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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

緊急事態宣言になぜこんなに時間がかかる

 新型コロナウイルスの感染拡大に対応するため、東京都と千葉、埼玉、神奈川3県を対象に、特措法に基づく緊急事態宣言が発出される見通しとなりました。昨年4月7日以来、2度目になります。菅義偉首相が1月4日、年頭の記者会見で、発出の検討に入ることを表明しました。報道によると、7日にも発出とのことです。菅首相はかねて緊急事態宣言には消極的でした。経済活動を継続させることを重視しているようです。しかし年末年始の期間中にも感染者数は拡大傾向で、昨年12月31日には東京都でこれまで最多の1337人に上りました。1月2日には小池百合子・東京都知事と千葉、埼玉、神奈川3県の知事が政府に緊急事態宣言発出の検討を要請していました。
 政府の方針転換の内幕を、5日付の東京発行新聞各紙はそれぞれ、総合面の大型のサイド記事で伝えています。大筋で共通している経緯は、菅政権としては緊急事態宣言を出さずとも感染拡大の“急所”である飲食の場に一層の対応を取れば効果が見込めると考えていた→しかし東京都の小池知事は、飲食店の協力を得られる見通しがないとして、これを受け入れなかった→政府も東京都も手をこまねている中で年末年始に感染がさらに拡大→内閣支持率の低下もあって首相は4知事の要請を受け入れざるを得なくなった―との流れです。
 興味深いのは、与党や政府の中に、感染拡大が止まらない主な要因は小池知事が強い飲食店対策を取らなかったことなのに、小池知事が宣言発出を政府に迫ったことで、政府が後手に回ったとの印象が強まってしまった、との見方があることです。読売新聞は「政府高官は『国が泥をかぶり、都は責任を回避する流れをうまく作られてしまった』と唇をかんだ」と描写しています。朝日新聞も「政権内では、4知事の要請を主導した東京都の小池百合子知事への『うらみ節』も噴き出す」として、「自民党幹部」の「小池さんはさらなる時短に応じなかった。だから東京都で感染者が増えた」との「不快感」を紹介しています。
 新型コロナウイルスは感染が拡大しているばかりでなく、昨年12月以降は死者も急増していました。いわば、人命を間に置いて菅首相と小池都知事が互いに相手への責任転嫁に腐心しているような構図が見て取れます。しかし、それ以上にわたしが危ういと感じるのは、菅政権の危機管理態勢です。知事4人が政府に緊急事態宣言の検討を要請したのは1月2日でした。7日の発出までに5日もかかるとは、どうしたことでしょうか。何も準備をしていなかったと疑わざるを得ません。
 昨年4月の前回は、安倍晋三首相(当時)が発出を決めたと一斉に報じられたのが4月6日。翌7日に宣言は出ました。その直前の数日間、じりじりした状態が続いていたので、準備に要した時間が数日程度はあったのだろうと思います。今回も即日の発出は無理かもしれませんが、前回から得た教訓を生かすなりして、もう少し早くすることはできないのでしょうか。出す、出さないは最後の判断だとして、仮に今、出すならどんな内容にするのか、それを日々検討して、情勢の変化に応じてその都度、上書きして備えておくのが危機管理の常道のはずです。危機は突然再来したわけではなく、継続中なのです。仮に首相が緊急事態宣言は出したくないと考えていたとしても、出さざるを得ない場合に備えて準備をしておくかどうかは別の問題です。あらゆる手立てを尽くすということには、そうしたことも含まれるはずです。特措法の改正にしても、昨年の秋に国会で審議する時間は十分にあったはずです。
 人の命を守る、ということへの政権の姿勢、本気さに根本的な疑問を感じます。菅首相の言葉が心に響かないのは、原稿を棒読みするからだけではないように感じます。

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 以下に、東京発行各紙の5日付朝刊のうち、総合面の大型サイド記事の見出しと、社説の見出しを書きとめておきます。

▼朝日新聞
2面・時時刻刻「緊急事態 後手の末」「首相一転 都知事らに押し切られ」「宣言の効果 疑問視も」
社説「宣言再発出へ 対策の全体像速やかに」

▼毎日新聞
2面・焦点「政権 窮余の一手」「支持率減『外圧』屈し」「4都県 支援取り付け」「医療逼迫 専門家『後手』」
社説「首相が緊急額宣言へ もっと明確なメッセージを」/目立つ責任転嫁の姿勢/国会は直ちに召集を

▼読売新聞
3面・スキャナー「熟慮ギリギリまで/首相、知事要請受け『切り札』」「特措法改正 改めて意欲/罰則 根強い慎重論」
社説「緊急事態宣言へ 危機感の共有で感染症抑えよ/雇用や生活を守る施策が必要だ」/医療提供体制の充実を/事業者支援を手厚く/国のメッセージが大切

▼産経新聞
3面「首相一転 発令やむなし/回避腐心 都の協力得られず」「厳しい規制の大阪 減少傾向」
社説(「主張」)「緊急宣言発令へ 『一点突破』では不十分だ」

▼東京新聞
2面・核心「首相 後追いの再宣言」「知事や視界に押され転換 発令へ」「特措法改正は来月か 対応迷走」
社説「緊急事態再宣言へ 心に響く誠実な言葉で」/政府の判断に後手の印象/強いメッセージでなく/民主主義再生のために