ニュース・ワーカー2

組織ジャーナリズムに身を置き40年余

菅首相「感染対策は私の責任。私はできると思っている」~東京五輪・在京紙の報道の記録⑥7月31日付、8月1日付

 東京発行の新聞6紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京)が東京五輪をどのように報じたかの記録です。各紙の朝刊1面が中心です。

【7月31日、8月1日付】
 ■増え続けるコロナ感染者
 新型コロナウイルスの東京の新たな感染者は、7月30日に3300人、31日には最多を更新して4058人でした。全国の合計も31日は1万2342人で、4日連続の最多更新です。一体、どこまで増えるのか。東京で生活している一人として、先が見えないことに不安を覚えます。

 そうした中、東京発行各紙の1面づくりで目を引くのは、やはり読売新聞、産経新聞の五輪の扱いの大きさです。
 31日付では産経新聞は「日本『金』17 史上最多」が1面トップ、読売新聞は、トップは「緊急事態4府県追加」でしたが、2番手(準トップ)の五輪記事もトップを凌駕するかのようなスペースで「男子エペ『金』」を主見出しに大きく載せました。
 8月1日付では読売新聞が「柔道団体『銀』」で1面トップ。金メダルでなくても1面トップなのかと、少々驚きがあります。産経新聞は「サッカー男子4強」が準トップながら、トップの「国内感染急増1万2342人」よりスペースは大きく、前日の読売新聞1面と印象が重なります。
 ただ、8月1日付朝刊では、他紙も1面トップはそれぞれです。コロナの感染者は増え続けていますが、週末とあって何か新しい対応策が取られたわけではなく、ニュースは感染者の数字にとどまるということでしょうか。朝日、毎日、東京の3紙はそろって準トップでした。

 ■議論かみ合わない「コロナと五輪」
 読売新聞が31日付で以下の社説を掲載しました。
 ※「緊急事態拡大 緩みは五輪のせいではない」
  https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20210730-OYT1T50388/
 新型コロナウイルスの感染拡大について、以下のような記述があります。

 度重なる緊急事態宣言による自粛の緩みやワクチン接種の遅れに加え、感染しても重症化しないと安易に考える若者が増加していることも問題だ。
 一部には、こうした感染拡大と五輪開催を結びつける意見があるが、筋違いだろう。
 今大会は、感染防止を最優先に、大半が無観客で開催されている。これまで、競技会場や選手村で大きな集団感染は起きていない。無観客という苦渋の選択が奏功していると言えよう。

 競技会場や選手村でのクラスター発生などが報告されていないのは事実です。その意味では、五輪が直接的に感染拡大を引き起しているとのエビデンスがないことはその通りです。違和感があるのは社説の見出しの「緩みは五輪のせいではない」です。感染症の専門家らから指摘が出ているのは、五輪開催による祝祭感や高揚感が、日本社会でコロナへの危機意識を共有することを妨げる一因になっている可能性です。自粛疲れもあって、結果として行動抑制につながらず、人の流れは思うように減っていません。読売社説の本文では、この心理面での論点に言及がありません。なのに「緩みは五輪のせいではない」とまでなぜ言い切るのか。見出しと本文がマッチしていません。
 産経新聞も前日付の社説で「感染拡大を東京五輪に結びつけるのは間違いである」と言い切っていますが、やはり五輪開催がもたらす心理的な緩みの可能性には触れていません。両紙の社説が、感染拡大と五輪は関係がないと言い切っても、心理面に触れないままでは、議論はかみ合っていないと言わざるを得ません。
 菅義偉首相は感染拡大と五輪の関連性をかたくなに否定しています。読売、産経両紙の論調は、この点では菅首相と軌を一にしているようにも思えます。安倍晋三前首相の政権の時期を通じて、在京紙の論調は政権を支持ないし理解を示す読売、産経両紙と、政権に批判的、懐疑的な朝日、毎日、東京の3紙とに2極化が進みました。東京五輪が誘致活動の段階から政治性を色濃く帯びていたことを考え合わせると、コロナと五輪を巡って2極化するのも分かりやすいことかもしれません。

 ■有効な手立てはあるのか
 「コロナと五輪」を巡っては、東京新聞が7月31日付の特報面で詳しく検証しています。
 同紙のサイトで読むことができます。
※「コロナ感染拡大と五輪は本当に無関係なのか? 特例入国、穴だらけバブル、祝祭ムード、首相や都知事の楽観コメント…」
 https://www.tokyo-np.co.jp/article/120731/1

www.tokyo-np.co.jp

 サイト上にアップされた記事に付いている小見出しを拾ってみます。
 ・30日までに五輪関係者225人の感染が判明
 ・守られぬプレーブック
 ・穴だらけの五輪バブル
 ・「華やかな祝祭」が人の心を開放的に
 ・菅首相「人流減」、小池知事「在宅率増」…国民の心緩ませる
 ・ブルーインパルス、ロードレース観衆で「密」
 ・矛盾するメッセージやめ、国民の疑問に答えて

 結局のところ、コロナ感染者増と五輪を巡っては、現在までのところは直接的な関連を示すエビデンスは見当たらない、との評価にとどめておくべきではないかと感じます。危機管理の観点からは、最悪の事態を常に想定しておくことが必要で、万に一つにでも可能性が残るのであれば、対応を検討しなければなりません。
 緊急事態宣言の効果はもはや大きくは期待できないようです。仮に、心理的な側面を含めてコロナ感染拡大と五輪は無関係だとしても、ほかに打つ手がないのなら、五輪打ち切りによるショック、つまり「ここまでしないともう感染拡大を食い止められないのか」との危機意識の共有を図るぐらいのことを考えてもいいのではないかと思います。ほかに有効な手立てがあれば別ですが。

 ■菅首相の覚悟
 菅義偉首相は7月30日、緊急事態宣言の4府県への拡大と、東京、沖縄の宣言の期間延長を決め、記者会見しました。その最後に、「コロナと五輪」を巡って本質的と思える質問があり、菅首相は今後逃げようがない、言い逃れの余地がない答弁をしました。首相官邸のホームページから、その部分のやり取りを抜粋して書きとめておきます。
 ※以下に動画もあります
 https://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/statement/2021/0730kaiken.html

www.kantei.go.jp

(記者)
 Janes Defence Weekly 東京特派員の高橋浩祐(こうすけ)と申します。
 総理は、今日の会見でデルタ株の猛威やデルタ株の急速な広がりを、今の感染爆発というか急増の主な原因として挙げましたが、ただ、デルタ株は、この3月、4月にインドでもう垂直的に感染爆発したりとか、あと、ヨーロッパでも、オランダとか、イギリスもワクチン先進国なのにぐっと上がりましたよね。アジアでもインドネシアがぐっと垂直的にバーティカルに上がりましたよね。そういうのを分かっていたのに止められなかったと。デルタ株の猛威が原因じゃなくて、あまりにも甘いこのシミュレーションというか見通しの上で、このデルタ株を見くびっていたことが、一番、今回の感染爆発の背景にあるんじゃないでしょうか。そして、その甘い根拠なき楽観主義の下で、またオリンピックをこうやって開催していることが感染をまた引き起こしているのではないでしょうか。
 それで、総理は先ほど、国民の命と健康を守る責任として、感染の波を止めることだとおっしゃいましたよね。もし、この感染の波、止められずに医療崩壊して、救うべき命が救えなくなったときに、総理、総理の職を辞職する覚悟はありますか。明確にお答えください。以上です。

(菅総理)
 私はこの問題に対して、例えばインドであのような状況になったときに、水際、インドを始め関係国から日本に入国する方については水際対策というものも、通常の6日とかそれぐらい延長して、しっかりと入国した人についてはチェックする体制という水際対策というのはきちんとやっています。
 そして、今、このオリンピックというのは、正に海外の選手の人と入ってくる方たちと完全にレーンを分けていますから、そこで一緒にならないようにしております。そうしたことでしっかりと対応させていただいているというふうに思っています。

(内閣広報官)
 それでは。

(記者)
 辞職の考えについては。その覚悟について教えてください。

(菅総理)
 私がこの感染対策を自分の責任の下にしっかりと対応することが私の責任で、私はできると思っています。

  「私はできると思っています」。質問と答えはかみ合っていませんが、わたしたちはこの一言を忘れず、菅首相にも忘れないようにさせなければなりません。もはや東京では病室がどんどん埋まり、自宅待機の感染者がどんどん増えています。既に、首相が責任を問われても仕方がない事態に差し掛かっていると思います。

 以下、在京各紙の各日の1面記事の記録です。

f:id:news-worker:20210801151757j:plain

◎8月1日付
▼朝日新聞
①「核の風吹く村 弟は16歳だった/カザフ 旧ソ連の核実験場跡」グローバルヒバクシャ 被爆76年(1)
②「東京 感染最多4058人/全国1万2342人 10都府県で更新」
③「柔道 混合団体『銀』」
▼毎日新聞
①「メダル逃して得た走り/こけても『いいんだ』」迫る 五輪後の「42・195キロ」バルセロナ8位 谷口浩美さん
②「全国感染1万2000人超す/10都府県最多更新 新型コロナ/東京初の4000人台」
▼読売新聞
①「柔道団体『銀』/フランスに1勝4敗」「入江『銀』以上 ボクシング」「アーチェリー古川『銅』」/「『金』最多9個 歴史刻んだ」
②「水素燃料設備 空港に/航空機向け 大量貯蔵・供給 政府検討」
③「感染4日連続最多/全国1万2341人 東京は4000人超」
▼日経新聞
①「『炭素排出量』で投資選別/世界2000社 独自に価格設定/明電舎や日立も」
②「五輪運営 なお難路/高まる感染リスク/日程折り返し 海外選手、酷暑も不満」
③「上方修正、7社に1社/上場企業の今期実績 製造業が好調 30日時点」
④「北極海に国際ルール/10カ国・期間、漁獲量調査へ」
▼産経新聞
①「国内感染急増1万2342人/都内4058人、各地で最多更新/都の自宅療養1万人超」
②「サッカー男子 4強/柔道・混合団体『銀』 ボクシング女子 入江『銀』以上」/陸上男子100 山県ら3選手、予選敗退
③「国軍支配 長期化兆し/ミャンマー政変半年 弾圧死者940人」
▼東京新聞
①「薄れる『怖さ』 緊急事態とは…/休日の原宿 若者らの人波/夜の新橋 満席・ビールで五輪観戦」
②「東京4058人/全国1.2万人超/感染10都府県で最多」

f:id:news-worker:20210801151828j:plain

◎7月31日付
▼朝日新聞
①「接種『来月4割官僚』/首相表明 緊急事態6都府県に/宣言『最後となる覚悟で』」
②「安倍前首相の不起訴『不当』/検審議決 『桜』夕食会寄付容疑」
③「フェンシング初の『金』 エペ団体」/「柔道 最多9人頂点/素根『金』/ルール改正・地の利 追い風」
▼毎日新聞
①「緊急事態 4府県追加/5道府県『まん延防止』 来月31日まで」/「『宣言、最後の覚悟』首相」
②「安倍前首相の不起訴不当/検察審 『桜』前夜祭 費用補填」「『対応見守る』安倍氏」
③「フェンシング男子団体V/日本、金メダル最多17/柔道・素根も」
▼読売新聞
①「緊急事態 4府県追加/首相『病床逼迫恐れ』 政府決定/東京・沖縄延長 まん延防止5道府県」
②「男子エペ『金』/フェンシング 史上初/「素根『金』 柔道/金 最多17個」
③「安倍氏不起訴『不当』/検察審、公選法違反巡り 『桜』前夜祭」
▼日経新聞
①「首相『2回接種、来月で4割』/緊急事態 6都府県に拡大決定/5道府県まん延防止/酒提供の制限強化」
②「移住公務員 全国に5000人/熊本・高森 歌劇団、観光回復へ備え/昨年度、自治体4割が増員」データで読む 地域再生
③「バイオ航空燃料 国産化/コスモの製油所 空の脱炭素後押し」
④「日本、過去最多17個/柔道・素根も」
▼産経新聞
①「日本『金』17 史上最多/エペ団体 フェンシングで初 素根 柔道女子78キロ超級」
②「緊急事態 6都府県に拡大/政府決定 国内感染 連日1万人超」/「人頼み『日本モデル』限界」
▼東京新聞
①「説明なき政治に抗議/街で ネットで連日」民なくして 2021年夏
②「難民申請中の『人材』を企業へ/月刊SDGs」
③「安倍氏不起訴一部『不当』/検審議決 『桜』夕食会再捜査へ」