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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

読売紙面のオリパラ大広告と新聞社の生き残り~パラリンピックが開会、漂う「特別扱い」感

 新型コロナウイルスの爆発的な感染拡大のさなかの8月24日、東京パラリンピック大会が開会しました。東京発行の新聞6紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京)は25日付朝刊でそろって1面トップで報じました。目を引くのは読売新聞です。五輪の開会式、閉会式を報じた紙面と同じように、1面と最終面をつないで日本選手団の写真を大きく配置。下部には、障害者を象徴する紫色を基調にしたコカコーラの大きな広告が入っています。
 東京五輪パラリンピックでは全国紙5紙(朝日、毎日、読売、日経、産経)と北海道新聞の発行元新聞社6社が公式スポンサーに名前を連ねています。その中で読売新聞だけが1面と最終面をつないだ特別な紙面を複数回作り、そこに大会公式スポンサーの大企業の広告を入れています。他社に抜きんでて、公式スポンサー社のメリットを広告の面で生かしているように感じます。スポーツ事業に強みを持つ読売新聞グループならではのことかもしれません。
 いずれ整理して考えてみたいと思いますが、東京五輪パラリンピックを通じて全国紙5紙にはそれぞれのスタンスの違いを感じています。そこには報道の内容=ジャーナリズムの面だけでなく、新聞社の経営面、各新聞社の生き残り策の違いも読み取れるように感じています。読売新聞の特別な紙面で言えば、カギは広告です。紙の新聞は近年、発行部数の減少が顕著です。広告媒体としての地位も低下しています。そうではあっても、どこか1紙が広告面で優位に立ち、広告を独占的に取ることができれば、経営モデルとしては持続性を追及追求することが可能なのかもしれないと感じます。ただし、そのことがジャーナリズムを制限するのかどうかの問題が別にあると思います。

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 以下に、東京発行の新聞各紙が、25日付朝刊の1面でどんな記事をどんな風に扱ったかを書きとめておきます。
▼朝日新聞
①「東京パラリンピック開幕/4400人出場 コロナ下で無観客」/視点「共生社会へ 人々つなぐ大会に」
②「工藤会トップ 死刑判決/福岡地裁 市民襲撃 指揮を認定」
③「宣言下 首相『解散できる』/求心力低下の声 自民内を牽制か」
④「緊急事態 8道県追加へ」
▼毎日新聞
①「パラ開幕 制約の中/コロナ収束せず 無観客」
②「工藤会トップに死刑判決/市民襲撃 会長は無期 福岡地裁」
③「緊急事態 8道県も」
▼読売新聞 ※1面~最終面
①「東京パラ開幕/コロナ下 4400人参加 無観客」「パラ 発祥から73年」「マスクで行進/聖火点火 上地ら」
②「緊急事態8道県追加/政府方針 まん延防止4県も/27日から来月12日 きょう決定」
▼日経新聞
①「パラと歩む共生社会/東京大会開幕 最多4400千種/多様性受容へ試金石」
②「少子化克服は『百年の計』/『出生率1.5の落とし穴』」人口と世界 成長神話の先に(3)
③「緊急事態 8道県追加へ/政府きょう諮問 愛知・広島など」
④「ダイキン、銅の使用半減/脱炭素で高騰、アルミに」
▼産経新聞
①「深まる共生 東京パラ開幕/コロナ禍 最多の4403人参加/来月5日まで熱戦」/「『私たちの祭典』にしたい」森田景史論説委員
②「工藤会トップ 死刑判決/市民襲撃 4事件の関与認定」
▼東京新聞
①「コロナ猛威 葛藤の大会/パラリンピック無観客で開幕」
②「緊急事態8道県追加へ/27日から まん延防止 4県検討」

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 ■「パラ中止」は議論にならず~やはり特別なのか
 新型コロナウイルスの感染は五輪期間中に爆発的に増え始め、パラリンピック開会翌日の25日には、8道県が新たに緊急事態宣言の対象に加わることが決まりました。宣言は計21都道府県になります。まん延防止重点措置の対象も12県に拡大が決まりました。首都圏では、感染者が医療を受けられないまま、症状が悪化して死に至るケースも報じられています。感染のピークがいつかも見通しがつかない惨状なのですが、パラリンピックの中止はほとんど議論もないままでした。朝日新聞の24日付社説は「五輪を強行しながらパラを見送れば、大会が掲げる共生社会の理念を否定するようで正義にもとる。そんな思いも交錯して、五輪が終わった後、議論を十分深める機会のないまま今日に至ったというのが、率直なところではないか」と指摘しています。
 政府も自治体も人の動きを抑えようと、不要不急の外出の自粛やリモートワークの徹底を呼び掛けているのに、ブルーインパルスが開会を祝って展示飛行をしたり、開会式ではやはり派手な花火が上がる演出があったりと、五輪でも指摘され、世論調査でも裏付けられた「気の緩み」を危惧します。
 あきれるような出来事もありました。

 ※共同通信「IPC会長招き歓迎会 組織委、首相ら40人出席」=2021年8月23日
  https://nordot.app/802550344055275520

nordot.app

 東京五輪・パラリンピック組織委員会は23日、国際パラリンピック委員会(IPC)のパーソンズ会長や理事を招いた歓迎会を東京都内のホテルで開催した。
 (中略)歓迎会は午後6時半から1時間開かれた。新型コロナウイルス感染防止のため、食事やアルコール類は提供されず、文化イベントなどで歓迎の意を伝えた。

 飲食を伴わないとか、十分に間隔を取れば大丈夫とか、そういうことは本質ではないはずです。移動や人と人の接触自体を減らすことが求められているのに、首相や都知事も参加してこういう会合をやることが、社会にどんなメッセージとして伝わるか。五輪期間中には、山梨県教委の幹部職員ら12人がゴルフをしていました。「参加した幹部は『東京オリンピックが感染対策を徹底して実施されている。対策すれば、同じスポーツのゴルフも開催していいのではと判断した』と釈明した」(毎日新聞)と報じられています。しかし、さらにあきれるニュースがありました。

 ※共同通信「歓迎会への批判『理解できない』 組織委幹部が反論、40人で会合」=2021年8月24日
  https://nordot.app/802745250993684480

nordot.app

 東京五輪・パラリンピック組織委員会の高谷正哲スポークスパーソンは24日の記者会見で、国際パラリンピック委員会のパーソンズ会長や理事を招いて23日に東京都内で開いた歓迎会を巡り、新型コロナウイルス感染拡大の状況下での集会は飲食を伴わなくとも不適切ではないかとの指摘に対し「質問の意図が全く理解できない」と述べた。
 (中略)高谷氏は「(組織委、政府など)それぞれのパートナーのトップが直接あいさつする場は、今の社会の慣習においては適切な範囲内の対応と強く考える」と反論した。

 社会一般との意識の乖離が可視化されてしまいました。五輪だけでなくパラリンピックも特別な存在、社会一般の人たちとは異なった特別な扱いを受けるのは当然であるとの組織委内の意識がよく分かります。
 25日には、こんなニュースもありました。

 ※東京新聞「尾身氏『バッハ会長なんで来るのか』パラ学校連携観戦は『感染が問題じゃない』」=2021年8月25日
 https://www.tokyo-np.co.jp/article/126700

www.tokyo-np.co.jp

 テレワークを要請している中でのバッハ氏の再来日について「やっぱり国民にお願いしてるんだったら、オリンピックのリーダーバッハ会長は、なんで、わざわざ来るのかと。普通のカモンセンス(常識)なら判断できるはずなんですね。なぜわざわざバッハ会長がもう一回?そんなのオンラインで出来るじゃないですか、というような気分がある」と語気を強めた。
 東京都などが実施するパラリンピックの学校連携観戦について、尾身氏は「おそらく、小学校の子が行っても感染はしない確率が高い。熱中症のことはあるけど。 実はそこが問題じゃないんですね。本質はそこで感染が起きるか起きないかじゃないんです」と述べた上で、観戦を実施することで「どういうメッセージを一般の人に(与えるか)ということ」と心理的な影響を懸念した。

 五輪大会の時から、菅義偉首相も小池百合子都知事も大会組織委も、コロナ感染急増との関連性は心理面を含めてかたくなに否定しています。しかし危機管理の観点に立てば、あらゆる可能性を想定するのが基本です。現に爆発的な感染が起きている中で、この態度を変えようとしないことに、首相や知事が人命を守るという自らの責任をいったいどこまで自覚しているのか、不信が強まります。