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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

「不偏不党」と「ペンか、パンか」~故原寿雄さんが問うた組織ジャーナリズムの命題

 一つ前の記事「『不偏不党』の由来と歴史を考える~読書:『戦後日本ジャーナリズムの思想』(根津朝彦 東京大学出版会)」を読み返しながら考えたことを書きとめておきます。組織ジャーナリズムと「ペンか、パンか」の命題のことです。
 「ペンは剣よりも強し」とのたとえがあります。しかし、組織ジャーナリズムの強さが本当に問われるのは、そこでの対応いかんによっては組織が存続できないかもしれない、というような事態のときではないのか。個々の記者やデスクをはじめとした従業員や家族の生活、すなわち「パン」の問題が掛かった時に、新聞社などのジャーナリズム組織はどう振る舞うのか、「パン」のためには「ペン」を曲げるのもやむを得ないのか、という問題です。
 日本の新聞が戦前、白虹事件を契機として、根津朝彦さんが指摘したように「新聞界では政府に刃を向けない姿勢を意味する『不偏不党』が浸透する」「新聞の戦争協力ということで、『満洲事変』以後を新聞の曲がり角と思う読者もいるかもしれないが、すでに白虹事件で『不偏不党』の名のもとに自主規制を積極的に内面化する、決定的な曲がり角を迎えていたのである」という状況にあったことは、この「ペンか、パンか」の問題としても意識しておく必要があるように思います。
 「ペンか、パンか」は元共同通信編集主幹の故原寿雄さん(2017年11月に92歳で死去)が繰り返し、問うていた命題でした。わたしも直接、原さんから聞いたこともあります。この問題についてここでは、2017年12月に書いたこのブログの記事を一部引用しておきます。なお、原寿雄さんについては、根津さんも「戦後日本ジャーナリズムの思想」で1章を割いて紹介しています(「第5章 企業内記者を内破する原寿雄のジャーナリスト観」)。

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▽「我が国ジャーナリズム」に陥るな~「ペンか、パンか」の問題
 二つ目は、ジャーナリズムは「我が国」とか「国益」などの意識から離れよ、ということです。偏狭なナショナリズムに陥るな、と言ってもいいと思います。そうした意識は排他的なものの考え方と結びつき、社会を戦争に駆り立てるものだからです。このことは原さんから何度もお聞きしましたし、著書やお書きになった文章でも必ずと言ってもいいほど触れていたのではないかと思います。原さんの考えの根底にあるのは、1931年の満州事変を境に、戦争に反対しなくなった戦前の新聞だと思います。「我が国ジャーナリズム」では戦争に反対できない、ということもおっしゃっていました。
 記事では「我が国」と書かずとも「日本」と書けば十分です。政治家の発言の直接引用などは別として、この点は私も実務の上で、先輩たちからそう教育を受け、また後輩たちにもそう指導してきました。「我が国ジャーナリズム」では戦争に反対できない、という意味づけはとてもクリアです。
 これに関連すると思うのですが、原さんは新聞が反戦ジャーナリズムを維持できるかどうかに関して「ペンか、パンか」の命題を重視していました。「パン」とは新聞社の従業員と家族の生活です。戦前の新聞が戦争に反対しなくなった歴史は、一面ではペンがパンに屈した歴史でした。しかも、必ずしも反戦の言論に対する直接的な弾圧はなくとも、新聞の側が忖度するように軍部批判を辞めていった歴史です。翻って今日、原さんは「結局は個人の覚悟から出発するほか、ペンの力がパンの圧力に勝つ反戦ジャーナリズムの道はないように思う」と、2009年刊行の岩波新書「ジャーナリズムの可能性」に書いています。そして「日本ではジャーナリストも企業内労組に属し、一般職を含む労組はパンを優先しがちである」として、労組が反戦を貫けるかどうか「正直言って覚束ない」とも。原さんはかつて、新聞労連の副委員長でした。はるかに下って、新聞労連の委員長を務めた私は、この指摘に忸怩たる思いですが、一方では原さんの危惧を共有してもいます。
 ジャーナリズムの究極の目的は戦争をなくすこと、始まってしまった戦争を終わらせることです。労働組合の目的の一つが、働く者の地位と生活の向上だとして、それは何のためかと言えば、貧困や社会不安の根を除き、戦争の芽を摘み取ることです。ジャーナリズムの労働組合運動にとっては、戦争反対は二重の意味で譲ってはならない目標のはずで、「ペンとパン」の問題はここにもあるのだと、今、この文章を書きながらあらためて思います。戦争については、原さんが「『良心的』ではだめだ。良心的な人が戦争に加担していた。良心を発動しなければならない」と常々おっしゃっていたことも強く印象に残ります。 

 ※参考過去記事

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「不偏不党」の由来と歴史を考える~読書:「戦後日本ジャーナリズムの思想」(根津朝彦 東京大学出版会)

 著者の根津朝彦さんは立命館大産業社会学部メディア社会専攻の准教授。戦後ジャーナリズム史の研究者であり、本書は学術専門書です。しかし、というか、であるからこそ、と言うべきか、新聞や放送のマスメディア企業の中に身を置く記者、デスク、編集幹部から経営幹部に至るまで、およそ組織ジャーナリズムに仕事としてかかわる人たちにこそ、一読すべき価値があると思います。それがわたしの読後感です。

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 新聞や放送のマスメディアの報道のあり方に対しては、アカデミズムからの研究者の論評・批評は少なくなく、マスメディア自身もしばしばそれ自体を報道として取り上げます。事件事故を巡る当事者を実名とするか、匿名とするかなどは、その典型的な事例だと言っていいと思います。そうした問題はマスメディアの内部でも、議論が交わされています。公権力とマスメディアとの関係や間合いについても、最近では、東京新聞記者に対する官房長官記者会見での質問妨害を、複数のマスメディアが報じている事例などがあります。
 ただ、その時々のマスメディアの報道にとどまらず、「戦後日本」という時間軸で、新聞や放送に加え総合雑誌など出版まで含めて、通史的にジャーナリズムをとらえるアプローチは、今まであまりなかったことのようです。少なくとも、新聞や放送のマスメディアの内側では、わたし自身の新聞労連などマスメディアの労働組合での経験を振り返っても、そうした議論が恒常的にあったとは言い難い状況です。
 その要因の一つには、ジャーナリズムとはその言葉が示す通り、日々の出来事を記録して伝えることであって、現場の記者やデスク、編集者にとっては、きょうの出来事、あす起きそうなこと、さらにはその先をどこまで見通すかが優先すべき事項である、という事情があるように思います。50年前、100年前のジャーナリズムを自らが振り返る機会は、特別な企画記事を連載する事例などのほかには、なかなかないのが実情です。
 だからこそ、アカデミズムによる研究者の「ジャーナリズム史」のアプローチは、とりわけ組織ジャーナリズムで働く者にとって、自らの仕事の過去を知り、そこから得られる教訓を踏まえて将来を考える上で意義があると感じます。

 本書から一つだけ具体例を挙げれば、第1章で著者の根津さんが指摘している「不偏不党」の由来の問題があります。辞書的な意味としては「偏らず、いずれの党派や主義にも与しないこと」といったことになるかと思います。「公正中立」とともに、マスメディアの報道にとっては、あまりにも基本的な、自明の原則のように思えます。
 例えば朝日新聞社は「朝日新聞綱領」の中の最初の一項で「不偏不党の地に立って言論の自由を貫き、民主国家の完成と世界平和の確立に寄与す」と掲げています。
 ※会社概要 | 朝日新聞社インフォメーション

 ほかの新聞社、通信社も編集綱領などで表現は違っていても、同様の理念を掲げている例があります。
 放送となると、放送局が遵守しなければならない放送法は第1条で「この法律は、次に掲げる原則に従つて、放送を公共の福祉に適合するように規律し、その健全な発達を図ることを目的とする」とし、その一つに「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによつて、放送による表現の自由を確保すること」と明記しています。
 そのような「不偏不党」について、著者の根津さんは「第1章 『不偏不党』の形成史」で、「不偏不党」が1918年の大阪朝日新聞白虹事件を契機に日本のジャーナリズムの規範として浸透し、「その規律が、独立したジャーナリズムの生成を歴史的に妨げてきた」と指摘します。
 ※大阪朝日新聞白虹事件は、ウイキペディア「白虹(はっこう)事件」に概要が記されています。

白虹事件 - Wikipedia

 それによると、大正デモクラシー当時、シベリア出兵や米騒動に関連して寺内正毅内閣を激しく批判していた大阪朝日新聞が、記事の中に内乱の兆候を示すとされる「白虹日を貫けり」の故事成語を引用していたことを理由に発行禁止の動きにさらされ、社長や編集幹部が退陣。「本社の本領宣明」を発表して「不偏不党」の方針を掲げたという出来事です。「大阪朝日新聞の国家権力への屈服を象徴しており、これ以降、大阪朝日新聞の論調の急進性は影をひそめていく」と記されています。

 根津さんは、白虹事件以後について「新聞界では政府に刃を向けない姿勢を意味する『不偏不党』が浸透する」と指摘し、「新聞の戦争協力ということで、『満洲事変』以後を新聞の曲がり角と思う読者もいるかもしれないが、すでに白虹事件で『不偏不党』の名のもとに自主規制を積極的に内面化する、決定的な曲がり角を迎えていたのである」と書いています。
 さらに根津さんは、1945年の敗戦後、今日にまで連なる問題の一つとして「言論の不自由と自主規制に結びつきやすい皇室報道」を挙げています。以下、いくつかの指摘を引用します。
 「今日のマスメディアでも、天皇制廃止や、天皇制批判の言説が大々的に取り上げられることは少ない。この天皇制に対する自由な議論を妨げている一つの要因が、皇室報道、とりわけ敬語報道である」
 「中奥宏が指摘するように『天皇』という表現自体すでに尊称なのである。天皇と表記しても『呼び捨て』ではなく、『天皇陛下』自体が過剰な表現であるのだ。象徴天皇制という呼称が盤石となった状況をどう見るかはさておき、天皇制は日本の加害責任・戦争責任の象徴としても私たち主権者に刻まれる必要があるのではないか。終章でも触れるように、天皇・皇族個々人への敬意と、制度・報道の議論は次元の違う問題である」
 「現実的には、明仁天皇から新天皇への代替わり以降に、敬称報道(※引用者注:『陛下』『殿下』『さま』の敬称を付ける報道)を見直すことも必要である。ジャーナリズムが物事の核心に迫る営為とするならば、自主規制を発動させやすい天皇制の問題を放置していいとは思わない。それが言論の自由を拘束してきた『不偏不党』の歴史に関わりがあることを鑑みれば、なおさらである」

 知識として白虹事件のことは知っていても、現在もマスメディアが掲げる「不偏不党」との絡みでは、恥ずかしながらわたし自身、ここまで深く考えてみたことはありませんでした。皇室報道と令和への改元についても、明仁天皇の生前退位で、1989年の平成への改元の時とは違って、自由に元号を論じることができたという声がありながら、実際には祝賀ムードに終始した印象の報道だったことは、全国紙を例にこのブログでも記録した通りですが、そのことを「不偏不党」と結びつけて考察していく視点の意味を、本書を読んであらためて考えています。

 「不偏不党」は本書が論じている問題の一例ですが、これ一つとっても、マスメディアの内部でその由来について、確固とした共通の認識があるとは言い難いように思います。もちろん、1945年の敗戦を挟んで、日本の新聞は再出発を期し、「不偏不党」についても現在は字義通りに「偏らず、いずれの党派や主義にも与しないこと」と受け止めていることと思います。それでもこの言葉の由来やたどった歴史を知っておくことは、組織ジャーナリズムが公権力との関係を厳しく問われるような事態に立ち至った時に、自らの立ち居振る舞いを考える際に意味を持ってくるだろうと思います。
 
 以下に、本書の主要目次を紹介しておきます。

序 章 戦後日本ジャーナリズム史の革新

第I部 日本近現代のジャーナリズム史の特質
第1章 「不偏不党」の形成史
第2章 1960年代という報道空間

第II部 ジャーナリズム論の到達点
第3章 ジャーナリズム論の先駆者・戸坂潤
第4章 荒瀬豊が果たした戦後のジャーナリズム論

第III部 ジャーナリストの戦後史
第5章 企業内記者を内破する原寿雄のジャーナリスト観
第6章 「戦中派」以降のジャーナリスト群像

第IV部 戦後ジャーナリズムの言論と責任
第7章 『世界』編集部と戦後知識人
第8章 清水幾太郎を通した竹内洋のメディア知識人論
第9章 8月15日付社説に見る加害責任の認識変容

終 章 日本社会のジャーナリズム文化の創出に向けて

付録 近現代を結ぶメディアのキーワード 

戦後日本ジャーナリズムの思想

戦後日本ジャーナリズムの思想

 

 

【追記】2019年7月9日0時

 筆者の根津朝彦さんの肩書の「立命館大産業社会学部社会専攻」に誤りがありました。正しくは「社会専攻」ではなく「メディア社会専攻」でした。本文を訂正しました。

 

【追記2】2019年7月15日8時30分

 組織ジャーナリズム(ペン)が従業員や家族の生活(パン)が掛かった事態に立ち至ったときにどう振る舞うのか。「ペンか、パンか」の問題について別記事を書きました。

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改憲、年金、消費税~参院選公示、在京紙の報道の記録

 参院選が7月4日、公示されました。21日の投開票日まで、各党、各候補者の訴えが続き、マスメディアにとっても大きな報道テーマになります。
 東京発行新聞各紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京)の5日付朝刊もそろって1面トップの扱いでした。各紙の1面の見出しを追っていくと、憲法(改憲)、年金(社会保障)、消費税(増税)といったところが共通しています。主見出しで朝日新聞「安倍政権6年半 問う」と毎日新聞「安倍政権7年審判」が同じテイストなのが目を引きました。一方で産経新聞は1面の主要な記事、見出しをほぼ憲法、改憲に絞っています。
 個人的には、この長期に及ぶ安倍晋三政権のもとで「あったこと」が「なかったこと」になってしまうことが起きていること、官房長官記者会見での東京新聞記者に対する質問妨害のように、マスメディアにも直接的に攻撃が加えられていると言っていい事態になっていることなどに対して、マスメディア自体が当事者性を自覚して、選挙の争点掘り下げをどう報道で展開していくかに注目していこうと思います。
 備忘を兼ねて、5日付の東京発行各紙朝刊の1面、総合面、社会面と社説の主な見出しを書きとめておきます。

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【朝日新聞】
・1面
「安倍政権6年半 問う/年金・増税・憲法 焦点に/参院選公示 21日投開票」
「不安にふたせず 論戦を」佐古浩敏・ゼネラルエディター
・2面「政治の安定 内実は」「与党 数の力誇示、不都合隠し」「共闘野党 長期政権 是非訴え」
・3面「各党の政策 争点は」※「消費税」「憲法」「老後不安」「外交・安保」「人手不足」
・社会面
「これからの6年 託す 選ぶ」※「東京五輪・パラ」「復興期間終了」「普天間返還」「65歳以上が3割」「やまゆり園事件」「森友・公文書改ざん」
・第2社会面
「議員に嘆き『品位・信念を』■就活『東京と格差』」「『#わたしの争点』SNSで」#ニュース4U(for you)
▽社説「参院選 社会保障への不安 負担と給付の全体像を示せ」/「痛み」を語らず/新たな政策課題も/政治の責任は重い

【毎日新聞】
・1面「安倍政権7年審判/改憲3分の2焦点/年金・消費増税論戦/参院選公示 21日投票」
・2面「野党 焦点の1人区」「共闘『立』『国』足並み乱れ」「複数区は候補者乱立」
・3面・クローズアップ「首相 改憲を前面に」「『宿願』に公明は慎重」「勝敗ライン下げ躍起」「長期政権 外交力強調」
・社会面トップ「暮らしの課題 答えは」※「年金」「消費増税」「陸上イージス」「被災地」「外国人」「地方創世」「女性活躍」
・第2社会面「世間話に『行った?』」粟島浦村・新潟県/「多忙『行かんでも…』」浪速区・大阪市(高低 投票率のまちから)
▽社説「19年参院選 安倍外交 米国との距離が問われる」

【読売新聞】
・1面
「年金・憲法で攻防/参院選370人立候補/21日投票」
「令和の針路 託すのは」東武雄・政治部次長
・2面「第一声『安定』『安心』」「首相6年の実績強調/枝野氏『老後2000万円』批判」
・3面・スキャナー「1人区 全面対決」「自民 幹部集中投入/野党共闘 温度差も」「党内競争激しく*比例選」
・社会面トップ「舌戦 雨中の号砲/『令和初』与野党が激突」/「女性対決■『忖度』巡って」
・社会面準トップ「若者の一票 誰に」「旗、漫画で投票呼びかけ」/「『年金政策見比べる』『弱者に寄り添って』/有権者の声」
▽社説「参院選19 参院選公示 政策と実行力を吟味したい」

【日経新聞】
・1面
「社会保障・憲法で論戦/改憲勢力2/3焦点に/参院選公示370人立候補」
「中長期の日本 議論を」原田亮介・論説委員長
・3面「改憲論議の行方左右/勝敗ライン」「信認確保へ最低目標 自公53」「『3分の2』発議可能に 改憲勢力86」「改選過半数『安定多数』に 自公63」
・社会面トップ「暮らし託す一票見定め」※「社会保障」「消費増資」「子育て」「沖縄」
▽社説「19参院選 女性が立候補しやすい社会に」

【産経新聞】
・1面
「改憲勢力の維持 焦点/参院選公示370人立候補/21日」
「3分の2 高い壁/首相『全体の過半数守る』」
「令和の国家像を語れ」佐々木美恵・政治部長
・2面「32の1人区 攻防激化」「与党 『激戦』東北テコ入れ」「野党 前回の11勝超えるか」
・3面「有権者に響く声は/党首ら第一声」
・社会面トップ「令和 安心求めて/東京 年金・五輪・子育て 未来占う」/「有権者 何望む?/自動運転技術■若者の支援を■待機児童解消■忖度に歯止め」
・第2社会面「大雨かすむ争点」「宮城 復興は道半ば『声を届けて』」

【東京新聞】
・1面「憲法 暮らし 未来選ぶ 論戦火ぶた/参院選公示 21日投開票」
・2面・核心「戦略二分」「『政治の安定』与党強調」「年金・消費税 4野党焦点」「参院選訴え 維新は独自路線」
・3面「改憲左右」「3分の2維持 反体制紙手順加速」「大きく割れば 20年施行は困難に」
・特報面(28、29面)
「弱者軽視『上から目線』「品格失い忖度が横行」民、侮るなかれ 参院選2019
・社会面トップ「年金 老後の要 議論を」「赤字生活『一票で変えたい』/『若者も当事者意識持とう』」
・第2社会面「憲法 安保どうあれば」「自衛隊の活動制限なくなる■軍備増強せず平和を/国を守るため軍に位置付けて■法の拡大解釈怖い」
▽社説「19参院選 党首第一声 有権者の胸に響いたか」

「2000万円貯蓄」問題 安倍政権への視線は厳しいが~6月の世論調査から(備忘)

 6月に新聞・放送などのマスメディアが実施した世論調査結果のうち、目に止まったものについて備忘を兼ねて書きとめておきます。安倍晋三内閣の支持率は、6月上旬実施のNHK調査と6月下旬の朝日新聞調査は前月と変化がありませんでしたが、6月半ばに実施した毎日新聞、産経新聞・FNN、共同通信の3件の調査では、そろって支持率が3ポイント前後減少したのが目を引きました。ただ、支持率自体は40%台後半と高い水準の調査結果が目立ちます。

【内閣支持率】※カッコ内は前回(前月)比、Pはポイント
▼朝日新聞 6月22、23日
 「支持」45%(±0)
 「不支持」33%(1P増)

▼毎日新聞 6月15、16日
 「支持」40%(3P減)
 「不支持」37%(6P増)
 「関心がない」21%(2P減)

▼産経新聞・FNN 6月15、16日
 「支持」47・3%(3・4P減)
 「不支持」36・5%(1・6P増)

▼共同通信 6月15、16日
 「支持」47・6%(2・9P減)
 「不支持」38・1%(1・9P増)

▼NHK 6月7~9日
 「支持」48%(±0)
 「不支持」32%(±0)

 個別の設問では、95歳まで生きるには夫婦で2千万円の蓄えが必要とした金融庁金融審議会の報告書を、麻生太郎金融担当相が受け取り拒否した問題を巡って、朝日、毎日、産経・FNN、共同の各調査が尋ねています。総じて、この問題を巡っては世論が安倍政権に対して厳しい目を向けていることがうかがえます。しかし、朝日新聞の調査では参院選の投票に当たって年金の問題を重視すると回答したのは51%であり、内閣支持率の水準の高さをも考え合わせると、7月21日投票の参院選への影響は、現状では限定的なようにも思えます。
 以下に各社の調査の主な質問と回答状況を書きとめておきます。なお、読売新聞は6月28~30日に世論調査を実施し、結果は7月1日付の朝刊に掲載しているようです。同紙のサイトによると、内閣支持率は前回比2ポイント減の53%、不支持率は4ポイント増の36%でした。


▼朝日新聞
・金融庁の審議会が、公的年金だけでは老後の生活費が2千万円不足するとの報告書をまとめました。この報告書が出たことで、年金について不安が強まりましたか。
 不安が強まった 49%
 それほどでもない 45%
・老後の生活費についてのこの報告書が、世間に不安や誤解を与えたとして、金融担当の麻生大臣は受け取りを拒否しました。この問題をめぐる安倍政権の対応に納得できますか。
 納得できる 14%
 納得できない 68%
・安倍政権は、年金制度の改革に、十分に取り組んできたと思いますか。
 十分に取り組んできた 14%
 十分ではなかった 72%
・今度の参議院選挙で投票する政党や候補者を決めるとき、年金の問題を重視しますか。
 重視する 51%
 重視しない 41%

▼毎日新聞
・夫婦の老後資金として、公的年金だけでは「約2000万円不足する」と試算した金融庁の審議会の報告書がまとまりました。しかし、担当相でもある麻生太郎副総理は「政府の立場と異なる」として受け取りを拒否しました。麻生氏の対応に納得できますか。
 納得できる 15%
 納得できない 68%

▼産経新聞・FNN
・金融庁審議会の「老後2000万円貯蓄」に関する試算について
 試算を受け、年金制度への信頼度はどうなったか
  不信感が増した 51.0%
  変わらない 44.6%
  信頼感が増した 2.2%
 報告書を受け取らないと表明した麻生太郎金融担当相の対応は適切と思うか
  思う 16.9%
  思わない72.4%
 これまで老後は年金だけで暮らしていけると思っていたか
  思っていた 13.9%
  思っていなかった 84.2%

▼共同通信
・金融庁の金融審議会は、老後に夫婦で95歳まで生活するためには、公的年金だけでは賄えず、2000万円の蓄えが必要になるとの報告書をまとめました。あなたは、自分の老後の生活について経済的に不安がありますか、ありませんか。
 不安がある 74.3%
 不安はない 22.7%
・麻生太郎金融担当相は金融審議会のこの報告書を正式には受け取らない意向を表明しました。担当大臣として諮問したにもかかわらず、受け取りを拒否するのは極めて異例です。野党は参院選への悪影響を避けるためだと批判しています。麻生氏の受け取り拒否をどう思いますか。
 問題だ 71.3%
 問題ではない 19.1%
・あなたは公的年金制度を信頼できますか、できませんか。
 信頼できる 28.2%
 信頼できない 63.8%

「差別」の被害と加害~ハンセン病患者家族訴訟・熊本地裁判決の社説・論説から

 ハンセン病患者に対する誤った隔離政策が続いたために、患者だけでなく、その家族も差別を受けたり、家族離散を強いられたりしたとして、国に賠償を命じる判決が6月28日、熊本地裁で言い渡されました。差別を生んだ国の責任を明確に認める画期的な司法判断として、新聞各紙やマスメディアでも大きく報じられています。
 差別は、差別を受ける被害だけではなく、差別をする加害も一体になった問題です。国の責任は明らかだとしても、「では差別するのはだれか」も同時に考えていかなければなりません。今回の熊本地裁判決を取り上げた新聞各紙の社説・論説をネットで読みながら、あらためてそんなことを感じました。そうした観点から目に止まった社説をいくつか、一部を引用して書きとめておきます。いずれも29日付です。

▼沖縄タイムス「[ハンセン病家族訴訟]国策が招いた差別断罪」
 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/438971

 恐怖心をあおり、社会の偏見や差別を助長し、孤立させた責任はマスコミを含めた私たちの社会にある。今も偏見と差別がなくなったとはいえない。多くの原告が実名ではなく原告番号の匿名で訴えていることからもうかがえる。
 旧優生保護法下の強制不妊手術を巡る国家賠償請求訴訟とも重なる問題だ。偏見と差別のない社会を実現するため一人一人が「わが事」として向き合わなければならない。

▼信濃毎日新聞「ハンセン病判決 家族の被害回復に道開く」
 https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190629/KP190628ETI090009000.php

 同時に見落とせないのは、患者や家族を排除した社会の責任だ。療養所に患者を送る「無らい県運動」は官民一体で行われた。隔離が続いた背景には、大多数の人の無関心や暗黙の了解があった。
 法が廃止されて20年以上が過ぎる今も、差別の根は断てていない。それぞれが自らの問題として向き合うことが欠かせない。

▼京都新聞「ハンセン病判決  偏見・差別許さぬ社会へ」
 https://www.kyoto-np.co.jp/info/syasetsu/20190629_2.html

 訴訟は隔離政策によってハンセン病を「恐ろしい伝染病」と誤認させた国の責任と併せ、偏見や差別を許してきた日本社会の責任をも問うたといえる。医師らは隔離の必要がない患者を見捨て、学校も偏見に苦しむ患者の子どもを助けなかった。司法もマスメディアも人権侵害を看過してしまった事実は重い。猛省せねばなるまい。
 ハンセン病問題は解決済みと考えがちだが、決して過去のものではない。差別を根絶するには何が必要か、判決から読み取りたい。

▼神戸新聞「ハンセン病訴訟/家族被害も国に重い責任」
 https://www.kobe-np.co.jp/column/shasetsu/201906/0012468968.shtml

 判決は国会が96年まで予防法を廃止しなかったことを立法不作為と指摘した。基本的人権が侵害される状況を放置してきた責任については、政治や行政、医学界、法曹界だけでなく、報道に携わる私たちも重く受け止めねばならない。
 家族がハンセン病だったことを隠す必要のない社会にするために、苦難の歴史を踏まえて正しい知識を広げていきたい。

 沖縄タイムスが指摘している、障害者に対する強制不妊手術の問題にも通じる視点は、岩手日報の論説も指摘しています。

▼岩手日報「ハンセン病家族訴訟 真の差別解消への一歩」
 https://www.iwate-np.co.jp/article/2019/6/29/58537

 原告勝訴の判決は、旧優生保護法下で不妊手術を強いられた障害者らにとっても、希望の光になるのではないか。
 被害者が国に損害賠償を求めて提訴したのを機に救済の機運が高まり、今年4月、被害者に一時金を支給する救済法が議員立法で成立した。ハンセン病の救済策などを参考にしたが、一時金支給の対象は被害者本人のみで、配偶者らは除外されている。
 国は配偶者の苦しみにも向き合い、一時金の支給対象を拡大すべきだ。
 今回の訴訟と優生手術訴訟の共通点は、原告の多くが匿名であること。偏見や差別が根強い表れと言えよう。
 安倍晋三首相は優生手術被害の救済法成立に際し、「全ての国民が疾病や障害の有無で分け隔てられることのない共生社会の実現に向けて、最大限の努力を尽くす」との談話を発表した。
 疾病や障害で苦しむのは本人だけではない。家族も苦しんでいる。本人も家族も支える仕組みづくりへ最大限努力することが、差別を解消し、共生への道を開く。

 

障がい者と沖縄戦~「埋もれた声に思い寄せ」慰霊の日・沖縄タイムスの社説

 第2次大戦末期の1945年6月23日に、沖縄では日本軍の組織的戦闘が終結したとされます。この日は沖縄では「慰霊の日」です。沖縄タイムス、琉球新報の2紙も23日付の社説は慰霊の日がテーマです。
 74年前の沖縄戦は、日本本土に米軍を迎え撃つ「本土決戦」に備えた時間稼ぎであり、沖縄は「捨て石」でした。戦後の米統治を経て1972年に沖縄は日本に復帰しましたが、今も在日米軍の専用施設の約70%が集中し、沖縄県の反対にもかかわらず、名護市辺野古では米軍普天間飛行場の代替施設となる基地の建設が進んでいます。琉球新報の社説「沖縄戦の教訓継承したい」は、辺野古には直接触れていないものの「在沖米軍基地の機能は強化され続けている」と指摘し、「『軍隊は住民を守らない』という沖縄戦の教訓を、無念の死を遂げた沖縄戦の犠牲者への誓いとして、私たちはしっかり継承していかねばならない」と結んでいます。
 一方の沖縄タイムスの社説「埋もれた声に思い寄せ」は、沖縄戦と障がい者に焦点を当てています。優生思想や障がい者差別の問題は今日的な課題でもあるのですが、差別を戦争という側面から検証していくことは、その両者の本質を考える上でも重要な切り口なのだと、あらためて考えさせられました。
 以下に、両紙の社説の一部を引用して書きとめておきます。リンク先で全文が読めます。

▼琉球新報「慰霊の日 沖縄戦の教訓継承したい」
 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-941509.html

 沖縄の防衛に当たる第32軍と大本営は沖縄戦を本土決戦準備のための時間稼ぎに使った。県出身の軍人・軍属には、兵力を補うために防衛隊などとして集められた17―45歳の男性住民が含まれる。沖縄戦ではこうして住民を根こそぎ動員した。
 さらにスパイ容疑や壕追い立てなど、日本軍によって多数の県民が殺害されたのも沖縄戦の特徴だ。
 住民は日本軍による組織的な戦闘が終わった後も、戦場となった島を逃げ回り、戦火の犠牲になった。久米島の人々に投降を呼び掛け、日本兵にスパイと見なされて惨殺された仲村渠明勇さんの事件は敗戦後の8月18日に起きた。
 戦後、沖縄は27年も米施政権下に置かれ、日本国憲法も適用されず、基本的人権すら保障されなかった。沖縄が日本に復帰した後も米軍基地は残り、東西冷戦終結という歴史的変革の後も、また米朝会談などにみられる東アジアの平和構築の動きの中でも在沖米軍基地の機能は強化され続けている。
 74年前、沖縄に上陸した米軍は以来、居座ったままだ。米軍による事件事故は住民の安全を脅かし、広大な基地は県民の経済活動の阻害要因となっている。沖縄の戦後はまだ終わっていない。
 「軍隊は住民を守らない」という沖縄戦の教訓を、無念の死を遂げた沖縄戦の犠牲者への誓いとして、私たちはしっかり継承していかねばならない。

▼沖縄タイムス「[きょう慰霊の日]埋もれた声に思い寄せ」
 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/436323

 「十・十空襲」の後、北部への避難を決めた家族に向かって、視覚障がいの女性が「自分を置いて早く逃げて」と言った、その言葉が心に刺さったという。周りに迷惑をかけたくないとの思いが痛いくらい分かったからだ。
 「僕だったらどうしただろう」
 南風原町に住む上間祥之介さん(23)は、障がいのある当事者として障がい者の沖縄戦について調査を続けている。
 発刊されたばかりの『沖縄戦を知る事典』(吉川弘文館)では「障がい者」の項を担当。母親が障がいのある子を「毒殺する光景を目の当たりにした」という証言や、自身と同じ肢体不自由者が「戦場に放置されて亡くなった」ことなどを伝える。
 国家への献身奉公が強調され、障がい者が「ごくつぶし」とさげすまれた時代。これまでの聞き取りで浮き上がってきたのは、家族や周囲の手助けが生死を大きく分けたという事実である。
 「戦争では皆、自分が逃げるのに精いっぱい。真っ先に犠牲になるのは障がい者や子どもやお年寄り」
 沖縄戦における障がい者の犠牲は、はっきりしていない。当時の資料も証言も少ない。話すこと、書くことが難しかったという事情はあっただろうが、沈黙を強いているのはその体験の過酷さである。
 優生思想は決して過去のものではない。もし今、自分の住む町が戦場になったら…。上間さんは戦争と差別という二重の暴力の中で「語られなかった体験」の意味を考え続けている。


 そのほか、ネット上で目にした本土紙の社説・論説のタイトルを書きとめておきます。一部は内容も引用しました。地方紙に、沖縄の基地問題の現状を他人事ではないととらえる視点があることは重要だと感じます。全国紙で関連の社説・論説を23日付で掲載しているのは産経新聞だけでした。「追悼の場に政治的な問題を持ち込み、意見を異にする立場の非を鳴らす行為は厳に慎みたい」との主張です。
 一定期間、サイト上で読める新聞の社説・論説はURLも紹介します。

▼北海道新聞「沖縄慰霊の日 苦難を顧みぬ国の横暴」
 https://www.hokkaido-np.co.jp/article/318069?rct=c_editorial

▼茨城新聞「沖縄慰霊の日 『捨て石』の構図いつまで」
▼山梨日日新聞「[あす『沖縄慰霊の日』]広がる『住民不在』 終止符を」=22日付

▼神戸新聞「沖縄慰霊の日/問われる平和と民主主義」
 https://www.kobe-np.co.jp/column/shasetsu/201906/0012452247.shtml

 県民の4分の1が犠牲になった沖縄では、世代を超えて戦禍の記憶が語り継がれている。「戦争が起これば標的となり、再び捨て石にされる」との不安や疑念の声が漏れる。
 秋田では地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の配備計画を巡る調査ミスが発覚した。批判を受けて防衛省は再調査する考えを示したが、「結論ありき」で国策を押し通すような政府の姿勢は、辺野古や宮古島とも通じる。
 沖縄の問題は、日本の平和と民主主義が直面する危うさを示している。地方の意思を考慮しない政権の姿勢にも厳しい視線を向け続ける必要がある。

▼山陰中央新報「沖縄慰霊の日/『捨て石』の構図が今も」

▼西日本新聞「沖縄慰霊の日 戦争の悲惨風化させるな」

 https://www.nishinippon.co.jp/item/n/520982/

▼大分合同新聞「沖縄慰霊の日 『捨て石』の構図いつまで」

▼佐賀新聞「沖縄慰霊の日 2019 『捨て石』の構図いつまで」(共同通信)=22日付
 https://www.saga-s.co.jp/articles/-/390783

▼熊本日日新聞「沖縄慰霊の日 『戦後』は終わっていない」
 https://kumanichi.com/column/syasetsu/1089184/

▼南日本新聞「[沖縄慰霊の日] 『痛み』忘れてはならぬ」
 https://373news.com/_column/syasetu.php?storyid=107030

 昨年の慰霊の日、病を押して式典に出席した故翁長雄志前知事が、やせ細った風貌とは裏腹に毅然(きぜん)と「辺野古に新基地を造らせないという決意は揺るがない」と述べた姿が忘れられない。
 翁長氏の死去に伴う県知事選や県民投票で「反対」の民意が何度も示されているのに、政府は辺野古の工事を強行している。翁長氏の遺志を継ぐ玉城デニー知事は「沖縄では為政者による抑圧が今も続いている。その最たるものが辺野古の現状だ」と訴える。
 楽観は許されないものの、北朝鮮が朝鮮半島の非核化を表明し、日中関係も改善の動きが見えるなど、日本の安全保障環境は変化している。いつまでも沖縄に基地負担を押しつけるのではなく、本土を含めた新たな安保戦略を検討する必要があるだろう。
 奄美大島に初めて陸上自衛隊が部隊配備され、南西諸島の防衛力強化が進んでいる。米軍空母艦載機の陸上離着陸訓練(FCLP)の移転候補地に挙がる西之表市馬毛島を巡る動きなど、鹿児島もよそ事ではない。
 安全保障政策は国の専管事項とは言っても、地元の意向を抑えつけて推し進めていいはずはない。沖縄戦から今に続く課題をわが事として考えたい。

▼産経新聞「【主張】沖縄戦終結74年 静かな環境で追悼したい」
 https://www.sankei.com/column/news/190623/clm1906230002-n1.html

 心静かに戦没者を悼む日にしたい。追悼の場に政治的な問題を持ち込み、意見を異にする立場の非を鳴らす行為は厳に慎みたい。
 ところが、昨年まで知事だった翁長雄志氏は、毎年追悼式で読み上げる「平和宣言」の中で、米軍普天間基地の辺野古移設を批判してきた。
 戦没者への追悼の言葉を述べる安倍首相に対し、辺野古移設反対派と思われる参列者から、「帰れ」などの心ないやじが毎年のように飛んでいる。
 極めて悲しい出来事だ。追悼式を知事が政治的発信の場としたり、参列者のやじにより厳粛さを損なわせたりしていいわけがない。翁長氏の後継として当選した玉城知事だが、平和宣言の政治利用は踏襲しないでもらいたい。

 【追記】

 朝日新聞は22日付で関連の社説を掲載しています。
 ▼朝日新聞「沖縄慰霊の日 日本のあり方考える鏡」=22日付
 https://www.asahi.com/articles/DA3S14065503.html?iref=editorial_backnumber

 

二・二六事件の現場、東京・赤坂「高橋是清翁記念公園」~昭和の惨劇を次代に語り継ぐ

 6月に入って間もなく、東京都港区赤坂にある「高橋是清翁記念公園」を訪ねる機会がありました。大正から昭和初期にかけて首相、蔵相を務め、1936(昭和11)年に一部の陸軍将校らが起こしたクーデター未遂事件、二・二六事件で暗殺された高橋是清(1854~1936)の邸宅があった場所です。
 ※港区公式サイト 「高橋是清翁記念公園」
  https://www.city.minato.tokyo.jp/shisetsu/koen/akasaka/04.html

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 赤坂見附から青山通り(国道246号)を渋谷方向へ徒歩で15~20分ほどでしょうか。ビルの並びが途切れたところに、緑豊かな空間があります。入口近くには子ども用の遊具もあって、知らなければどこにでもある公設の公園だと思って、通り過ぎてしまうかもしれません。
 ウイキペディア「二・二六事件」の記述によると、1936年2月26日早朝5時すぎ、この地にあった高橋是清邸を反乱軍約100人が襲撃。是清は寝室で、拳銃で撃たれた上、軍刀でとどめを刺され即死しました。
 ※ウイキペディア「二・二六事件」

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 港区によると、現在の公園でも5300平方メートル余の広さがあり、当時の高橋邸の敷地はもっと広かったようです。青山通りを隔てた向かいは赤坂御所の塀と木々が連なっており、おそらくは反乱軍の銃声があたりの静寂を破ったのではないかと思います。しかし、周囲をビルに囲まれ、青山通りをひっきりなしに車が行き交う現在の様子を見ていると、なかなか往時を想像するのは難しいと感じました。

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 当時、是清が住んでいた自宅の母屋は現在、東京都小金井市にある江戸東京たてもの園に移築され保存されています。是清が眠る多磨霊園へ移築されていたため、空襲の難を逃れたと、港区の説明のプレートに書いてありました。
 実は母屋は5年前の夏に訪ねています。ちょうど雨の日だったこともあり、静寂の中にひっそりとたたずんでいました。内部に入ることもでき、是清が絶命したという2階の寝室も見学しました。歴史上の出来事としての事件を多少なりとも感じ取れた気がしました。

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【江戸東京たてもの園に保存されている母屋=2014年8月】

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【母屋の2階内部=2014年8月】

 港区の記念公園を奥に進むと、ちょっとした高台があって、高橋是清の銅像があります。「ダルマ」の愛称で庶民的な人気があったという、その風貌をよく表した、柔和な表情だと感じました。

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 和服姿の座像ですが、興味深かったのは右手にメガネを持っているのはいいとして、左ひざの上に何か書類を持っていることです。その折りたたみ方や大きさからは、新聞であるように思えました。ただ日本語の新聞なら、四つ折りにして1面トップの記事が上になるようにすると、折り目は持ち手から向かって左側になります。銅像はその折り目が右側になっていますので、英字紙などの外国語の新聞なのかもしれません。うがった見方かもしれませんが、若いころ渡米して苦労したというエピソードがある高橋是清が、常に世界に目を向けていたことを、銅像ではこのように表現したのかもしれない、と感じました。そして言論ではなく暴力に訴えることとを暗に比較して見せることで、暴力の愚かしさを表そうとしているのかもしれない、などとも考えました。

 後日、公園を再訪してみました。梅雨入り後の雨の日でした。

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【左のガラス張りのビルが草月ホール。その隣りが記念公園】

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 公園の片隅にはアジサイが植えられており、色づいた花が雨に濡れて鮮やかでした。あいにくの天気でこの日は遊具に子どもたちの姿はありませんでしたが、そうと知らなければ、80年以上も前に惨劇があった場所とは思えない、都心の緑豊かな一角です。その現場に立ってみて、暴力で世の中を変えようとすることの愚かしさは、何年たとうとも語り継いでいかなければならないと、あらためて思いました。

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 二・二六事件を巡っては、やはり事件で殺害された内大臣で、元首相、海軍大将の斎藤実の出身地である岩手県・水沢(奥州市水沢区)にある「斎藤実記念館」に、銃弾を受けてひび割れた鏡台など、豊富な資料が保存されています。
 いずれも、事件が本当に「あった」ことを、時間を超えて実感できる貴重な資料だと思います。
 これまでに資料館を2度訪ねました。そのときの感想などをこのブログに書いた過去記事を紹介します。2度目はひび割れた鏡台の絵葉書も買い求めました。news-worker.hatenablog.com

news-worker.hatenablog.com

 

5月の世論調査から(備忘)

 5月にマスメディア各社が実施した世論調査の結果について、備忘を兼ねて書きとめておきます。
 安倍晋三内閣の支持率は以下の通りです。前回調査の実施時期の違いなどもあり、支持率の増減傾向については一概に読み取れないように思いますが、大まかな傾向としては5月中旬の時点で、支持が不支持を相当に上回っている、とは言っていいように思います。天皇の代替わりと改元が、祝賀ムードの中でとどこおりなく進んだと報じられたことがその要因の一つのように思えます。

【内閣支持率】 ※カッコ内は前回(前月)比、Pはポイント
・朝日新聞 5月18、19日
 「支持」45%(1P増)
 「不支持」32%(±0)

・毎日新聞 5月18、19日
 「支持」43%(2P増)
 「不支持」31%(6P減)
 「関心がない」23%(2P増)

・共同通信 5月18、19日
 「支持」50・5%(1・4P減)
 「不支持」36・2%(4・9P増)
  ※前回は5月1、2日実施

・読売新聞 5月17~19日
 「支持」55%(1P増)
 「不支持」32%(1P増)

・日経新聞・テレビ東京 5月10~12日
 「支持」55%(7P増)
 「不支持」35%(7P減)
  ※前回は3月下旬実施

 個別の質問と回答の状況で、興味深く感じたのは、夏に予定されている参院選についてです。
 朝日新聞の調査によると、与野党のいずれが議席を増やした方がいいと思うかを尋ねたところ「与党が議席を増やした方がよい」との回答が15%、「野党」との回答は34%だった一方で、「今とあまり変わらないままがよい」も38%でした。また、「今度の参議院選挙をきっかけに、日本の政治が大きく変わってほしいですか」との問いには、「大きく変わってほしい」47%、「それほどでもない」43%と大きな差はなく、「今後の安倍首相に期待しますか」との問いでは「期待する」46%、「期待しない」45%と、真二つに割れました。
 読売新聞の調査では、参院選の結果、自民党と公明党の与党が参議院で過半数の議席を維持する方が良いと思うかどうかを尋ねています。回答は「維持する方がよい」48%、「そうは思わない」38%と差が付きました。
 参院選と同時に衆院選を行うことに対しては、読売新聞の調査では「行ってもよい」44%、「行わない方がよい」38%でした。日経新聞・テレビ東京の調査では、同日選に賛成47%、反対32%で、賛成は内閣支持層では54%、不支持層では40%とのことです。
 朝日新聞の調査結果に注目すれば、「日本の政治が大きく変わってほしい」「今後の安倍首相に期待しない」は4割を超えており、内閣支持率の安定ぶりほどには、安倍政権が信任を受けるかは分からないという気もします。しかし一方で、朝日新聞の調査でも読売新聞の調査でも、野党が議席を伸ばすことを求める回答は30%台にとどまっています。一般には与党が有利になるとされる衆参同日選に対し、容認する回答が否定の回答を上回っていることも考えれば、現時点の民意は読みづらい、と言うほかないように感じます。

「代替わり」「改元」「憲法記念日」 地方紙・ブロック紙の社説・論説の記録

 新天皇の即位と「令和」改元に対して、地方紙、ブロック紙も社説や論説で様々に取り上げました。5月3日には、改元後、初の憲法記念日であることを踏まえた内容のものも目に付きました。ネットでチェックした限りですが、5月1日付から3日付の社説・論説のうち、天皇代替わり、改元、憲法に関連した内容のものについて、見出しを書きとめておきます。うち、印象に残ったものは一部を引用しています。また現在(5月5日時点)でも各紙のサイト上で読めるものは、リンク先を記しています。

▼5月1日~3日付の地方紙・ブロック紙の主な社説・論説
【北海道新聞】
https://www.hokkaido-np.co.jp/column/c_editorial
・1日付「新天皇陛下即位 『新しい風』を国民と共に」/公務の整理が不可欠/憲法にかなう儀式に/改元祝うだけでなく
・2日付「令和の政治 立法府再生への改革を」
・3日付「きょう憲法記念日 幅広い論点掘り下げたい」/政権のおごり表れた/「解散権」はどう扱う/譲れない三つの原則

【河北新報】
https://www.kahoku.co.jp/editorial/
・1日付「新天皇即位/象徴として平和の道標に」

 令和もまた、平和の意味が込められていよう。一方で、年号制定作業では中国の古典でなく、国書である万葉集から初めて選んだことに「わが国が持っている素晴らしい文化を象徴している」などと称賛の意見が相次いだという。
 ちょっとしたきっかけで、日本の社会は一つの色に染まる特色がある。皇位継承行事が数多く予定され、「古き良き時代よ、もう一度」と保守的なナショナリズムが広がりやすい。令和は、落ち着いた時代でありたい。

・3日付「憲法記念日/不断の努力で磨き上げよう」

【東奥日報】
https://www.toonippo.co.jp/category/editorial
・1日付「共生と構想力が試される/令和の幕開け」
・2日付「皇位安定継承 議論進めよ/即位と皇室の課題」
・3日付「理念堅持し議論深めたい/憲法記念日」

【秋田魁新報】
https://www.sakigake.jp/news/list/scd/100003001/?nv=akita
・1日付「きょうから令和 地方の力高める時代に」
・2日付「天皇陛下即位 新しい時代、国民と共に」
・3日付「憲法記念日 改憲の機はまだ熟さず」

【山形新聞】
http://yamagata-np.jp/shasetsu/
・1日付「『令和』の幕開け 足元見つめ直す機会に」
・2日付「即位と皇位継承者不足 危機感を持って議論を」

【岩手日報】
https://www.iwate-np.co.jp/article/2019/5/3/54207
・1日付「新天皇即位 『象徴』は時代とともに」
・3日付「憲法問題 もっと深い議論を望む」

 戦後74年目の憲法記念日。昭和から平成、令和と元号が変わる中で、これからも「戦後」という時代の捉え方は引き継がれていくだろう。
 昭和の時代、終戦を挟んで日本の国柄は180度転換した。もとより「戦後」は元号ではないが、元号をまたぎ、平和憲法を土台とする時の流れを想起させる。
 安倍晋三首相は「新憲法」制定を目指す超党派の国会議員の会合で、「令和という新しい時代のスタートラインに立ち、この国の未来像について真正面から議論を行うべき時に来ている」と訴えた。
 「戦後」というスパンの中で、時代は途切れず続いている。改元を「新時代の到来」として改憲と結びつける情緒的な主張は、憲法論議にはそぐわない。

【福島民報】
https://www.minpo.jp/news/column_ronsetsu
・1日付「【皇位継承と新時代】象徴の道と旅は続く」
・2日付「【令和の時を刻む】希望と課題に向き合う」
・3日付「【震災8年と憲法】条文を読み直す」

 これらの状況は、憲法前文が「平和のうちに生存する権利を有する」とうたう平和的生存権とは懸け離れていることを示す。居住・移転の自由(憲法二二条)、財産権(同二九条)、勤労の権利(同二七条)、ひとしく教育を受ける権利(同二六条)などと密接に絡んでくる。地方自治体が存続の危機にさらされたという点では地方自治(同九二条)も関係している。風評による言われなき差別は「法の下の平等」(同一四条)とは相いれないのではないか。
 財産権の侵害に対し、被災者は声を上げ続けている。その一つである裁判外紛争解決手続き(原発ADR)の和解案を東電が拒否し、打ち切りになる事例が相次いだ。和解案が拒まれると、強制力がないADRの紛争解決機能は失われる。そもそも和解案の尊重が制度の前提だった。現状は被災者への誠実な対応とは程遠い。世耕弘成経済産業相が三月、小早川智明東電社長に対し、損害賠償の改善を指導したのは当然だ。
 憲法が被災者の心のよりどころになり得ることを政治家は念頭に置かなければならない。条文を読み直し、現状と照らし合わせて復興の施策に当たるべきだ。

【福島民友】
http://www.minyu-net.com/shasetsu/shasetsu/
・1日付「『令和』の初めに/新しい視点が時代の道開く」

【茨城新聞】
・1日付「令和の幕開け 共生と構想力が試される」
・2日付「即位と皇室の課題 危機感を持って議論を」
・3日付「憲法記念日 理念堅持し議論深めたい」

【神奈川新聞】
・1日付「新天皇即位 時代の風に沿う皇室を」
・3日付「問われる憲法 令和へ 9条の理念の実現こそ」

【山梨日日新聞】
・1日付「『令和』スタート 共生の風グローカルの力で」
・2日付「即位と皇室の今後 危機感持ち、速やかに議論を」
・3日付「令和時代の天皇と憲法 平和の『水』どう守り育てる」

【信濃毎日新聞】
https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/web_shasetsu_list.html
・1日付「新陛下が即位 ともに見つめ直し考える」/象徴の模索は続く/平和を求める姿勢/将来像の議論早急に

 前陛下の根底には、少年時代の戦争体験があった。
 太平洋戦争の開戦と終戦に関わった昭和天皇の跡を継いだ前陛下にとって、平和を祈り続けることは何より大切なことだった。
 全国戦没者追悼式の「お言葉」だけでなく、戦地に赴き慰霊される姿に、過去を直視して過ちを繰り返さないという固い意思を感じた国民も多いのではないか。
 1960年生まれの新陛下には戦争体験はない。これまでの会見では「戦争を知らない世代に悲惨な体験や日本がたどった歴史が正しく伝えられていくことが大切」と述べている。国民や諸外国に説得力を持ってどう示すのか。8月の戦没者追悼式での「お言葉」に注目が集まる。
 天皇は国政に関する権能を有しない。政治的な発言はできず、時の政権と中立関係を保つ姿勢も求められる。ただし、憲法を守り、従う日本国民の象徴として、平和を希求する姿勢は欠かせない。
 前陛下の思いを継承していくことを国民は望んでいる。

・2日付「皇位継承の儀式 憲法に沿っているのか」
・3日付「憲法の岐路 言論の自由 掘り崩しを許すまい」/メディアの役割/危ういトランプ流/安倍首相の執念

 言論の自由の掘り崩しにつながりかねない動きが、安倍晋三政権とその周辺で続いている。
 真っ先に挙げなければならないのは首相官邸の記者会見での質問制限だ。東京新聞記者の質問に対し、進行役の官邸職員が数秒おきに「簡潔に」「質問に移ってください」などと述べて邪魔をした。ある日には1分半の質問の間に7回にのぼったという。
 2月20日付の東京新聞によると、官邸側は昨年6月、「記者会見は官房長官に要請できる場と考えるか」と文書で質問してきた。同紙記者が会見で、森友学園問題に関連して、内部協議のメモがあるかどうか調査するよう求めたのを受けてのことだ。
 「記者は国民の代表として質問に臨んでいる」と同紙が回答すると、官邸側は「国民の代表とは選挙で選ばれた国会議員」と反論してきたという。
 見当違いも甚だしい。報道の役割は国民の知る権利に奉仕することにある。そのことは最高裁も繰り返し認めている。

【新潟日報】
https://www.niigata-nippo.co.jp/opinion/editorial/
・1日付「新天皇陛下 令和を歩む国民の支えに」/前天皇ご夫妻を範に/新皇后さまへの期待/不戦の歴史をつなぐ

 新天皇陛下の即位により、新しく皇后になられた雅子さまは、村上藩士を先祖に持ち、本県とのゆかりは深い。
 (中略)
 新皇后さまは、適応障害で療養を続けてきた。皇太子妃時代の昨年12月、誕生日に際して発表した文書による感想では、体調回復に努めながら、公務に力を尽くすよう努力を続けるとつづっていた。無理のない形で、と願う。
 感想の中にはまた、互いを思いやり、広い心を持って違いを乗り越え、力を合わせながら、弱者を含め全ての人が安心して暮らせる社会を実現することの大切さも記されていた。
 一人一人が尊重され、それぞれが有する多様な個性が受け入れられる。新皇后さまには、多くの人々の支えを得て療養を続ける中で描いた、より良い社会の理想像があるように感じられる。
 そうした思いを胸に、新天皇陛下と共に国民の支えとなってくれるよう望みたい。自らが包摂されているという安心感を国民がきちんと持てることは、社会の安定につながる。

・2日付「天皇陛下お言葉 国民の幸せ願う強い意思」
・3日付「憲法記念日 改元の中で原点見つめる」/陛下の平和への願い/記憶を引き継ぐ責務/夏の参院選で論戦を

【中日新聞・東京新聞】
https://www.chunichi.co.jp/article/column/editorial/
・1日付「共に生き平和を愛す 令和のはじめに」/働けども貧しいとは/軍拡より緊張の低減/歴史の歯車を動かす
・2日付「平和への祈りは続く 天皇と憲法(4)」/戦争放棄は日本側から/念頭から離れない遺族/戦争の記憶を伝える
・3日付「未来の皇室のために 天皇と憲法(5)」/国家神道とは離れて/政教分離原則に照らし/天皇家に自由の風も

 今回の退位は光格天皇以来で、明治からの終身在位制に一つの風穴を開けた。退位を大多数の国民が支持したからだ。
 もはや「一代限り」で収まらないはずである。退位の自由ができれば、即位しない自由も生まれる可能性はある。時代の動き次第では天皇制の存廃議論もありえる。
 つまり、明治以降の「男系男子」の定めも、時代とともに国民意識が変わり、女性の天皇の容認などに広がるのではないか。男女平等の憲法の下では、ふさわしいとも考えられる。少なくとも天皇代替わりの儀式に女性皇族を参列させないのは時代錯誤である。
 日本国憲法は身分制を含有する。天皇・皇族・国民という三つの身分が存在する。天皇家には特権があるが、その代わり選挙権や職業選択の自由、居住の自由などがない。表現の自由なども、大幅に制限されている。
 つまり天皇家は「身分制の飛び地」に住んでいるわけだ。そのような天皇制は曲がり角にきてはいないか。
 当事者である皇室の声に耳を傾けてもみたい。西欧王室より窮屈そうな天皇家にもっと自由の風が吹くだろうか。伝統を傍らに置きつつも、象徴天皇制をどう考え、どう変えるかは私たち国民の側に多くを委ねていよう。

【北日本新聞】
・1日付「「令和」の富山/自立と共生目指したい」

【北國新聞】
・1日付「即位の日に 心機一転、新時代に希望を」
・2日付「『令和』時代の北陸 新幹線延伸を発展の力に」
・3日付「令和の憲法論議 国民の出番をつくりたい」

 令和の時代に入って最初の「憲法記念日」である。施行から今年で72年となる。昭和、平成の二つの時代を経て、憲法改正をめぐる国会の議論と国民の意識は確実に変化してきた。それでも、第9条を中心とした改憲論議は深まりに欠け、議論の要である衆参両院の憲法審査会は機能不全ともいえる状況である。
 憲法改正について、国会は令和時代も際限のない堂々巡りを続けるのであろうか。もしそうであれば、憲法制定権を持つ国民の負託に背く、無責任な対応といわなければなるまい。もとより憲法改正は熟議が必要であるが、その上で国会として改憲案を導きだし、是非の判断を国民に委ねる機会をつくることこそ立憲民主主義にかなうのではないか。改憲論争に一区切りつけ、憲法に新たな歴史を刻む時代であってほしい。

【福井新聞】
https://www.fukuishimbun.co.jp/category/editorial
・1日付「新時代『令和』幕開け 平成の課題考える機会に」/憎悪と報復/新たな冷戦/共生社会
・2日付「天皇即位 『令和流』の模索が始まる」/「大きな道標」/「国際親善」に期待/速やかに検討を
・3日付「令和の憲法記念日 平和主義どう堅持するか」

【京都新聞】
https://www.kyoto-np.co.jp/info/syasetsu/index.html
・1日付「新天皇即位  『人々と共に』歩める時代に」/時代の風に向き合い/国際親善に期待高く/水問題から学ぶこと

 一方で、天皇制そのものに批判的な意見もある。民主主義との矛盾を指摘する声もある。
 天皇制というと、かつては極めて政治的なテーマのように扱われ、硬直的な主張をする人も多かった。昭和が終わる頃、天皇の容体などを巡る「菊のカーテン」の閉鎖性にうんざりしたことを覚えている人もいるだろう。
 憲法で天皇は「国民統合の象徴」とされている。本来は主権者である国民が率直に語り、探っていくべき存在のはずだ。
 偏見や過剰な賛美などではなく、天皇制の評価や問題点について自由に論じ合う。新陛下とともに、そんな当たり前のことができる時代にしていきたい。

・2日付「皇位継承  先細り回避へ議論急げ」
・3日付「憲法記念日に  政権の独走戒めるのは誰か」/法治でなく「人治」に/変えることが目的化/自由に語れぬ空気も

 安倍氏は「わが国は法治国家である」と口癖のように言うが、国の最高法規を軽んじるような態度は、法を守り、法に従う、責任ある政治家の姿勢とは言い難い。
 疑問なのは、こうした安倍氏の「独走」を戒める声が自民党内からあまり聞こえてこないことだ。
 (中略)
 国民の負託を受けた国会議員でさえ口を閉ざす現状は、政権党も「人治」に支配されている現状を浮き彫りにしている。
 改憲を巡る一方的な考え方が、政治や行政の現場を覆うようになれば、社会にも憲法を自由に論じられない空気が漂うようになる。
 昨年12月、「梅雨空に『九条守れ』の女性デモ」と詠み、秀句に選ばれたが「公平性、中立性を害する」として公民館だよりへの掲載を拒否されたさいたま市の女性が起こしていた裁判で、市に賠償を命じる判決が確定した。
 憲法上保障された表現の自由という点では当然の判決だ。
 一方、憲法を語ること自体が中立性を損なうととらえた市の対応は、世間の雰囲気への過剰反応ではないか。
 政権が醸し出す空気が、自治体を思考停止に陥らせた。
 共同通信のここ数年の世論調査では、憲法改正を必要と考える人が過半数だが、安倍内閣の下での改憲には半数以上が反対している。安倍氏の改憲姿勢の危うさを国民の多くが懸念している。
 「1強」に気兼ねして自ら口を閉ざしたり議論を封じたりすることは「法治」を揺るがす。そのことを改めて心に留めておきたい。

【神戸新聞】
https://www.kobe-np.co.jp/column/shasetsu/
・1日付「『象徴』の存在/あるべき姿を国民も考えよう」/明確な定めもなく/答えを探し続ける

 憲法が定める「国民統合の象徴」を実のあるものにするために何をすればいいのか。
 誰もはっきり答えを示さない「空白」を埋める努力を、平成の30年間、身をもって続けられたと考えるべきでしょう。
 作家の赤坂真理さんは話題の小説「箱の中の天皇」の中で次のように問い掛けます。
 「天皇が日本の象徴であり、国民の象徴であるなら、行動を問われているのは国民」「わたしは天皇のように行動できるか、わたしが天皇だとしたら、どう行動するのか」
 天皇や皇室をあがめるだけなら、犠牲者を追悼し傷ついた人たちに寄り添う姿をただ遠巻きにするだけなら、自分たちとの距離は縮まりません。
 象徴に何を望むのか。そして主権者である国民は、よりよい未来に向けてどう生きるのか。この問いの答えを一人一人が探し続けることが大切です。
 「平成流」と言われた前の陛下の実践を引き継ぎ、象徴のあるべき姿を国民とともに探求する。そうした道を新しい天皇陛下も歩まれることでしょう。

・2日付「『令和』の心/万葉の平和の願いを次代に」/「十七条憲法」の精神/政治の思惑とは別に

 平成は日本にとって戦争のない時代でした。ただ、ここ数年は「平和国家」の国是にかかわる動きが相次いでいます。
 一つの例が、憲法9条の制約で「できない」とされた集団的自衛権の行使です。安倍政権は憲法解釈を転換し、憲法学者らの「違憲」の指摘も押し切って容認に踏み切りました。
 そもそも安倍晋三首相にとって戦争放棄、戦力不保持、交戦権否認を定めた9条の改正は「悲願」とされ、改憲の動きは令和の時代に持ち越されます。
 一方、中西さんは9条改正に反対する市民運動の賛同者に名を連ねるなど、護憲の立場を明らかにしてきました。万葉集の「平和の心」を大切に思う学者の良心がうかがえます。
 令和は、新元号制定の最終過程で「本命候補」に浮上したそうです。安倍首相が中西さんの案を強く推したのは意外な巡り合わせですが、中国の古典でなく国書「万葉集」からの出典にこだわった結果でしょう。
 いずれにせよ、元号は時の政権の道具ではありません。私たちは政治の思惑とは別に、平和の理念をしっかりと次の世代に引き継ぐ責任があります。

・3日付「憲法という檻/みんなが幸せであるために」/身勝手なライオン/誰が守らせるのか

【山陽新聞】
https://www.sanyonews.jp/special/column/shasetsu
・1日付「新天皇即位の日 継承される『国民と共に』」/象徴のあり方/皇室の課題深刻/本格的議論を
・3日付「改憲の論議 まず熟議の土壌づくりだ」

【中国新聞】
https://www.chugoku-np.co.jp/column/article/?category_id=142&page=1
・1日付「令和の課題・核なき世界 被爆地の役割変わらぬ」/後戻りする懸念/NPTが正念場/禁止条約道半ば
・2日付「令和の課題・変わる働き方 人生と仕事の調和大切に」
・3日付「憲法施行72年 改正論議、なぜ急ぐのか」

【山陰中央新報】
http://www.sanin-chuo.co.jp/www/genre/1000100000058/index.html
・1日付「令和の幕開け/共生と構想力が試される」
・2日付「即位と皇室の課題/危機感を持って議論を」

【愛媛新聞】
・1日付「平成から令和へ 象徴の在り方 議論深める機会に」
・2日付「天皇陛下即位 令和の新たな象徴像 国民と共に」

【徳島新聞】
https://www.topics.or.jp/category/editorial
・1日付「新天皇即位 課題解決へ共に歩もう」
・2日付「『譲位』完結 次は皇位継承の安定策だ」
・3日付「新時代の憲法 平和主義は変えられない」

【高知新聞】
https://www.kochinews.co.jp/news/k_editorial/
・1日付「【新天皇の即位】皇室に期待する新しい風」
・3日付「【憲法改正】『遺産』ありきは許されぬ」

【西日本新聞】
https://www.nishinippon.co.jp/nnp/syasetu/
・1日付「令和の幕開け 弱き者に寄り添う時代に」/「たが」が外れた/格差に目を背けず
・3日付「令和と憲法 大いに論じ生かす時代へ」/条文は変わらずも/冷静な民意の中で/不断の営みこそが

 日本国憲法は72年前のきょう5月3日に施行されました。以来、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義を柱とした条文は一字一句変わっていません。ところが、国の姿はいつしか変質し、憲法から遊離しつつあるのではないか。平成の30年は、そんな不安や疑念が膨らんだ時代でした。
 想起したい点は二つあります。一つは国際社会の激動にあおられる形で、違憲性を帯びた安全保障施策が次々に打ち出されたこと。もう一つは大規模災害などに直面する中で、憲法の精神がこの国で今なお十分に生かされていない実相があぶり出されたことです。
 (中略)
 国策の過ちが深く認識されず、平成に入るまで取り残された人々もいます。ハンセン病や先日救済法が制定された強制不妊手術の被害者らです。憲法の生存権などに照らせば、遅きに失したと言わざるを得ません。水俣病など何の落ち度もない公害患者らの救済問題が今なお解決していないことも、深刻に捉えるべきです。

【大分合同新聞】
・1日付「積み残された難題 思考を切り替えスタートを」
・2日付「即位と皇室の課題 安定継承へ具体的議論を」
・3日付「令和最初の憲法記念日 理念堅持し議論深めたい」

【宮崎日日新聞】
http://www.the-miyanichi.co.jp/shasetsu/
・1日付「令和を迎える 共に生きる心引き継ぎたい」/拡大路線の限界知る/次代切り開く人間力/「デクノボウ」に希望

 杉田さんは16年の熊本地震の際、同法人を中心に支援団体「RQ九州五ケ瀬ボランティアセンター」を組織し、計40トンに上る支援物資の収集・搬送などを指揮した。地元住民が担っていた草刈り、危険度の高いがれき撤去作業などを積極的に引き受け、約9カ月間さまざまな形で支援を続けた。
 (中略)
 杉田さんは支援の最中、拠点となっていた体育館にこんな言葉を張り出した。「熊本地震で私が感じた事。それは自分を差し置いて、世のため、人のために、不眠不休で働いた人たちがいた事。宮沢賢治の『雨ニモマケズ』のデクノボウが沢山いた事」。
 平成に戦災はなかったものの、災害の時代だった。1995年の阪神大震災、2011年の東日本大震災と福島第1原発事故、18年の西日本豪雨と続き、本県でも台風水害、新燃岳や硫黄山の噴火、口蹄疫など大規模災害に苦しんだ。絶望的な破壊を与えた災厄のたび、デクノボウになろうとした人たちが数多くいたことを思い出したい。
 弱き者と共にいる、目線を合わせ共に動く。平成の時代、個人の生き方や選択が鮮明になり尊重されるようになった。歴史の歓迎されるべき前進だが、同時に、人と共にあるための努力と精神もしっかりと引き継いでいきたい。令和に生まれてくる人々、遠い国に住む人々たちにもまなざしを向けながら。そこに私たちの希望があると信じる。

・2日付「皇位の安定継承 危機感持って議論取り組め」/前例踏襲で押し切る/女性宮家には否定的
・3日付「きょう憲法記念日 平和理念堅持し議論深めよ」/改正9条施行が焦点/ネットやAI対応を

【佐賀新聞】

https://www.saga-s.co.jp/category/opinion-editorial
・1日付「令和の幕開け 日本再生の足掛かりに」

 平成の終焉(しゅうえん)とともに、ご夫妻の功績をたたえるムードは一層高まったが、それはお二人の人間性に対する敬愛の念であり、残念ながらこの「代替わり」を機に、制度としての天皇制を考える議論が国民の間に湧いたとは言い難い。
 神性をまとう天皇制と民主主義との共存や皇位継承を巡る課題は多い。改元のタイミングは外国人労働者の受け入れを拡大する入国管理法の改正と重なった。将来的に「日本人」という枠組みが大きく揺らぐ可能性もあり、「国民統合の象徴」としての役割はますます重くなっていくはずだ。
 新天皇が即位にあたり、何を国民に語り掛け、新しい時代に即した皇室像を模索していかれるのか注視しながら、天皇制を持つ私たちの社会のあるべき姿について、改めて思いを巡らせたい。

・2日付「危機感を持って議論を 即位と皇室の課題」※共同通信
・3日付「理念堅持し議論深めたい 論説・憲法記念日」※共同通信

【南日本新聞】
https://373news.com/_column/syasetu.php?storyid=105105
・1日付「[令和を迎えて] 新たな縁づくり元年に」/増える単身高齢者/共生社会へ一歩を

・2日付「[令和の皇室] 新たな象徴像を求めて」/平成流どう肉付け/危機感持ち議論を
・3日付「[憲法記念日] 関心が薄れていないか」/まずCM規制から/理念改めて学ぼう

【沖縄タイムス】
https://www.okinawatimes.co.jp/category/editorial
・1日付「[令和 新天皇陛下即位]新時代 平和の思い新た」
・2日付「[天皇陛下と憲法]『お言葉』の変化なぜ?」

 前陛下が「憲法を守り」と語ったのに対し、陛下は「憲法にのっとり」という言葉を使った。
 憲法99条は「天皇又(また)は摂政及(およ)び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」とうたう。
 「守り」という言葉には99条を前提にした主体的な意思が感じられるが、「のっとり」にはそのニュアンスが希薄である。今回なぜ「守り」から「のっとり」に変わったのだろうか。
 「お言葉」は閣議決定されている。小さな変化の裏で何があったのか気になる。
 2012年に公表した自民党の日本国憲法改正草案では、「憲法尊重擁護義務」から「天皇又は摂政」が削除されている。それと何らかの関係があるのだろうか。
 立憲主義の柱である99条を空洞化することがあってはならない。

・3日付「[憲法と地位協定]生活視点で問い直しを」

 沖縄返還協定の調印の際、当時の屋良朝苗主席は「本土並みといっても沖縄の基地は規模と密度と機能が違う」と指摘し、形式的な本土並み論に強い不満を表明した。
 沖縄の過重負担という基本的な構図は、あの時から変わっていない。
 ただ、米軍再編と日米一体化が進んだことによって、地位協定を巡る問題は、いっきに全国に飛び火した。
 (中略)
 憲法記念日というと、決まったように「護憲派」と「改憲派」の主張が紹介され、9条改憲を巡る安倍政権の動きが取り上げられる。
 だが、9条改憲以上に、生活に根ざした、優先して取り組むべき課題は多い。
 共同通信社が3月に実施した全国電話世論調査によると、安倍晋三首相の下での憲法改正に51・4%が反対、賛成は33・9%にとどまった。
 沖縄にとって切実なのは地位協定の抜本的な改定である。9条改憲よりも国内法の原則適用を急ぐべきだ。

【琉球新報】
https://ryukyushimpo.jp/editorial/
・1日付「令和の幕開け 真の平和と共生の実現を」

 これらの課題を解決する理念のキーワードは「平和」と「共生」である。戦争や紛争をせず軍縮を進め、人々が多様性を認めながら経済的にも支え合う世界像だ。令和は、それを実現する時代にしたい。
 平和学者ヨハン・ガルトゥング氏は領土問題など東アジアの紛争の火種を取り除き戦争を回避する具体策として東アジア共同体を提唱する。沖縄をその拠点に位置付ける。
 沖縄はこうした真の意味での平和と共生を実現する明確なビジョンを持つべきだ。米軍基地などの軍事力による平和ではなく信頼に基づく対話と交流で問題を解決する実践の場所として貢献することを目指したい。そのためにも自己決定権の確立は不可欠だ。

・2日付「天皇陛下が即位 象徴の意味再確認したい」

 全ての国事行為について責任を負うのは内閣だ。今後、憲法が尊重されていくかどうかは、助言、承認をする立場にある内閣の姿勢いかんにかかっている。
 上皇となった前陛下が1989年に即位した際には「憲法を守り、これに従って責務を果たす」と述べていた。今回は「憲法にのっとり」に変わった。天皇のお言葉は臨時閣議で決定されたものだ。
 天皇には憲法尊重擁護の義務があり、憲法に対するスタンスは不変であるはずだ。政権の意向が加わり、ニュアンスを弱めたのであれば、遺憾と言うほかない。
 本紙加盟の日本世論調査会が昨年12月に実施した全国面接世論調査によると、天皇制の在り方について79%が「今のままでよい」と回答し、象徴天皇制支持が大半を占めていた。
 天皇に対し50%が「親しみを感じる」、19%が「すてきだ」と答えている。皇室に対して、おおむね好感を持っていることが分かる。
 今後、このような国民感情に着目した為政者が、自らの政治的意図に沿う形で、天皇を利用しようともくろむ恐れがないとも限らない。
 国民統合の象徴である天皇が政治的に利用されることがないように、常に為政者の動きに目を光らせておく必要がある。政治利用の前例をつくると際限がなくなるからだ。
 かつて天皇の名の下に戦争に突入し、おびただしい数の命が失われたことを忘れてはならない。

・3日付「憲法施行72年 令和の時代も守り続けて」

 憲法の擁護者としての上皇さまの姿勢は単に個人の心掛けではなく、憲法により主権者となったわれわれ国民との最も重要な約束事だった。
 ところが内閣の長として同じく憲法尊重義務を負う安倍首相は、ことあるごとに改憲への意欲を語ってはばからない。2017年の憲法記念日には憲法9条に自衛隊を明記することを柱に「20年の改正憲法施行」の号令をかけ、自民党は改憲4項目の条文案をまとめた。
 集団的自衛権を認めていない憲法解釈をねじ曲げて安全保障法制を成立させ、自衛隊による米軍支援の領域を地球規模に拡大した。憲法を無視して現実を変更しておきながら、「現実に即した」憲法にすると改憲を正当化する論法は詭弁(きべん)と言うほかない。
 辺野古埋め立て反対の明確な意思を示した県民投票を顧みず、「辺野古が唯一」と開き直る政府の姿勢は憲法が保障する基本的人権を侵害するものだ。民主的な手続きを無視し、日米同盟の名の下に軍事強化を押し付ける。これで法治国家と呼べるのか。
 自衛隊明記の改憲がなされれば、戦力不保持を定めた9条は空文化する。南西諸島への配備が進められる自衛隊の存在は周辺地域との緊張を高め、沖縄の島々が再び戦禍に巻き込まれる危険がある。
 令和も戦争がない時代にするためには、国家権力を制約する平和憲法を守り続けていくことが不可欠だ。首相は憲法尊重擁護の義務を踏まえ、辺野古の埋め立て工事を直ちに断念すべきだ。

 

■以下は全国紙5紙の3日付の社説・論説の見出しです。
【朝日新聞】
「AI時代の憲法 いま論ずべきは何なのか」/揺らぐ「個人の尊重」/改憲ありきのひずみ/主権者こそが考える
 https://www.asahi.com/articles/DA3S14000373.html?iref=editorial_backnumber

【毎日新聞】
「令和の憲法記念日に 国会の復権に取り組もう」/無理を積み重ねた首相/貧弱なままの監視機能
 https://mainichi.jp/articles/20190503/ddm/005/070/049000c

【読売新聞】
「憲法記念日 令和の国家像を描く議論を 与野党協調の原点に立ち返れ」/湾岸戦争の対応が転機/9条改正が中心課題に/統合機構改革が急務だ

【日経新聞】
「令和のニッポン3 より幅広い憲法論議を丁寧に」/現憲法は国民に定着/「強すぎる参院」見直せ

【産経新聞】
(【主張】)「憲法施行72年 まず自衛隊明記が必要だ 国柄に沿う『天皇条文』運用を」/自衛隊と安保が守った/参院選で改憲を訴えよ
 https://www.sankei.com/column/news/190503/clm1905030002-n1.html

「憲法」と「象徴の責務」「国民の統合」~新天皇発言と象徴天皇制、在京紙報道の記録(5月2日付)

 「令和」改元初日の5月1日、即位した徳仁天皇は即位に伴うもろもろの行事をこなしました。2日付の東京発行の新聞各紙朝刊(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京の6紙)はいずれも引き続き、大きく報じています。各紙とも1面トップの記事は、新天皇が「即位後朝見の儀」で安倍晋三首相らを前に最初の「おことば」を述べたことを中心に報じました。その全文も6紙そろって1面に掲載しています。各紙の記事に、感じたことを書きとめておきます。

▽「憲法にのっとり」
 各紙の1面トップの記事の見出しを並べてみます。
・朝日「令和 幕開け」「陛下『国民に寄り添い象徴の責務果たす』」「即位後朝見の儀」
・毎日「『憲法にのっとり象徴の責務果たす』」「新天皇陛下 上皇さまに『感謝』」「即位後朝見の儀」
・読売「『国民を思い 象徴の責務果たす』」「天皇陛下 即位の儀式」「令和初日 列島祝福」
・日経「象徴の責務果たす」「天皇陛下 皇位継承の儀式」「『国民を思い 寄り添う』」
・産経「『国民を思い 寄り添う』」「天皇陛下 初のお言葉」「即位儀式 令和時代始まる」
・東京「『国民を思い 憲法にのっとり 象徴としての責務果たす』」「天皇陛下 初のお言葉」「即位後朝見の儀」
 朝日をのぞく5紙は天皇の文言を主見出しに取り、朝日もヨコの主見出しは「令和 幕開け」としたものの続くタテ見出しはやはり天皇の言葉です。平成の前天皇が象徴のありようを追求してきたことへの自負を示していたこともあって、新天皇が3代目となる「象徴」の地位を巡ってどんな言葉を発するかは、やはり最大のニュースだとの判断は、わたしもその通りだろうと思います。

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 ただ、6紙の見出しの取り方には差があります。特に「憲法にのっとり」と「憲法」に言及した部分を見出しに取り込んだのは、毎日、東京の2紙だけでした。前天皇は平成の代替わりの即位の際に「日本国憲法を守り」と口にしていた経緯があります。そうしたことも含めて、毎日新聞は3面の長文読みもの記事「クローズアップ」の中で、東京新聞も2面の同様の記事「核心」で、それぞれこの「憲法への言及」を詳しく取り上げました。朝日新聞は1面の見出しには取っていませんが、総合面で、前天皇と新天皇の「憲法」を巡る言い回しの違いを紹介する記事は掲載しています。
 では、前天皇の文言と比べて「日本国憲法」と「憲法」、「守り」と「のっとり」の違いに意味を見出すことに何らか意味はあるのでしょうか。直接、その点を巡ってではないのですが、日経新聞の井上亮・編集委員が署名記事(第2社会面)の中で「国事行為である朝見の儀のお言葉は内閣との調整で作られる。天皇の『思想』を深読みし過ぎると誤解のもとになる」と指摘していることが印象に残りました。

▽「ふわっとした国民統合」「強い統合能力」
 全体を通じて、やはり祝賀ムードにあふれた報道ぶりで、天皇制の課題の指摘といえば、皇位継承者の減少への対策ばかりという印象ですが、それでも象徴天皇制を考える上で読み応えのある記事もいくつかありました。キーワードは「国民の統合」かもしれません。
 一つは朝日新聞の2面(総合面)の企画記事「1条 憲法を考える」。「『皇室に親しみ』ふわっとした国民統合」の見出しで、被災者らに寄り添い、平和の大切さを訴えてきた前天皇夫妻に対し、国民の間に好感が広がったことについて、「これは、象徴天皇制や『国民統合』の理想モデルなのか」と疑問を投げ掛け、検証を試みています。
 もう一つは、東京新聞特報面の「平成流 共感広げ求心力/憲法の『行為』超え 祈り寄り添った30年余」のリポートです。前天皇が憲法に規定された国事行為のみならず、被災地訪問や慰霊の旅などの公的行為を熱心に続けたことを踏まえて、「人々の天皇に対する求心力を高めた。そうした意味で有能で歴史上、強い統合能力を持った天皇だった。平成は象徴天皇制が再編された時代だったといえる」との千本秀樹・筑波大名誉教授の指摘などを紹介。天皇の権威を政治が利用しようとする問題にも触れています。

▽5月1日はメーデー
 5月1日は新天皇即位と改元の日でしたが、メーデーでもありました。例年、連合系の集会やデモは前倒しで実施されており、1日は全労連系の集会、デモが各地で行われました。労働者の地位と処遇の向上は社会の問題でもあり、個人の生き方にとっても大きな問題です。「働き方改革」が課題になっている現在はなおさらです。大規模な集会やデモではないとしても、この日に労働者や労働組合から上がった声を紹介するのもマスメディアの重要な役割だろうと思います。東京発行の新聞各紙で見かけた関連記事についても、見出しや扱いの大きさを書きとめておきます。

 以下に、新天皇関係の各紙の主な記事の見出しを書きとめておきます。1面、総合面(2~3面)、社会面と社説・論説が対象です。社説・論説はサイト上で読めるものはリンクを張っておきます。
◎2019(令和元)年5月2日付朝刊
【朝日新聞】
・1面
「令和 幕開け」「陛下『国民に寄り添い象徴の責務果たす』」「即位後朝見の儀」
「天皇陛下のおことば(全文)」
「『ナルちゃんをよろしく』続く勉強会」
・2面
「『皇室に親しみ』ふわっとした国民統合」「被災者らに寄り添う姿 好感」「変わる社会 私たちも考える時」※カット「1条 憲法を考える」2
・3面
「皇族減少 対策不可避/皇位継承権 男系男子3人のみに/女性・女系議論 先送り続く」
「30年前『憲法を守り』今回『憲法にのっとり』/朝見の儀の『おことば』」
「『女性皇族の低い地位』指摘/上皇さまの慰霊訪問を紹介/海外メディア」
・4面 「憲法を考える 視点・論点・注目点」
「敗戦が生んだ条文はいま/日本・ドイツ・イタリア 根幹の理念に」
「1条 象徴天皇制 9条 戦争放棄/不可分の一対受け入れ/自衛隊の役割拡大 欠ける国民合意/『国民主権』考えるとき」
「ドイツ『人間の尊厳』 イタリア『社会権』/虐殺・ファシズム反省」
・社会面(21面)
「令和 笑顔晴れやか/皇后さま 東北の若者にエール」「勉強熱心 友に辞書頼む/ヘビもイモリも きちんとお世話」※カット・新天皇と新皇后
「子どもが安心して過ごせる時代に…」
「『初日』の御朱印求め10時間待ち」/「どすこい新元号」
※メーデー:5面(経済面)「『賃金増を』各地でメーデー」見出し2段
※社説は「阪神支局事件」「南北会談1年」の2本

【毎日新聞】
・1面
「『憲法にのっとり象徴の責務果たす』」「新天皇陛下 上皇さまに『感謝』」「即位後朝見の儀」
「新天皇陛下おことば全文」
・2面
「急がれる継承議論」「男系での維持 不安定」/「保守派は『女系』反対」「検討 政治日程が影響」
・3面
CUクローズアップ「晴れやか代替わり」「国民に寄り添う 不変」「服喪なく祝賀ムード」※図解「天皇陛下のおことば・平成と令和の比較」
ミニ論点「平成の実績継ぐ決意」高村薫さん(作家)/「より良い時代へ願い」河西秀哉さん(名古屋大大学院准教授)
・社会面(20、21面)
見開き見出し「令和元年 夢語る」「穏やかな世 願い」
「皇居前 祝の人波」/「余裕あった儀式/祝賀一色いいか 識者の見方」
「福島・広野『被災地 力一つ』」/「伊勢の舞姫華やか」/「関取衆『相撲に来て』」/「漁師みこし『平和が一番』」/「名古屋『3元号』結婚式」/「侍従長『力尽くしお支え』」
(第2社会面)
「『新皇后さま 自然体で』/ゆかりの方々」
「新陛下 皇居へ『通勤』/前天皇ご夫妻 引っ越しまで」
「本紙が号外配布」※3万2千部、都内4カ所
■社説「新天皇陛下が即位 令和の象徴像に期待する」/国際的な視点生かして/「女性・女系」論が焦点
https://mainichi.jp/articles/20190502/ddm/005/070/033000c
※メーデー:社会面(21面)「全労連メーデー 改元の日に実施 『100年の伝統重視』」見出し1段
※社会面「令和初日 水俣病慰霊/即位配慮 市式典は延期」見出し2段、写真

【読売新聞】
・1面
「『国民を思い 象徴の責務果たす』」「天皇陛下 即位の儀式」「令和初日 列島祝福」
「朝見の儀 天皇陛下お言葉」
・2面
「即位 輝く品々」
「令和元年 外交目白押し/10月即位礼 195か国元首招待」
・3面
スキャナー「『象徴』の形 承継の思い」「1分40秒『研鑚』の決意」「皇后さま全行事に出席」
・社会面(28、29面)※第3社会面(27面)にも関連記事
見開き見出し「幕開け 華やかに」「若者 飛躍を誓う」
「沿道 平和願う人波」/「令和の産声 平成元年生まれ夫婦に」
(第2社会面)
「五輪で『金』目標に」フィギュアスケート紀平梨花選手(16)/「世界への最善手打つ」女流三冠の囲碁棋士・藤沢里菜さん(20)/「社会変える技術 作る」IT企業CEO山内奏人さん(18)
「お祝い にぎやか 和やか」/「本紙号外120万部 特別夕刊も」※全国
■社説「新天皇の即位 時代の幕開けを共に祝いたい 象徴の在り方の承継と模索と」/国民とのふれ合い重視/知見の活用期待される/天皇・皇嗣への支えを
https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20190501-OYT1T50328/
※12~20面 保存用特別面
※メーデー:第3社会面「メーデー 全国で集会」※短信13行

【日経新聞】
・1面
「象徴の責務果たす」「天皇陛下 皇位継承の儀式」「『国民を思い 寄り添う』」/お言葉全文
「秋篠宮さま 皇嗣に/皇位継承1位 2位は悠仁さま」
・2面
「安定継承 議論へ/女性・女系天皇や女性宮家/首相は慎重姿勢」
「皇太子と同等の待遇、負担も/秋篠宮さまが皇嗣に」
・3面
「新時代の象徴 模索」「上皇さまの姿 自己研さん/初のお言葉 にじむ決意」
「内向き政治やめ改革を」丸谷浩史政治部長:新時代の日本へ1
・社会面(27面)
「令和 元気に強く」「5月1日生まれの赤ちゃん『縁起いい』『同じ元年』」
「改元に沸く街」「百貨店で『福売り』福袋/新元号婚に臨時窓口/御朱印求め『10時間待ち』/記念押印『1.5.1』」
「家族で遊園地/ハーフマラソンに挑戦/初日どう過ごした」
・第2社会面(26面)
「ゆかりの地 感慨浸る」「あふれる人、祝賀ムード/万葉集の宴で和やかに/雨中の参拝、新時代祈る/伝統の祭り みこし巡業」※皇居、太宰府、伊勢神宮、京都
「寄り添い方、時代に合わせ/天皇陛下お言葉」井上亮・編集委員
■社説「令和のニッポン 人口危機の克服に総動員で臨もう」/不安定雇用を減らせ/外国人政策、正面から

【産経新聞】
・1面
「『国民を思い 寄り添う』」「天皇陛下 初のお言葉」「即位儀式 令和時代始まる」
「天皇陛下 お言葉全文」
令和に寄せて「新しい歴史創造への決意を」作家 石原慎太郎
・2面
「『令和』初日 厳かに」「儀式の裁可など ご公務開始」
「威厳ある お二人の姿に感銘/首相インタビュー」
・3面
「皇位継承 歴史の重み」「女性宮家創設には問題」「宮内庁参与の人事 注目/皇室重要事項で天皇に助言」
「世界の水問題 ライフワークに」※カット「象徴 次代へ 継承のかたち」2
・社会面(22、23面)※第3社会面にも関連記事
見開き見出し「『幸せと発展望む』」「新時代 踏み出す」
「天皇陛下 自己研鑚ご決意」
「『優しいお気遣い』『国際的ご活躍を』/両陛下ゆかりの人々」
「令和 記念求め/本紙の号外 都内で配布」※6700部、都内5カ所
(第2社会面)
「各地で笑顔の門出」「あやかり商法 大盤振る舞い」
■社説(「主張」)「天皇陛下ご即位 新時代のご決意支えたい 伝統踏まえ安定継承の確立を」/心から感謝申し上げる/悠仁さまの警護万全に
https://www.sankei.com/column/news/190502/clm1905020002-n1.html

【東京新聞】
・1面
「『国民を思い 憲法にのっとり 象徴としての責務果たす』」「天皇陛下 初のお言葉」「即位後朝見の儀」/お言葉全文
「『歴史のなさりよう』心に」※カット「新時代の皇室」1
・2面
核心「国民と平和と 思い寄せ」「陛下お言葉をひもとく」「皇室のあり方 追い求め」
・3面
代替わり考「承継の儀に国費支出」賛否・識者4人
「承継の儀 前例を踏襲/女性皇族出席せず/女性閣僚は参列」
「皇位継承『男系の重み』/菅官房長官 強調」
・特報面(20、21面)
「憲法の『行為』超え 祈り寄り添った30年余/平成流 共感広げ求心力/象徴天皇を考える」「強まる権威に危うさ/自民改憲草案では『元首』 政治利用の懸念も」「あるべき姿―主権者の国民が考える時」
・社会面(22、23面)
見開き見出し「新たな時 ここから」「平和願い ともに」
「『令和婚』ラッシュ・京王の臨時列車満席」「御朱印10時間待ち・皇后さまに歓声」「焼き印どら焼き無料・銀座などデモ」※ドキュメント改元
(第2社会面)
「50代 天皇陛下・皇后さま世代 子どもや孫と平穏に」「80代 上皇さま・上皇后さま世代 国民の心の支えに」「10代 愛子さま世代 女性の継承 議論を」※3世代 お言葉こう聞いた
「ネットでは『令和実感』『お言葉に感動』/『生活良くなるわけでは…』冷めた声も」
■社説「平和への祈りは続く 天皇と憲法4」/戦争放棄は日本側から/念頭から離れない遺族/戦争の記憶を伝える
https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2019050202000146.html
※メーデー:社会面ドキュメントにひとコマ6行、ほかに「山谷デモ」8行、銀座で天皇制反対デモ9行