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残る報道規制への危惧~特措法を安倍政権が運用 新型コロナウイルス対策

 新型コロナウイルスへの対策として安倍晋三政権が国会に提出した新型インフルエンザ等特措法改正案が3月13日、国会で可決されました。このブログの一つ前の記事で触れたように、ひとたび緊急事態宣言が発せられれば、国民の私権が制限され、また「表現の自由」や「知る権利」が制約される恐れがあるのに、宣言には国会の承認も不要で、付帯決議で国会への事前報告を求める、としただけでした。
 「表現の自由」「知る権利」に関連して、マスメディアの報道に直接かかわってくるのは、首相が必要な指示を出せる「指定公共機関」にNHKが指定されていること、指定公共機関は政令で指定するとされており、原理的にはNHKだけでなく民放各局や新聞社も指定が可能と考えられる点です。
 報道によると、改正案の審議の過程で宮下一郎内閣府副大臣が、いったんは民放局への指定は可能であり、放送内容に指示をすることも可能との見解を示し、後にこの答弁を撤回したと伝えられています。仮に「民放局は指定しない」「放送内容に指示はできない」との見解を示したものだとしても、「だから大丈夫。歯止めになるだろう」と考えるのは楽観的に過ぎるように思います。東京高検検事長の定年延長に見られるように、安倍晋三政権であれば、国会への説明も記録文書の作成もなく法解釈を変更し、閣議決定で実行に移すことに躊躇はないと考えておいた方がいいと思います。
 公式の記録を残すことや、国会での説明を軽視する体質が露わになっている安倍政権に、このような強権の行使を許すこと自体に危惧は消えません。

 この改正特措法に対して、専修大教授の山田健太さんが問題点を指摘していることは前回の記事でも紹介しました。山田さんは13日にも三たび、論考をアップしています。とりわけマスメディアの報道に携わる方には、一読をお願いしたいと思います。

・「改正特措法は報道規制の道具になりうる~緊急事態対処法である新型コロナ特措法の大きな罠」=3月13日
 https://news.yahoo.co.jp/byline/yamadakenta/20200313-00167656/

・「先手でも後手でもない『禁じ手』~なぜいま、緊急事態対処法がダメなのか」=3月10日
 https://news.yahoo.co.jp/byline/yamadakenta/20200310-00167053/

・「情報統制が不安を増幅させる~なぜいま、緊急事態対処法がダメなのか」=3月11日
 https://news.yahoo.co.jp/byline/yamadakenta/20200311-00167059/

※参考過去記事

news-worker.hatenablog.com

 東京発行の新聞各紙の14日付朝刊では、改正特措法の成立は朝日新聞、読売新聞、東京新聞が1面トップでした。他紙の1面トップは、毎日新聞は東京市場の株価、日経新聞は連載「新型コロナと世界経済」の初回、産経新聞は東京五輪延期論です。

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 各紙の改正特措法に関する記事のうち、主として運用への危惧の観点から目に留まったものの見出しを書きとめておきます。

▼朝日新聞
1面「信頼不可欠 首相は自覚を」栗原健太郎政治部長の署名
2面・時時刻刻「緊急事態 なお慎重論」「国民の権利 制限が可能に」「宣言へ2要件『現時点満たさず』」
4面「緊急事態時 民放介入の余地/『できる』→『しない』に修正 『できない』とは言わず」

▼毎日新聞
5面「政府理解『生煮え』/民放への『指示』巡り」
5面・社説「新型コロナ 特措法成立 『緊急事態』にせぬ努力を」
6面「『緊急事態』あやふや/『要件 不十分』指摘も」

▼読売新聞
1面「国民に丁寧な説明を」湯本浩司・政治部次長
3面・社説「改正特措法成立 冷静に判断し厳格な運用を」
4面「『緊急事態』与野党がクギ/採決 野党足並み乱れる」
4面「『民放に指示可能』撤回 宮下副大臣」

▼日経新聞
4面「緊急事態、民放指定せず/経財相、副大臣の答弁訂正」

▼産経新聞
1面「団結し『国難』に立ち向かえ/東京五輪の延期も選択肢だ」乾正人論説委員長

▼東京新聞
2面「『民放に指示可能』答弁撤回/宮下副大臣、衆院委で陳謝」
5面・社説「特措法の改正 独断への懸念は消えぬ」
7面「抗議集会 できなくなる/国会に事前報告 法的拘束力なし/元日弁連事務総長 海渡雄一弁護士」