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コロナ特措法「罰則、強制力」議論は菅政権の失政隠しではないのか

 新型コロナウイルス特別措置法に基づく2度目の緊急事態宣言が1月7日、東京、千葉、埼玉、神奈川の4都県を対象に発出されました。期間は1月8日から2月7日まで。感染拡大防止の急所である飲食に対策の重点を置くとのことで、飲食店の営業を午後8時までとすることを要請し、応じない飲食店は業者名を公表できるとしています。菅義偉首相は7日の記者会見で「1カ月後には必ず事態を改善させる」として、国民への協力を要請しました。
 緊急事態宣言を発出することの当否はともかく置くとして、年末年始に東京の感染者が爆発的と言ってもいいほどに急増するまで、菅政権に宣言に備えた準備が何もなかったことについては、このブログの一つ前の記事で触れました。加えて、年末以降の感染者の急増がどうして起きているのか、その要因を菅政権はどうとらえているのかもよく分かりません。急ごしらえの対策で感染拡大を抑え込めるのか、疑問です。
 菅首相は会見で、特措法を改正し罰則などによって強制力を付与する方向性も明言しましたが、これもこのタイミングには違和感があります。現在の爆発的な感染拡大の要因ははっきり示されておらず、強制力によって収束に持ち込めるかどうかは分かりません。
 ここ1カ月ほどを振り返ると、感染症の専門家や医師会が警告していたにもかかわらず、菅政権はGoToキャンペーンを強行し、ようやく年末年始に限って停止しました。飲食店を対象にした「GoToイート」もありました。首相自身はと言えば連夜の会合出席。自民党の二階俊博幹事長もステーキ店で会合を主催していました。党内の各派閥も忘年会を予定していたものの、さすがに相次いで中止。これも立ち消えになったようですが、つい先日は国会議員の会食のルールを与野党で取り決める、という動きもありました。
 感染が収束せず、行動変容が必要と指摘されているさなかのGoToキャンペーンと、政治の側の緊張感を欠いた振る舞いとが相まって、社会に「実は今まで通りでも大丈夫」との誤ったメッセージが拡散されたのではないでしょうか。それが最近の爆発的な感染者の増加につながっていると考えるのは、さほど不合理ではないように思います。
 それなのにここで罰則、強制力の議論が持ち出されると、現在の感染拡大の原因が、あたかも要請に従わずに深夜営業を続ける飲食店にあるかのような雰囲気が醸成されることを危惧します。飲食店の側に立って考えてみれば、GoToイートで政府が需要をあおっていたのに、わずか1カ月足らずの間に、午後8時閉店の要請に従わなければ店名をさらす、となったのです。あまりの急激な、しかも一方的な変化に困惑するばかりでしょう。
 感染者が入院を拒否したりした場合にも刑事罰を科すことも政府内で検討されているとも伝えられています。菅政権が自らの失政を目立たなくするために、意図的にこのタイミングで罰則や強制力の必要性を強調し始めた、と考えるのはうがち過ぎでしょうか。
 どうしても罰則、強制力の議論が必要だとしても、それは現在の状況が収束した後のことでしょう。そもそも、特措法改正を国会で審議する機会は昨年秋にありました。今、このタイミングで性急に立法化を進めようとする動きには警戒が必要です。マスメディアにとっても大きな課題です。

 宣言発出翌日の1月8日付の東京発行新聞各紙の朝刊は、そろって1面トップの扱いでした。7日の東京都の感染者は2447人でした。

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