「中止」の選択肢なお必要~東京五輪、1都3県「無観客」の報道の記録

 東京五輪の開幕まで15日となった7月8日、東京都と首都圏3県で実施される競技は無観客となることが決まりました。政府はこの日、新型コロナウイルスの感染者の拡大が続いている東京都に対し、現在のまん延防止重点措置を12日に緊急事態宣言に切り替えることを決定。かねて菅義偉首相は、宣言となれば無観客も辞さないと表明しており、8日夜の政府、大会組織委員会、東京都、国際オリンピック委員会(IOC)などの5者協議で、4都県の無観客が決まりました。9日付の東京発行新聞各紙の朝刊(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京)はそろって1面トップの扱い。総合面や社会面でも関連記事を大きく掲載し、社説でも取り上げました。
 報道を見ていると、今回の「無観客」の決定で東京五輪を巡る主要な課題の検討は終わり、後は感染予防対策をしっかり実施しながら開幕を待つばかり、という雰囲気が濃厚です。しかし本当にそうなのでしょうか。今からでも「中止」を検討する余地を残しておく必要があるように思います。

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 いつごろからか、東京五輪を巡っては「開催か中止か」の選択もあるはずなのに、もっぱら「有観客か無観客か」が焦点であるかのようになっていました。大きな転機は6月のG7首脳会議の報道だったように思います。菅義偉首相が東京五輪の開催について「全首脳から力強い支持をいただいた」と記者会見で誇らしげに語ったことが報じられ、また首脳声明にも大会開催を支持することが盛り込まれたと、盛んに喧伝されました。この点についてわたしは以前の記事で「実態よりもその意味合いが誇張されて伝わっているのではないか」「“水増し感”がある」と書きました。
 https://news-worker.hatenablog.com/entry/2021/06/17/004931 

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 しかし、この「国際公約」の主張をマスメディアが疑うこともなく報じたことも一因になって、日本社会は「もはや『中止』は選択肢にない」というムードに一気に覆い尽くされたように思います。その中には「いくら中止を求めても、もう無理なのかもしれない」とのあきらめの感覚も少なからずあったはずです。
 例えば、政府の対策分科会の尾身茂会長ら感染症の専門家の有志グループが6月18日に政府と組織委員会に提出した提言です。「無観客開催が望ましい」とし、観客を入れる場合でも制限を厳しくし、感染拡大などの兆候があれば躊躇なく無観客にするよう求める内容でした。尾身会長は会見で、当初は「五輪開催の有無も含めて検討してほしい」の文言があったのに、菅首相が国際的な場で開催を表明し、専門家で開催の是非を検討することは実際的にはほとんど意味がなくなった、と話していました。
 一方で、マスメディア各社の世論調査では、五輪開催によってコロナ感染が拡大するのではとの不安を感じるとの回答が8割超に上っています。政府や大会組織委は「安全安心」を強調しますが、対策には穴や漏れがあることが指摘されています。感染拡大阻止の切り札とされるワクチンにしても、スピード感を演出するためでしょうか。思い付きのように自衛隊による大規模接種や職域接種を進めた結果、ワクチン不足に陥り、計画性のなさが露呈しています。何の憂いもなく安心して23日の大会の開幕を待つ、という状況では到底ありません。
 なおも「中止」の選択肢は手放すべきではないのではないか。そういう観点からの記事が必要だと思うのですが、9日付の各紙の報道では、極めてわずかでした。目に止まったのは、毎日新聞の社説の一節と、東京新聞の特報面の記事(「コロナに『勝てなかった』証しでは/有効な感染対策は『中止』しかない」)ぐらいです(※ほかの記事を見落としている可能性はあります)。
 毎日新聞の社説は「今後、感染の急拡大で医療体制が崩壊するような最悪の事態も起こりうる。主催者は状況に応じ、大会の中止や競技の打ち切りといった選択肢も想定しておく必要がある」としています。
 このまま平穏無事に開幕を迎えられるのか。マスメディアの報道をも含めて注視しています。

 以下に9日付の在京紙各紙の主な記事の見出しを書きとめておきます。
▼朝日新聞
 1面トップ「4都県 五輪無観客/会場規模・昼夜問わず一律/宮城・福島など4県は有観客」
 1面「東京 4度目緊急事態/政府決定 違反の店『厳しく対応』/来月22日まで 沖縄は延長」/「都、酒提供全面認めず」
 2面・時時刻刻「首相裏目 宣言下の五輪/『ワクチンで抑制』崩れたシナリオ」「移動多い夏『強い対策』考慮」
 3面「観客数 迷走の果て/昨秋 世界から観客/4月『無観客覚悟』/6月 上限1万人/7月 無観客」
 社会面トップ「五輪は、やるのに/また酒に制限『予想してたけど、矛盾』」「無観客『日本で試合する意味は』」
 社説「4度目の宣言 矛盾する『発信』に懸念」

▼毎日新聞
 1面トップ「五輪 1都3県無観客/5者協議で決定/感染急拡大受け一転/IOC会長来日」
 1面「東京4回目『緊急事態』/来月22日まで 酒類提供禁止」/「首相、発令を陳謝/1回目接種 月内 国民4割目標」
 2面「感染抑止どこまで/人出減少など不透明」「都、百貨店休業求めず」/「政府 ワクチン頼み/首相会見 供給減り自治体混乱」
 3面・クローズアップ「IOC無責任露呈/開催可否論じぬまま/世論意識し政府転換」「チケット対応二転三転/組織委に未練」
 社会面トップ「緊急事態下 矛盾の五輪/『酒制限』『無観客』に怒り」/「『水際対策に人員を』/都医師会長が訴え」
 社説「宣言下で五輪開催へ 感染爆発防ぐ対策見えぬ」/遅れる経済・生活支援/全面無観客が大前提だ

▼読売新聞
 1面トップ「五輪 1都3県無観客/東京に緊急事態 決定/宮城・福島・静岡は上限設定/5者会談」
 1面「飲食店へ協力金先渡し」/「酒提供 休業要請 都」
 2面「IOC、観客数こだわらず/開催で放送権料確保」/「無観客なら感染200人減/来月上旬・都内 1日あたり 筑波大推計」
 3面・スキャナー「有観客 最後まで模索/『人流増加』懸念 世論に配慮」
 社会面トップ「無観客『悲しい』/チケット保有者『望み消えた』」/「医師歓迎『当然だ』」/「都知事『断腸の思い』■茨城知事『小中高生のみ』」/「海外メディア『大会に打撃』」
 第2社会面「飲食業界 光見えず/氷屋3代目『存続の危機』」
 社説「緊急事態宣言 規制強化は丁寧な説明が要る」

▼日経新聞
 1面トップ「五輪、4都県は無観客/福島など4県、有観客」
 1面「都に4度目緊急事態/『まん延防止』4府県延長/来月22日まで」
 3面「酒提供禁止 徹底に限界」/「五輪会場の8割 無観客に/大会運営計画 見直し」
 第2社会面「『残念だが全力尽くす』/選手ら冷静、案ずる関係者」/「『無事成功を』『やむを得ない』…/会場もつ知事ら、思い複雑」
 社説「緊急事態宣言は最大限の効果引き出せ」

▼産経新聞
 1面トップ「五輪 1都3県無観客/宮城・福島・静岡は最大1万人維持/北海道検討中、茨城は学校連携のみ/5者協議」
 1面「迫る衆院選 政府、世論を考慮」※3面へ続く
 1面「首相『緊急事態 感染に着手』/東京4回目 酒提供、過料何度でも」
 2面「五輪前対策 最後の機会/ワクチン挽回 首相重責」/「警備・ボランティア 運営計画を大幅修正」
 3面「組織委・都 有観客こだわり/政府、感染爆発恐れ対応転々」※1面から/都、酒提供停止を要請へ/補正5118億円 協力金『先渡し』検討
 社会面トップ「宣言下で五輪 都に焦り/酒・ワクチン『いくつも急所』」/「飲食店『せっかく仕入れたのに』」
 社説(「主張」)「コロナ緊急事態 五輪『無観客』は大失態だ/宣言は4回目を最後とせよ」/「公約の破棄」に等しい/ワクチン接種の徹底を

▼東京新聞
 1面トップ「五輪1都3県無観客/開催期間 東京に緊急事態/5者協議、茨城・静岡では観客/4度目、来月22日まで」/「酒提供は原則禁止」/「首相、五輪リスク・責任答えず」
 2面・核心「安全安心 矛盾の五輪/緊急事態宣言下 感染拡大の懸念/人出増加、ワクチン供給に急ブレーキ」
 2面「小池知事『断腸の思い』/五輪無観客 首相と協議し『流れ』」/「橋下組織委会長 チケット購入者に謝罪」/「無観客でも大会関係者は観覧可能/参院厚労委で政府方針」
 3面「卸業者に取引停止要請/『酒提供なし』協力金一部先払い/政府 酒提供飲食店対策」
 特報面「コロナに『勝てなかった』証しでは/有効な感染対策は『中止』しかない/安倍政権楽観 ・早期に国産ワクチン・今夏に接種ほぼ完了・アビガンが特効薬に/菅政権 後手 ・穴だらけバブル方式・拡大する変異株脅威・ワクチン供給減急減速」
 社会面トップ「『またか』都民、宣言疲れ/自粛の繰り返し 不満噴出/迫る五輪『絶対に無観客』『楽しめない』」/「『残念』『翻弄された』チケット保有者落胆」/「『どんな対策でも安全開催へ支持』バッハ会長が来日」
 第2社会面「都、酒提供停止求める/都内全域、感染防止策発表」/「東京から感染拡大警戒/神奈川・千葉・埼玉 まん延防止継続」
 社説「4度目の宣言 対策の迷走が目に余る」※中日新聞と共通