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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

「なお遠い『平和の島』」(朝日)、「沖縄の自治は神話なのか」(中日・東京)、「不平等な地位協定見直せ」(神戸)~沖縄復帰52年、本土紙の社説の記録

 少し時間がたってしまいましたが、5月15日の沖縄の日本復帰の日に、日本本土の新聞各紙が掲載した社説の記録です。ネット上の各紙のサイトで読めるものが対象です。朝日新聞、中日新聞・東京新聞、神戸新聞、南日本新聞の4紙が目にとまりました(南日本新聞は見出しのみ。本文は有料域のコンテンツです)。
 ことしは復帰から52年で、特に切りがいい年でもないということからか、記事も社説も数の少なさが目立ちます。
※参考過去記事

news-worker.hatenablog.com

【5月15日付】
・朝日新聞「沖縄復帰52年 なお遠い『平和の島』」
 https://www.asahi.com/articles/DA3S15933904.html

 岸田政権の沖縄への関心は低い。「丁寧な説明」という言葉だけで、県の理解を得ようとする努力は見えない。
 2年前の5月、玉城デニー知事は普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設断念などを求める「平和で豊かな沖縄の実現に向けた新たな建議書」を岸田首相に手渡した。琉球政府による71年の建議書の理念を踏襲した上で「基地のない平和の島」は「いまだ達成されていない」と指摘。早期解決を求めた。
 だが政府は県の権限を奪う代執行までして今年1月、辺野古で工事を強行した。
 安全保障体制が沖縄の重圧の上に成り立つ現状を放置すべきではない。復帰すれば基地は縮小すると多くの県民が思っていた。なぜ変えられないのか。負担の構図を是正する責任は国民全体にある。

・中日新聞・東京新聞「きょう本土復帰の日 沖縄の自治は神話なのか」/顧みられぬ県民の思い/犠牲強いる構図は今も
 https://www.chunichi.co.jp/article/898555

 地方自治が危機にさらされているのは沖縄だけに限りません。政府が大規模災害や感染症蔓延(まんえん)などの非常事態時に、国が地方に対応を指示できるよう地方自治法改正をもくろんでいるからです。
 2000年の地方分権一括法施行後「対等・協力」関係と位置付けた国と自治体との関係を「上下・主従」に戻しかねません。
 外交や安全保障が国の仕事でも地域の理解を欠いては成り立ちません。地方自治法改正の動きに表れたように、政府の根底にある中央集権思想が極まれば、かつて本土決戦に備えて沖縄に犠牲を強いた構図が今によみがえります。
 沖縄では今、米軍基地に起因する爆音や環境被害、米兵らによる事故、事件などの被害に加え、米軍や自衛隊の基地が攻撃対象となり再び戦場になるのでは、との懸念が高まっています。
 台湾や沖縄県・尖閣諸島を巡る緊張を背景に「有事への備え」として、米軍と自衛隊が沖縄での軍事力を強化しているからです。
 沖縄を再び戦場としないためにも、沖縄の自治を神話から実話に転換することが必須です。沖縄県民の思いを政府や国民のすべてが誠実に受け止め、過重な基地負担を軽減する。軍事力でなく外交の力で緊張を緩和する。その必要性を重ねて胸に刻む復帰の日です。

・神戸新聞「沖縄復帰52年/不平等な地位協定見直せ」
 https://www.kobe-np.co.jp/opinion/202405/0017652983.shtml

 普天間には、昨年11月に鹿児島県・屋久島沖で墜落した輸送機オスプレイの同系機種が配備されている。事故後、米軍は一時全ての同機を飛行停止にしたが、事故原因を説明しないまま飛行を再開した。周辺住民の不安は解消していない。
 看過できないのは、米軍の特権的な地位を定めた日米地位協定に基づき、海上保安庁などが回収した事故機の残骸が米側に引き渡されてしまった点である。日本側の調査や捜査は事実上、不可能になった。協定はあまりにも不平等で、日本の主権を侵害していると言うほかない。
 地位協定は沖縄の住民生活にも影響を与えている。地下水などの高濃度汚染が問題視される有機フッ素化合物(PFAS)への対応では、米軍基地が汚染源である可能性があるのに、協定が壁になって行政の立ち入り調査さえできていない。
 1960年の発効から地位協定は全く改定されていない。米兵絡みの事件では、米軍側が容疑者の身柄引き渡しを拒否するなど、捜査の支障にもなってきた。協定は沖縄だけに適用されているものではない。政府は問題点を検証し、米国に対して強く見直しを求めるべきだ。

・南日本新聞「[沖縄復帰52年] 平和の島の理想は遠く」

写真:米軍普天間飛行場(出典:沖縄県HP)