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弁護士会からも強い懸念、抗議、撤回要求~東京高検検事長の定年延長

 東京高検検事長の定年延長に対して、弁護士の側からの異議の表明が相次いでいます。静岡県弁護士会が3月2日、「黒川弘務東京高検検事長の定年延長に強い懸念を表明する会長声明」を公表し、京都弁護士会も同5日、「検察庁法に違反する定年延長をした閣議決定に抗議し、撤回を求める会長声明」を公表しました。法律家団体9団体も同5日、連名で「東京高検検事長黒川弘務氏の違法な任期延長に抗議する法律家団体共同声明」を公表しています。それぞれ、全文は以下のサイトで読むことができます。

・静岡県弁護士会会長声明(3月2日)
 https://www.s-bengoshikai.com/bengoshikai/seimei-ketsugi/s20-3teinennenntyou/
・京都弁護士会会長声明(3月5日)
 https://www.kyotoben.or.jp/pages_kobetu.cfm?id=10000077&s=seimei
・法律家9団体共同声明(3月5日)=自由法曹団のサイト
 https://www.jlaf.jp/04seimei/2020/0305_503.html
 ※9団体は社会文化法律センター、自由法曹団、青年法律家協会弁護士学者合同部会、日本国際法律家協会、日本反核法律家協会、日本民主法律家協会、明日の自由を守る若手弁護士の会、秘密保護法対策弁護団、共謀罪対策弁護団

 司法の実務は裁判所、検察、弁護士の3者構成で成り立っています。野党やマスメディアのみならず、法曹の一方の当事者である弁護士会からも、黒川検事長の定年延長の正当性に公然と強い疑義が示されたことは、この問題の深刻さを示しています。
 静岡と言えば、2月19日に全国の検事長や検事正ら法務・検察幹部が集まる会議「検察長官会同」で、静岡地検の検事正が「このままでは検察への信頼が疑われる。国民へもっと丁寧に説明した方がいい」と発言したと報じられています。静岡地検は東京高検の管内です。静岡県弁護士会の会長声明は、こうした経緯に照らしても意義は小さくないと思います。

 9団体の共同声明については、参加団体の一つ「明日の自由を守る若手弁護士の会」(略称:あすわか)が、「超訳」として極めて平易に、大胆に分かりやすくエッセンスをまとめています。とりわけ「3 安倍首相のいうとおりに解釈変更!?」の項では、定年延長のおかしさ自体と同等か、それ以上に、安倍政権、法務省、人事院の対応におかしさがあることを指摘しています。以下に全文を引用します。
 ※「明日の自由を守る若手弁護士の会」フェイスブックページ
 https://www.facebook.com/asunojiyuu/posts/2728880113813830

「検察官・黒川弘務さんの定年延長は、どこから見ても違法で、めっちゃ法治主義にも民主主義にも反しますよ」声明
【あすわか超訳版】
2020年3月5日

法律家9団体
超訳・文責 明日の自由を守る若手弁護士の会(あすわか)

1 はじめに
 2020年1月31日、安倍政権は、数多いる検察官のうち黒川弘務さんだけ、定年を半年伸ばすことを、閣議決定だけで決めちゃいました。検察官の定年(63歳)を延長するということは、これまでに一度も無かったことです。黒川さんは、安倍政権の中心の一人である菅官房長官と仲がいいと言われていて、安倍政権は、仲の良い黒川さんを検察庁のトップである検事総長にしたくて、定年を伸ばしたと言われています。

2 検察官には国家公務員法で定年延長はできない
 森雅子法務大臣は、検察官にも国家公務員法の定年延長の規定(81条の3)を使えると説明していました。しかし検察官の場合は、検察庁法で定年が63歳と決まっています。なので、森法務大臣の説明は間違いです。
 検察官は、刑事裁判などで強大な権限を持っている、特殊な仕事です。そんな検察官の人事を、権力の意のままにしないように、定年制があるんです。

3 安倍首相のいうとおりに解釈変更!?
 政府はずっと、検察官に定年延長はないと言ってきました。ところが安倍首相が、国家公務員法で検察官も定年延長できるように解釈を変える、と言ったあと、人事院はつじつまあわせに必死です。法務省も、法律の解釈を変えるという重大なことなのに、「口頭で決裁した」と言う始末…。
 政府は憲法と法律に従わなきゃいけないのに、また勝手に法律の解釈を変えました。これで何度目でしょう?

4 検事総長の人格は、権力に対する検察の防波堤
 法務大臣は、具体的な事件について、検事総長以外の検察官の指揮はできません。
 検察の(政治権力からの)独立を守るのは、法務大臣から指揮命令されるかもしれない検事総長の人格次第なんですよね。だから検察としても、検事総長はクリーンで、権力の顔色をうかがわない、忖度しないような人に任せることで、政治権力が組織に介入できないようにしてきました。その思慮深い歴史を今、突然、現政権がひっくり返そうとしているのです。
 中谷元・元防衛大臣も、静岡地検の神村昌通検事正も、公の場で異論を唱えています。与党や検察庁内部からも「ヤバくね?」と言われているのです。

5 黒川さんの定年延長は撤回すべきです
 今回の黒川さんに対する定年延長は、法治主義にも民主主義にも反します。
 私たちは、「不断の努力」の一環として、安倍内閣が黒川さんの定年延長をやめるように求めます。

以上

 ※参考
NHK NEWS WEB「東京高検検事長の定年延長 弁護士や学者など9団体が抗議声明」=2020年3月5日

 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200305/k10012315581000.html