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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

近畿財務局職員の手記公表と遺族の提訴、在京紙の報道は二分 ※追記「会見回避の首相、『森友』追求逃れか」(西日本新聞)

 森友学園への国有地売却を巡り、2018年3月に自殺した近畿財務局職員の妻が3月18日、決裁文書を改ざんさせられ苦痛と過労でうつ病を発症したなどとして、国と佐川宣寿・元財務相理財局長(元国税庁長官)に計約1億1千万円の損害賠償を求めて大阪地裁に提訴しました。妻は職員が遺していた手記も公表。そこには改ざんの克明な経過が記され、「すべて佐川氏の指示だった」と書かれています。
 この公文書改ざん問題で財務省は2018年6月4日、調査報告書を公表しています。改ざんは当時の佐川理財局長が方向性を決め、理財局総務課長が中核的な役割を担ったと認定していました。これに対して職員の手記は「佐川氏の指示」を明記しています。財務省の調査結果を上回る内容が含まれているわけで、常識的に考えれば再度、調査しなければならないはずですが、安倍晋三政権も財務省もその考えはないようです。
 公文書の改ざんや、佐川元局長の国会での虚偽答弁を巡っては、安倍首相が土地取引への自身と妻の関与を全面否定し「もし関与していれば首相も国会議員もやめる」と大見えを切った国会答弁が背景にあると指摘されています。佐川元局長の動機は、首相を守ろうという忖度ではなかったか、との疑念は解消されていません。手記の公表によって、徹底的に真相究明を求める世論が高まれば、政権も財務省も無視はできなくなるはずです。

 提訴と手記の公表について、東京発行の新聞各紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京)の3月19日付朝刊紙面での扱いは分かれました。朝日新聞と東京新聞は1面トップ、毎日新聞も1面の2番手で、それぞれ関連記事も総合面、社会面に展開しています。毎日新聞は1ページを使って、手記の全文を掲載しました。手記は相澤冬樹さんが妻から預かり、週刊文春で先んじて公開していました。新聞各紙にとっては、週刊文春がスクープしたネタの後追いですが、それでも事の本質の重大さに応じて、大きな扱いにした、ということなのだと思います。経済ニュースが中心の日経新聞は社会面に見出し4段ながら、やはり手記の要旨も掲載しています。
 一方の読売新聞は第2社会面に見出し3段、産経新聞は社会面に見出し3段で、相対的に小さな扱いでした。

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 職員の手記には「大阪地検特捜部はこの事実関係をすべて知っています」とも書かれていました。虚偽公文書作成や背任などの疑いで告発を受け捜査していた大阪地検特捜部は、財務省の調査結果と処分の発表より一足早く18年5月31日に、佐川元局長ら捜査対象になった財務省職員ら38人全員の不起訴を発表しています。当時の報道は、検察内部には、悪質さを重視して起訴するべきだ、との声もあったと伝えていました。わたしは、大阪地検の結論には「起訴しないで済む理由ばかり集めたな」と感じていました。その思いが改めて強まっています。

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 森友学園の問題は、決して既に終わった話ではありません。これ以上の調査は不要とする政権や財務省の姿勢は問われるべきでしょうし、佐川元局長らを不起訴にした検察の判断が妥当だったかどうかも、問い直されていいと思います。折しも、東京高検検事長の定年延長を巡って、安倍政権による検察支配の危険性が指摘されています。同時に、マスメディアが今後、この問題をどう報じていくのか(あるいは報じないのか)も引き続き注視したいと思います。

 以下に、3月19日付の各紙朝刊紙面の主な記事の見出しを書きとめておきます。 

【朝日新聞】
・1面トップ「国・佐川氏を妻提訴/森友文書改ざん 財務局職員自殺/『佐川氏指示』主張」
・1面・視点「究明不足 問われる政権」羽根和人・大阪社会部長
・2面・時時刻刻「佐川氏の指示 再び焦点」「原告側、『主導的』と指摘/職員手記 改ざんの経緯記録」「政権冷ややか『今さら』/財務省『報告書と齟齬ない』」
・4面「職員自殺 麻生氏の責任は 立憲・那谷屋氏/信頼回復向け 職責果たす・麻生財務相」焦点採録
・社会面トップ「改ざん苦悩 震える字/夫の手記・遺書 妻『真実知りたい』」/「公文書管理に警鐘」内閣府の公文書管理委員会委員を務めた三宅弘弁護士
・社会面「検察も経緯把握 それでも不起訴」
・社会面「赤木さんの妻のコメント(全文)」「手記の要旨」

【毎日新聞】
・1面「森友改ざん 遺族が国提訴/手記に『佐川氏の指示』/財務局職員自殺」
・5面「野党 森友改ざん再検証へ/自殺職員遺族提訴 合同チーム設置」
・26面「森友学園への国有地売却 赤木俊夫・近畿財務局元職員の手記(全文)」「本省の了解なしに交渉 ありえない/修正どんどん拡大 嘘に嘘を塗り重ねる」
・社会面トップ「『理財局が人生壊した』/自殺職員、苦悩と批判」
・社会面「妻『佐川さんは真実を』/弁護団『裁判で経緯明らかに』」/「財務省『新たな事実ない』」

【読売新聞】
・本記:第2社会面・見出し3段「自殺職員の妻 提訴/国と佐川元長官に賠償請求/森友改ざん」写真・手記の一部
・4面(政治)「『森友』改ざん再調査せず/首相『今後も適正に対応』」

【日経新聞】
・本記:社会面・見出し4段「『森友改ざん強制』提訴/自殺職員の妻 国・佐川氏に賠償求め」写真・記者の質問に答える原告の弁護士ら
・社会面「『差し替えは佐川局長の指示』/男性職員の手記要旨」
・4面(政治)「野党『森友』で検証チーム/自殺職員の手記巡り設置」

【産経新聞】
・本記:社会面・見出し3段「佐川氏と国を提訴/財務局職員自殺 遺族『改竄を強制』/森友問題」

【東京新聞】
・1面トップ「佐川氏と国を提訴/自殺職員の妻 手記・遺書公表」「森友文書改ざん『本省の指示』/『財務官僚 最後はしっぽ切り』」表・経緯
・1面「財務省、再調査せず 『新事実ない』」
・2面・核心「改ざん指示 多くは今も要職/『主導』の佐川氏 遺族に謝罪なし」
・2面「よくぞ記録残した」財務省近畿財務局OBの元同僚田中朋芳さん
・7面「麻生氏や太田氏の説明は虚偽答弁◆誰一人本省に反論しません◆これが財務官僚機構の実態です」赤木さん手記要旨
・社会面トップ「どうか真実を/1人で抱え込んだ夫…『黒塗り』の死から2年」/妻のメッセージ全文
・社会面「天の声 生々しく 赤木さん手記」

 

■追記 2020年3月21日16時10分
 ネットで西日本新聞の以下の記事が目に留まりました。
※西日本新聞「会見回避の首相、『森友』追求逃れか」=2020年3月21日

 https://www.nishinippon.co.jp/item/n/593699/

 安倍晋三首相は20日、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた一斉休校要請の延長を見送ったが、政府対策本部の会合で一方的に発言しただけで、記者会見は開かなかった。政府関係者によると、首相は当初、会見で直接国民に説明する方向だった。森友学園を巡る決裁文書改ざん問題で自殺した財務省職員の手記が公表され、会見で関連質問が出るのを嫌ったのではないかとの見方が出ている。
 (中略)
 なぜ首相は会見しなかったのか。政府高官は取材に「コロナの会見で関係ないことを聞かれるのは良くない」と言い、森友学園問題が一因だったことを暗に認めた。

 安倍晋三首相が何を話すのかと同時に、何を話さないのか、話そうとしないのかも、意味のある情報であると感じます。それもまた、首相というこの国の権力者がどういう人物であるのかを、主権者が判断する上での材料です。