ニュース・ワーカー2

組織ジャーナリズムに身を置き40年余

「気付きの機会つくろう」(沖縄タイムス) 「平和への一歩刻む日に」(琉球新報)~6月23日「慰霊の日」 沖縄2紙の社説

 6月23日は沖縄の「慰霊の日」です。第2次大戦末期の1945年のこの日、沖縄の地上戦は日本軍の組織的戦闘が終結したとされます。例年、沖縄県糸満市摩文仁の平和祈念公園で、県と県議会主催の沖縄全戦没者追悼式が行われるほか、県内各地で沖縄戦の犠牲者を追悼する催しが営まれます。

 沖縄の地元紙である沖縄タイムスと琉球新報の23日付の社説を一部引用して書きとめておきます。
▼沖縄タイムス
「[慰霊の日に]気付きの機会つくろう」
 http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/271857

 「戦争の時は、健康ほどいいものはないですよ」
 沖縄愛楽園(名護市済井出)の入所者がさりげなく語ったこのひとことは、聞く者に重く突き刺さる。
 日本軍は米軍上陸を控え、在宅のハンセン病患者を強制的に愛楽園に収容した。450人の定員がたちまち913人に膨れ上がる。
 劣悪な環境の下で防空壕づくりに従事させられ、マラリアや栄養失調などで亡くなる者が相次いだ。
 訪れる機会の少ない愛楽園の資料館を見学し、資料や証言などを通して戦争の実相に触れることは、「気付き」に満ちた体験となるだろう。
 平和教育も平和学習も慰霊行進に参加することも「気付き」の第一歩である。
 (中略)
 上からの押しつけによって知識を詰め込むのではなく、ことりと胸に落ちる経験を大切にする。平和教育や平和学習に対するマンネリ感に向き合わなければ若い人たちの「沖縄戦離れ」を食い止めるのは難しい。 

 ▼琉球新報
「慰霊の日 平和への一歩刻む日に」
 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-744609.html 

 毎年の慰霊の日に、私たちは沖縄戦の犠牲者を悼み、基地のない平和な沖縄の実現を希求してきた。県民の願いが今年ほど具体性を帯びたことはなかったであろう。
 私たちは沖縄全戦没者追悼式における安倍晋三首相の発言に注目している。米朝首脳会談における共同宣言、米韓合同軍事演習中止を踏まえ、沖縄の米軍基地負担の是正に向けた方策を提示すべきだ。
 残念ながら政府は県民の願いとは逆の方向に突き進んでいる。辺野古新基地に関して沖縄防衛局は8月17日に土砂を投入すると県に通知した。実行に移せば、大浦湾の生物多様性は取り返しがつかないほど破壊される。
 宮古、八重山では住民意思が二分する中で陸上自衛隊配備が進められている。軍事的緊張を高める可能性は十分にある。住民の住環境への影響も出てこよう。
 そして憲法である。憲法9条の改正を目指す安倍首相は今年3月の自民党大会で「憲法にしっかりと自衛隊を明記し、違憲論争に終止符を打とう」と宣言した。灰燼(かいじん)に帰した国土の中から日本国民が手にした財産の一つである平和憲法の条文が改められようとしている。
 朝鮮半島の緊張緩和が現実味を帯びている今、日本はどの方向へ向かうのか。慰霊の日に見定め、沖縄が進むべき道を改めて確認したい。 

 東京発行の新聞各紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京)の朝刊紙面では、朝日と読売が1面に写真とともに関連記事を掲載しました。朝日はろうそくの火で「平和」の字が灯された平和祈念公園の写真で見出しは「祈り届け きょう沖縄慰霊の日」。読売は平和祈念公園の前夜祭で、位牌に見立てた5本の青い光線が夜空に放たれている写真で、見出しは「沖縄の祈り 天まで届け」です。東京新聞は2面に「沖縄きょう慰霊の日」の記事と写真を掲載しました。社説の掲載は以下の通りでした。
・朝日新聞「沖縄慰霊の日 苦難の歴史に向きあう」
・毎日新聞「きょう沖縄慰霊の日 本土との溝をどうするか」

 ほかに在京紙では以下の社説が目に止まりました。
・朝日新聞「参考人にやじ 言論の府をおとしめた」
・毎日新聞「参考人への非常識なやじ 品位なき議員には懲罰を」
・読売新聞「陸上型イージス 配備の意義を丁寧に訴えたい」
・産経新聞「ミサイル避難訓練 中止で国民を守れるのか」
・東京新聞(中日新聞)「地上イージス 導入は見直すべきだ」

お知らせ:MICが7月1日、メディアで働く女性のための緊急セクハラ110番

メディア業界の労働組合でつくる日本マスコミ文化情報労組会議(略称MIC)が7月1日、メディアで働く女性のための緊急セクハラ110番を実施します。以下は新聞労連のホームページから。

 ※ http://www.shinbunroren.or.jp/oshirase2/oshirase2.htm#20180621_26940

 メディアで働く女性のための緊急セクハラ110番実施 ~女性弁護士らによる電話相談~
 
 メディア業界の労働組合でつくる日本マスコミ文化情報労組会議(略称:MIC、議長:小林基秀新聞労連中央執行委員長、*下記参照)は、女性弁護士グループ「日本労働弁護団・女性労働プロジェクトチーム(PT)」(代表 長谷川悠美弁護士)の協力のもと、メディアで働く女性のための緊急セクハラ110番を初めて実施します。

*新聞労連、民放労連、出版労連、全印総連、広告労協、映演労連、映演共闘、音楽家ユニオン、電算労の九つの産業別労働組合がつくる団体。

 概要は次の通りです。

◆実施日:2018年7月1日(日)午前10時~午後3時
◆対象者:メディア・マスコミで働く女性
◆相談の受け手:女性弁護士約10人
◆相談の受付電話番号:03-5842-2201
◆目的:①全国のメディア・マスコミ業界で働く女性のセクハラ被害の実態を把握
②個別被害の解決につなげる

◆経緯:前財務事務次官による女性記者へのセクシュアルハラスメント事案が明らかになった今年4月、新聞労連が開いた「全国女性集会」(全国29単組から男女53人参加)では、深刻な被害実態などが報告され、改善策について知恵を出しあいました。その声をもとに、参加者自身が「#MeToo」運動を自らの身に引きつけて「このような状況を見過ごし、受け入れることはできない。こんな不条理や屈辱はもう終わりにしよう」と呼びかける緊急アピール文を採択。他のメディア労組との連携も模索してきました。5月には、セクハラに対する断固抗議の表明と実態調査の実施を日本新聞協会に申し入れました。

 並行して、各メディアや各労組では、メディアで働く女性のセクハラ被害の実態調査が行われています。その結果、実態として共通しているのは、▽誰にも相談できず一人で抱え込む▽「セクハラをなかったこと」としてやりすごす▽「いなし方」を後輩に伝授する――など、女性らが自らを責め、孤立している姿でした。相談体制を整備している会社でも噂が広がったり、訴えると個人の特定につながったりするなどの2次被害もあり、簡単に解決できない状況です。

 国民の知る権利に奉仕するマスメディアの現場で、力の差を利用したセクハラという人権侵害が容認されている現状をなくし、男女ともに働きやすい職場環境をつくっていくために、今回、2008年からセクハラ被害対策に取り組んでいる日本労働弁護団女性労働PTの協力を得ることになりました。同PTは月2回、「働く女性のためのホットライン」を開設。過去には「マタハラ全国ホットライン」「ワーキングママのためのホットライン」を開いています。

 ※追記 2018年7月2日8時20分

 7月1日に実施した電話相談の概要をMICが公表しています。ブログで紹介しました。

MIC「メディアで働く女性のための緊急セクハラ110番」の相談事例 - ニュース・ワーカー2

ありえないことを持ち出し「もしあったら辞職する」と強弁したに等しい安倍首相~毎日新聞「首相の答弁 論理破綻 矛盾する『贈収賄の文脈』 昭恵氏は私人 罪問えず」

 6月16日(土)付の毎日新聞朝刊(手元にあるのは東京本社発行の14版です)の社会面準トップに「首相の答弁 論理破綻/矛盾する『贈収賄の文脈』/昭恵氏は私人 罪問えず」との見出しの記事がありました。その通りだと感じることが多い記事ですので、備忘を兼ねてリードを引用して書きとめておきます。サイトでは有料記事のようです。 

 https://mainichi.jp/articles/20180616/ddm/041/040/120000c 

<access>

 「私や妻が関係していたら首相も国会議員も辞める」。森友学園への国有地売却を巡る昨年2月の安倍晋三首相答弁。公文書の改ざんや廃棄の出発点とも指摘されてきたが、首相は今年5月に「関係する」の意味は贈収賄の文脈だったと国会で説明し、政府は今月、これを認める答弁書を閣議決定までした。でも、その説明に無理はありませんか?【宇多川はるか】 

 記事によると、安倍晋三首相は昨年2月、森友学園への国有地売却に自身や昭恵夫人が関与していたら首相も国会議員も辞めると答弁。ところが今年5月28日の参院予算委員会では、これは贈収賄ではないという文脈だったとし、「不正というのは、例えば金品の授受をして行政に『政策を変えろ』ということだ」と主張しました。この点について毎日新聞は、元検事の郷原信郎弁護士に取材し、首相の妻は公務員ではなく贈収賄に問われる行為者ではないこと、「金品の授受」がなくても供応接待があって職務上の便宜供与が行われたら贈収賄が成立する可能性があることの2点の指摘を紹介しています。

 5月28日の安倍首相の答弁については、他の報道を見ても、例えば共同通信は「安倍晋三首相は28日午後の衆院予算委員会の集中審議で、学校法人『森友学園』への国有地売却を巡る自身や昭恵首相夫人の『関与』について『お金のやりとりがあって頼まれて行政に働き掛けた、という意味での関わりはない』と説明した。これまで否定してきた『関与』を贈収賄に問われるような範囲に狭めて軌道修正した格好だ」と伝えています。安倍首相の答弁を常識的に解釈すれば、昨年2月の前言を修正して、贈収賄に問われるような金品のやり取りが森友との間になければ、関与したことにはならないと強弁したと受け取るのが自然でしょう。

 その一方で、昭恵夫人の立場については、昨年3月に「私人」との答弁書が閣議決定されています。そもそも私人に贈収賄を適用するのは無理で、昭恵夫人については「贈収賄はないのだから関与はなかった」と主張するのは、言い方を変えれば、絶対にありえないこと(「太陽が西から昇って東に沈む」でも何でもいいのですが)を持ち出して、もしそういうことがあったら辞職すると言っているに等しいことになります。

 まさに、毎日新聞の記事が指摘するように論理破たんだと思います。森友学園の問題や加計学園の問題に対して「いつまでモリカケをやっているのか」との批判がありますが、その批判に与することは、この破たんしている安倍首相の主張を支持することに通じるのではないかと思います。ただ、野党も本来は、安倍首相が「お金のやり取りうんぬん」を口にしたその場で、この破たんを突くべきだっただろうとも思いますし、マスメディアも安倍首相の答弁を報じるにとどまらず、踏み込んで矛盾を指摘するのも役割の一つだろうと思います。

 共同通信が16~17日に実施した電話世論調査の結果によると、内閣支持率は前回調査から6・0ポイント増加し44・9%となり、不支持率43・2%をわずかに上回ったようですが、森友学園の問題を巡っては「財務省が決裁文書改ざんの関係者を処分したことで、森友問題は決着したとの回答は15・7%、決着していないは78・5%に上った」とのことです。これでは「いつまでもモリカケやらざるを得ない」(プチ鹿島さん)状況です。

※47news=共同通信「森友問題は未決着78% 非核化困難77%、共同通信調査」2018年6月17日

this.kiji.is

 

※参考:文春オンライン「『いつまでモリカケ』論 新聞読み比べで分かった“それでもモリカケする”理由 モリカケは、外交にもつながる問題ということ」2018年6月15日

bunshun.jp

懸念はあっても希望を失わない~米朝首脳会談、在京紙の報道の記録

 史上初めての米朝首脳会談となるトランプ米大統領と北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長の会談が6月12日、シンガポールで行われ、両首脳が共同文書に署名しました。日本人拉致問題にも直接、影響することもあって、日本のマスメディアも大きく報じています。東京発行の新聞6紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京)はいずれも13日付朝刊で1面、総合面、国際面、オピニオン(社説や識者の論評)、社会面を通じて大量の記事を掲載しました。会談と共同文書については、北朝鮮の核開発を巡って米国が掲げていた「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」が明記されなかったことから、従来の域を超えるものではなく、北朝鮮が本当に完全な非核化を達成するのか、トランプ大統領は譲歩し過ぎではないか、といった厳しい指摘が米メディアでも紹介されているようです。在京各紙の紙面も、全体としても、また個々の各紙としても、会談の歴史的意義に対する評価と、北朝鮮の非核化に対する懸念とが二分というよりも、懸念が評価を上回っている印象を持ちました。
 ここでは、在京各紙の1面の記事の見出しと総合面の見開きの見出し、編集責任者や外信部長らの署名評論と社説の見出しを書きとめておきます。

 わたし自身は、会談と合意文書の意義について、これまでの北朝鮮の核問題の経緯に鑑みれば懸念はもっともと思いつつ、それを上回って、これからの朝鮮半島と北東アジア情勢に希望を見出し得る、希望を失わずにすむと受け止めています。北朝鮮がミサイル発射を繰り返したあげく、6回目の核実験を行ったのは昨年9月3日のことでした。安倍晋三首相が少子化社会とともに北朝鮮の核問題を「国難」と呼んで危機をあおり立てて衆院を解散したのは同月28日です。年が明ければ、米軍が北朝鮮の攻撃に踏み切る可能性がある、といった報道すらありました。あれからわずか1年もたたずに、当面は戦争の危機が去ったと実感できるようになりました。今後も紆余曲折はあるのでしょうが、平和を永続させるために、日本を含めて国際社会が英知を集める時だと思います。
 敬意とともに思い起こされるのは、韓国の文在寅大統領の朝鮮半島の平和への強い思いです。日本で「国難」が叫ばれるような緊張状態の高まりの中でも、「朝鮮半島で二度と戦争は起こさせない」と言い続けていました。文氏への韓国の人たちの支持がある限り、北朝鮮の非核化と永続する平和への希望は失われることはないと思います。平和であればこそ、様々な懸案も解決を期待できます。 

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【朝日新聞】
1面本記「正恩氏『非核化』を約束/期限・具体策に触れず/トランプ氏『体制保証』/朝鮮戦争終結盛らず/米朝共同声明」
1面「米『拉致問題を提起』」
2・3面見出し「非核化 あいまい合意/異端の2人 成果強調」
2面「自賛の合意 軽率な譲歩に不安」坂尻信義・国際報道部長
社説「初の米朝首脳会談 非核化への重大な責任」過去の教訓に学べ/人権問題の監視を/日本、積極関与の時

【毎日新聞】
1面本記「北朝鮮『完全非核化』約束/共同声明 具体策盛らず/米、体制を保証/史上初 首脳会談」/「トランプ氏『拉致提起』」
1面「ここから先が長い」澤田克己・外信部長
2・3面見出し「米朝 会談を最優先/日本 安保なお不安」
社説「史上初の米朝首脳会談 後戻りさせない転換点に」非核化の担保が不十分/トランプ流の危うさ

【読売新聞】
1面本記「米朝『非核化』確認/初の首脳会談 共同声明/具体策は示さず/北の体制保証/トランプ氏 日本人拉致提起」
1面「首相 正恩氏と会談意欲」
2・3面見出し「非核化 課題多く/北の姿勢 見極め」
2面「正念場はここから」広瀬英治・国際部長
社説「米朝首脳会談 北の核放棄実現へ交渉続けよ 『和平』ムード先行を警戒したい」合意は具体性に欠ける/圧力の維持が必要だ/日朝会談の環境整備を

【日経新聞】
1面本記「米朝『完全非核化』確認/体制保証を約束/時期や検証 先送り/共同声明/朝鮮戦争終結 盛らず」
1面「『拉致を提起』トランプ氏」
1面「半島の激変に備えを」内山清行・チーフエディター
2・3面見出し「非核化 時間稼ぎ懸念/米朝 敵対解消を演出」
社説「米朝が真に新たな歴史を刻むには」北の完全な核放棄促せ/拉致解決は日朝首脳で

【産経新聞】
1面本記「北、検証なき半島非核化/米は体制保証表明/米朝会談 共同声明/米韓演習中止 首脳相互訪問 ミサイル実験場破壊」/「日米韓外相が会談へ」
1面「背中に手…主導権争い」
1面「トランプ氏 拉致提起/首相『北と直接向き合う』」
1面「それでもショーは続く」乾正人・執行役員東京編集局長
2・3面見出し「制裁圧力なお切り札/朝鮮戦争終結に言及」
社説(「主張」)「米朝首脳会談 不完全な合意を危惧する 真の核放棄につながるのか」/「前のめり」は戒めたい/拉致めぐる情報生かせ

【東京新聞】
1面本記「北、完全非核化署名/具体策示されず 米『体制保証』/初の首脳会談 共同声明/トランプ氏『拉致問題提起』」
1面「拙速だった『歴史的会談』」久留信一・外報部長
2・3面見出し「『拉致』正恩氏の反応不明/不完全な完全非核化」
社説「米朝首脳会談 非核化の意思を現実に」対立から対話への転換/今後の見通しは不透明/日本も首脳会談目指せ

※追記 2018年6月16日7時40分
 当初、サブタイトルを打ち間違え、「日朝首脳会談」となっていました。「米朝首脳会談」に訂正しましたが、フェイスブックへのリンクなどでは「日朝」のまま表示されてしまうようです。

安倍内閣支持層は「モリカケ」に関心ない(毎日新聞調査)~支持率が4割~3割で下げ止まる理由

 全国紙の新聞社や通信社、NHK、民放各局はおおむね月に1回、定例の電話世論調査を行っています。各社とも最初に訪ねるのが、現在の内閣を支持するかどうかの内閣支持率です。5月の世論調査の安倍晋三内閣の支持率は、目に止まったところでは以下のようでした。

※カッコ内は4月調査比、「P」はポイント
※1月以降の安倍内閣支持率の推移は以下にまとめています 

安倍晋三内閣の支持率の推移(2018年1月~) ※随時更新 - ニュース・ワーカー2

▼毎日新聞 5月26、27日実施
 「支持」31%(1P増) 「不支持」48%(1P減) 「関心がない」19%(1P減)
▼日経新聞・テレビ東京 5月25~27日実施
 「支持」42%(1P減) 「不支持」53%(2P増)
▼朝日新聞 5月19、20日実施
 「支持」36%(5P増) 「不支持」44%(8P減)
▼産経新聞・FNN(フジテレビ系列) 5月19、20日実施
 「支持」39・8%(1・5P増) 「不支持」48・5%(5・6P減)
▼ANN(テレビ朝日系列) 5月19、20日実施
 「支持」34・1%(5・1P増) 「不支持」51・1%(4・1P減)
▼読売新聞 5月18~20日実施
 「支持」42%(3P増) 「不支持」47%(6P減)
▼共同通信 5月12、13日実施
 「支持」38・9%(1・9P増) 「不支持」50・3%(2・3P減)
▼JNN(TBS系列) 5月12、13日
 「支持」40・6%(0・6P増) 「不支持」57・7%(0・7P減)
▼NHK 5月11~13日
 「支持」37・8%(0・1P増) 「不支持」43・5%(1・0P減)

 いずれの調査結果も「不支持」が「支持」を上回ってはいますが、支持率は増加ないしは横ばい。水準としては42~31%です。ひところに比べれば支持率は下がったとはいえ、4割~3割の人は安倍内閣を支持し、これ以上の支持率の低下は見られない、という状況です。
 一方で、これはこのブログの以前の記事でも触れたことですが、個別の質問と回答状況を見ていくと、加計学園、森友学園や財務省のセクハラ問題などでは厳しい見方が示されています。一例を挙げれば、加計学園の獣医学部新設を巡って、朝日新聞の5月19、20両日の調査では、疑惑は晴れたと思うかとの質問に「晴れた」と答えたのはわずか6%なのに対し、「晴れていない」は83%にも上ります。その1週間前のJNNの調査でも、74%が「疑惑は深まった」と答えています。いちばん直近の毎日新聞の調査でもこのことは変わりがなく、安倍首相が2015年2月に加計学園の加計孝太郎理事長と面会して獣医学部新設計画の説明を受けていたとの愛媛県文書の記載に対し、学園の構想を知ったのは17年1月だったとする首相の説明については「信用できない」との回答が70%に上った一方で、「信用できる」は14%にとどまりました。

news-worker.hatenablog.com

  加計学園の獣医学部新設問題で言えば、安倍首相の主張へ理解を示す人は2割にも満たないのに、内閣支持率となると4割ないし3割で下げ止まるのはなぜなのか。なぜ両者は連動しないのか。上記の過去記事では、わたしは仮説として「安倍政権が政治倫理面でタガが外れているように思えても、『自民1強』支持の世論は固く、そのことが結果的に『安倍1強』を持続させているのではないか」と書きました。
 その後、毎日新聞が世論調査結果を分析した記事の中で「なるほど」と思えるデータを紹介しているのを目にしました。紙面では5月29日付朝刊5面(東京本社版)に掲載されている「内閣支持 反転険しく/今月横ばい 自民支持層 鈍い回復」の見出しの記事です。見出しにあるように、記事の大意は、内閣支持率は下げ止まったものの、「詳細に分析すると、不支持が支持を上回る状況はなかなか変わりそうにない」ということです。その大きな要因は、自民支持層の中の内閣支持率が以前の水準までには回復していないことだと指摘しています。ちょっと分かりにくいかもしれませんが、論点を整理すると、以下の通りです。内閣支持率が不支持率を再逆転するのは難しそうだが、だからといって、支持率が下がり続けるわけでもないのはどうしてか―。
 この記事の中に、内閣支持層と不支持層の回答状況を比較した興味深いデータが紹介されています。今の政治で最も重視する課題を10項目から選んでもらったところ、内閣支持層、不支持層とも最多は「年金・医療」(内閣支持層は24%、不支持層は32%)で同じでした。しかし「森友学園と加計学園の問題」は、内閣不支持層は9%で4位だったのに対し、内閣支持層は0%。つまり安倍内閣を支持する人にとっては、「モリカケ」への関心は極めて低いということです。ちなみに不支持層の2位は原発・エネルギー政策12%、3位は子育て支援11%。支持層の2位以下は子育て支援15%、安全保障関連法11%、アベノミクス9%とのことです。
 これはつまり、こういうことなのではないかと感じます。安倍内閣を支持する人たちは、個別の質問では、やはり安倍首相の答弁には無理があることは否定できないので疑惑は「深まった」「晴れていない」、首相の説明は「信用できない」と答えることもあります。しかし、そもそも関心がないので、安倍内閣を支持するかどうかの判断にはまったく影響がない。「モリカケ」よりは安全保障や株価でしょ、と考えている―。安倍内閣の支持が4割から3割で下げ止まるということは、言い方を変えれば、この社会の4割から3割の人たちは「モリカケ」に関心がない、ないしは関心は極めて低いということでもあるのだろうと思います。以上も、もちろん仮説です。
 森友学園への国有地売却、加計学園の獣医学部新設を巡って、安倍政権下で起こっていることは、民主主義の根幹に関わることです。疑惑がすべて解明されたわけでもありません。マスメディアの課題ということで言えば、やはり故原寿雄さんの「ジャーナリズムはマンネリズムとの戦い」ということに行き着くように思います。粘り強く、何があったのか、何が起きているのかを探り、報じていくしかありません。

 

【追記】2018年6月11日8時15分

 当初、タイトルを「安倍内閣支持層は『モリカケ』に関心ゼロ(毎日新聞調査)~支持率が4割~3割で下げ止まる理由」と、「関心ゼロ」としてアップしましたが「関心ない」に差し替えました。毎日新聞の調査では、最も重視する課題を一つ選ぶことになっており、内閣支持層で「モリカケ」を選んだ人はゼロですが、他の項目を選んだ人でも、複数回答が可能なら2番目、3番目の関心事項に入った可能性はあるかもしれません。「ゼロ」と言い切る表現はちょっときつかったと思います。ただ、「モリカケ」を選んだ人が9%いる内閣不支持層との違いは明らかですので「関心ない」としています。

起訴せずに済む理由ばかり集めたのか? 森友問題「38人不起訴」

 前回の記事の続きになります。少し時間がたちましたが、備忘も兼ねて書いておきます。
 森友学園への国有地売却を巡っては、虚偽公文書作成や背任などの疑いで告発を受け捜査していた大阪地検特捜部が、財務省の調査結果と処分の発表より一足早く5月31日に、佐川宣寿・前財務省理財局長(前国税庁長官)ら捜査対象になった財務省職員ら38人全員の不起訴を発表しました。
 大阪地検では、不起訴のケースでは異例のことながら、特捜部長が記者たちの取材に対応しましたが、不起訴の理由については踏み込んだ説明はなかったようです。マスメディアの報道は、検察内部には、公文書改ざんなどの悪質さを重視して起訴するべきだ、との声もあったと伝えています。大阪地検の結論には「起訴しないで済む理由ばかり集めたな」ということを感じます。
 疑惑の全体像は、森友学園が安倍昭恵氏と特別な関係にあると財務省に強調して、破格の有利な条件で国有地を手に入れたのではないか、ということです。しかし公文書改ざんなどの不正によって、安倍昭恵氏という疑惑の肝の部分が見えなくなり、全体像の印象がまったく変わってしまいました。理財局長の国会でのウソも正当化していました。公文書改ざんは、主権者である国民が国のありようについて情報を得る、検証することを不可能にしてしまう行為であり、民主主義社会を土台から破壊するに等しい不正です。そうした点を重視するなら、類似の前例がなく有罪確実と見込めないにせよ、また38人の一部に絞り込むにせよ、起訴して裁判所の判断を仰ぐ選択肢は十分にあったはずです。今後のモデル事例にもなったはずです。その道を取らなかったのは、検察自身が何事かをおそれたからでしょう。検察庁といえども法務省とともに政府機構の一員です。安倍政権への忖度があったのかもしれませんし、官僚機構同士の財務省への配慮かもしれません。
 検察の権限は抑制的な行使が望ましいのはその通りだと思いますが、今回は権力機構の疑惑で、私人の事件とは異なります。起訴して、公判で事実経過が明らかにされていけば、不正行為に手を染めていたとはいえ、組織の論理でそれを拒むことができなかった人たちの中に、救われる人が出てくるのではないかと思います。何より、自ら命を絶った人がいました。彼も浮かばれたのではないか―。そう思うと、この不起訴は残念ですし、罪深いとさえ思えます。
 30年近く前になりますが、かつて東京で司法分野の取材を担当しました。当時、特捜検察の中には、事実の枝葉ではなくまず大きな幹を見据える検事がいました。「本当に悪い奴はだれか」「どうすれば本当に悪い奴を有罪にし、処罰を受けさせることができるか」。そうした発想が捜査を通じてありました。後に特捜検察は証拠を恣意的にいじるところまで堕落しました(2010年に発覚した大阪地検特捜部の証拠改ざん事件)が、ずっと以前にはそうした骨の太い特捜検察がありました。
 以前の記事でも書きましたが、リニア談合の捜査では、特捜検察の尊大さが再び頭をもたげてきたように感じました。今度は、政治的な忖度が疑われる事態です。今や再び、特捜検察はろくなものではない、という気がしてなりません。東京地検特捜部が6月5日に神戸製鋼所の品質データ改ざん問題で強制捜査に入ったことに対し、立憲民主党の枝野幸男代表が同日、1人も起訴しなかった森友問題と対比して「官尊民卑の検察、特捜部なら、こんな特捜部は要らないと言わざるを得ない」と述べたとの報道を目にしました。データ改ざんでは、ほかにも不正はあるのに、なぜ神戸製鋼所か、との指摘もあります。確かに、特捜検察はなくても別に困りません。必要なのは、法と証拠に基づいてきちんと仕事をする検察官です。

 この「全38人を不起訴」について、東京発行の新聞各紙は翌6月1日付朝刊では朝日、毎日、読売、産経、東京が1面トップ。日経新聞は3面でした。主な記事の見出しを書きとめておきます。

f:id:news-worker:20180604085848j:plain

【朝日新聞】
▼1面
トップ「佐川氏ら38人全員不起訴/森友 改ざん・背任容疑 大阪地検」
「なお疑惑 幕引き許されない」杉林浩典・大阪社会部長
「佐川氏は『停職相当』/退職金減額へ 財務省『改ざん黙認』」
▼2面
時時刻刻「森友疑惑『真相』語られず/地検『お答えできぬ』連発」「『政治家関与』も説明なし」「検察内部にも温度差」
解説「国民への説明 足りぬ地検」
▼3面
「野党、佐川氏再喚問要求へ/麻生財務相の責任追及/自民拒否、区切りを狙う」
▼社会面(34~35面)
トップ「『証拠ある』なぜ不起訴」「『検察も忖度』告発の弁護士/検審に申し立てへ」「『予想通り』『処分しっかり』」
「陳皮な理屈だ 国民への誤ったメッセージ」元検事の落合洋司弁護士/「国会で議論を 国の損害 認めるのは難しい」元検事の高井康行弁護士/「信用失墜行為 財務省に客観性期待できず」元自治官僚で前鳥取県知事の片山善博早大教授
▼社説「佐川氏不起訴 これで決着とはならぬ」

【毎日新聞】
▼1面
トップ「森友問題38人不起訴/大阪地検 佐川氏責任問えず」
「佐川氏は停職相当/財務省週明け処分 改ざん指示」
連載企画「深層森友」(上)「手書きで『削除指示』」
▼3面
クローズアップ「地検 疑惑切り込めず/佐川氏ら不起訴に」「焦点は財務省調査に」「強まる麻生氏責任論」
▼社会面(29面)
トップ「『闇に葬らせない』/追及の市議ら怒り」
「次の舞台は検審に/処分不服 来週にも申し立て」
▼社説「森友文書改ざんで不起訴 国民を欺いた罪は消えぬ」

【読売新聞】
▼1面
トップ「佐川氏ら全38人不起訴/大阪地検 改ざん・背任容疑/森友問題」
「財務省 説明尽くす責任」/「理財局幹部ら 4日にも処分」
▼2面
「理財局ぐるみ 認定へ/財務省内部調査 佐川氏『指示』も」
▼3面
スキャナー「『背任』立証難しく/『文書改ざん』虚偽記載なし」ごみの有無/データ復元/疑惑のデパート
「国有地値引き 交渉記録廃棄も/森友問題とは」
▼社会面(32~33面)
トップ「『捜査尽くした』強調/地検、核心説明避ける」「『政治的な意図ない』特捜部長」
「告発人『終わりでない』/検察審申し立てへ」「『国会の追及続くだろう』財務省職員」
「有罪得る決定打なし」元検事の落合洋司弁護士/「公文書管理 新機関を」公文書管理に詳しい瀬畑源・長野県短期大准教授
▼社説「森友捜査不起訴 財務省は国民の信頼損ねた」

【日経新聞】
▼3面
「佐川氏ら不起訴/『森友』決裁文書改ざん/大阪地検」
「佐川氏ら処分4日にも公表/財務相」
▼社会面(39面)
トップ「森友幕引き?残った課題/識者の見方」/「公務員の信頼失墜」元鳥取県知事の片山善博・早稲田大公共経営大学院教授/「若者、政官に不信感」若者の政治参加に取り組むNPO法人「YouthCreate」の原田謙介代表/「行政はオープンに」社会学者の水無田気流さん
「虚偽文書作成とまで言えず/背任意図なし」「不起訴理由異例の説明/特捜部」
「告発者の教授ら検審申し立てへ」

【産経新聞】
▼1面
トップ「森友文書 佐川氏ら不起訴/大阪地検『改竄認定は困難』」
▼3面
「『違法性』起訴には値せず?/国有地売却 背任罪、『故意』認定は困難」「不手際重ねた財務省」
「調査結果と関係者の処分/財務省、4日にも公表」
▼社会面
トップ「森友8億円 闇の中/値引き適正額 特捜触れず」「告発者『1年かけてこれか』」
【社説(「主張」)】「佐川氏を不起訴 改めて信頼の回復を図れ」

【東京新聞】
▼1面
トップ「佐川氏ら全員不起訴/『森友』改ざんなど38人/大阪地検」
解説「背信の根 責任取らぬ政権」
▼2面
「佐川氏の再喚問要求/野党6党派 麻生氏責任も追及」
「財務省改ざん 4日に処分」
▼社会面(27面)
トップ「『なぜ不起訴』/検察OB異論 市民ら憤り/『罪問えるよう法改正を』」
「『起訴相当の可能性』検察審査会に期待」国会前/地元大阪
「佐川氏関与 明言避ける/大阪地検特捜部長」
▼社説「佐川氏不起訴 これで終わりではない」

「それが分かれば苦労せんのです」で済むのか~公文書改ざん、麻生太郎財務相の政治責任

 森友学園の国有地売買を巡り、財務省は6月4日、公文書改ざんの調査報告書を公表しました。共同通信の出稿記事によると、改ざんは当時の佐川宣寿理財局長(前国税庁長官)が方向性を決め、理財局総務課長が中核的な役割を担ったと認定。国会審議の紛糾を恐れ、回避するのが動機だったとしています。関係者20人の処分も発表しました。
 ※47news=共同通信「改ざんで佐川氏停職、20人処分 財務省調査報告、首相忖度に含み」2018年6月4日
 https://this.kiji.is/376242795201152097?c=39546741839462401 

 財務省は4日、学校法人「森友学園」を巡る決裁文書改ざんの調査報告書を発表した。改ざんは当時理財局長だった佐川宣寿前国税庁長官が方向性を決め、中村稔理財局総務課長が中核的な役割を担ったと認定。国会審議の紛糾を恐れ、回避するのが動機だったと説明した。佐川、中村両氏の停職をはじめ関係者20人の処分も発表。森友との交渉記録廃棄は安倍晋三首相が夫妻の関与を全面否定した昨年2月の国会答弁などがきっかけだとし、首相への忖度を読み取れる内容となった。
 麻生太郎財務相は記者会見し「極めて不適切だった」と陳謝。一方で「進退は考えていない」と述べ、続投を表明した。 

 麻生財務相が職にとどまることに疑問を感じます。
 公文書改ざんは民主主義社会の土台を破壊する行為です。主権者が国のありようにかかわることを知ることも、検証することもできなくなります。それを理財局長が主導しながら、仮に大臣がそのことをうすうすでも知りながら放置していたとすれば論外。逆にまったく気付きもしなかったとすれば、それだけでも省内の最高責任者としての資質や能力が問われる事態です。
 佐川前理財局長は麻生財務相も出席していた国会の場でぬけぬけと事実に反した答弁を行い、役所ではせっせとつじつま合わせの改ざんを行っていました。答弁の不自然さに対する批判は、麻生財務相も国会で直接、耳にしていたはずです。仮に、大臣が省内を厳格に掌握していれば、不正が進行していたまさにその時に、不正に気付くことができたかもしれないし、不正があればそれを見抜くことも大臣たる者に期待されて当然のはずです。麻生財務相は4日の会見で、何が不正の動機なのかを問われると「それが分かれば苦労せんのですよ」と言い放ちました。真相を解明できないままであることを認めているのです。この期に及んで、そんなふうに開き直ってしまっている麻生財務相のままで、再発防止を期して綱紀粛清が進むことが期待できるでしょうか。

 5日付の東京発行新聞各紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京)朝刊は、日経を除く5紙が1面トップに据えました。日経は3面(総合面)でした。

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 1面トップ5紙の見出しの取り方をみると、二極化とは言わないまでも二つに大別できます。
 一つは「なぜ改ざんなどの不正行為が起きたか」の観点です。以下の3紙です。
 ・朝日「国会紛糾恐れ改ざん」
 ・毎日「首相答弁が契機」
 ・東京「廃棄 首相答弁が契機」
 もう一つは「だれが不正行為を主導したか」の観点です。以下の両紙です。
 ・読売「佐川氏 改ざん主導」
 ・産経「佐川氏が改竄主導 認定」
 ちなみに日経新聞の主見出しは「政官の統治不全 露呈」で、いずれとも異なるトーンでした。
 これまでの安倍晋三政権に対する各紙の論調を踏まえると、安倍政権擁護が色濃い読売、産経2紙は佐川前国税庁長官の責任を強調し、安倍政権に批判的な朝日、毎日、東京3紙はそうしなかったとみることができます。5日付社説や編集幹部の署名記事などでは、朝日、毎日、東京の3紙は、安倍政権が政治責任を軽んじているとして厳しい言葉で批判し、麻生財務相が責任を明確にして辞任するよう求めています。
 以下は5日付の朝日、毎日、東京各紙の社説の見出しです。
 ・朝日「森友問題と政治責任 社会のモラルを掘り崩す」一部官僚に押しつけ/麻生氏は即刻辞任を/1強長期政権の弊害
 ・毎日「森友文書改ざんの調査結果 居座った財務相の不実さ」背信を生んだ組織防衛/政治道徳の堕落を招く
 ・東京「財務省の処分 佐川氏独断の不可解」

 読売、産経の社説の見出しは以下の通りです。引責辞任を求めているとまでは読み取れません。ただ佐川前長官らに安倍首相への忖度があったかどうかなど、麻生財務相の認識の甘さは両紙とも批判しています。朝日など3紙との間には一線があるように感じますが、2極化というほどでもないように思います。

 ・読売「財務省処分 再発防止で信頼回復を急げ」
 ・産経「文書改竄報告 財務省も首相も猛省せよ」

 ちなみに日経の社説は「地に落ちた財務省の信頼は回復できるか」の見出しで、「麻生氏は『政治家の美学』を大切にするという。時機をみて決断することを求めたい」と、今後、辞任することを求めています。

 いずれにせよ、各紙とも、麻生氏の認識の甘さと政治責任に対して厳しい見方を示していることは共通しています。

 財務省の調査結果を巡ってもう一つ思うのは、佐川前理財局長が安倍昭恵夫人の名前を削除せず、文書を廃棄することもなく、仮に、この国有地売却の問題が取り沙汰され始めた当初から、改ざん前の文書が国会に提出されていたら、この問題はどんなふうに見え、その後、どんな風に推移していただろうか、ということです。そこは、この国の主権者の側が想像力を使う必要があるのですが、今こそ、その想像力を働かせてみる時であるように感じます。まだまだ、「モリカケ」の真相は解明できていません。
 「ジャーナリズムはマンネリズムとの戦い」とは故原寿雄さんの言葉です。モリカケ、財務省セクハラ、防衛省の日報隠蔽など、これでもかと出てくる安倍晋三政権下の不祥事を前に、そして「いつまでモリカケをやっているのか」との批判を前に、マスメディアの内側にいる人間として、この言葉をあらためて胸に刻みたいと思います。

「6月12日に米朝首脳会談」トランプ米大統領が表明~期待を持って見守りたい

 トランプ米大統領は日本時間の6月2日未明、北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長との首脳会談を6月12日にシンガポールで行うことを正式に表明しました。いったん中止が公表されていたことから、日本のマスメディアは「12日に再設定」「会談明言」などと伝えています。ここまでくれば、開催はもう覆ることはないように思えます。ただし、6月12日の首脳会談は北朝鮮の非核化のプロセスの始まりと位置付けられ、何らか合意文書への署名が行われることもなく、首脳会談はその後も続く見通しと報じられています。
 また、トランプ大統領は、「最大限の圧力」という言葉をこれ以上は使いたくないと話し、北朝鮮に極めて好意的な姿勢も示しているようです。「圧力」一辺倒で来た安倍晋三政権は、米国と歩調を合わせると強調しながら、読み違えはなかったのか。拉致問題解決の糸口が何とか見出せるよう願います。
 東京発行の新聞各紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京)も3日付朝刊ではそろって1面トップで報じました。総合面の関連記事や社説などをみると、「北朝鮮の非核化」が見通せているわけではない中での首脳会談開催に、北朝鮮が本当に核を放棄するのか、疑念や懸念を示したり、それでも両首脳が直接会談することに意義を求めたりと、各紙それぞれの論調の違いが分かります。

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 仮に、一気には北朝鮮の完全な非核化が達成されないとしても、米朝首脳が対話を重ねながら朝鮮戦争が休戦から終結に向かい、非核化も実現の方向に向かうことが期待できるのであれば、わたしは米朝の首脳会談は期待をもって見守りたいと思います。懸案は一つ一つ解決していけばいい。
 以下に備忘を兼ねて、東京発行新聞各紙の3日付朝刊の主な記事の見出しを書きとめておきます。

▼朝日新聞
1面トップ「非核化 決着せぬ公算大/米朝会談 12日に再設定/トランプ氏 複数回会談の意向」
1面「首相、圧力維持強調/米長官『完全な非核化を』」
2面・時時刻刻「開催ありき 非核化後退」「成果の期待値 下げる/トランプ氏『会談はプロセスの始まり』」「北朝鮮、対価求めて焦り/正恩氏『新しい方法で段階的に』」
※社説では取り上げず

▼毎日新聞
1面トップ「段階的非核化を容認/トランプ氏 米朝12日に会談」
3面・クローズアップ「非核化 長引く恐れ/複雑かつ多様な課題」「北朝鮮『実』取る/進め方で米が譲歩」
3面「日本 制裁緩和を警戒/トランプ氏『最大限の圧力』使わぬ」
社説「6・12会談へ 米朝の綱引き 迅速な非核化は譲れない」長期戦への転換は危険/厳密な検証が不可欠だ

▼読売新聞
1面トップ「非核化『プロセス始まり』/トランプ氏 対話 複数回も/朝鮮戦争終結へ意欲/米朝会談12日に」
2面「日本、支援先行警戒/拉致前進が『不可欠』」
3面・スキャナー「6.12会談『信頼』優先/制裁解除は慎重姿勢 トランプ氏」「北『完全な体制保証』譲らず」
社説「『米朝会談』明言 非核化への圧力を緩めるのか」

▼日経新聞
1面トップ「米、非核化 一喝合意求めず/金正恩氏と12日会談/トランプ氏『交渉の始まり』」
2面「日本、包囲網維持へ全力」
3面「米、会談実現を優先/トランプ氏 中間選にらむ/正恩氏 時間稼ぎの余地」/「韓国、米朝と終戦宣言案」
社説「米朝首脳会談を北の核完全放棄の契機に」

▼産経新聞
1面トップ「非核化 長期戦の様相/『最大限の圧力、使いたくない』『朝鮮戦争終結も』」/「米朝会談 12日開催/トランプ氏、交渉『始まりだ』/複数回協議を示唆」
2面「支援 拉致解決が前提/首相『全力尽くす』/対北圧力効果 前進に期待」/「日本を批判『対話に支障』/韓国国防相」
3面「非核化 米強い自信/過剰な配慮 付け入られる懸念」/「“折れた”正恩氏 主張は曲げず」/「特使 厚遇演出/執務室迎え入れ 自ら見送り 繰り返し握手」
社説(「主張」)「米朝首脳会談 『非核化の原則』再確認を」

▼東京新聞
1面トップ「米、即時非核化を留保/『北経済支援 日中韓で』/6.12会談明言」
1面・解説「『圧力』封印 長期化の様相」
2面・核心「非核化に溝残し会談へ/トランプ氏 ノーベル賞、中間選挙を意識/正恩氏 米の譲歩引き出す」
2面「日本政府 困惑/圧力、経済支援に不安要因」/「北『拉致 既に解決』」
2面・ドキュメント 6・12米朝首脳会談「新書受け取りトランプ氏笑み」
社説「週のはじめに考える 首脳会談で歴史を変える」読めない会談の行方/画期的な合意の数々/夢では終わらせない

 写真は朝日、毎日、読売3紙の6月2日夕刊1面です。

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そして6月12日、米朝首脳会談へ~文在寅大統領に感じる平和への強い意志 ※追記:焦点は「非核化」「体制保証」

 5月26日にアップした記事の続きになります。
 韓国の文在寅大統領と北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長は26日に板門店で会談。27日になって南北双方から、北朝鮮が6月12日の米朝首脳会談を目指すことに変わりはないことが公式に表明されました。共同通信によると、北朝鮮中央通信は金委員長が文大統領に「6月12日の米朝首脳会談開催への『確固たる意志』を表明した」と伝えています。トランプ米大統領もホワイトハウスで記者団に、文大統領と金委員長の会談の結果を高く評価し、いったんは中止と発表したシンガポールでの米朝首脳会談を予定通りに開催することを目指す考えを示したとのことです。

※47news=共同通信「米朝首脳、6月12日会談へ意欲 正恩氏『確固たる意志』を表明」2018年5月27日
 https://this.kiji.is/373206036188054625?c=39546741839462401

 【北京、ソウル、ワシントン共同】北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は26日、韓国の文在寅大統領との南北首脳会談で、朝鮮半島非核化の実現へ努力していくことで一致、6月12日の米朝首脳会談開催への「確固たる意志」を表明した。朝鮮中央通信が27日伝えた。トランプ米大統領は26日、ホワイトハウスで記者団に南北会談の結果を高く評価、自ら中止を発表したシンガポールでの米朝首脳会談の当初予定通りの開催を目指す考えを示した。米朝は近く実務協議を行う見通しだ。
 文氏は27日、記者会見し、金氏が4月の南北首脳会談に続いて「朝鮮半島の完全な非核化」の意思を明らかにしたと発表した。

 やはり水面下では様々なレベルで駆け引きが続いているのでしょう。ひとまずは元のレールに戻りましたが、実際に米朝首脳が顔を合わせるまでは、何が起きるか分からない、予断を許さない状況が続きそうです。

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 写真は朝日、毎日、読売の東京発行3紙の27日付朝刊1面です。毎日と読売が掲載した写真は、満面の笑みで抱き着いてくる金正恩委員長を苦笑しながら文在寅大統領が受け止めているように見える構図です。この両首脳の抱擁写真から感じるのは、朝鮮半島に二度と戦火は起こさせないという文氏の強い意志です。そのために、頓挫しかけた米朝首脳会談を何としても実現させようと、金委員長の申し出に応じて手を差し伸べ、再びトランプ米大統領との橋渡し役を担いました。日本の報道の中で紹介された韓国の識者のコメントに「文在寅は米朝首脳会談の仲介者から推進者に変わった」との指摘があったことが印象に残ります。

 思い起こせば昨年秋、トランプ大統領が北朝鮮への軍事力行使も含めて「すべての選択肢がテーブルの上にある」と繰り返し口にし、日本でも安倍晋三首相が「国難突破解散」などと危機を喧伝し、河野外相が北朝鮮との断交を他国に要求したりしていたときでも、文大統領は「決して再び朝鮮半島で戦争は起こさせない」と訴えていました。その平和への信念は、今日に至るもいささかの揺るぎもないと感じます。朝鮮半島の完全な非核化を成し遂げるためにも、南北がいつでも対話できる関係にあることはプラスの要因なのだと、今回の2度目の南北首脳会談をみて感じます。
 日本にとって北朝鮮の核放棄、そして拉致問題の解決が最重要の課題であることは明白です。それとともに、朝鮮戦争の名実ともの終結と朝鮮半島の永続的な平和も重要な課題だとわたしはとらえています。南北分断以前、日本が植民地統治していた現代史に即して、世代が変わっても日本人の1人として、朝鮮半島の平和に当事者性があることを意識しながら、今後の推移を注視していきたいと思います。

※追記 2018年5月28日8時30分

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 5月28日付の東京発行新聞各紙の朝刊1面です。トップは北朝鮮情勢でそろいました。見出しはそれぞれですが、6月12日の米朝首脳会談開催へ向けて事態が再び動き出したことを各紙とも伝えています。焦点は「非核化」と「体制保証」「経済協力」です。
 各紙の1面本記の見出しを書きとめておきます。
 ・朝日「米朝首脳、会談へ意欲/『正恩氏、完全非核化の意志』/文氏、南北会談を説明」
 ・毎日「6・12会談 米朝前向き/非核化の意思焦点/南北会談 正恩氏要請」
 ・読売「正恩氏が非核化意思/文氏明かす 体制保証を『心配』/南北再会談」
 ・日経「米朝、非核化を協議/トランプ氏 6・12会談視野/金正恩氏 実現へ強い意欲」
 ・産経「米朝 6月12日会談意欲/駆け引き、トランプ氏主導/正恩氏、文氏に『非核化意思』/元駐韓米大使、北朝鮮入り」
 ・東京「米朝会談開催へ再調整/金正恩氏『会談に向け確固たる意志』/文在寅氏『非核化なら米は経済協力』/トランプ氏『南北の交渉うまくいった』」

 毎日、日経は週末の世論調査結果も掲載。安倍晋三内閣の支持率は落ちずに横ばいですが、不支持が支持を上回る状況は続いています。 

西城秀樹さんと「がきデカ」~同時代に残した存在感の大きさ

 5月16日に63歳で死去した西城秀樹さんの葬儀・告別式が26日に執り行われました。新聞各紙の記事を読みながら、同時代を過ごした世代の1人として、西城さんが同時代に残した足跡の大きさを改めて思いました。告別式では西城さんを含めて「新御三家」と呼ばれた野口五郎さん、郷ひろみさんが弔辞を読みました。3人それぞれに持ち味があって、それぞれにファンはいたのだと思いますが、それでも、3人の中でも西城さんはとりわけ時代を代表する存在だったのだとわたしは感じています。

 西城さんと同じ時期に大ヒットした「がきデカ」というギャグマンガがあります。作者は山上たつひこさん。西城さんのデビューは1972年。がきデカは1974年に少年チャンピオンで連載が始まりました。主人公は日本初の少年警察官、東京都練馬区在住の小学生とおぼしき「こまわりくん」。それだけでも荒唐無稽なのですが、脇を固めた常連の登場人物たちが個性的で、印象的でした。そしてそれぞれの名前と風貌に、当時の時代が色濃く反映されていました。その中で最も重要な、いわばこまわり君の相方役として設定された同級生の少年が「西城くん」でした。
 記憶をたどりながら、ウイキペディア「がきデカ」を参照してみました。それによるとフルネームは「西城ヨシオ」。「ハンサムで学業もスポーツも万能な優等生の少年。本作の主要ツッコミ役だが、時にはかなりのボケをやることも」と紹介されています。言うまでもなくモデルは西城秀樹さんでした。「野口くん」でも「郷くん」でもなく「西城くん」。こまわり君の対極キャラとして、基本は何よりも「かっこよさ」だったのでしょう。そのかっこいい西城くんが時にこまわり君にペースを乱され、らしからぬ振る舞いに及んでしまうところにも笑いがありました。
 同級生の中には双子の姉妹がいて姉は「木の内モモ子」、妹は「木の内ジュン」。それぞれ山口百恵さんと風吹ジュンさんがモデルとされるようです。モモちゃんは西城くんのガールフレンドで優等生ですが、ジュンちゃんは時にこまわり君とシンクロするなど、風変わりな子でした。勝手な推測ですが、「木の内」は1974年にデビューしたアイドル歌手、木之内みどりさん由来かもしれません。担任の若い女性教師「あべ先生」のフルネームは「あべ美智子」。名前も容貌も歌手のあべ静江さんそのものでした。ほかに主要キャラクターには人格を備えた「栃の嵐」という犬もいて、わたしのお気に入りでした。
 ウイキペディアには「過激な下ネタや描写、単語が頻発しており、連載当時は全国のPTAから槍玉にあがった」との記述があります。確かに下品でしたが、圧倒的な人気がありました。 
  ※ウイキペディア「がきデカ」
 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%8C%E3%81%8D%E3%83%87%E3%82%AB

 山上たつひこさんは「がきデカ」の前に「喜劇新思想体系」というギャグマンガを青年向け漫画誌に連載していました。高校生の時に文庫本化されたのをすべてそろえ、一通り読みました。がきデカの原形のようなものはここにすべて表れています。下品さはがきデカ以上でしょう。一方で自衛隊や旧軍、警察、政治家、医師などを徹底的に茶化す場面もふんだんにあって、ある種の抵抗精神が色濃くありました。山上たつひこさんはさらにその前には「光る風」というシリアスな作品も書いています。ギャグ要素が一切ない、純粋に社会派の作品で、そこでは日本は再軍備されていて、ベトナムに派兵します。主人公は反戦運動にかかわる少年。兄はエリート軍人ですが、四肢を失ってベトナムから帰還します。兄の身に何が起きたのか…。「喜劇新思想体系」も「光る風」も、いつの間にか手元からなくなっていました。残しておきたかったと思います。

 一世を風靡した山上たつひこさんが、がきデカの中で同時代を象徴するアイコンとして選んだのが西城秀樹さんだったのだと思います。「西城秀樹」の社会的な位置付けがそんなところにも見出せる、と言ったら大げさでしょうか。西城さんの死去が報じられて、マスメディアでも幾多の報道がありましたが、わたしが目にした範囲では「がきデカ」や「西城くん」に触れた報道はありません。どのようなニュースでも、世代や過ごしてきた環境などによって関心の持ちようが異なるのは当然ですが、わたしなりに同時代の記録としてここに残しておこうと思います。

 それにしても早すぎる死でした。謹んで哀悼の意を表します。 

がきデカ 16 (少年チャンピオン・コミックス)

がきデカ 16 (少年チャンピオン・コミックス)

 

 ※追記 2018年5月27日17時05分

 副題を「同時代に残した足跡の大きさ」から差し替えました。