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五輪開会から2週間の惨状~フェーズ変わらないメディア:東京五輪・在京紙の報道の記録⑩8月5日付

 東京発行の新聞6紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京)が東京五輪をどのように報じたかの記録です。各紙の朝刊1面が中心です。

【8月5日付】
 8月4日に発表された新型コロナウイルスの東京都の新規感染者は4166人、全国では1万4千人を超えました。5日はさらに増え、東京都は5042人。首都圏では神奈川県1846人、埼玉県1235人、千葉県942人といずれも過去最多を更新しました。爆発的な感染拡大が続いています。全国では1万5千人超です。

■住民が悪いのか
 5日に開かれた東京都の新型コロナウイルスのモニタリング会議では、2週間後の8月18日には1日当たり約1万909人に達するとの試算が報告されたとのことです。

 ※東京新聞「2週間後の東京、新規コロナ感染1万人超えの予測 小池知事『都民の1000人に1人、毎日感染』と訴え」
 https://www.tokyo-np.co.jp/article/122095

 65歳以上の高齢者の感染が再び増加傾向にあること、人出が依然として抑えられていないことも報告されたとのことです。このままのペースでは、2週間たたずとも感染者が1日1万人を超えるのではないかと危惧します。
 気になるのは以下の小池都知事のコメントです。

 会議後、小池百合子知事は報道陣に対し「大曲先生から(都民の)1000人に1人(が毎日感染する)と数字が示された。いつ1000人の1人になるか分からないわけですから、1人1人が自分ごととして、捉えていただきたい」として、あらためて不要不急の外出や都県境を越える移動の自粛と、旅行、帰省の中止、延期を呼び掛けた。

 「1人1人が自分ごととして、捉えていただきたい」。社会に危機意識が共有されていないのは、その通りでしょう。しかし、自覚が足りないとして、住民が責められるようなことなのでしょうか。一方では東京五輪が開催されている中で、です。
 5日午後には札幌市の中心市街地で競歩の競技が実施されました。観戦自粛の呼び掛けにもかかわらず、やはり多くの“見物客”が集まってしまいました。
 ※共同通信「観戦自粛呼び掛けも『密』に 札幌で競歩開催、気温30度超」
  https://nordot.app/795943269406031872

 沿道では「感染予防のため観戦自粛をお願いします」と書かれたプラカードを首から掛けたスタッフらが「立ち止まらないでください」と声でも呼び掛けたが、ゴール地点付近では観客同士が触れるほど密集する場面も。

 仮に、現在わたしたちが目にしている感染の爆発的な拡大が、2週間前の状況の反映だとすれば、2週間前の7月23日はまさに五輪の開会当日でした。
 昼間、航空自衛隊のブルーインパルスが都心の上空を飛びました。わざわざ「さあ、外に出ましょう」と呼びかけるようなものでした。このブログの記事にも書きましたが、東京都は、飛行の中止を政府に申し入れるべき立場のはずではなかったでしょうか。夜の開会式は無観客ながら、国立競技場では派手な花火が上がり、周囲にはやはり「密」ができました。

news-worker.hatenablog.com その後は連日、日本選手が金メダルを獲得し、高揚感と祝祭感が続いています。そういう中で、人の動きが抑制できない、行動変容が徹底されない要因を住民の自覚の欠如に求めることにははなはだ疑問があります。その以前に、菅義偉首相や小池知事は国民、住民に向けてどんなメッセージを発してきたのか、それがどんな風に受け止められていたのか。住民に責めを負わせたり、さらなる私権制限の立法検討に進んだりする前に、政府や東京都はその検証をする必要があるはずです。
 菅首相も小池都知事も、感染者の急増と五輪開催の強行の関連性はかたくなに否定しています。しかし、現に開会から2週間ですさまじい感染拡大を招いている実態があります。札幌の競歩の例は、五輪開催それ自体が心理面で危機意識を持ちにくくしていることを実証しているように思います。事ここに及んでも、感染者の急増と五輪開催強行の関連性を直視しようとしない為政者ならば、国民、住民の生命と健康を守ることは到底できないでしょう。感染拡大を止めるのに、もはやなすすべがないのであれば、今からでも五輪の打ち切りを考えるべきではないでしょうか。そのこと自体が、危機意識を共有する強烈なメッセージになるはずです。

■新聞の二つの側面
 コロナ感染の爆発的な増加について、田村厚労相は4日の国会で「フェーズが変わってきている」と強調しました。しかし、5日付の在京各紙の紙面づくりのフェーズは変わっていませんでした。朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、日経新聞、産経新聞は、これまでと同じように、1面に写真付きで日本選手のメダル獲得の記事を掲載しています。読売新聞は1面トップ。産経新聞は準トップながら、トップの「入院制限」問題の記事を凌駕するスペースと見出しの大きさです。5紙の発行元の新聞社5社は、そろって大会の公式スポンサーに名前を連ねています。
 企業が送り出す商品としての新聞と、社会の情報流通を担う、高い公共性を持つマスメディアとしての新聞と、新聞が持つ二つの側面の方向性が相反する事態に陥っているように感じます。このまま各紙とも五輪閉会まで突き進むのでしょうか。しかしそのころ、コロナ禍の惨状はさらに厳しさを増しているはずです。

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■被爆者と被爆地が求めるもの
 きょう8月6日は広島原爆の日。広島市長の平和宣言をテレビで見ていたら、持続可能性社会と核兵器は絶対に相いれない、との一節がありました。そう、被爆者と被爆者が訴え続けているのは核兵器の廃絶です。だから五輪の参加選手らに黙とうを呼びかけることには、五輪の理念にもかなう意義があり、単なる慰霊、追悼にとどまらない意味がありました。しかも広島市や被爆者が一方的にそれを求めたのではなく、IOCのトップ2人が広島、長崎を訪問したことを踏まえてのことでした。
 しかし、黙とうが呼びかけられることはありませんでした。残念であり、悔しい思いです。

 以下、5日付在京各紙の1面記事の記録です。

▼朝日新聞
①「23都道府県 ステージ4/全国の感染最多1.4万人超/入院制限 首相『理解を』」「東京最多4166人」/「重点措置 8県追加へ」
②「川井友『金』レスリング」/「10代 すくすく満開/四十住『金』・開『銀』 スケートボード」
▼毎日新聞
①「『入院制限』反発相次ぐ/自民、見直し要求 新型コロナ/首相、撤回に応じず」/「都、入院基準を厳格化/感染最多4166人 病床確保に対応」
②「スケボー 四十住が金/女子パーク 12歳開、日本最年少銀/レスリング 川井友が金」/「環境整備で女子活躍」
▼読売新聞
①「19歳 四十住『金』/12歳 開『銀』 スケボー・パーク/野球 決勝へ」「川井友『金』レスリング」
②「まん延防止 8県追加/福島など 感染最多1万4207人 政府方針」
③「人口減12年連続/1億2384万人」
▼日経新聞
①「トヨタ米販売、初の首位/4~6月 最高益8978億円」
②「まん延防止8県追加/愛知など31日まで 政府きょう諮問」
③「為替リスクゼロは夢か/円の取引量、30年で7倍」通貨漂流 ニクソン・ショック50年(4)
④「レスリング川井友『金』/スケボー四十住も」
▼産経新聞
①「『自宅療養』与党撤回要求/『全国一律でない』首相は方針維持」/「蔓延防止 8県追加/国内感染最多1万4207人」
②「川井友『金』レシリング女子62キロ級/スケボー四十住『金』 12歳の開『銀
』/日本勢『金』20個超える」
③「人口減最大48万人/動態調査 外国人7年ぶりマイナス」
▼東京新聞
①「与野党から撤回要求/首相否定『丁寧に説明』/判断基準 自治体に丸投げ/中等症患者の入院制限方針」
②「大会関係者陽性8県 特定できず/『強靱な検査体制』でも穴」五輪リスク
③「関東 デルタ株が9割/国内感染1万4000人超、最多」/「尾身氏、東京の感染者見通し 『来週以降6000~8000人』」