起訴せずに済む理由ばかり集めたのか? 森友問題「38人不起訴」

 前回の記事の続きになります。少し時間がたちましたが、備忘も兼ねて書いておきます。
 森友学園への国有地売却を巡っては、虚偽公文書作成や背任などの疑いで告発を受け捜査していた大阪地検特捜部が、財務省の調査結果と処分の発表より一足早く5月31日に、佐川宣寿・前財務省理財局長(前国税庁長官)ら捜査対象になった財務省職員ら38人全員の不起訴を発表しました。
 大阪地検では、不起訴のケースでは異例のことながら、特捜部長が記者たちの取材に対応しましたが、不起訴の理由については踏み込んだ説明はなかったようです。マスメディアの報道は、検察内部には、公文書改ざんなどの悪質さを重視して起訴するべきだ、との声もあったと伝えています。大阪地検の結論には「起訴しないで済む理由ばかり集めたな」ということを感じます。
 疑惑の全体像は、森友学園が安倍昭恵氏と特別な関係にあると財務省に強調して、破格の有利な条件で国有地を手に入れたのではないか、ということです。しかし公文書改ざんなどの不正によって、安倍昭恵氏という疑惑の肝の部分が見えなくなり、全体像の印象がまったく変わってしまいました。理財局長の国会でのウソも正当化していました。公文書改ざんは、主権者である国民が国のありようについて情報を得る、検証することを不可能にしてしまう行為であり、民主主義社会を土台から破壊するに等しい不正です。そうした点を重視するなら、類似の前例がなく有罪確実と見込めないにせよ、また38人の一部に絞り込むにせよ、起訴して裁判所の判断を仰ぐ選択肢は十分にあったはずです。今後のモデル事例にもなったはずです。その道を取らなかったのは、検察自身が何事かをおそれたからでしょう。検察庁といえども法務省とともに政府機構の一員です。安倍政権への忖度があったのかもしれませんし、官僚機構同士の財務省への配慮かもしれません。
 検察の権限は抑制的な行使が望ましいのはその通りだと思いますが、今回は権力機構の疑惑で、私人の事件とは異なります。起訴して、公判で事実経過が明らかにされていけば、不正行為に手を染めていたとはいえ、組織の論理でそれを拒むことができなかった人たちの中に、救われる人が出てくるのではないかと思います。何より、自ら命を絶った人がいました。彼も浮かばれたのではないか―。そう思うと、この不起訴は残念ですし、罪深いとさえ思えます。
 30年近く前になりますが、かつて東京で司法分野の取材を担当しました。当時、特捜検察の中には、事実の枝葉ではなくまず大きな幹を見据える検事がいました。「本当に悪い奴はだれか」「どうすれば本当に悪い奴を有罪にし、処罰を受けさせることができるか」。そうした発想が捜査を通じてありました。後に特捜検察は証拠を恣意的にいじるところまで堕落しました(2010年に発覚した大阪地検特捜部の証拠改ざん事件)が、ずっと以前にはそうした骨の太い特捜検察がありました。
 以前の記事でも書きましたが、リニア談合の捜査では、特捜検察の尊大さが再び頭をもたげてきたように感じました。今度は、政治的な忖度が疑われる事態です。今や再び、特捜検察はろくなものではない、という気がしてなりません。東京地検特捜部が6月5日に神戸製鋼所の品質データ改ざん問題で強制捜査に入ったことに対し、立憲民主党の枝野幸男代表が同日、1人も起訴しなかった森友問題と対比して「官尊民卑の検察、特捜部なら、こんな特捜部は要らないと言わざるを得ない」と述べたとの報道を目にしました。データ改ざんでは、ほかにも不正はあるのに、なぜ神戸製鋼所か、との指摘もあります。確かに、特捜検察はなくても別に困りません。必要なのは、法と証拠に基づいてきちんと仕事をする検察官です。

 この「全38人を不起訴」について、東京発行の新聞各紙は翌6月1日付朝刊では朝日、毎日、読売、産経、東京が1面トップ。日経新聞は3面でした。主な記事の見出しを書きとめておきます。

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【朝日新聞】
▼1面
トップ「佐川氏ら38人全員不起訴/森友 改ざん・背任容疑 大阪地検」
「なお疑惑 幕引き許されない」杉林浩典・大阪社会部長
「佐川氏は『停職相当』/退職金減額へ 財務省『改ざん黙認』」
▼2面
時時刻刻「森友疑惑『真相』語られず/地検『お答えできぬ』連発」「『政治家関与』も説明なし」「検察内部にも温度差」
解説「国民への説明 足りぬ地検」
▼3面
「野党、佐川氏再喚問要求へ/麻生財務相の責任追及/自民拒否、区切りを狙う」
▼社会面(34~35面)
トップ「『証拠ある』なぜ不起訴」「『検察も忖度』告発の弁護士/検審に申し立てへ」「『予想通り』『処分しっかり』」
「陳皮な理屈だ 国民への誤ったメッセージ」元検事の落合洋司弁護士/「国会で議論を 国の損害 認めるのは難しい」元検事の高井康行弁護士/「信用失墜行為 財務省に客観性期待できず」元自治官僚で前鳥取県知事の片山善博早大教授
▼社説「佐川氏不起訴 これで決着とはならぬ」

【毎日新聞】
▼1面
トップ「森友問題38人不起訴/大阪地検 佐川氏責任問えず」
「佐川氏は停職相当/財務省週明け処分 改ざん指示」
連載企画「深層森友」(上)「手書きで『削除指示』」
▼3面
クローズアップ「地検 疑惑切り込めず/佐川氏ら不起訴に」「焦点は財務省調査に」「強まる麻生氏責任論」
▼社会面(29面)
トップ「『闇に葬らせない』/追及の市議ら怒り」
「次の舞台は検審に/処分不服 来週にも申し立て」
▼社説「森友文書改ざんで不起訴 国民を欺いた罪は消えぬ」

【読売新聞】
▼1面
トップ「佐川氏ら全38人不起訴/大阪地検 改ざん・背任容疑/森友問題」
「財務省 説明尽くす責任」/「理財局幹部ら 4日にも処分」
▼2面
「理財局ぐるみ 認定へ/財務省内部調査 佐川氏『指示』も」
▼3面
スキャナー「『背任』立証難しく/『文書改ざん』虚偽記載なし」ごみの有無/データ復元/疑惑のデパート
「国有地値引き 交渉記録廃棄も/森友問題とは」
▼社会面(32~33面)
トップ「『捜査尽くした』強調/地検、核心説明避ける」「『政治的な意図ない』特捜部長」
「告発人『終わりでない』/検察審申し立てへ」「『国会の追及続くだろう』財務省職員」
「有罪得る決定打なし」元検事の落合洋司弁護士/「公文書管理 新機関を」公文書管理に詳しい瀬畑源・長野県短期大准教授
▼社説「森友捜査不起訴 財務省は国民の信頼損ねた」

【日経新聞】
▼3面
「佐川氏ら不起訴/『森友』決裁文書改ざん/大阪地検」
「佐川氏ら処分4日にも公表/財務相」
▼社会面(39面)
トップ「森友幕引き?残った課題/識者の見方」/「公務員の信頼失墜」元鳥取県知事の片山善博・早稲田大公共経営大学院教授/「若者、政官に不信感」若者の政治参加に取り組むNPO法人「YouthCreate」の原田謙介代表/「行政はオープンに」社会学者の水無田気流さん
「虚偽文書作成とまで言えず/背任意図なし」「不起訴理由異例の説明/特捜部」
「告発者の教授ら検審申し立てへ」

【産経新聞】
▼1面
トップ「森友文書 佐川氏ら不起訴/大阪地検『改竄認定は困難』」
▼3面
「『違法性』起訴には値せず?/国有地売却 背任罪、『故意』認定は困難」「不手際重ねた財務省」
「調査結果と関係者の処分/財務省、4日にも公表」
▼社会面
トップ「森友8億円 闇の中/値引き適正額 特捜触れず」「告発者『1年かけてこれか』」
【社説(「主張」)】「佐川氏を不起訴 改めて信頼の回復を図れ」

【東京新聞】
▼1面
トップ「佐川氏ら全員不起訴/『森友』改ざんなど38人/大阪地検」
解説「背信の根 責任取らぬ政権」
▼2面
「佐川氏の再喚問要求/野党6党派 麻生氏責任も追及」
「財務省改ざん 4日に処分」
▼社会面(27面)
トップ「『なぜ不起訴』/検察OB異論 市民ら憤り/『罪問えるよう法改正を』」
「『起訴相当の可能性』検察審査会に期待」国会前/地元大阪
「佐川氏関与 明言避ける/大阪地検特捜部長」
▼社説「佐川氏不起訴 これで終わりではない」