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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

バッハ会長の暴言、五輪開催の強行と新聞各紙の報道~公式スポンサーだからこそ批判に意義

 新型コロナウイルス対策で東京、京都、大阪、兵庫の4府県は4月25日、3回目の緊急事態宣言に入りました。期間は5月11日までですが、感染力が強まっている変異株の感染が拡大しているとの指摘があるのに、17日間という期間は、これまでの2回の緊急事態宣言の経験からみても「短いのではないか」との疑問が消えません。東京五輪の開幕を7月23日に控え、5月中旬にはIOCのバッハ会長が来日するとのことです。菅義偉政権がこの五輪日程と緊急事態宣言とのかかわりを否定したとしても、客観的にみて、バッハ会長が東京に滞在中も緊急事態宣言が続いていれば、開催強行への疑問の声が増大するのは確実です。既にマスメディア各社の世論調査では、東京五輪を予定通り7月に開催すべきだ、との回答は少数になっています。日本社会の民意は明らかだと言うべきなのに、それでも日本政府、大会組織委、東京都は大会開催を強行するのか―。この一点で、日本の政治が民意にかなっているのかが問われる事態になっている、とさえ感じます。
 そのバッハ会長は4月21日の記者会見で、東京に緊急事態宣言がまたも発令される見通しになったことへの見解を問われ「ゴールデンウイークに向けて、政府がまん延防止のために行う事前の対策だと理解している。東京五輪とは関係がない」(共同通信)と述べたと報じられました。一読して、目を疑いました。大会開催のためには、見たくないものは見ない、都合のいいことだけに目を向けるというのか。では、大会によってウイルス感染が拡大し拡散する危険はどう認識しているのか、大会後の東京のことをどう考えるのか。暴言です。

※共同通信「緊急宣言は『五輪と無関係』 IOC会長、影響を否定」=2021年4月22日
 https://this.kiji.is/757727872655048704?c=39546741839462401

this.kiji.is

 さすがに聞き捨てならない発言だと受け止めたのでしょう。23日付の東京発行新聞各紙の中には、批判、疑問視するトーンの長文の記事がいくつか目に付きました。各紙のこの発言の取り上げ方を書きとめておきます。
 ※見出しは紙面のものです。自社サイトでは異なった見出しになっている場合があります

▼朝日新聞
社会面準トップ
「五輪開催ありき?波紋/IOC会長『緊急事態と無関係』」「『選手検査は毎日』提案」/「『影響ないわけない』『矛盾』/都民ら困惑」
 https://www.asahi.com/articles/ASP4Q6HXKP4QUTIL016.html ※有料会員記事

www.asahi.com

▼毎日新聞
4面・焦点
「IOC 世論軽視/バッハ会長『緊急事態 世論と無関係』」「開催懐疑論との溝拡大」「北京『人権』で視界不良」
 https://mainichi.jp/articles/20210422/k00/00m/050/377000c ※有料記事

mainichi.jp

▼読売新聞
第2社会面
「バッハ氏 宣言『五輪に関連せず』」※ジュネーブ特派員、事実関係のみ

▼産経新聞
2面
「IOC会長『宣言と五輪は無関係』」※ジュネーブ共同通信配信記事、事実関係のみ

▼東京新聞
第2社会面
「緊急事態『五輪と無関係』/IOC会長、影響を否定」※ジュネーブ共同通信配信記事、事実関係のみ
 ※特報面では、バッハ発言にも触れながら、五輪大会がコロナ対策を左右していると指摘し批判する記事を見開きで載せています。
「五輪が『対策』左右 おかしい/『バッハ会長来日前の解除狙い』世間はお見通し/わずか2週間?3度目緊急事態宣言へ」「『感染状況に応じて決めるべき』」「1回目発出 延期決定直後/2回目解除 聖火出発直前」
「『5月半ば解除なら6月再び増加/東大チームなど試算」「開催強行 取り返しつかぬ事態招く恐れ」

 朝日新聞は23日付社説でも、現状で東京五輪が開催できるのかと、疑問を投げかけています。
「五輪とコロナ これで開催できるのか」
 https://www.asahi.com/articles/DA3S14880848.html

 どんな条件の下で、いかなる大会像を描いているのか。そのために何をしなければならないのか。無理を押してでも開催することによって、社会はどんな利益を享受し、逆に負担を引き受けることになるのか。
 朝日新聞の社説は繰り返し、その説明と、国民が判断するために必要な情報の開示、現実を踏まえたオープンな議論を求めてきた。しかし聞こえてくるのは「安全で安心できる大会を実現する」「宣言の影響はない」といった根拠不明の強気の発言ばかりだ。菅首相以下、リーダーに期待される使命を果たしているとは到底いえない。

 朝日新聞は20日付の1面コラム天声人語が「開催の中止を検討すべきときではないか」とまで踏み込んでいました。
「(天声人語)コンコルドの誤り」
 https://www.asahi.com/articles/DA3S14877133.html?iref=pc_rensai_long_61_article ※有料会員記事

 これまでも紹介してきましたが、五輪東京大会には全国紙各社と北海道新聞社が公式スポンサーに名を連ねています。朝日新聞社が社説で開催強行に疑問を提示したこと、朝日新聞や毎日新聞が報道としてバッハ会長の発言への批判を取り上げていることは、公式スポンサーだからこその意義もあると思います。新聞社以外のスポンサー企業の動向にも注目しています。
※北海道新聞も4月20日付で以下の社説を掲載しています。
「菅政権と五輪 思惑排し冷静に判断を」
  https://www.hokkaido-np.co.jp/article/535020?rct=c_editorial

 自民党の二階俊博幹事長が先週、新型コロナウイルスの感染拡大が続く場合、今夏の東京五輪・パラリンピックを「すぱっとやめなきゃいけない」と述べた。
 開幕まで100日を切り、聖火リレーの真っ最中に政府・与党幹部が初めて中止の可能性に言及した発言は世界に波紋を広げた。
 菅義偉政権は火消しに躍起だが、国内の感染状況を見れば、二階氏の発言は多くの国民にとってさほど違和感はなかろう。開催ありきで進んでいるかに見える政権の姿勢の方がおかしくないか。
 首相は五輪後の衆院解散を想定しているとされる。祝祭ムードを追い風に、選挙に勝利して政権続投を狙う戦略が透ける。
 二階氏は「開催することでたくさん感染をまん延させたなら、何のための五輪か分からない」とも語った。その通りだろう。
 政府には、政治的な思惑を排し、国民の生命と健康を守る観点から五輪開催の可否について冷静に判断することが求められる。

 前述のように、大会開催を強行するのかどうかは、今や日本の政治が民意にかなっているのかが問われることに等しいと感じています。その中でマスメディアはどんな情報を社会に提供していくのか。その役割が問われると思います。