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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

予測通りの規正法ザル改正~問われるべきは検察

 政治資金規正法改正案が6月19日、参議院で可決され、改正法が成立しました。自民党の派閥パーティー券裏金事件を契機に始まった改正論議でしたが、終わってみれば抜け穴はそのままで「ザル法の改正もザルだった」と言わざるを得ない内容です。意外な結果ではなく、自公政権の与党が多数を占める今の国会に任せればこうなるだろうな、と予測していた通りです。
 ここでわたしが指摘するまでもないのですが、一つだけ、もっとも本質的だと思う点を挙げます。虚偽の報告に対する政治家の責任についてです。政治資金収支報告書に虚偽の記載があっても、処罰対象者は会計責任者と明記されているため、政治家の責任を問おうとすれば、虚偽の記載について会計責任者との共謀を立証しなければなりませんでした。自民党安倍派では5年間で13億5千万円余分もの不記載がありながら、派閥事務総長ら政治家との共謀は認められないとして、事務方の会計責任者だけが起訴されました。
 自民党に事件への真摯な反省があれば、違反に対して政治家も機械的に責任を問われる「連座制」の導入があってよかったはずですし、世論調査でも連座制導入には高い支持がありました。しかし、導入されたのは「確認書」です。政治資金収支報告書が適正に作成されたとの「確認書」の作成を議員に義務付け、確認が不十分だった場合に公民権を停止する、との内容です。これでは、虚偽の内容を議員が知っていても、会計責任者が「議員には説明していない。議員は知らなかった」と言い張れば、議員の責任を問うことはできません。選挙違反のように、違反の外形的事実が認定されれば、機械的に議員が失職するような仕組みでなければ実効性は期待できません。
 改正法の成立を東京発行の新聞各紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京)は6月20日付朝刊で、大きく報じました。1面トップは朝日新聞、毎日新聞の2紙。各紙とも1面のほか総合面にも関連記事を大きく載せ、社説でもそろって取り上げています。各紙の主な見出しを書き出してみました。

 朝日新聞が1面トップの主見出しを「政治とカネ 抜け道残す」としていることが目を引きます。改正法成立の本記の主見出しに「成立」のファクトではなく、意義付けをもってくるのは異例です。毎日新聞の社説は「国民を愚弄する弥縫策だ」との見出しをたてています。最大級の批判の表現と言ってよいと思います。「透明化へ一定の前進」(読売新聞総合面)との見出しもありますが、全体としては「十分とはとても言えない」というトーンの報道です。

 自民党が多数を占める国会の自浄作用が期待できないことは分かっていました。その通りの結果になりました。改めて思うのは、検察の捜査です。政界に期待できないからこそ、世論も検察の捜査に期待していました。検察は捜査を尽くしたのかが、改めて問われるべきだろうと思います。
 この点に関連して、気になるニュースがありました。
 安倍派の会計責任者が6月18日、自身の公判の被告人質問で、安倍晋三元首相の死去後、派閥幹部4人が集まった場で、パーティー券の売り上げを派閥所属議員に還流させる仕組みを復活させることが決まっていた、との趣旨のことを述べました。派閥幹部らは国会の政治倫理審査会では、結論が出なかったなどと証言しています。被告の立場で口にしたことと、偽証罪に問われることもない政倫審での発言と、どちらに信ぴょう性があるでしょうか。
 問題は検察の捜査です。「派閥幹部4人の協議で還流の復活が決まった」との供述を、東京地検特捜部も捜査で得ていたはずです。仮にその通りなら、還流の復活に伴って、政治資金収支報告書にどのように記載するか、従前通りでいいのか、という問題が付随して浮上していたはずです。会計責任者と派閥幹部の議員の間で、協議したのではないか。その点の解明に、どう検察は手を尽くしたというのか。法の不備を言い訳にして、ろくに調べてもいない、ということはないのか。検察の捜査に、新たな疑問を抱いています。