金融庁の審議会の報告書がまとまりました。しかし、担当相でもある麻生太郎副総理は「政府の立場と異なる」として受け取りを拒否しました。麻生氏の対応に納得できますか。
 納得できる 15%
 納得できない 68%

▼産経新聞・FNN
・金融庁審議会の「老後2000万円貯蓄」に関する試算について
 試算を受け、年金制度への信頼度はどうなったか
  不信感が増した 51.0%
  変わらない 44.6%
  信頼感が増した 2.2%
 報告書を受け取らないと表明した麻生太郎金融担当相の対応は適切と思うか
  思う 16.9%
  思わない72.4%
 これまで老後は年金だけで暮らしていけると思っていたか
  思っていた 13.9%
  思っていなかった 84.2%

▼共同通信
・金融庁の金融審議会は、老後に夫婦で95歳まで生活するためには、公的年金だけでは賄えず、2000万円の蓄えが必要になるとの報告書をまとめました。あなたは、自分の老後の生活について経済的に不安がありますか、ありませんか。
 不安がある 74.3%
 不安はない 22.7%
・麻生太郎金融担当相は金融審議会のこの報告書を正式には受け取らない意向を表明しました。担当大臣として諮問したにもかかわらず、受け取りを拒否するのは極めて異例です。野党は参院選への悪影響を避けるためだと批判しています。麻生氏の受け取り拒否をどう思いますか。
 問題だ 71.3%
 問題ではない 19.1%
・あなたは公的年金制度を信頼できますか、できませんか。
 信頼できる 28.2%
 信頼できない 63.8%

「差別」の被害と加害~ハンセン病患者家族訴訟・熊本地裁判決の社説・論説から

 ハンセン病患者に対する誤った隔離政策が続いたために、患者だけでなく、その家族も差別を受けたり、家族離散を強いられたりしたとして、国に賠償を命じる判決が6月28日、熊本地裁で言い渡されました。差別を生んだ国の責任を明確に認める画期的な司法判断として、新聞各紙やマスメディアでも大きく報じられています。
 差別は、差別を受ける被害だけではなく、差別をする加害も一体になった問題です。国の責任は明らかだとしても、「では差別するのはだれか」も同時に考えていかなければなりません。今回の熊本地裁判決を取り上げた新聞各紙の社説・論説をネットで読みながら、あらためてそんなことを感じました。そうした観点から目に止まった社説をいくつか、一部を引用して書きとめておきます。いずれも29日付です。

▼沖縄タイムス「[ハンセン病家族訴訟]国策が招いた差別断罪」
 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/438971

 恐怖心をあおり、社会の偏見や差別を助長し、孤立させた責任はマスコミを含めた私たちの社会にある。今も偏見と差別がなくなったとはいえない。多くの原告が実名ではなく原告番号の匿名で訴えていることからもうかがえる。
 旧優生保護法下の強制不妊手術を巡る国家賠償請求訴訟とも重なる問題だ。偏見と差別のない社会を実現するため一人一人が「わが事」として向き合わなければならない。

▼信濃毎日新聞「ハンセン病判決 家族の被害回復に道開く」
 https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190629/KP190628ETI090009000.php

 同時に見落とせないのは、患者や家族を排除した社会の責任だ。療養所に患者を送る「無らい県運動」は官民一体で行われた。隔離が続いた背景には、大多数の人の無関心や暗黙の了解があった。
 法が廃止されて20年以上が過ぎる今も、差別の根は断てていない。それぞれが自らの問題として向き合うことが欠かせない。

▼京都新聞「ハンセン病判決  偏見・差別許さぬ社会へ」
 https://www.kyoto-np.co.jp/info/syasetsu/20190629_2.html

 訴訟は隔離政策によってハンセン病を「恐ろしい伝染病」と誤認させた国の責任と併せ、偏見や差別を許してきた日本社会の責任をも問うたといえる。医師らは隔離の必要がない患者を見捨て、学校も偏見に苦しむ患者の子どもを助けなかった。司法もマスメディアも人権侵害を看過してしまった事実は重い。猛省せねばなるまい。
 ハンセン病問題は解決済みと考えがちだが、決して過去のものではない。差別を根絶するには何が必要か、判決から読み取りたい。

▼神戸新聞「ハンセン病訴訟/家族被害も国に重い責任」
 https://www.kobe-np.co.jp/column/shasetsu/201906/0012468968.shtml

 判決は国会が96年まで予防法を廃止しなかったことを立法不作為と指摘した。基本的人権が侵害される状況を放置してきた責任については、政治や行政、医学界、法曹界だけでなく、報道に携わる私たちも重く受け止めねばならない。
 家族がハンセン病だったことを隠す必要のない社会にするために、苦難の歴史を踏まえて正しい知識を広げていきたい。

 沖縄タイムスが指摘している、障害者に対する強制不妊手術の問題にも通じる視点は、岩手日報の論説も指摘しています。

▼岩手日報「ハンセン病家族訴訟 真の差別解消への一歩」
 https://www.iwate-np.co.jp/article/2019/6/29/58537

 原告勝訴の判決は、旧優生保護法下で不妊手術を強いられた障害者らにとっても、希望の光になるのではないか。
 被害者が国に損害賠償を求めて提訴したのを機に救済の機運が高まり、今年4月、被害者に一時金を支給する救済法が議員立法で成立した。ハンセン病の救済策などを参考にしたが、一時金支給の対象は被害者本人のみで、配偶者らは除外されている。
 国は配偶者の苦しみにも向き合い、一時金の支給対象を拡大すべきだ。
 今回の訴訟と優生手術訴訟の共通点は、原告の多くが匿名であること。偏見や差別が根強い表れと言えよう。
 安倍晋三首相は優生手術被害の救済法成立に際し、「全ての国民が疾病や障害の有無で分け隔てられることのない共生社会の実現に向けて、最大限の努力を尽くす」との談話を発表した。
 疾病や障害で苦しむのは本人だけではない。家族も苦しんでいる。本人も家族も支える仕組みづくりへ最大限努力することが、差別を解消し、共生への道を開く。

 

障がい者と沖縄戦~「埋もれた声に思い寄せ」慰霊の日・沖縄タイムスの社説

 第2次大戦末期の1945年6月23日に、沖縄では日本軍の組織的戦闘が終結したとされます。この日は沖縄では「慰霊の日」です。沖縄タイムス、琉球新報の2紙も23日付の社説は慰霊の日がテーマです。
 74年前の沖縄戦は、日本本土に米軍を迎え撃つ「本土決戦」に備えた時間稼ぎであり、沖縄は「捨て石」でした。戦後の米統治を経て1972年に沖縄は日本に復帰しましたが、今も在日米軍の専用施設の約70%が集中し、沖縄県の反対にもかかわらず、名護市辺野古では米軍普天間飛行場の代替施設となる基地の建設が進んでいます。琉球新報の社説「沖縄戦の教訓継承したい」は、辺野古には直接触れていないものの「在沖米軍基地の機能は強化され続けている」と指摘し、「『軍隊は住民を守らない』という沖縄戦の教訓を、無念の死を遂げた沖縄戦の犠牲者への誓いとして、私たちはしっかり継承していかねばならない」と結んでいます。
 一方の沖縄タイムスの社説「埋もれた声に思い寄せ」は、沖縄戦と障がい者に焦点を当てています。優生思想や障がい者差別の問題は今日的な課題でもあるのですが、差別を戦争という側面から検証していくことは、その両者の本質を考える上でも重要な切り口なのだと、あらためて考えさせられました。
 以下に、両紙の社説の一部を引用して書きとめておきます。リンク先で全文が読めます。

▼琉球新報「慰霊の日 沖縄戦の教訓継承したい」
 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-941509.html

 沖縄の防衛に当たる第32軍と大本営は沖縄戦を本土決戦準備のための時間稼ぎに使った。県出身の軍人・軍属には、兵力を補うために防衛隊などとして集められた17―45歳の男性住民が含まれる。沖縄戦ではこうして住民を根こそぎ動員した。
 さらにスパイ容疑や壕追い立てなど、日本軍によって多数の県民が殺害されたのも沖縄戦の特徴だ。
 住民は日本軍による組織的な戦闘が終わった後も、戦場となった島を逃げ回り、戦火の犠牲になった。久米島の人々に投降を呼び掛け、日本兵にスパイと見なされて惨殺された仲村渠明勇さんの事件は敗戦後の8月18日に起きた。
 戦後、沖縄は27年も米施政権下に置かれ、日本国憲法も適用されず、基本的人権すら保障されなかった。沖縄が日本に復帰した後も米軍基地は残り、東西冷戦終結という歴史的変革の後も、また米朝会談などにみられる東アジアの平和構築の動きの中でも在沖米軍基地の機能は強化され続けている。
 74年前、沖縄に上陸した米軍は以来、居座ったままだ。米軍による事件事故は住民の安全を脅かし、広大な基地は県民の経済活動の阻害要因となっている。沖縄の戦後はまだ終わっていない。
 「軍隊は住民を守らない」という沖縄戦の教訓を、無念の死を遂げた沖縄戦の犠牲者への誓いとして、私たちはしっかり継承していかねばならない。

▼沖縄タイムス「[きょう慰霊の日]埋もれた声に思い寄せ」
 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/436323

 「十・十空襲」の後、北部への避難を決めた家族に向かって、視覚障がいの女性が「自分を置いて早く逃げて」と言った、その言葉が心に刺さったという。周りに迷惑をかけたくないとの思いが痛いくらい分かったからだ。
 「僕だったらどうしただろう」
 南風原町に住む上間祥之介さん(23)は、障がいのある当事者として障がい者の沖縄戦について調査を続けている。
 発刊されたばかりの『沖縄戦を知る事典』(吉川弘文館)では「障がい者」の項を担当。母親が障がいのある子を「毒殺する光景を目の当たりにした」という証言や、自身と同じ肢体不自由者が「戦場に放置されて亡くなった」ことなどを伝える。
 国家への献身奉公が強調され、障がい者が「ごくつぶし」とさげすまれた時代。これまでの聞き取りで浮き上がってきたのは、家族や周囲の手助けが生死を大きく分けたという事実である。
 「戦争では皆、自分が逃げるのに精いっぱい。真っ先に犠牲になるのは障がい者や子どもやお年寄り」
 沖縄戦における障がい者の犠牲は、はっきりしていない。当時の資料も証言も少ない。話すこと、書くことが難しかったという事情はあっただろうが、沈黙を強いているのはその体験の過酷さである。
 優生思想は決して過去のものではない。もし今、自分の住む町が戦場になったら…。上間さんは戦争と差別という二重の暴力の中で「語られなかった体験」の意味を考え続けている。


 そのほか、ネット上で目にした本土紙の社説・論説のタイトルを書きとめておきます。一部は内容も引用しました。地方紙に、沖縄の基地問題の現状を他人事ではないととらえる視点があることは重要だと感じます。全国紙で関連の社説・論説を23日付で掲載しているのは産経新聞だけでした。「追悼の場に政治的な問題を持ち込み、意見を異にする立場の非を鳴らす行為は厳に慎みたい」との主張です。
 一定期間、サイト上で読める新聞の社説・論説はURLも紹介します。

▼北海道新聞「沖縄慰霊の日 苦難を顧みぬ国の横暴」
 https://www.hokkaido-np.co.jp/article/318069?rct=c_editorial

▼茨城新聞「沖縄慰霊の日 『捨て石』の構図いつまで」
▼山梨日日新聞「[あす『沖縄慰霊の日』]広がる『住民不在』 終止符を」=22日付

▼神戸新聞「沖縄慰霊の日/問われる平和と民主主義」
 https://www.kobe-np.co.jp/column/shasetsu/201906/0012452247.shtml

 県民の4分の1が犠牲になった沖縄では、世代を超えて戦禍の記憶が語り継がれている。「戦争が起これば標的となり、再び捨て石にされる」との不安や疑念の声が漏れる。
 秋田では地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の配備計画を巡る調査ミスが発覚した。批判を受けて防衛省は再調査する考えを示したが、「結論ありき」で国策を押し通すような政府の姿勢は、辺野古や宮古島とも通じる。
 沖縄の問題は、日本の平和と民主主義が直面する危うさを示している。地方の意思を考慮しない政権の姿勢にも厳しい視線を向け続ける必要がある。

▼山陰中央新報「沖縄慰霊の日/『捨て石』の構図が今も」

▼西日本新聞「沖縄慰霊の日 戦争の悲惨風化させるな」

 https://www.nishinippon.co.jp/item/n/520982/

▼大分合同新聞「沖縄慰霊の日 『捨て石』の構図いつまで」

▼佐賀新聞「沖縄慰霊の日 2019 『捨て石』の構図いつまで」(共同通信)=22日付
 https://www.saga-s.co.jp/articles/-/390783

▼熊本日日新聞「沖縄慰霊の日 『戦後』は終わっていない」
 https://kumanichi.com/column/syasetsu/1089184/

▼南日本新聞「[沖縄慰霊の日] 『痛み』忘れてはならぬ」
 https://373news.com/_column/syasetu.php?storyid=107030

 昨年の慰霊の日、病を押して式典に出席した故翁長雄志前知事が、やせ細った風貌とは裏腹に毅然(きぜん)と「辺野古に新基地を造らせないという決意は揺るがない」と述べた姿が忘れられない。
 翁長氏の死去に伴う県知事選や県民投票で「反対」の民意が何度も示されているのに、政府は辺野古の工事を強行している。翁長氏の遺志を継ぐ玉城デニー知事は「沖縄では為政者による抑圧が今も続いている。その最たるものが辺野古の現状だ」と訴える。
 楽観は許されないものの、北朝鮮が朝鮮半島の非核化を表明し、日中関係も改善の動きが見えるなど、日本の安全保障環境は変化している。いつまでも沖縄に基地負担を押しつけるのではなく、本土を含めた新たな安保戦略を検討する必要があるだろう。
 奄美大島に初めて陸上自衛隊が部隊配備され、南西諸島の防衛力強化が進んでいる。米軍空母艦載機の陸上離着陸訓練(FCLP)の移転候補地に挙がる西之表市馬毛島を巡る動きなど、鹿児島もよそ事ではない。
 安全保障政策は国の専管事項とは言っても、地元の意向を抑えつけて推し進めていいはずはない。沖縄戦から今に続く課題をわが事として考えたい。

▼産経新聞「【主張】沖縄戦終結74年 静かな環境で追悼したい」
 https://www.sankei.com/column/news/190623/clm1906230002-n1.html

 心静かに戦没者を悼む日にしたい。追悼の場に政治的な問題を持ち込み、意見を異にする立場の非を鳴らす行為は厳に慎みたい。
 ところが、昨年まで知事だった翁長雄志氏は、毎年追悼式で読み上げる「平和宣言」の中で、米軍普天間基地の辺野古移設を批判してきた。
 戦没者への追悼の言葉を述べる安倍首相に対し、辺野古移設反対派と思われる参列者から、「帰れ」などの心ないやじが毎年のように飛んでいる。
 極めて悲しい出来事だ。追悼式を知事が政治的発信の場としたり、参列者のやじにより厳粛さを損なわせたりしていいわけがない。翁長氏の後継として当選した玉城知事だが、平和宣言の政治利用は踏襲しないでもらいたい。

 【追記】

 朝日新聞は22日付で関連の社説を掲載しています。
 ▼朝日新聞「沖縄慰霊の日 日本のあり方考える鏡」=22日付
 https://www.asahi.com/articles/DA3S14065503.html?iref=editorial_backnumber

 

二・二六事件の現場、東京・赤坂「高橋是清翁記念公園」~昭和の惨劇を次代に語り継ぐ

 6月に入って間もなく、東京都港区赤坂にある「高橋是清翁記念公園」を訪ねる機会がありました。大正から昭和初期にかけて首相、蔵相を務め、1936(昭和11)年に一部の陸軍将校らが起こしたクーデター未遂事件、二・二六事件で暗殺された高橋是清(1854~1936)の邸宅があった場所です。
 ※港区公式サイト 「高橋是清翁記念公園」
  https://www.city.minato.tokyo.jp/shisetsu/koen/akasaka/04.html

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 赤坂見附から青山通り(国道246号)を渋谷方向へ徒歩で15~20分ほどでしょうか。ビルの並びが途切れたところに、緑豊かな空間があります。入口近くには子ども用の遊具もあって、知らなければどこにでもある公設の公園だと思って、通り過ぎてしまうかもしれません。
 ウイキペディア「二・二六事件」の記述によると、1936年2月26日早朝5時すぎ、この地にあった高橋是清邸を反乱軍約100人が襲撃。是清は寝室で、拳銃で撃たれた上、軍刀でとどめを刺され即死しました。
 ※ウイキペディア「二・二六事件」

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 港区によると、現在の公園でも5300平方メートル余の広さがあり、当時の高橋邸の敷地はもっと広かったようです。青山通りを隔てた向かいは赤坂御所の塀と木々が連なっており、おそらくは反乱軍の銃声があたりの静寂を破ったのではないかと思います。しかし、周囲をビルに囲まれ、青山通りをひっきりなしに車が行き交う現在の様子を見ていると、なかなか往時を想像するのは難しいと感じました。

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 当時、是清が住んでいた自宅の母屋は現在、東京都小金井市にある江戸東京たてもの園に移築され保存されています。是清が眠る多磨霊園へ移築されていたため、空襲の難を逃れたと、港区の説明のプレートに書いてありました。
 実は母屋は5年前の夏に訪ねています。ちょうど雨の日だったこともあり、静寂の中にひっそりとたたずんでいました。内部に入ることもでき、是清が絶命したという2階の寝室も見学しました。歴史上の出来事としての事件を多少なりとも感じ取れた気がしました。

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【江戸東京たてもの園に保存されている母屋=2014年8月】

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【母屋の2階内部=2014年8月】

 港区の記念公園を奥に進むと、ちょっとした高台があって、高橋是清の銅像があります。「ダルマ」の愛称で庶民的な人気があったという、その風貌をよく表した、柔和な表情だと感じました。

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 和服姿の座像ですが、興味深かったのは右手にメガネを持っているのはいいとして、左ひざの上に何か書類を持っていることです。その折りたたみ方や大きさからは、新聞であるように思えました。ただ日本語の新聞なら、四つ折りにして1面トップの記事が上になるようにすると、折り目は持ち手から向かって左側になります。銅像はその折り目が右側になっていますので、英字紙などの外国語の新聞なのかもしれません。うがった見方かもしれませんが、若いころ渡米して苦労したというエピソードがある高橋是清が、常に世界に目を向けていたことを、銅像ではこのように表現したのかもしれない、と感じました。そして言論ではなく暴力に訴えることとを暗に比較して見せることで、暴力の愚かしさを表そうとしているのかもしれない、などとも考えました。

 後日、公園を再訪してみました。梅雨入り後の雨の日でした。

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【左のガラス張りのビルが草月ホール。その隣りが記念公園】

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 公園の片隅にはアジサイが植えられており、色づいた花が雨に濡れて鮮やかでした。あいにくの天気でこの日は遊具に子どもたちの姿はありませんでしたが、そうと知らなければ、80年以上も前に惨劇があった場所とは思えない、都心の緑豊かな一角です。その現場に立ってみて、暴力で世の中を変えようとすることの愚かしさは、何年たとうとも語り継いでいかなければならないと、あらためて思いました。

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 二・二六事件を巡っては、やはり事件で殺害された内大臣で、元首相、海軍大将の斎藤実の出身地である岩手県・水沢(奥州市水沢区)にある「斎藤実記念館」に、銃弾を受けてひび割れた鏡台など、豊富な資料が保存されています。
 いずれも、事件が本当に「あった」ことを、時間を超えて実感できる貴重な資料だと思います。
 これまでに資料館を2度訪ねました。そのときの感想などをこのブログに書いた過去記事を紹介します。2度目はひび割れた鏡台の絵葉書も買い求めました。news-worker.hatenablog.com

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5月の世論調査から(備忘)

 5月にマスメディア各社が実施した世論調査の結果について、備忘を兼ねて書きとめておきます。
 安倍晋三内閣の支持率は以下の通りです。前回調査の実施時期の違いなどもあり、支持率の増減傾向については一概に読み取れないように思いますが、大まかな傾向としては5月中旬の時点で、支持が不支持を相当に上回っている、とは言っていいように思います。天皇の代替わりと改元が、祝賀ムードの中でとどこおりなく進んだと報じられたことがその要因の一つのように思えます。

【内閣支持率】 ※カッコ内は前回(前月)比、Pはポイント
・朝日新聞 5月18、19日
 「支持」45%(1P増)
 「不支持」32%(±0)

・毎日新聞 5月18、19日
 「支持」43%(2P増)
 「不支持」31%(6P減)
 「関心がない」23%(2P増)

・共同通信 5月18、19日
 「支持」50・5%(1・4P減)
 「不支持」36・2%(4・9P増)
  ※前回は5月1、2日実施

・読売新聞 5月17~19日
 「支持」55%(1P増)
 「不支持」32%(1P増)

・日経新聞・テレビ東京 5月10~12日
 「支持」55%(7P増)
 「不支持」35%(7P減)
  ※前回は3月下旬実施

 個別の質問と回答の状況で、興味深く感じたのは、夏に予定されている参院選についてです。
 朝日新聞の調査によると、与野党のいずれが議席を増やした方がいいと思うかを尋ねたところ「与党が議席を増やした方がよい」との回答が15%、「野党」との回答は34%だった一方で、「今とあまり変わらないままがよい」も38%でした。また、「今度の参議院選挙をきっかけに、日本の政治が大きく変わってほしいですか」との問いには、「大きく変わってほしい」47%、「それほどでもない」43%と大きな差はなく、「今後の安倍首相に期待しますか」との問いでは「期待する」46%、「期待しない」45%と、真二つに割れました。
 読売新聞の調査では、参院選の結果、自民党と公明党の与党が参議院で過半数の議席を維持する方が良いと思うかどうかを尋ねています。回答は「維持する方がよい」48%、「そうは思わない」38%と差が付きました。
 参院選と同時に衆院選を行うことに対しては、読売新聞の調査では「行ってもよい」44%、「行わない方がよい」38%でした。日経新聞・テレビ東京の調査では、同日選に賛成47%、反対32%で、賛成は内閣支持層では54%、不支持層では40%とのことです。
 朝日新聞の調査結果に注目すれば、「日本の政治が大きく変わってほしい」「今後の安倍首相に期待しない」は4割を超えており、内閣支持率の安定ぶりほどには、安倍政権が信任を受けるかは分からないという気もします。しかし一方で、朝日新聞の調査でも読売新聞の調査でも、野党が議席を伸ばすことを求める回答は30%台にとどまっています。一般には与党が有利になるとされる衆参同日選に対し、容認する回答が否定の回答を上回っていることも考えれば、現時点の民意は読みづらい、と言うほかないように感じます。

「代替わり」「改元」「憲法記念日」 地方紙・ブロック紙の社説・論説の記録

 新天皇の即位と「令和」改元に対して、地方紙、ブロック紙も社説や論説で様々に取り上げました。5月3日には、改元後、初の憲法記念日であることを踏まえた内容のものも目に付きました。ネットでチェックした限りですが、5月1日付から3日付の社説・論説のうち、天皇代替わり、改元、憲法に関連した内容のものについて、見出しを書きとめておきます。うち、印象に残ったものは一部を引用しています。また現在(5月5日時点)でも各紙のサイト上で読めるものは、リンク先を記しています。

▼5月1日~3日付の地方紙・ブロック紙の主な社説・論説
【北海道新聞】
https://www.hokkaido-np.co.jp/column/c_editorial
・1日付「新天皇陛下即位 『新しい風』を国民と共に」/公務の整理が不可欠/憲法にかなう儀式に/改元祝うだけでなく
・2日付「令和の政治 立法府再生への改革を」
・3日付「きょう憲法記念日 幅広い論点掘り下げたい」/政権のおごり表れた/「解散権」はどう扱う/譲れない三つの原則

【河北新報】
https://www.kahoku.co.jp/editorial/
・1日付「新天皇即位/象徴として平和の道標に」

 令和もまた、平和の意味が込められていよう。一方で、年号制定作業では中国の古典でなく、国書である万葉集から初めて選んだことに「わが国が持っている素晴らしい文化を象徴している」などと称賛の意見が相次いだという。
 ちょっとしたきっかけで、日本の社会は一つの色に染まる特色がある。皇位継承行事が数多く予定され、「古き良き時代よ、もう一度」と保守的なナショナリズムが広がりやすい。令和は、落ち着いた時代でありたい。

・3日付「憲法記念日/不断の努力で磨き上げよう」

【東奥日報】
https://www.toonippo.co.jp/category/editorial
・1日付「共生と構想力が試される/令和の幕開け」
・2日付「皇位安定継承 議論進めよ/即位と皇室の課題」
・3日付「理念堅持し議論深めたい/憲法記念日」

【秋田魁新報】
https://www.sakigake.jp/news/list/scd/100003001/?nv=akita
・1日付「きょうから令和 地方の力高める時代に」
・2日付「天皇陛下即位 新しい時代、国民と共に」
・3日付「憲法記念日 改憲の機はまだ熟さず」

【山形新聞】
http://yamagata-np.jp/shasetsu/
・1日付「『令和』の幕開け 足元見つめ直す機会に」
・2日付「即位と皇位継承者不足 危機感を持って議論を」

【岩手日報】
https://www.iwate-np.co.jp/article/2019/5/3/54207
・1日付「新天皇即位 『象徴』は時代とともに」
・3日付「憲法問題 もっと深い議論を望む」

 戦後74年目の憲法記念日。昭和から平成、令和と元号が変わる中で、これからも「戦後」という時代の捉え方は引き継がれていくだろう。
 昭和の時代、終戦を挟んで日本の国柄は180度転換した。もとより「戦後」は元号ではないが、元号をまたぎ、平和憲法を土台とする時の流れを想起させる。
 安倍晋三首相は「新憲法」制定を目指す超党派の国会議員の会合で、「令和という新しい時代のスタートラインに立ち、この国の未来像について真正面から議論を行うべき時に来ている」と訴えた。
 「戦後」というスパンの中で、時代は途切れず続いている。改元を「新時代の到来」として改憲と結びつける情緒的な主張は、憲法論議にはそぐわない。

【福島民報】
https://www.minpo.jp/news/column_ronsetsu
・1日付「【皇位継承と新時代】象徴の道と旅は続く」
・2日付「【令和の時を刻む】希望と課題に向き合う」
・3日付「【震災8年と憲法】条文を読み直す」

 これらの状況は、憲法前文が「平和のうちに生存する権利を有する」とうたう平和的生存権とは懸け離れていることを示す。居住・移転の自由(憲法二二条)、財産権(同二九条)、勤労の権利(同二七条)、ひとしく教育を受ける権利(同二六条)などと密接に絡んでくる。地方自治体が存続の危機にさらされたという点では地方自治(同九二条)も関係している。風評による言われなき差別は「法の下の平等」(同一四条)とは相いれないのではないか。
 財産権の侵害に対し、被災者は声を上げ続けている。その一つである裁判外紛争解決手続き(原発ADR)の和解案を東電が拒否し、打ち切りになる事例が相次いだ。和解案が拒まれると、強制力がないADRの紛争解決機能は失われる。そもそも和解案の尊重が制度の前提だった。現状は被災者への誠実な対応とは程遠い。世耕弘成経済産業相が三月、小早川智明東電社長に対し、損害賠償の改善を指導したのは当然だ。
 憲法が被災者の心のよりどころになり得ることを政治家は念頭に置かなければならない。条文を読み直し、現状と照らし合わせて復興の施策に当たるべきだ。

【福島民友】
http://www.minyu-net.com/shasetsu/shasetsu/
・1日付「『令和』の初めに/新しい視点が時代の道開く」

【茨城新聞】
・1日付「令和の幕開け 共生と構想力が試される」
・2日付「即位と皇室の課題 危機感を持って議論を」
・3日付「憲法記念日 理念堅持し議論深めたい」

【神奈川新聞】
・1日付「新天皇即位 時代の風に沿う皇室を」
・3日付「問われる憲法 令和へ 9条の理念の実現こそ」

【山梨日日新聞】
・1日付「『令和』スタート 共生の風グローカルの力で」
・2日付「即位と皇室の今後 危機感持ち、速やかに議論を」
・3日付「令和時代の天皇と憲法 平和の『水』どう守り育てる」

【信濃毎日新聞】
https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/web_shasetsu_list.html
・1日付「新陛下が即位 ともに見つめ直し考える」/象徴の模索は続く/平和を求める姿勢/将来像の議論早急に

 前陛下の根底には、少年時代の戦争体験があった。
 太平洋戦争の開戦と終戦に関わった昭和天皇の跡を継いだ前陛下にとって、平和を祈り続けることは何より大切なことだった。
 全国戦没者追悼式の「お言葉」だけでなく、戦地に赴き慰霊される姿に、過去を直視して過ちを繰り返さないという固い意思を感じた国民も多いのではないか。
 1960年生まれの新陛下には戦争体験はない。これまでの会見では「戦争を知らない世代に悲惨な体験や日本がたどった歴史が正しく伝えられていくことが大切」と述べている。国民や諸外国に説得力を持ってどう示すのか。8月の戦没者追悼式での「お言葉」に注目が集まる。
 天皇は国政に関する権能を有しない。政治的な発言はできず、時の政権と中立関係を保つ姿勢も求められる。ただし、憲法を守り、従う日本国民の象徴として、平和を希求する姿勢は欠かせない。
 前陛下の思いを継承していくことを国民は望んでいる。

・2日付「皇位継承の儀式 憲法に沿っているのか」
・3日付「憲法の岐路 言論の自由 掘り崩しを許すまい」/メディアの役割/危ういトランプ流/安倍首相の執念

 言論の自由の掘り崩しにつながりかねない動きが、安倍晋三政権とその周辺で続いている。
 真っ先に挙げなければならないのは首相官邸の記者会見での質問制限だ。東京新聞記者の質問に対し、進行役の官邸職員が数秒おきに「簡潔に」「質問に移ってください」などと述べて邪魔をした。ある日には1分半の質問の間に7回にのぼったという。
 2月20日付の東京新聞によると、官邸側は昨年6月、「記者会見は官房長官に要請できる場と考えるか」と文書で質問してきた。同紙記者が会見で、森友学園問題に関連して、内部協議のメモがあるかどうか調査するよう求めたのを受けてのことだ。
 「記者は国民の代表として質問に臨んでいる」と同紙が回答すると、官邸側は「国民の代表とは選挙で選ばれた国会議員」と反論してきたという。
 見当違いも甚だしい。報道の役割は国民の知る権利に奉仕することにある。そのことは最高裁も繰り返し認めている。

【新潟日報】
https://www.niigata-nippo.co.jp/opinion/editorial/
・1日付「新天皇陛下 令和を歩む国民の支えに」/前天皇ご夫妻を範に/新皇后さまへの期待/不戦の歴史をつなぐ

 新天皇陛下の即位により、新しく皇后になられた雅子さまは、村上藩士を先祖に持ち、本県とのゆかりは深い。
 (中略)
 新皇后さまは、適応障害で療養を続けてきた。皇太子妃時代の昨年12月、誕生日に際して発表した文書による感想では、体調回復に努めながら、公務に力を尽くすよう努力を続けるとつづっていた。無理のない形で、と願う。
 感想の中にはまた、互いを思いやり、広い心を持って違いを乗り越え、力を合わせながら、弱者を含め全ての人が安心して暮らせる社会を実現することの大切さも記されていた。
 一人一人が尊重され、それぞれが有する多様な個性が受け入れられる。新皇后さまには、多くの人々の支えを得て療養を続ける中で描いた、より良い社会の理想像があるように感じられる。
 そうした思いを胸に、新天皇陛下と共に国民の支えとなってくれるよう望みたい。自らが包摂されているという安心感を国民がきちんと持てることは、社会の安定につながる。

・2日付「天皇陛下お言葉 国民の幸せ願う強い意思」
・3日付「憲法記念日 改元の中で原点見つめる」/陛下の平和への願い/記憶を引き継ぐ責務/夏の参院選で論戦を

【中日新聞・東京新聞】
https://www.chunichi.co.jp/article/column/editorial/
・1日付「共に生き平和を愛す 令和のはじめに」/働けども貧しいとは/軍拡より緊張の低減/歴史の歯車を動かす
・2日付「平和への祈りは続く 天皇と憲法(4)」/戦争放棄は日本側から/念頭から離れない遺族/戦争の記憶を伝える
・3日付「未来の皇室のために 天皇と憲法(5)」/国家神道とは離れて/政教分離原則に照らし/天皇家に自由の風も

 今回の退位は光格天皇以来で、明治からの終身在位制に一つの風穴を開けた。退位を大多数の国民が支持したからだ。
 もはや「一代限り」で収まらないはずである。退位の自由ができれば、即位しない自由も生まれる可能性はある。時代の動き次第では天皇制の存廃議論もありえる。
 つまり、明治以降の「男系男子」の定めも、時代とともに国民意識が変わり、女性の天皇の容認などに広がるのではないか。男女平等の憲法の下では、ふさわしいとも考えられる。少なくとも天皇代替わりの儀式に女性皇族を参列させないのは時代錯誤である。
 日本国憲法は身分制を含有する。天皇・皇族・国民という三つの身分が存在する。天皇家には特権があるが、その代わり選挙権や職業選択の自由、居住の自由などがない。表現の自由なども、大幅に制限されている。
 つまり天皇家は「身分制の飛び地」に住んでいるわけだ。そのような天皇制は曲がり角にきてはいないか。
 当事者である皇室の声に耳を傾けてもみたい。西欧王室より窮屈そうな天皇家にもっと自由の風が吹くだろうか。伝統を傍らに置きつつも、象徴天皇制をどう考え、どう変えるかは私たち国民の側に多くを委ねていよう。

【北日本新聞】
・1日付「「令和」の富山/自立と共生目指したい」

【北國新聞】
・1日付「即位の日に 心機一転、新時代に希望を」
・2日付「『令和』時代の北陸 新幹線延伸を発展の力に」
・3日付「令和の憲法論議 国民の出番をつくりたい」

 令和の時代に入って最初の「憲法記念日」である。施行から今年で72年となる。昭和、平成の二つの時代を経て、憲法改正をめぐる国会の議論と国民の意識は確実に変化してきた。それでも、第9条を中心とした改憲論議は深まりに欠け、議論の要である衆参両院の憲法審査会は機能不全ともいえる状況である。
 憲法改正について、国会は令和時代も際限のない堂々巡りを続けるのであろうか。もしそうであれば、憲法制定権を持つ国民の負託に背く、無責任な対応といわなければなるまい。もとより憲法改正は熟議が必要であるが、その上で国会として改憲案を導きだし、是非の判断を国民に委ねる機会をつくることこそ立憲民主主義にかなうのではないか。改憲論争に一区切りつけ、憲法に新たな歴史を刻む時代であってほしい。

【福井新聞】
https://www.fukuishimbun.co.jp/category/editorial
・1日付「新時代『令和』幕開け 平成の課題考える機会に」/憎悪と報復/新たな冷戦/共生社会
・2日付「天皇即位 『令和流』の模索が始まる」/「大きな道標」/「国際親善」に期待/速やかに検討を
・3日付「令和の憲法記念日 平和主義どう堅持するか」

【京都新聞】
https://www.kyoto-np.co.jp/info/syasetsu/index.html
・1日付「新天皇即位  『人々と共に』歩める時代に」/時代の風に向き合い/国際親善に期待高く/水問題から学ぶこと

 一方で、天皇制そのものに批判的な意見もある。民主主義との矛盾を指摘する声もある。
 天皇制というと、かつては極めて政治的なテーマのように扱われ、硬直的な主張をする人も多かった。昭和が終わる頃、天皇の容体などを巡る「菊のカーテン」の閉鎖性にうんざりしたことを覚えている人もいるだろう。
 憲法で天皇は「国民統合の象徴」とされている。本来は主権者である国民が率直に語り、探っていくべき存在のはずだ。
 偏見や過剰な賛美などではなく、天皇制の評価や問題点について自由に論じ合う。新陛下とともに、そんな当たり前のことができる時代にしていきたい。

・2日付「皇位継承  先細り回避へ議論急げ」
・3日付「憲法記念日に  政権の独走戒めるのは誰か」/法治でなく「人治」に/変えることが目的化/自由に語れぬ空気も

 安倍氏は「わが国は法治国家である」と口癖のように言うが、国の最高法規を軽んじるような態度は、法を守り、法に従う、責任ある政治家の姿勢とは言い難い。
 疑問なのは、こうした安倍氏の「独走」を戒める声が自民党内からあまり聞こえてこないことだ。
 (中略)
 国民の負託を受けた国会議員でさえ口を閉ざす現状は、政権党も「人治」に支配されている現状を浮き彫りにしている。
 改憲を巡る一方的な考え方が、政治や行政の現場を覆うようになれば、社会にも憲法を自由に論じられない空気が漂うようになる。
 昨年12月、「梅雨空に『九条守れ』の女性デモ」と詠み、秀句に選ばれたが「公平性、中立性を害する」として公民館だよりへの掲載を拒否されたさいたま市の女性が起こしていた裁判で、市に賠償を命じる判決が確定した。
 憲法上保障された表現の自由という点では当然の判決だ。
 一方、憲法を語ること自体が中立性を損なうととらえた市の対応は、世間の雰囲気への過剰反応ではないか。
 政権が醸し出す空気が、自治体を思考停止に陥らせた。
 共同通信のここ数年の世論調査では、憲法改正を必要と考える人が過半数だが、安倍内閣の下での改憲には半数以上が反対している。安倍氏の改憲姿勢の危うさを国民の多くが懸念している。
 「1強」に気兼ねして自ら口を閉ざしたり議論を封じたりすることは「法治」を揺るがす。そのことを改めて心に留めておきたい。

【神戸新聞】
https://www.kobe-np.co.jp/column/shasetsu/
・1日付「『象徴』の存在/あるべき姿を国民も考えよう」/明確な定めもなく/答えを探し続ける

 憲法が定める「国民統合の象徴」を実のあるものにするために何をすればいいのか。
 誰もはっきり答えを示さない「空白」を埋める努力を、平成の30年間、身をもって続けられたと考えるべきでしょう。
 作家の赤坂真理さんは話題の小説「箱の中の天皇」の中で次のように問い掛けます。
 「天皇が日本の象徴であり、国民の象徴であるなら、行動を問われているのは国民」「わたしは天皇のように行動できるか、わたしが天皇だとしたら、どう行動するのか」
 天皇や皇室をあがめるだけなら、犠牲者を追悼し傷ついた人たちに寄り添う姿をただ遠巻きにするだけなら、自分たちとの距離は縮まりません。
 象徴に何を望むのか。そして主権者である国民は、よりよい未来に向けてどう生きるのか。この問いの答えを一人一人が探し続けることが大切です。
 「平成流」と言われた前の陛下の実践を引き継ぎ、象徴のあるべき姿を国民とともに探求する。そうした道を新しい天皇陛下も歩まれることでしょう。

・2日付「『令和』の心/万葉の平和の願いを次代に」/「十七条憲法」の精神/政治の思惑とは別に

 平成は日本にとって戦争のない時代でした。ただ、ここ数年は「平和国家」の国是にかかわる動きが相次いでいます。
 一つの例が、憲法9条の制約で「できない」とされた集団的自衛権の行使です。安倍政権は憲法解釈を転換し、憲法学者らの「違憲」の指摘も押し切って容認に踏み切りました。
 そもそも安倍晋三首相にとって戦争放棄、戦力不保持、交戦権否認を定めた9条の改正は「悲願」とされ、改憲の動きは令和の時代に持ち越されます。
 一方、中西さんは9条改正に反対する市民運動の賛同者に名を連ねるなど、護憲の立場を明らかにしてきました。万葉集の「平和の心」を大切に思う学者の良心がうかがえます。
 令和は、新元号制定の最終過程で「本命候補」に浮上したそうです。安倍首相が中西さんの案を強く推したのは意外な巡り合わせですが、中国の古典でなく国書「万葉集」からの出典にこだわった結果でしょう。
 いずれにせよ、元号は時の政権の道具ではありません。私たちは政治の思惑とは別に、平和の理念をしっかりと次の世代に引き継ぐ責任があります。

・3日付「憲法という檻/みんなが幸せであるために」/身勝手なライオン/誰が守らせるのか

【山陽新聞】
https://www.sanyonews.jp/special/column/shasetsu
・1日付「新天皇即位の日 継承される『国民と共に』」/象徴のあり方/皇室の課題深刻/本格的議論を
・3日付「改憲の論議 まず熟議の土壌づくりだ」

【中国新聞】
https://www.chugoku-np.co.jp/column/article/?category_id=142&page=1
・1日付「令和の課題・核なき世界 被爆地の役割変わらぬ」/後戻りする懸念/NPTが正念場/禁止条約道半ば
・2日付「令和の課題・変わる働き方 人生と仕事の調和大切に」
・3日付「憲法施行72年 改正論議、なぜ急ぐのか」

【山陰中央新報】
http://www.sanin-chuo.co.jp/www/genre/1000100000058/index.html
・1日付「令和の幕開け/共生と構想力が試される」
・2日付「即位と皇室の課題/危機感を持って議論を」

【愛媛新聞】
・1日付「平成から令和へ 象徴の在り方 議論深める機会に」
・2日付「天皇陛下即位 令和の新たな象徴像 国民と共に」

【徳島新聞】
https://www.topics.or.jp/category/editorial
・1日付「新天皇即位 課題解決へ共に歩もう」
・2日付「『譲位』完結 次は皇位継承の安定策だ」
・3日付「新時代の憲法 平和主義は変えられない」

【高知新聞】
https://www.kochinews.co.jp/news/k_editorial/
・1日付「【新天皇の即位】皇室に期待する新しい風」
・3日付「【憲法改正】『遺産』ありきは許されぬ」

【西日本新聞】
https://www.nishinippon.co.jp/nnp/syasetu/
・1日付「令和の幕開け 弱き者に寄り添う時代に」/「たが」が外れた/格差に目を背けず
・3日付「令和と憲法 大いに論じ生かす時代へ」/条文は変わらずも/冷静な民意の中で/不断の営みこそが

 日本国憲法は72年前のきょう5月3日に施行されました。以来、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義を柱とした条文は一字一句変わっていません。ところが、国の姿はいつしか変質し、憲法から遊離しつつあるのではないか。平成の30年は、そんな不安や疑念が膨らんだ時代でした。
 想起したい点は二つあります。一つは国際社会の激動にあおられる形で、違憲性を帯びた安全保障施策が次々に打ち出されたこと。もう一つは大規模災害などに直面する中で、憲法の精神がこの国で今なお十分に生かされていない実相があぶり出されたことです。
 (中略)
 国策の過ちが深く認識されず、平成に入るまで取り残された人々もいます。ハンセン病や先日救済法が制定された強制不妊手術の被害者らです。憲法の生存権などに照らせば、遅きに失したと言わざるを得ません。水俣病など何の落ち度もない公害患者らの救済問題が今なお解決していないことも、深刻に捉えるべきです。

【大分合同新聞】
・1日付「積み残された難題 思考を切り替えスタートを」
・2日付「即位と皇室の課題 安定継承へ具体的議論を」
・3日付「令和最初の憲法記念日 理念堅持し議論深めたい」

【宮崎日日新聞】
http://www.the-miyanichi.co.jp/shasetsu/
・1日付「令和を迎える 共に生きる心引き継ぎたい」/拡大路線の限界知る/次代切り開く人間力/「デクノボウ」に希望

 杉田さんは16年の熊本地震の際、同法人を中心に支援団体「RQ九州五ケ瀬ボランティアセンター」を組織し、計40トンに上る支援物資の収集・搬送などを指揮した。地元住民が担っていた草刈り、危険度の高いがれき撤去作業などを積極的に引き受け、約9カ月間さまざまな形で支援を続けた。
 (中略)
 杉田さんは支援の最中、拠点となっていた体育館にこんな言葉を張り出した。「熊本地震で私が感じた事。それは自分を差し置いて、世のため、人のために、不眠不休で働いた人たちがいた事。宮沢賢治の『雨ニモマケズ』のデクノボウが沢山いた事」。
 平成に戦災はなかったものの、災害の時代だった。1995年の阪神大震災、2011年の東日本大震災と福島第1原発事故、18年の西日本豪雨と続き、本県でも台風水害、新燃岳や硫黄山の噴火、口蹄疫など大規模災害に苦しんだ。絶望的な破壊を与えた災厄のたび、デクノボウになろうとした人たちが数多くいたことを思い出したい。
 弱き者と共にいる、目線を合わせ共に動く。平成の時代、個人の生き方や選択が鮮明になり尊重されるようになった。歴史の歓迎されるべき前進だが、同時に、人と共にあるための努力と精神もしっかりと引き継いでいきたい。令和に生まれてくる人々、遠い国に住む人々たちにもまなざしを向けながら。そこに私たちの希望があると信じる。

・2日付「皇位の安定継承 危機感持って議論取り組め」/前例踏襲で押し切る/女性宮家には否定的
・3日付「きょう憲法記念日 平和理念堅持し議論深めよ」/改正9条施行が焦点/ネットやAI対応を

【佐賀新聞】

https://www.saga-s.co.jp/category/opinion-editorial
・1日付「令和の幕開け 日本再生の足掛かりに」

 平成の終焉(しゅうえん)とともに、ご夫妻の功績をたたえるムードは一層高まったが、それはお二人の人間性に対する敬愛の念であり、残念ながらこの「代替わり」を機に、制度としての天皇制を考える議論が国民の間に湧いたとは言い難い。
 神性をまとう天皇制と民主主義との共存や皇位継承を巡る課題は多い。改元のタイミングは外国人労働者の受け入れを拡大する入国管理法の改正と重なった。将来的に「日本人」という枠組みが大きく揺らぐ可能性もあり、「国民統合の象徴」としての役割はますます重くなっていくはずだ。
 新天皇が即位にあたり、何を国民に語り掛け、新しい時代に即した皇室像を模索していかれるのか注視しながら、天皇制を持つ私たちの社会のあるべき姿について、改めて思いを巡らせたい。

・2日付「危機感を持って議論を 即位と皇室の課題」※共同通信
・3日付「理念堅持し議論深めたい 論説・憲法記念日」※共同通信

【南日本新聞】
https://373news.com/_column/syasetu.php?storyid=105105
・1日付「[令和を迎えて] 新たな縁づくり元年に」/増える単身高齢者/共生社会へ一歩を

・2日付「[令和の皇室] 新たな象徴像を求めて」/平成流どう肉付け/危機感持ち議論を
・3日付「[憲法記念日] 関心が薄れていないか」/まずCM規制から/理念改めて学ぼう

【沖縄タイムス】
https://www.okinawatimes.co.jp/category/editorial
・1日付「[令和 新天皇陛下即位]新時代 平和の思い新た」
・2日付「[天皇陛下と憲法]『お言葉』の変化なぜ?」

 前陛下が「憲法を守り」と語ったのに対し、陛下は「憲法にのっとり」という言葉を使った。
 憲法99条は「天皇又(また)は摂政及(およ)び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」とうたう。
 「守り」という言葉には99条を前提にした主体的な意思が感じられるが、「のっとり」にはそのニュアンスが希薄である。今回なぜ「守り」から「のっとり」に変わったのだろうか。
 「お言葉」は閣議決定されている。小さな変化の裏で何があったのか気になる。
 2012年に公表した自民党の日本国憲法改正草案では、「憲法尊重擁護義務」から「天皇又は摂政」が削除されている。それと何らかの関係があるのだろうか。
 立憲主義の柱である99条を空洞化することがあってはならない。

・3日付「[憲法と地位協定]生活視点で問い直しを」

 沖縄返還協定の調印の際、当時の屋良朝苗主席は「本土並みといっても沖縄の基地は規模と密度と機能が違う」と指摘し、形式的な本土並み論に強い不満を表明した。
 沖縄の過重負担という基本的な構図は、あの時から変わっていない。
 ただ、米軍再編と日米一体化が進んだことによって、地位協定を巡る問題は、いっきに全国に飛び火した。
 (中略)
 憲法記念日というと、決まったように「護憲派」と「改憲派」の主張が紹介され、9条改憲を巡る安倍政権の動きが取り上げられる。
 だが、9条改憲以上に、生活に根ざした、優先して取り組むべき課題は多い。
 共同通信社が3月に実施した全国電話世論調査によると、安倍晋三首相の下での憲法改正に51・4%が反対、賛成は33・9%にとどまった。
 沖縄にとって切実なのは地位協定の抜本的な改定である。9条改憲よりも国内法の原則適用を急ぐべきだ。

【琉球新報】
https://ryukyushimpo.jp/editorial/
・1日付「令和の幕開け 真の平和と共生の実現を」

 これらの課題を解決する理念のキーワードは「平和」と「共生」である。戦争や紛争をせず軍縮を進め、人々が多様性を認めながら経済的にも支え合う世界像だ。令和は、それを実現する時代にしたい。
 平和学者ヨハン・ガルトゥング氏は領土問題など東アジアの紛争の火種を取り除き戦争を回避する具体策として東アジア共同体を提唱する。沖縄をその拠点に位置付ける。
 沖縄はこうした真の意味での平和と共生を実現する明確なビジョンを持つべきだ。米軍基地などの軍事力による平和ではなく信頼に基づく対話と交流で問題を解決する実践の場所として貢献することを目指したい。そのためにも自己決定権の確立は不可欠だ。

・2日付「天皇陛下が即位 象徴の意味再確認したい」

 全ての国事行為について責任を負うのは内閣だ。今後、憲法が尊重されていくかどうかは、助言、承認をする立場にある内閣の姿勢いかんにかかっている。
 上皇となった前陛下が1989年に即位した際には「憲法を守り、これに従って責務を果たす」と述べていた。今回は「憲法にのっとり」に変わった。天皇のお言葉は臨時閣議で決定されたものだ。
 天皇には憲法尊重擁護の義務があり、憲法に対するスタンスは不変であるはずだ。政権の意向が加わり、ニュアンスを弱めたのであれば、遺憾と言うほかない。
 本紙加盟の日本世論調査会が昨年12月に実施した全国面接世論調査によると、天皇制の在り方について79%が「今のままでよい」と回答し、象徴天皇制支持が大半を占めていた。
 天皇に対し50%が「親しみを感じる」、19%が「すてきだ」と答えている。皇室に対して、おおむね好感を持っていることが分かる。
 今後、このような国民感情に着目した為政者が、自らの政治的意図に沿う形で、天皇を利用しようともくろむ恐れがないとも限らない。
 国民統合の象徴である天皇が政治的に利用されることがないように、常に為政者の動きに目を光らせておく必要がある。政治利用の前例をつくると際限がなくなるからだ。
 かつて天皇の名の下に戦争に突入し、おびただしい数の命が失われたことを忘れてはならない。

・3日付「憲法施行72年 令和の時代も守り続けて」

 憲法の擁護者としての上皇さまの姿勢は単に個人の心掛けではなく、憲法により主権者となったわれわれ国民との最も重要な約束事だった。
 ところが内閣の長として同じく憲法尊重義務を負う安倍首相は、ことあるごとに改憲への意欲を語ってはばからない。2017年の憲法記念日には憲法9条に自衛隊を明記することを柱に「20年の改正憲法施行」の号令をかけ、自民党は改憲4項目の条文案をまとめた。
 集団的自衛権を認めていない憲法解釈をねじ曲げて安全保障法制を成立させ、自衛隊による米軍支援の領域を地球規模に拡大した。憲法を無視して現実を変更しておきながら、「現実に即した」憲法にすると改憲を正当化する論法は詭弁(きべん)と言うほかない。
 辺野古埋め立て反対の明確な意思を示した県民投票を顧みず、「辺野古が唯一」と開き直る政府の姿勢は憲法が保障する基本的人権を侵害するものだ。民主的な手続きを無視し、日米同盟の名の下に軍事強化を押し付ける。これで法治国家と呼べるのか。
 自衛隊明記の改憲がなされれば、戦力不保持を定めた9条は空文化する。南西諸島への配備が進められる自衛隊の存在は周辺地域との緊張を高め、沖縄の島々が再び戦禍に巻き込まれる危険がある。
 令和も戦争がない時代にするためには、国家権力を制約する平和憲法を守り続けていくことが不可欠だ。首相は憲法尊重擁護の義務を踏まえ、辺野古の埋め立て工事を直ちに断念すべきだ。

 

■以下は全国紙5紙の3日付の社説・論説の見出しです。
【朝日新聞】
「AI時代の憲法 いま論ずべきは何なのか」/揺らぐ「個人の尊重」/改憲ありきのひずみ/主権者こそが考える
 https://www.asahi.com/articles/DA3S14000373.html?iref=editorial_backnumber

【毎日新聞】
「令和の憲法記念日に 国会の復権に取り組もう」/無理を積み重ねた首相/貧弱なままの監視機能
 https://mainichi.jp/articles/20190503/ddm/005/070/049000c

【読売新聞】
「憲法記念日 令和の国家像を描く議論を 与野党協調の原点に立ち返れ」/湾岸戦争の対応が転機/9条改正が中心課題に/統合機構改革が急務だ

【日経新聞】
「令和のニッポン3 より幅広い憲法論議を丁寧に」/現憲法は国民に定着/「強すぎる参院」見直せ

【産経新聞】
(【主張】)「憲法施行72年 まず自衛隊明記が必要だ 国柄に沿う『天皇条文』運用を」/自衛隊と安保が守った/参院選で改憲を訴えよ
 https://www.sankei.com/column/news/190503/clm1905030002-n1.html

「憲法」と「象徴の責務」「国民の統合」~新天皇発言と象徴天皇制、在京紙報道の記録(5月2日付)

 「令和」改元初日の5月1日、即位した徳仁天皇は即位に伴うもろもろの行事をこなしました。2日付の東京発行の新聞各紙朝刊(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京の6紙)はいずれも引き続き、大きく報じています。各紙とも1面トップの記事は、新天皇が「即位後朝見の儀」で安倍晋三首相らを前に最初の「おことば」を述べたことを中心に報じました。その全文も6紙そろって1面に掲載しています。各紙の記事に、感じたことを書きとめておきます。

▽「憲法にのっとり」
 各紙の1面トップの記事の見出しを並べてみます。
・朝日「令和 幕開け」「陛下『国民に寄り添い象徴の責務果たす』」「即位後朝見の儀」
・毎日「『憲法にのっとり象徴の責務果たす』」「新天皇陛下 上皇さまに『感謝』」「即位後朝見の儀」
・読売「『国民を思い 象徴の責務果たす』」「天皇陛下 即位の儀式」「令和初日 列島祝福」
・日経「象徴の責務果たす」「天皇陛下 皇位継承の儀式」「『国民を思い 寄り添う』」
・産経「『国民を思い 寄り添う』」「天皇陛下 初のお言葉」「即位儀式 令和時代始まる」
・東京「『国民を思い 憲法にのっとり 象徴としての責務果たす』」「天皇陛下 初のお言葉」「即位後朝見の儀」
 朝日をのぞく5紙は天皇の文言を主見出しに取り、朝日もヨコの主見出しは「令和 幕開け」としたものの続くタテ見出しはやはり天皇の言葉です。平成の前天皇が象徴のありようを追求してきたことへの自負を示していたこともあって、新天皇が3代目となる「象徴」の地位を巡ってどんな言葉を発するかは、やはり最大のニュースだとの判断は、わたしもその通りだろうと思います。

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 ただ、6紙の見出しの取り方には差があります。特に「憲法にのっとり」と「憲法」に言及した部分を見出しに取り込んだのは、毎日、東京の2紙だけでした。前天皇は平成の代替わりの即位の際に「日本国憲法を守り」と口にしていた経緯があります。そうしたことも含めて、毎日新聞は3面の長文読みもの記事「クローズアップ」の中で、東京新聞も2面の同様の記事「核心」で、それぞれこの「憲法への言及」を詳しく取り上げました。朝日新聞は1面の見出しには取っていませんが、総合面で、前天皇と新天皇の「憲法」を巡る言い回しの違いを紹介する記事は掲載しています。
 では、前天皇の文言と比べて「日本国憲法」と「憲法」、「守り」と「のっとり」の違いに意味を見出すことに何らか意味はあるのでしょうか。直接、その点を巡ってではないのですが、日経新聞の井上亮・編集委員が署名記事(第2社会面)の中で「国事行為である朝見の儀のお言葉は内閣との調整で作られる。天皇の『思想』を深読みし過ぎると誤解のもとになる」と指摘していることが印象に残りました。

▽「ふわっとした国民統合」「強い統合能力」
 全体を通じて、やはり祝賀ムードにあふれた報道ぶりで、天皇制の課題の指摘といえば、皇位継承者の減少への対策ばかりという印象ですが、それでも象徴天皇制を考える上で読み応えのある記事もいくつかありました。キーワードは「国民の統合」かもしれません。
 一つは朝日新聞の2面(総合面)の企画記事「1条 憲法を考える」。「『皇室に親しみ』ふわっとした国民統合」の見出しで、被災者らに寄り添い、平和の大切さを訴えてきた前天皇夫妻に対し、国民の間に好感が広がったことについて、「これは、象徴天皇制や『国民統合』の理想モデルなのか」と疑問を投げ掛け、検証を試みています。
 もう一つは、東京新聞特報面の「平成流 共感広げ求心力/憲法の『行為』超え 祈り寄り添った30年余」のリポートです。前天皇が憲法に規定された国事行為のみならず、被災地訪問や慰霊の旅などの公的行為を熱心に続けたことを踏まえて、「人々の天皇に対する求心力を高めた。そうした意味で有能で歴史上、強い統合能力を持った天皇だった。平成は象徴天皇制が再編された時代だったといえる」との千本秀樹・筑波大名誉教授の指摘などを紹介。天皇の権威を政治が利用しようとする問題にも触れています。

▽5月1日はメーデー
 5月1日は新天皇即位と改元の日でしたが、メーデーでもありました。例年、連合系の集会やデモは前倒しで実施されており、1日は全労連系の集会、デモが各地で行われました。労働者の地位と処遇の向上は社会の問題でもあり、個人の生き方にとっても大きな問題です。「働き方改革」が課題になっている現在はなおさらです。大規模な集会やデモではないとしても、この日に労働者や労働組合から上がった声を紹介するのもマスメディアの重要な役割だろうと思います。東京発行の新聞各紙で見かけた関連記事についても、見出しや扱いの大きさを書きとめておきます。

 以下に、新天皇関係の各紙の主な記事の見出しを書きとめておきます。1面、総合面(2~3面)、社会面と社説・論説が対象です。社説・論説はサイト上で読めるものはリンクを張っておきます。
◎2019(令和元)年5月2日付朝刊
【朝日新聞】
・1面
「令和 幕開け」「陛下『国民に寄り添い象徴の責務果たす』」「即位後朝見の儀」
「天皇陛下のおことば(全文)」
「『ナルちゃんをよろしく』続く勉強会」
・2面
「『皇室に親しみ』ふわっとした国民統合」「被災者らに寄り添う姿 好感」「変わる社会 私たちも考える時」※カット「1条 憲法を考える」2
・3面
「皇族減少 対策不可避/皇位継承権 男系男子3人のみに/女性・女系議論 先送り続く」
「30年前『憲法を守り』今回『憲法にのっとり』/朝見の儀の『おことば』」
「『女性皇族の低い地位』指摘/上皇さまの慰霊訪問を紹介/海外メディア」
・4面 「憲法を考える 視点・論点・注目点」
「敗戦が生んだ条文はいま/日本・ドイツ・イタリア 根幹の理念に」
「1条 象徴天皇制 9条 戦争放棄/不可分の一対受け入れ/自衛隊の役割拡大 欠ける国民合意/『国民主権』考えるとき」
「ドイツ『人間の尊厳』 イタリア『社会権』/虐殺・ファシズム反省」
・社会面(21面)
「令和 笑顔晴れやか/皇后さま 東北の若者にエール」「勉強熱心 友に辞書頼む/ヘビもイモリも きちんとお世話」※カット・新天皇と新皇后
「子どもが安心して過ごせる時代に…」
「『初日』の御朱印求め10時間待ち」/「どすこい新元号」
※メーデー:5面(経済面)「『賃金増を』各地でメーデー」見出し2段
※社説は「阪神支局事件」「南北会談1年」の2本

【毎日新聞】
・1面
「『憲法にのっとり象徴の責務果たす』」「新天皇陛下 上皇さまに『感謝』」「即位後朝見の儀」
「新天皇陛下おことば全文」
・2面
「急がれる継承議論」「男系での維持 不安定」/「保守派は『女系』反対」「検討 政治日程が影響」
・3面
CUクローズアップ「晴れやか代替わり」「国民に寄り添う 不変」「服喪なく祝賀ムード」※図解「天皇陛下のおことば・平成と令和の比較」
ミニ論点「平成の実績継ぐ決意」高村薫さん(作家)/「より良い時代へ願い」河西秀哉さん(名古屋大大学院准教授)
・社会面(20、21面)
見開き見出し「令和元年 夢語る」「穏やかな世 願い」
「皇居前 祝の人波」/「余裕あった儀式/祝賀一色いいか 識者の見方」
「福島・広野『被災地 力一つ』」/「伊勢の舞姫華やか」/「関取衆『相撲に来て』」/「漁師みこし『平和が一番』」/「名古屋『3元号』結婚式」/「侍従長『力尽くしお支え』」
(第2社会面)
「『新皇后さま 自然体で』/ゆかりの方々」
「新陛下 皇居へ『通勤』/前天皇ご夫妻 引っ越しまで」
「本紙が号外配布」※3万2千部、都内4カ所
■社説「新天皇陛下が即位 令和の象徴像に期待する」/国際的な視点生かして/「女性・女系」論が焦点
https://mainichi.jp/articles/20190502/ddm/005/070/033000c
※メーデー:社会面(21面)「全労連メーデー 改元の日に実施 『100年の伝統重視』」見出し1段
※社会面「令和初日 水俣病慰霊/即位配慮 市式典は延期」見出し2段、写真

【読売新聞】
・1面
「『国民を思い 象徴の責務果たす』」「天皇陛下 即位の儀式」「令和初日 列島祝福」
「朝見の儀 天皇陛下お言葉」
・2面
「即位 輝く品々」
「令和元年 外交目白押し/10月即位礼 195か国元首招待」
・3面
スキャナー「『象徴』の形 承継の思い」「1分40秒『研鑚』の決意」「皇后さま全行事に出席」
・社会面(28、29面)※第3社会面(27面)にも関連記事
見開き見出し「幕開け 華やかに」「若者 飛躍を誓う」
「沿道 平和願う人波」/「令和の産声 平成元年生まれ夫婦に」
(第2社会面)
「五輪で『金』目標に」フィギュアスケート紀平梨花選手(16)/「世界への最善手打つ」女流三冠の囲碁棋士・藤沢里菜さん(20)/「社会変える技術 作る」IT企業CEO山内奏人さん(18)
「お祝い にぎやか 和やか」/「本紙号外120万部 特別夕刊も」※全国
■社説「新天皇の即位 時代の幕開けを共に祝いたい 象徴の在り方の承継と模索と」/国民とのふれ合い重視/知見の活用期待される/天皇・皇嗣への支えを
https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20190501-OYT1T50328/
※12~20面 保存用特別面
※メーデー:第3社会面「メーデー 全国で集会」※短信13行

【日経新聞】
・1面
「象徴の責務果たす」「天皇陛下 皇位継承の儀式」「『国民を思い 寄り添う』」/お言葉全文
「秋篠宮さま 皇嗣に/皇位継承1位 2位は悠仁さま」
・2面
「安定継承 議論へ/女性・女系天皇や女性宮家/首相は慎重姿勢」
「皇太子と同等の待遇、負担も/秋篠宮さまが皇嗣に」
・3面
「新時代の象徴 模索」「上皇さまの姿 自己研さん/初のお言葉 にじむ決意」
「内向き政治やめ改革を」丸谷浩史政治部長:新時代の日本へ1
・社会面(27面)
「令和 元気に強く」「5月1日生まれの赤ちゃん『縁起いい』『同じ元年』」
「改元に沸く街」「百貨店で『福売り』福袋/新元号婚に臨時窓口/御朱印求め『10時間待ち』/記念押印『1.5.1』」
「家族で遊園地/ハーフマラソンに挑戦/初日どう過ごした」
・第2社会面(26面)
「ゆかりの地 感慨浸る」「あふれる人、祝賀ムード/万葉集の宴で和やかに/雨中の参拝、新時代祈る/伝統の祭り みこし巡業」※皇居、太宰府、伊勢神宮、京都
「寄り添い方、時代に合わせ/天皇陛下お言葉」井上亮・編集委員
■社説「令和のニッポン 人口危機の克服に総動員で臨もう」/不安定雇用を減らせ/外国人政策、正面から

【産経新聞】
・1面
「『国民を思い 寄り添う』」「天皇陛下 初のお言葉」「即位儀式 令和時代始まる」
「天皇陛下 お言葉全文」
令和に寄せて「新しい歴史創造への決意を」作家 石原慎太郎
・2面
「『令和』初日 厳かに」「儀式の裁可など ご公務開始」
「威厳ある お二人の姿に感銘/首相インタビュー」
・3面
「皇位継承 歴史の重み」「女性宮家創設には問題」「宮内庁参与の人事 注目/皇室重要事項で天皇に助言」
「世界の水問題 ライフワークに」※カット「象徴 次代へ 継承のかたち」2
・社会面(22、23面)※第3社会面にも関連記事
見開き見出し「『幸せと発展望む』」「新時代 踏み出す」
「天皇陛下 自己研鑚ご決意」
「『優しいお気遣い』『国際的ご活躍を』/両陛下ゆかりの人々」
「令和 記念求め/本紙の号外 都内で配布」※6700部、都内5カ所
(第2社会面)
「各地で笑顔の門出」「あやかり商法 大盤振る舞い」
■社説(「主張」)「天皇陛下ご即位 新時代のご決意支えたい 伝統踏まえ安定継承の確立を」/心から感謝申し上げる/悠仁さまの警護万全に
https://www.sankei.com/column/news/190502/clm1905020002-n1.html

【東京新聞】
・1面
「『国民を思い 憲法にのっとり 象徴としての責務果たす』」「天皇陛下 初のお言葉」「即位後朝見の儀」/お言葉全文
「『歴史のなさりよう』心に」※カット「新時代の皇室」1
・2面
核心「国民と平和と 思い寄せ」「陛下お言葉をひもとく」「皇室のあり方 追い求め」
・3面
代替わり考「承継の儀に国費支出」賛否・識者4人
「承継の儀 前例を踏襲/女性皇族出席せず/女性閣僚は参列」
「皇位継承『男系の重み』/菅官房長官 強調」
・特報面(20、21面)
「憲法の『行為』超え 祈り寄り添った30年余/平成流 共感広げ求心力/象徴天皇を考える」「強まる権威に危うさ/自民改憲草案では『元首』 政治利用の懸念も」「あるべき姿―主権者の国民が考える時」
・社会面(22、23面)
見開き見出し「新たな時 ここから」「平和願い ともに」
「『令和婚』ラッシュ・京王の臨時列車満席」「御朱印10時間待ち・皇后さまに歓声」「焼き印どら焼き無料・銀座などデモ」※ドキュメント改元
(第2社会面)
「50代 天皇陛下・皇后さま世代 子どもや孫と平穏に」「80代 上皇さま・上皇后さま世代 国民の心の支えに」「10代 愛子さま世代 女性の継承 議論を」※3世代 お言葉こう聞いた
「ネットでは『令和実感』『お言葉に感動』/『生活良くなるわけでは…』冷めた声も」
■社説「平和への祈りは続く 天皇と憲法4」/戦争放棄は日本側から/念頭から離れない遺族/戦争の記憶を伝える
https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2019050202000146.html
※メーデー:社会面ドキュメントにひとコマ6行、ほかに「山谷デモ」8行、銀座で天皇制反対デモ9行

「令和」初日 祝賀に包まれた在京紙の報道の記録

 新元号「令和」初日、東京発行新聞各紙の5月1日付朝刊はいずれも徳仁皇太子の天皇即位と改元を大きく報じました。前日の「平成最後の紙面」と同じく、この「令和最初の紙面」もある意味、歴史の記録だろうと思い、6紙(朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、日経新聞、産経新聞、東京新聞)の紙面の概要を記録として書きとめておきます。1面、総合面、社会面の主な記事の見出しは後掲します。

 全体としては、新天皇の即位と令和時代の始まりに対して祝賀ムードに包まれた紙面、報道だと感じました。各紙とも社会面は、各地の人々の表情を切り取って並べる構成が主流です。1日午前0時に「平成」から「令和」に変わるその瞬間を取り上げた記事についた「カウントダウン」の見出しは、朝日、毎日、読売、日経の4紙に見えます。天皇の代替わりと改元が、さながら大みそかから新年へのイベントのように、一般の人たちに受け止められていることの反映と言えるのかもしれません。

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 社説・論説は読売新聞が「平成から令和へ 平和と安定へ努力重ねたい」との見出しで1面に掲載したのが目を引きました。産経新聞は通常は「主張」が載っている位置に「令和のはじめに 新時代にふさわしい国家戦略を」との乾正人・論説委員長の署名の論考が掲載されています。前日の4月30日付朝刊では、産経新聞社会長の署名の論考が同じ位置に掲載されていました。
 社説・論説の中で重要な指摘だと感じたのは、毎日新聞の社説「令和時代に入る日本 変化にしなやかな適応を」の中の一節です。一部を引用して書きとめておきます。

 急速なグローバル化の反作用として世界各国で社会の分断が懸念されている。日本が相対的に安定を保っているのは、象徴天皇制による絆があるからだとも言われる。
 国家はその領域にいる人びとの共同体だ。皇室への敬愛は、成員がまとまる力になるのは確かだろう。
 ただし、これからの日本は国内で暮らす人が必ずしも国民とは限らない時代に入っていく。
 日本の在留外国人はすでに人口の2%、273万人に上る。4月には外国人労働者受け入れ拡大の新制度が始まった。母語も習慣も違う隣人との共生がますます必要になる。
 外務省は外国政府向けに令和の趣旨を「beautiful harmony(麗しい調和)」と説明した。令を命令の意の「order」と訳する海外メディアがあったためだという。
 もし令和の精神が「調和」であるのなら、同質者の集合ではなく、でこぼこの個性を互いに認め合える多様性の尊重でなければならない。それがグローバル化する日本の姿を考える上でのしなやかさだろう。

 在日コリアンの人たちの存在とヘイトスピーチの問題はもう随分と前から日本社会の克服すべき課題としてわたしたちの目の前に表れているとは思いますが、それでもこの毎日新聞の論説が触れている定住外国人と日本社会の多様性の視点は、天皇制を考える上でも重要だと気付かされました。

 天皇制や元号を巡る報道について、もう一つ書きとめておきたいのは、この社会には天皇制を肯定的にとらえている人ばかりではないはずだ、ということです。今回の代替わりと改元は、昭和から平成への時のような自粛ムードがないことから自由に天皇制や元号を語れるのなら、報道も肯定意見ばかりではなく、異論も取り上げる機会であっていいと思います。実際に、そういう意見の表明なり、デモなりの出来事もあったようですが、報道はわずかです。目に止まった限りですが、その報道のわずかさぶりも、記録として以下に書きとめておきます。
 ▼朝日新聞「代替わり儀式『憲法に違反』/キリスト教団体」(第2社会面下:見出し1段27行)
 ▼毎日新聞「新宿駅前が騒然」(天皇制反対集会:社会面下・見出し横1段相当・12行)
 ▼産経新聞「機動隊員に暴行容疑/右翼幹部の2人逮捕」(都内版・見出し1段 ※天皇制反対デモの警備に当たっていた機動隊員に暴行した容疑。デモがあったことが分かります)
 ▼東京新聞「代替わり儀式『違憲』 宗教4団体が抗議」(第2社会面下・見出し1段27行、写真)/「『天皇制廃止を』 新宿で反対集会」(第2社会面下・見出し1段28行)

 以下に、各紙の主な記事の見出しを書きとめておきます。1面、総合面(2~3面)、社会面と社説・論説が対象です。社説・論説はサイト上で読めるものはリンクを張っておきます。

◎2019(令和元)年5月1日付朝刊
【朝日新聞】
・1面
トップ「令和 新天皇即位/陛下退位『支えてくれた国民に感謝』」
「言葉の力を信じ 語って」福島申二・編集委員
新天皇・皇后 両陛下の横顔
・2面
「退位の儀式 憲法に配慮/即位と分離『譲位色』排す」/「恒久制度化 議論は不可避」
・3面
「前天皇と新天皇 併存/『二重権威』の回避課題」
考/論「社会の統合 皇室頼みに危うさ」原武史・放送大学教授
「退位礼正殿の儀 天皇陛下 おことば(全文)」「安倍晋三首相の国民代表の辞(全文)」
「各国から感謝の意」米国、韓国、ロシア
・社会面(34、35面)
見開き見出し「令和へ継ぐ」「平成の願い」
「渋谷の交差点 集う心」
「『平和を』美智子さまと手を携え」
「喜びのカウントダウン」/「0時に誓いのキス」/「新時代行きの列車」/「機上で感傷に」/「踊って『元気な時代に』」/「花壇も『改元』」/「東京タワー『御朱印』」/「平成駅入場券に行列」
■社説「即位の日に 等身大で探る明日の皇室」/国民とともに考える/身構えず自然体で/先送りできない課題
https://www.asahi.com/articles/DA3S13998717.html?iref=editorial_backnumber
※別刷り特集8ページ「林真理子さん寄稿」「今後の皇室日程」「天皇の一日」「代替わり ゆかりの地」「世界とのつながり」

【毎日新聞】
・1面
トップ「新天皇陛下 即位/令和時代 幕開け」
「前天皇は上皇に/『国民に心から感謝』/退位儀式でおことば」
・2面
「代替わりにお国事情」カット・検証 ※英国、ベルギー、タイなど
「3権の長 退位に寄せて」
・3面
CUクローズアップ「平和希求の『旅』成る/2分間200字かみしめ」
「退位まで感謝の交流」
「天皇像『鎮魂と感謝』」内田樹・神戸女学院大名誉教授
・社会面(26、27面)
見開き見出し「平成から令和へ」「笑顔バトンタッチ」
「カウントダウン新時代祝う」/「『令和元年』番付求め列」/「仙台・平成地区『災害ない時代に』/「高2『改元、不思議な感じ』」/「赤ちゃんに目細め」/「結婚式『令和も仲良く』」
(第2社会面)
「多文化社会 包む柔らかさ」社会部皇室担当・大久保和夫記者
「新両陛下 被災地の励み」
「『新婚のようなご夫妻』/昨年来訪 滋賀の博物館長」
■社説「令和時代に入る日本 変化にしなやかな適応を」/途切れない歴史の流れ/「国民の総意」の奥深さ
https://mainichi.jp/articles/20190501/ddm/005/070/064000c
※別刷り特集8ページ「皇室 新たな時代に」「新天皇陛下エピソード」「新天皇、皇后両陛下の歩み」「皇位安定継承なお課題」「『考・皇室』企画振り返る」「上皇ご夫妻の歩み」

【読売新聞】
・1面
トップ「新天皇陛下即位/令和元年/平成の陛下 上皇に/秋篠宮さま 皇嗣」「雅子さま 新皇后」「『国民に心から感謝』」
■社説「平成から令和へ 平和と安定へ努力重ねたい」/「守成」の困難に直面/中間層が支える日本/政治社会の分断防げ
https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20190501-OYT1T50033/
・2面
「即位 儀式の1年/10月 正殿の議/今月4日一般参賀」/「高齢即位 歴代2番目/59歳2カ月 光仁天皇60歳に次ぎ/8世紀以降」
・3面
スキャナー「退位 憲法に配慮」「政府、整合性の工夫」「象徴天皇 国政の権限なし/退位、典範の『例外』」
「『天翔』一時再有力案/元号選定 企業名あり断念」
※「編集手帳」(ふだんは1面)
・社会面(32、33面)
見開き見出し「令和の門出 祝う」「平成に別れ 感謝」
「カウントダウン 各地で」「本紙号外115万部」
「0時に挙式『忘れない日』」「婚姻届 続々」
(第2社会面)
「お言葉 感慨にじむ」
「『最後の日』つなぐ思い」
「被災地、沖縄 心を重ね」
※別刷り特集12ページ「令和へ 祈り継ぐ」「新天皇、皇后両陛下の歩み」「皇室これからの1年」「新天皇ご一家の暮らし」「元号248 壮観絵巻」

【日経新聞】
・1面
トップ「新天皇陛下 即位/『令和』幕開け/退位礼、皇居で厳かに」
「『支えてくれた国民に感謝』」最後のお言葉全文
「『新しい日本』を創ろう」井口哲也・編集局長
・2面
「代替わり粛々」「上皇ご夫妻、活動範囲探る/全ての公務引き継ぐ」「『二重権威』回避に配慮」「10月にパレード・饗宴/祝賀行事、年内続く」
・3面
「象徴の務めに幕」「退位13分 滞りなく」「お言葉一言一言かみ締め」
「政教分離を徹底/退位、首相が宣言/儀式 憲法との整合性配慮」
・社会面(30、31面)
見開き見出し「令和 暖かな時代に」「平成の30年に万感」
「山に情熱 交流大切に」「息の合うご夫婦・動物に愛情深く」(祝福の声)
「記念押印『31.4.30』に行列」「みんなでカウントダウン」
(第2社会面)
「『逆境に咲く花』復興へ前向けた」東北被災地/「被爆者を思い続ける優しさに感謝」広島・長崎/「ハンセン病への偏見から救われた」沖縄
■社説「令和のニッポン 社会の多様性によりそう皇室に」/平成流をみちしるべに/女性・女系含め議論を

【産経新聞】
・1面
トップ「新天皇 ご即位/令和 幕開け/きょう剣璽等承継の儀」
「『国民に心から感謝します』/退位の礼 上皇さまに」/最後のお言葉全文
「麗しき大和の国柄を守れ」令和に寄せて:櫻井よしこ・国家基本問題研究所理事長
・2面
「『平成』万感胸に」「伝統と憲法 整合性に心砕き/『お言葉』閣議決定」
「令和のはじめに 新時代にふさわしい国家戦略を」/敗北責任は昭和世代に/国会で大議論始めよう:乾正人・論説委員長
・3面
「『令和』新たな架け橋」「喜び悲しみ 国民と共感する天皇像」企画「象徴 次代へ 継承のかたち」1
「ご即位『晴れの儀式』勲章着用」「元年から多忙なご公務/米大統領来日、祝賀御列の儀…」
・社会面(26、27面)
見開き見出し「平和託すバトン」「深い慈愛に感慨」
「ご即位から30年『幸せでした』」
譲位に寄せて「上皇さまのお言葉 大きな支え」YOSHIKIさん(X JAPAN)/「上皇后さまの御歌に励まされ」拉致被害者家族 横田早紀江さん
(第2社会面)
「被災者『生きる勇気もらった』」
「『令和も 戦争なし』『平穏な時 流れて』/惜別と歓迎の声」
「厳戒渋谷『令和』の大歓声」/「道の駅『平成』ありがとう」

【東京新聞】
・1面
トップ「令和始まる/皇太子さま新天皇即位」
「天皇陛下が退位/国民に心から感謝」お言葉全文
「人と平和を守る世に」臼田信行・編集局長
・2面
核心「安定継承への議論鈍く/首相慎重 世論と乖離/女系天皇容認 女性宮家創設…/皇室制度見直しは」
「後世に問題 決断を」古川貞二郎元官房副長官に聞く
・3面
「新天皇陛下 家族と共に/『絆のありがたさ実感』」
「4日に一般参賀 即位祝う」「代替わり 住まい交換/新天皇 当面は赤坂御所から公務へ」
・特報面(24、25面)
「引き継がれた『負の遺産』/平成から令和へ 改元後も難題山積み」/「経済問題・豊かさの中の貧困」/「労働問題・非正規雇用 格差広がる」/「原発事故・脱原発を願う世論とずれ」/「安保法制・矛盾 形骸化した専守防衛」/「戦争責任・被害者団体の理解を得よ」/「沖縄基地・『ノー』民意踏みにじる政権」
・社会面(26、27面)
見開き見出し「平成から令和へ」「それぞれの願い」 カット・ドキュメント改元
「3、2、1、おめでとう」渋谷の若者/「故郷 奪われたまんま」福島第一原発避難/「平和続いてほしい」東名SA 運転手/「ご飯必要な人いる」山谷 炊き出し
(第2社会面)
「世代を背負う責任」「復興の歩み着実に」※学習院大、大阪、被災地・岩手・北海道、皇居前
「『最後の日』から いざ『最初の日』」「平和照らす花火 宮城・気仙沼」/「徹夜踊りで万歳!! 岐阜・郡上」
「『国威発揚の危うさ』令和『幸福を願う思い』/元号 専門家から異論も」
「最後のお言葉 目ぬぐう参加者」
■社説「共に生き平和を愛す 令和のはじめに」/働けども貧しいとは/軍拡より緊張の低減/歴史の歯車を動かす
https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2019050102000128.html

天皇の公的行為「象徴天皇制維持に不可欠か検証が必要」(信濃毎日新聞)、「天皇の役割の範囲曖昧にしかねず」(京都新聞)~地方紙・ブロック紙の社説・論説

 一つ前の記事の続きになります。平成最後の日、4月30日付の地方紙・ブロック紙の社説・論説をネット上で読んでみました。天皇の代替わり、改元を扱った内容がやはり数多くありました。内容は大まかに二つに分かれるように感じました。一つは、平成の30年余りを通じて天皇個人が象徴天皇制のありようを追求し続けたことへの敬意や賛意、共感、あるいは感謝の意を表した内容です。もう一つは、退位する天皇個人や天皇制には直接触れずに、「平成」の30年余を振り返り将来を展望する内容です。ただ、この日だけでなく、天皇の代替わりと改元を社説・論説で複数回取り上げている新聞もあります。
 そうした中で目を引いたのは、信濃毎日新聞と京都新聞が、天皇の「公的行為」が増えることの問題点を指摘していることです。公的行為とは、憲法で規定されている天皇の「国事行為」以外の幅広い行為を指します。
 以下に両紙の社説の一部を引用して紹介します。

・信濃毎日新聞「陛下きょう退位 象徴の姿を求め続けて」/対話を欠かさず/歴史に向き合って/課された宿題重く
 https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190430/KP190429ETI090013000.php

 公的行為の拡大は今後の天皇が活動できる範囲を憲法の枠外に広げ、同時に政治利用の余地も拡大させた。象徴天皇制を維持するために憲法に規定されていない公的行為が不可欠なのか、改めて検証する必要もある。
 渡辺治・一橋大名誉教授は「陛下が取り組んだ戦争責任などの問題を、国民が主権者として真正面から考え、解決していくことが必要。そして象徴のあるべき姿を議論しなければならない」と話す。
 象徴天皇のあり方を模索し、歴史を教訓に生かす営みをこれまで陛下に任せきりにしてきたのではないか。私たち一人一人がこの重い宿題に向き合っていきたい。

・京都新聞「天皇陛下退位  模索し続けた『象徴』の理想」/昭和の「遺産」見つめ/公的行為に曖昧さも/憲法への信頼を基に
 https://www.kyoto-np.co.jp/info/syasetsu/20190430_3.html

 注意が必要なのは、こうした被災地訪問や国民とのふれ合いが憲法に定める国事行為ではないということだ。宮内庁の分類では「公的行為」とされている。
 陛下の誠実な思いが背景にあるとはいえ、こうした公的行為が増加していくことは天皇の役割の範囲を曖昧にしかねない。
 沖縄や被災地、社会的弱者などに手を差し伸べるのは本来、政治の責任であるということは押さえておくべきだ。
 代替わりで皇室への関心が高まっている。それだけに、政治的権能を持たない天皇の活動によって政治の課題が見えにくくなってしまう恐れがあることは冷静に認識しておきたい。

 今回の退位と新天皇の即位には、昭和から平成に変わった当時のような自粛ムードもなく、自由に天皇制を論じることができる機会でしょう。マスメディアのジャーナリズムからは多様な論点が提示されて然るべきだろうと思います。

 以下に地方紙、ブロック紙各紙の社説・論説の見出しと、印象に残った内容のものはその一部を引用して書きとめておきます。5月1日以降もサイト上で読めそうなものは、リンクも張っておきます。

・北海道新聞「天皇陛下30日退位 『象徴』の姿を追い求めた」/「憲法を守る」と表明/被災地での「平成流」
 https://www.hokkaido-np.co.jp/article/301248?rct=c_editorial

・河北新報「きょう退位/感動広がった被災地ご訪問」
 https://www.kahoku.co.jp/editorial/20190430_01.html

・東奥日報「新天皇の模索が始まる/『平成流』に幕」
 https://www.toonippo.co.jp/articles/-/185576

・山形新聞「平成の終わりに 陛下に感謝ささげたい」
・岩手日報「<平成考>女性の生き方 私らしく歩いていこう」
 https://www.iwate-np.co.jp/article/2019/4/30/53940
 ※4月26日付から「平成考」シリーズ

・福島民報「【平成最後の日】歩みを令和に伝える」
 https://www.minpo.jp/news/moredetail/2019043062807

 平成二十三(二〇一一)年三月に起きた東日本大震災と東京電力福島第一原発事故が、最大の出来事だった。福島民報社と福島テレビが共同で実施した県民世論調査で、回答の68・5%が最も記憶に残った事柄として挙げた。復興は九年目に入り、着実に進む一方で、いまだに約四万人が県内外で避難生活を強いられ古里に戻れずにいる。県産農産物に対する風評も完全に拭い切れていない。

・福島民友「平成とふくしま/より良い時代へ歩み確かに」
 http://www.minyu-net.com/shasetsu/shasetsu/FM20190430-373521.php

 震災と原発事故は平成を忘れられない時代にした。発生から8年余が過ぎ、帰還困難区域の一部を除いて避難指示が解除されるなど復興は進んでいるが、原発の廃炉はこれからであり、事故による風評も根強い。新しい時代は始まるが、震災の記憶が風化するようなことがあってはならない。

・茨城新聞「平成の終わりに さらなる豊かな茨城を」
・神奈川新聞「令和へ 天皇退位 体現された『象徴』の姿」
・山梨日日新聞「【天皇陛下退位へ】国民に寄り添う象徴 次代に」
・新潟日報「平成が終わる 両陛下の思いを胸に刻む」/象徴の姿模索続ける/平和を願い重ねた旅/被災地で県民励ます
 https://www.niigata-nippo.co.jp/opinion/editorial/20190430466354.html

・中日新聞・東京新聞「『当たり前』をかみしめて 平成のおわりに」/原発に制御されている/何でもないことの平安/「戦後」を脱却させない
 https://www.chunichi.co.jp/article/column/editorial/CK2019043002000090.html

 ここで「平成時代にあったこと」から「平成時代になかったこと」に話を転ずるなら、まず挙げるべきは、戦争だと思います。
 近代以後、明治にも大正にも昭和にもあったが、平成の時代にだけは、それがなかった。
 考えてみれば、戦争ほど、人々の営みの「当たり前」を奪い去るものはありません。過去の戦争では、どれほどの「行ってきます」が「ただいま」に帰り着けず、どれほどの「お帰りなさい」が重くのみ込まれたまま沈黙の淵(ふち)へと沈んだか。食べるものがある、住む所や働く所、学ぶ所がある。そうした無数の「当たり前」を戦争は燃やし、壊しました。
 昭和がその後半、どうにか守った「戦後」を平成は引き継ぎ、守り抜いた。そのことは無論、素晴らしい。ですが、このごろ、どうにもきなくさいのです。
 (中略)
 どうあっても「戦後」は続けなければなりません。無論、明日から始まる新たな時代も、ずっと。

・北日本新聞「天皇退位/追い求めた『象徴の姿』」
・北國新聞「きょう退位 国民の幸せ願う祈りに感謝」
・神戸新聞「『平成』の終わり/停滞と模索の時代の次に」
 https://www.kobe-np.co.jp/column/shasetsu/201904/0012288061.shtml

 社会の高齢化と人口減少はこれから速度を速める。平成が停滞と模索の時代だったとすれば、令和は未来の針路を見いだす前進と再生の時代としたい。
 その基礎になるのは、やはり平和の維持である。
 エネルギーの9割強、食料の6割強を海外に依存する日本は国際対立や紛争などの影響を他国以上に受けやすい。自衛隊の活動を海外に広げても、抜本的な解決策にはならない。

・山陽新聞「幕下ろす『平成』 『不戦』の歩みを次代へ」
 https://www.sanyonews.jp/article/894654?rct=shasetsu

 平成の時代が幕を下ろす。平成が始まった1989年、世界では東西ドイツを隔てたベルリンの壁が崩壊し、東欧諸国で民主化革命が起きるなど変化を告げる出来事が相次いだ。大国がにらみ合う構図は、米ソ冷戦に代わって米中間の「新冷戦」が顕在化し、世界に影を落としている。
 国内を見れば、明治より後で初めて戦争を体験することなく終えた時代となった。昭和の戦争で惨禍を味わった国民の平和への思いが具現化した歳月といえよう。とはいえ、戦争をじかに知る世代は減り、記憶は薄れる一方だ。風化を食い止め、不戦への思いを継承していく作業はこれまで以上に重みを増そう。

・中国新聞「令和の課題・象徴天皇 国民もともに歩んでこそ」
 https://www.chugoku-np.co.jp/column/article/article.php?comment_id=529291&comment_sub_id=0&category_id=142

・山陰中央新報「『平成流』に幕/新天皇の模索が始まる」
 http://www.sanin-chuo.co.jp/www/contents/1556590567068/index.html

・愛媛新聞「愛媛の平成回顧 災害の時代に共助が欠かせない」

 愛媛は近い将来、南海トラフ巨大地震に見舞われる恐れがあり、記録的大雨は今後も頻発する可能性がある。インフラ機能の一時喪失を想定しなければならず、マンパワーが衰える中、県民一人一人が助け合うことが欠かせない。「災害の時代」に根付いたボランティアや、共助の仕組みを次代に引き継ぎ、さらに高めていきたい。

・徳島新聞「陛下きょう退位 『象徴』を体現した30年」
 https://www.topics.or.jp/articles/-/195867

・高知新聞「【陛下の退位】『象徴』を国民が考えよう」
 https://www.kochinews.co.jp/article/273408/

 歴史に残る退位にもかかわらず、「令和」の公表では政治が権威主義的な前例踏襲型を繰り返し、国民は祝賀ムードに染まった。
 代替わりは、天皇制や「象徴」の在り方を議論するいい機会だ。思考停止に陥ることなく、憲法や民主主義について考えを深めたい。それこそが象徴天皇制を支える、主権者たる国民の役目だ。

・西日本新聞「平成から令和へ 『縮小社会』への軟着陸を」/立ちすくんだ30年/減り続ける働き手
 https://www.nishinippon.co.jp/nnp/syasetu/article/506784/

 視点を国内に戻せば、平成はかつて経験したことのない社会への入り口だったことに気付く。
 日本の人口は2008(平成20)年をピークに減り続けている。「縮小社会」の到来である。人口増加と経済成長を前提とした国家の枠組みが根底から崩れた。
(中略)
 光明がないわけではない。例えば、訪日外国人が大幅に増えた観光政策と外国人労働者の受け入れに踏み込んだ、二つの「開国」だ。外の力を国の活力にどう結び付けるか、これからが正念場だ。
 拡大社会から縮小社会への軟着陸はいや応なしである。女性が出産や育児と仕事を両立できる環境を整え、元気な高齢者の力も借りなければなるまい。私たちの暮らし方や働き方、社会の在り方そのものを大きく変える時だ。

・大分合同新聞「平和を願った平成 次の時代も希求し行動を」
・宮崎日日新聞「天皇陛下きょう退位 新天皇『新たな象徴』模索へ」/共感を呼んだ平成流/公務が膨れ負担増す
 http://www.the-miyanichi.co.jp/shasetsu/_38433.html

・熊本日日新聞「天皇陛下退位 記憶したい『象徴』の歩み」/平和と非戦の願い/弱者へのまなざし/共感呼んだ平成流
 https://kumanichi.com/column/syasetsu/996686/

・南日本新聞「[平成最後の日に] 不戦の世を受け継ごう」/象徴としての務め/焦土の風景が原点
 https://373news.com/_column/syasetu.php?storyid=104950

 この30年の間に漠とした不安が社会を覆い始めている気がしてならない。「戦前の空気」を感じ取っている戦争体験者は少なくない。
 特定秘密保護法や、集団的自衛権の行使容認など盛り込んだ安全保障関連法、「共謀罪」法が施行された。いずれも安倍政権が数の力で押し切り、成立させた。
 施行4年目に入った安保関連法に基づく自衛隊の任務は広がり、これまでの活動内容の詳細は明らかにされていない。専守防衛の逸脱が懸念される動きも見られる。
 安倍晋三首相をはじめ、政治家のほとんどが戦後生まれになったことも無関係とは言えまい。歯止めが利かなくなれば、日本はこれからどんな道を歩んでいくのか。
 過ぎゆく時代を顧みながら、一人一人がその問いに向き合っていかなければならない。

・沖縄タイムス「[天皇陛下きょう退位]沖縄の苦難に寄り添う」
 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/415064

 沖縄タイムス社と琉球放送が27、28の両日、実施した県民意識調査によると、天皇の印象について「好感が持てる」と答えたのは87・7%に達した。
 沖縄の人々のわだかまりが溶けつつあるともいえる。
 両陛下の「国民に寄り添う姿勢」は、沖縄においても好感を持って受け入れられている。
 被災地を訪ね、ひざをついて被災者を励ます姿は、悲しみや憂いを共有する思いがにじみ出ていて、忘れがたい印象を残した。
 「好感が持てる」と答えた人が9割近くもいたということは、こうした行動の全体が評価されているとみるべきだろう。
 依然として戦後が清算されず、民意に反して辺野古埋め立てが進み、基地被害が絶えないからこそ、沖縄にとって、寄り添う姿勢が身にしみる-という側面もあるのではないか。
 (中略)
 沖縄戦の際、学徒隊として動員された女性の中には、両陛下のひたむきな姿勢を評価する人が少なくない。だが、そのことをもって「沖縄の戦後は終わった」と判断するのは早計だ。
 状況の悪化を肌で感じていることと、天皇評価の好転とは、別の問題である。

・琉球新報「平成の沖縄 基地問題に苦悩し続けた」
 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-911254.html

米軍基地の前に人権や自治権は踏みにじられ、それが今も続いている。
 事件は後を絶たない。2016年に元海兵隊員の軍属の男がうるま市で女性を暴行し殺害した。そして今月も北谷町で米海軍兵が女性を殺害している。
 事故も相次ぐ。04年に宜野湾市の沖縄国際大学に米海兵隊のCH53D大型輸送ヘリが墜落した。垂直離着陸輸送機MV22オスプレイは、反対の声を押し切って強行配備され、16年12月に名護市安部に墜落した。
 元号が平成から令和に変わっても沖縄が置かれる厳しい現実に変わりはない。
 それでも基地から目を転じれば希望と期待の萌芽(ほうが)もあちこちに見られた平成だった。景気の浮き沈みはあったものの、観光は好調で、18年度は1千万人近い人々が来訪した。
 (中略)
 令和の時代には、県民の望む方向で基地問題を解決させ、子どもたちが健やかに育ち、その才能を開花させる沖縄を築かなければならない。