「五輪ありき 宣言延長」(東京新聞)、「開催『突進』 社会を分断」(毎日新聞)~緊急事態宣言再延長、在京各紙の報道の記録

 新型コロナウイルス対策として東京、大阪など9都道府県に発令されている緊急事態宣言は、5月31日までとしていた当初予定を延長し、6月20日までとすることが5月28日、決まりました。菅義偉首相は感染拡大の防止とワクチン接種の推進の「2正面の作戦」で臨むことを強調しました。東京発行の新聞各紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京の6紙)は29日付の朝刊1面、総合面、社会面で大きく扱い、社説でも取り上げています。通算で3回目のこの緊急事態宣言は、もともとは4月から5月にかけての大型連休に備えた集中的な対応のはずでした。これで2カ月間、ずるずると続くことになります。各紙の総合面や社会面には、飲食業界を中心に我慢に我慢を重ねている事業者らから「もはや限界」との悲鳴が上がっている様子を伝える記事がいくつも載りました。
 医療体制のひっ迫は言うに及ばす、これだけ日本社会が傷んでいる中で、東京五輪が7月23日に予定通り開催されるのかどうかは、大きな社会的関心事です。6紙のうち読売新聞以外の5紙は1面に何らか「五輪」を見出しに入れています。中でも1面トップで「五輪ありき 宣言延長」の見出しを掲げ、「首相 開催基準示さず」の見出しも並べて、開催強行に疑義をにじませた東京新聞と、逆に「五輪 観客入れ開催検討」を1面トップにし、緊急事態宣言延長は2番手とした産経新聞の両紙の紙面づくりが目を引きました。在京6紙のうち、東京新聞以外の5紙は、発行新聞社が大会の公式スポンサーです(ほかに北海道新聞社も)。

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 マスメディア各社の世論調査では、五輪中止を求める意見が多数です。再延期も含めれば、今夏の開催に対して反対の意見が圧倒しています。しかしIOC幹部からは「緊急事態宣言が発令されていても開催する」(コーツ調整委員長)「菅首相が中止を求めても大会は開催される」(最古参のディック・パウンド委員)など、あたかもIOCの意向は日本国の主権の上位にあると言わんばかりの発言が続いています。しかし日本政府も大会組織委も発言を放置したままで、菅首相は28日の会見で、本当に緊急事態宣言下でも開催されるのかを問われても、直接答えませんでした。
 こうした現状に対して、毎日新聞が29日付朝刊の第2社会面に掲載した「開催『突進』社会を分断」の見出しの記事の、以下のくだりが印象に残りました。

 関係者によると、先日の日本側との会議で、あるIOC委員は「東京にはミシュランガイドのレストランが多いのに、食を楽しむ機会が制限されている」と不満を示したという。選手村の食事内容を懸念した発言だったというが、IOCの特権意識を如実にうかがわせる。

 東京新聞の読者投書欄に掲載された68歳の男性の「開催国どうでもいい?」は、コーツ委員長発言に「緊急事態宣言下ということは、日本国民がコロナで窮地に立たされている証しである」「参加選手と大会関係者さえ安全であれば、開催国の状況はどうでもいいというのが本音か」と疑問を呈し、以下のようにつづっています。

 小学五年生だった一九六四年の東京五輪に感動し、金メダル選手の名前を暗記し、各国国歌をテープレコーダーにもれなく録音した五輪への憧れが、悲しい現実に変わっていく。

 以前、このブログでも紹介したJOC理事、山口香さんの「応援したかった人が大勢いたにもかかわらず、あえて敵をつくるやり方をしてきたことが残念だ」との言葉をあらためて思い出します。

news-worker.hatenablog.com

 日本社会の民意の状況を、組織委員会は正確にIOCに伝えているのでしょうか。疑問を感じます。

 大会公式スポンサーに名前を連ねる在京新聞社5社のうち、各社紙面の社説では朝日新聞が5月26日付で、菅首相に五輪中止の決断を求めるとの社説を掲載しました。
 一方、産経新聞は28日付の論説「主張」で開催の努力をあきらめるな、と訴えています。他紙の社説に当たります。
 ■産経新聞(「主張」)5月28日付「東京五輪 開催の努力あきらめるな 菅首相は大会の意義を語れ」/選手も思いを発信せよ/あらゆる知見の結集を
 https://www.sankei.com/article/20210528-C7NN4NWG4FOSTGGDP4C65PN44U/

 政府や組織委が掲げる「安全・安心な大会運営」は、前提であって答えではない。開催意義をあいまいにしたまま「安全・安心」を繰り返しても、国民の理解は広がらない。菅義偉首相にはそこを明確に語ってもらいたい。
 アスリートにも同じことを求めたい。それぞれが抱く希望や不安の真情を、自身の言葉で聞かせてほしい。先が見えない中で鍛錬を続ける彼ら彼女らの不安は国民の不安にも通じる。だからこそ日の丸を背負う選手たちには、五輪を通して社会に何を残せるのか、語る責任がある。

 北海道新聞は29日付の社説では「東京五輪に開催ありきで突き進む首相の姿勢は理解し難い」としています。
 ■北海道新聞5月29日付「緊急事態宣言延長 局面打開へ抜本対策を」
 https://www.hokkaido-np.co.jp/article/549294?rct=c_editorial

 今後の感染抑止でカギを握るのは、英国型よりもさらに感染力が強いとされるインド型変異ウイルスへの対応だ。
 渡航者などへの政府の水際対策は相変わらず後手に回っている。変異株を判定できる検査体制を強化し、感染者の早期発見と隔離を徹底する必要がある。
 首相が対策の決め手と頼むワクチン接種も医師や看護師の確保がネックとなり順調とは言い難い。
 それなのに、開幕まで2カ月を切った東京五輪に開催ありきで突き進む首相の姿勢は理解し難い。
 首相は観客入りの開催にこだわっているとされ、影響の少ない延長期間を設定したという。
 国民の生命や健康を第一に考えているのか。国のリーダーとしての認識が問われている。

 五輪の開催を巡る次の大きな節目は、緊急事態宣言の新たな期限の6月20日でしょうか。開幕の1カ月前です。その間の日本社会の民意と、公式スポンサーに名を連ねる新聞各紙の報道と社論、その他の新聞の報道や社論を注視しようと思います。

 以下に、5月29日付の東京発行6紙の朝刊に掲載された緊急事態宣言延長と五輪関連の主な記事の見出しを記録しておきます。社説は、五輪に触れている部分を書きとめました。

▼朝日新聞
・1面
 トップ「緊急事態 来月20日まで/9都道府県で延長 五輪開幕1カ月前/まん延防止5県も」
・2面
 時時刻刻「小出し限界 抑え込めず/『延長は最後か』首相、明言避ける」「変異株・人出に不安 カギ握るワクチン」
・3面
 「五輪前提 背水の首相/有観客に強いこだわり」
・第2社会面
 「我慢いつまで あえぐ街」「緩和 映画館『補償が不十分』/継続 飲食店『もう待てない』」
 「東京の人出V字増加 感染再拡大懸念」
・社説「宣言再延長 難局乗り切る戦略示せ」

 「開催ありき」で東京五輪に突き進む姿勢が、政府や都のコロナ対応への不信を生んでいることも忘れてはならない。社説はこの夏の開催中止の決断を菅首相に求めた。しかし、首相はゆうべの会見で、公表済みの対策をなぞるばかりで、宣言下でも五輪を開けるかという問いには直接答えなかった。これでは「安全安心の大会」と繰り返されても、到底納得できない。

▼毎日新聞
・1面
 トップ「首相『予断許さず』/9都道府県 緊急事態延長/来月20日まで」
 「五輪開催基準 首相明示を」藤野智成・東京本社運動部長
・2面
 「経済長期低迷の懸念」「東京 休業要請 線引き焦点/大阪 医療体制 依然厳しく」/「個人消費 下押し続く」
・3面
 クローズアップ「五輪開催へ背水の陣」「解除『1カ月前』政府苦悩」「観客有無 見通し立たず」「人出抑制 薄まる効果/変異株 増す脅威」
・社会面
 トップ「宣言再延長『地獄だ』/休業要請継続 飲食店憤り」「『土日勝負なのに』百貨店」「都、映画館を時短に/休業要請一部緩和」
・第2社会面
 「五輪で感染『自己責任』/IOC 参加同意書に明記」
 「開催『突進』社会を分断」
・社説「緊急事態宣言の再延長 五輪優先の解除許されぬ」/失敗繰り返さないよう/リスク高い「観客あり」

 国際オリンピック委員会(IOC)の幹部からは「アルマゲドン(世界最終戦争)でもない限り実施できる」などと、国民感情を逆なでする無神経な発言が相次いでいる。
 政府の最大の責務は国民を守ることだ。菅首相は感染対策について「先頭に立って取り組む」と強調している。五輪の日程優先で宣言を解除するようなことがあってはならない。

▼読売新聞
・1面
 トップ「『感染防止・接種の3週間』/首相 緊急事態宣言 延長/9都道府県 20日まで」
 「都、休業要請を緩和/大阪も 百貨店や映画館」
 「医療とワクチン 総力戦で」山口博弥・編集委員
・2面
 「事業者反発 休業緩和/東京・大阪 政府も働きかけ」
 「宣言下 病床逼迫続く/9道府県で『ステージ4』」
 「首相、五輪『国内客』意欲/批判念頭『しっかり感染対策』」
・3面
 スキャナー「接種進展に期待/感染拡大防止へ時間確保」「まん延防止 早期適用カギ」
・社会面
 トップ「飲食店『既にぎりぎり』」「映画館は再開に安堵」「苦境 売り上げ3分の1」
・第2社会面
 「都の協力金 支給遅れ/手続きに時間 飲食店悲鳴」
 「小池知事『五輪再延期難しい』」/「『選手の感染 主催者面積』/IOC 同意書提出求める意向」
・社説「緊急事態延長 ワクチン接種に全力を挙げよ」
 ※五輪への言及なし

▼日経新聞
・1面
 トップ「緊急事態延長を決定/首相『接種100万回、来月中旬以降』/来月20日まで/五輪への国内観客に意欲」
・3面
 「来店客7割減 外食直撃/緊急事態、飲食街人出は8~9割減/中小、資金繰り深刻に」
 「重症病床なお逼迫/宣言地域 6府県で使用率5割超」/「協力金 進捗に格差/東京5割止まり 手続き足かせ/埼玉は9割超」
・4、5面
 「『二正面作戦で成果出す』/ワクチン接種 感染拡大防止/首相『3週間、極めて大事』」
 「コロナ下 給与8年ぶり減/昨年度、飲食や運輸で落ち込む/下押し圧力 長期化も」
・社会面
 トップ「宣言延長『6月挙式』直撃/乾杯の酒なく戸惑い/季節の催し、影響広がる/学校運動会も取りやめ」
・第2社会面
 「観客上限、宣言明けに判断/橋本氏『状況見なければ困難』」
・社説「今度こそ効果実感できる感染防止策を」

 米政府は日本に対する警戒ランクを最高度の「4」とし、渡航中止勧告を出した。いま感染を減らせなければ、7月の東京五輪の開催も不透明感が増すだろう。

▼産経新聞
・1面
 トップ「五輪 観客入れ開催検討/再抽選 システム構築/政府・組織委」
 「緊急事態 再び延長/9都道府県 来月20日まで/感染対策とワクチン 首相『二正面作戦』/「百貨店 平日時短営業へ 都」
・3面
 「迫る五輪 再拡大許されず/変異株懸念 出口戦略手探り」
 「飲食・百貨店 続く苦境/民間試算 追加損失1兆2420億円」/「インド型 1週間で3倍超 国内感染者/既存ワクチンでも『かなり有効』」
・社会面
 トップ「キャンパス接種 拡大/文科省調査 350大学 活用可能/『学生らに余剰ワクチン』」/「小中学校の体育館も」
・社説(「主張」)「緊急宣言の延長 コロナ抑え込み加速せよ/ワクチンの打ち手確保を急げ」/インド型警戒が急務だ/平時の感覚はいらない

 延長決定はやむを得ない。英国型に加えインド型も含む変異株の抑え込みと、7月23日に開会する東京五輪の成否がかかっているとみるべきだ。

▼東京新聞
・1面
 トップ「五輪ありき 宣言延長/9都道府県 来月20日まで/埼玉・千葉・神奈川『まん延防止』も」「首相 開催基準示さず」
 「都、休業要請を緩和へ/百貨店 土日のみ、映画館は時短に」
・2面
 核心「五輪と宣言 透ける関連/緊急事態 今回は大会1カ月前まで延長/過去には 延期決定後に発令/解除直後に聖火リレー開始」
・3面
 「協力金支給 遅いよ/飲食店『時短要請するなら約束守って』/審査複雑化 4月中旬分から長期化も」
 「貸付・雇調金の特例延長/困窮世帯支援金7月開始」
・特報面
 「『アルマゲドン』って…/IOC幹部の五輪発言また波紋」「五輪ファミリー厚遇 2万人超/コロナ禍でも開催強要『平和尊ぶ精神 かけ離れてる』」
・社会面
 トップ「『これで最後に』/酒卸売業者 政策での支援訴え」「『国は中途半端』/渋谷の若者 怒りの声」
 「『五輪での感染 自己責任』/参加同意書 IOC、死亡にも言及」
・社説(中日新聞と共通)「緊急宣言再延長 強いる『我慢』に報いよ」

最初に指摘しておきたいことがある。菅義偉首相は、沖縄県への宣言発令を決めた二十一日、記者会見の開催を拒み、記者団との簡単な質疑応答にとどめた。
 記者会見は、新型コロナウイルスの感染症対応や政府の考えについて、首相が直接、国民に語りかける重要な機会だ。会見を拒否する姿勢は、政府の責任を放棄していると言わざるを得ない。
 首相が国民と真摯(しんし)に向き合わないから危機感が共有されず、協力が得にくくなっている。感染症の封じ込めには国民の納得と協力が不可欠だと重ねて指摘したい。

 ※五輪への言及なし