ニュース・ワーカー2

組織ジャーナリズムに身を置き40年余

路線価上昇率、沖縄県が全国トップの5・0%~基地に依存しない経済

 国税庁が7月2日に公表した2018年の路線価で、前年比の上昇率は都道府県別では沖縄が5・0%でトップになりました。東京発行の新聞各紙の2日付夕刊では「訪日客の増加によるホテル需要の高まりやリゾート開発が影響しているとみられる」(日経新聞)、「那覇市では観光客の増加や人口増でホテルや店舗の建設が進み、周辺でも地価が上昇傾向という」(朝日新聞)などと紹介しています。
 朝日新聞は社会面でも沖縄の関連記事を大きく掲載。「伸びる沖縄 ホテル続々/路線価 観光客 ハワイ超え」の見出しとともに、沖縄の状況を伝えているほか、「基地跡の利用好調/好立地・大規模供給 強み」の見出しとともに、返還された米軍基地跡地の利用が好調との記事も載せています。その中では「翁長雄志知事が『今では米軍基地は沖縄の経済発展の最大の阻害要因』と主張するゆえんでもある」「かつて基地依存といわれた沖縄経済は様変わりしている」と指摘しました。
 日経新聞も社会面に関連記事を掲載。「17年度に沖縄を訪れた外国人は前年度比26・4%増の269万2千人で、10年連続で過去最高を更新。那覇市の中心地、土産物店や飲食店が連なる『国際通り』の路線価は、17年比で10・4%上昇した」と沖縄の活況を紹介しています。
 沖縄の基地集中の問題を巡っては、「地元は基地経済でもっている」との言説は誤解であることが様々に指摘されており、昨年7月には全国知事会でも取り上げられたと報じられています。

 ※沖縄県ホームページ「(よくある質問)米軍基地と沖縄経済について」
 http://www.pref.okinawa.jp/site/kikaku/chosei/kikaku/yokuaru-beigunkichiandokinawakeizai.html
 
 ※琉球新報「『基地経済でもつ』は誤解 知事会研究会が『沖縄の現実』報告」2017年7月29日
 https://ryukyushimpo.jp/news/entry-544112.html

  岩手県で開催された全国知事会議は最終日の28日、「米軍基地負担に関する研究会」の座長を務める上田清司埼玉県知事が在沖米軍基地の現状や跡地利用の経済効果などを報告し「基地関連収入の比重は大幅に低下しており、『沖縄は基地の経済でもっている。基地とは離れられない』という話は誤解だと共通認識を持てるのではないか」と述べた。翁長雄志知事は「インターネットでは誤解に満ちた情報があふれている」と述べた。

 今回の「路線価上昇率5・0%で全国トップ」のニュースは、「地元は基地経済でもっている」との言説からいったん離れて、沖縄の経済の現状を客観的に見て、基地集中の問題をあらためて考え直してみるいい機会だと思います。

MIC「メディアで働く女性のための緊急セクハラ110番」の相談事例

 新聞労連や民放労連、出版労連などメディア業界の労働組合でつくる日本マスコミ文化情報労組会議(略称MIC)が7月1日、女性弁護士グループ「日本労働弁護団・女性労働プロジェクトチーム(PT)」(代表 長谷川悠美弁護士)の協力のもと、メディアで働く女性のための緊急セクハラ110番を実施しました。
 新聞労連のホームページに詳細がアップされています。
 ※新聞労連「お知らせ:2018年7月1日(日) : メディアで働く女性のための緊急セクハラ110番を実施」
 http://www.shinbunroren.or.jp/oshirase2/oshirase2.htm#20180701_21916

 以下に、新聞労連のホームページから、相談事例を引用します。

◆相談事例
事例① 新聞・通信社 女性
 記者同士が集まる酒席で、同業他社の男性記者から身体接触があったり、性的冗談やからかいなどのセクハラ行為を受けたりした。同業記者男性は相談者を含めて複数の女性記者に対して、頻繁に同様のセクハラ行為を繰り返している。加害男性記者がセクハラをする相手は年齢が若い女性記者ばかり。上司に相談したいが、面倒くさがられて仕事が任されなくなるのではないかという懸念や加害男性記者からの報復の懸念があり、会社に相談できない。「自分がなめられているから被害に遭うのかもしれない」と自分の能力の低さを責めている。同業他社からのセクハラについて対処方法を教えて欲しい。また社内でも結婚や性的嗜好について、上司から言われ不快な思いをしている。

 

事例② 出版 女性(非正規)
 職場の雰囲気がおかしいと思っていたところ、上司から仕事を辞めることを勧奨された。職場内で、職場の男性との性的関係やその内容についてばらされ、自分の知らないところで噂になっていたことを辞める時に知った。ショックを受けた。悔しい。

 

事例③ 放送 女性
 職場の男性から一方的に好意を告げる、膨大な数のメール送られるなどのセクハラを繰り返し受けた上に、性的関係を強要された。会社に相談したが、対応してくれなかった。その後、精神的ダメージを受けたことで、会社に行けず病気になって休職に追い込まれ、辞めざるを得なくなった。会社には女性蔑視の風土を変えてほしい。自分と同じようなことを繰り返さないでほしいので、こういう事例があることを社会に知ってもらいたい。

 

事例④ 放送 女性
 同僚たちとの酒席で、参加者から性的な辱めを受け、拒否したところ、さらに同僚男性から胸を触られ、必死でその場から逃げた。後日、加害男性に謝罪を求めたところ、「酒席の場のこと」として取り合ってもらえなかった。さらに、加害男性本人が、胸を触ったことを吹聴した。それにより行為が周知され、加害男性は上司から注意を受けたようだが、相談者自身も「冗談が通じない人間」として取り扱われ、不利益を被った。メディア業界ではセクハラが当たり前のこととしてまかり通っていることを世の中に知ってほしい。

  電話相談については、毎日新聞が記事化しています。

「民放キー局全社で違法残業まん延」(共同通信)

 民放キー局の全5社で、昨年までの5年間で違法残業に対し計9回の是正勧告が労働基準監督署から出されていたと、共同通信が報じています。

※47news=共同通信「民放キー局全社で違法残業まん延 労基法違反、是正勧告5年で9回」2018年6月30日
 https://this.kiji.is/385730311595803745?c=39546741839462401

 社員らに上限を超える時間外労働(残業)をさせたなどとして、三田労働基準監督署が2013~17年、労働基準法違反で在京民放キー局全5社に計6回の是正勧告をしていたことが30日、関係者への取材で新たに分かった。この期間にテレビ朝日が3回の勧告を受けていたことは共同通信の取材で5月に明らかになっており、5社が受けた勧告は計9回となった。

 長文の記事は7月1日付の地方紙などに掲載されています。
 新聞労連の専従役員だったころ、放送や関連の労組の方々から、放送業界の労働実態について折に触れ、話を聞かせてもらいました。番組制作の現場は勤務時間が変則的で、もともと長時間労働になりやすい構造があります。加えて、多層化した下請け構造があります。民放の場合は実際の番組制作を担うのは下請けのプロダクションなどが中心です。限られた予算で決められた納期に仕上げることができなければ、次の仕事はありません。法令順守では仕事が回らない、というわけです。いずれは独立して自分のプロダクションを、との夢を持つ若い労働者もいて、強制されずともひたすら働く、というようなことも耳にしました。
 今回明らかになった是正勧告は、キー局の本社員やキー局に派遣されている派遣社員らへの違法な長時間労働のようです。放送界ではNHKの30代の女性記者や、テレビ朝日の50代の男性プロデューサーの過労死が記憶に新しいところですが、改善のために実態をきちんと見ようとするなら、下請け構造まで含める必要があるように思います。 

働き方改革法成立の在京紙報道~「高プロ」に懸念の一方で、改革に前向きも

 当座の備忘メモです。

 働き方改革法案が6月29日の参院本会議で可決され、成立しました。30日付の東京発行新聞各紙は6紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京)とも1面トップの扱い。本記(事実を伝える中心的な記事)を中心とする1面掲載の記事の見出しを比べてみるだけでも、各紙のスタンスの違いが感じ取れるのではないでしょうか。以下に書きとめておきます。
・朝日「高プロ・残業規制 来春から/働き方改革法が成立/長時間労働なお懸念」
・毎日「高プロ来年4月導入/働き方改革法成立」
・読売「残業上限越えに罰則/働き方改革法成立」
・日経「迫られる生産性革命/遠い欧米の背中 時間より成果 重きを/働き方改革法が成立」
・産経「残業革命 見切り発車/働き方改革法成立 『高プロ』創設/賃下げ懸念くすぶる/TPP関連法も」
・東京「残業代ゼロ『過労死増える恐れ』/『働き方』法 成立」「『長時間労働指導できない』/元監督官 違法適用の摘発も『困難』」

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 社説では東京新聞以外の5紙が取り上げています。見出しには各紙ごとの違いがより直接的に出ているようです。
・朝日「働き方法成立 懸念と課題が山積みだ」
・毎日「『働き方改革』法が成立 健康と生活を守るために」労基署は監督の強化を/多様な労働実現しよう
・読売「働き方改革法 多様な人材の活躍促す契機に」
・日経「『個の力』引き出す労働改革をさらに前へ」
・産経「働き方改革法 残業代削減の還元考えよ」

 働き方改革法はいくつかの法改正を一つに束ねたものです。当初は4本柱と言われ、残業時間の罰則付き上限規制、同一労働同一賃金、裁量労働制の適用拡大、高収入の一部専門職を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル(高プロ)制度」創設の四つで構成されていました。厚生労働省の労働時間データのずさん処理が明らかになり、裁量労働制の適用拡大は切り離された結果、立憲民主、国民民主、共産、社民の野党各党の反対は高プロ制度創設に集中しました。柔軟な働き方が実現できるどころか、過労死を招きかねないとの理由です。過労死した方の遺族の方々のグループからも、反対の表明がありました。
 そうした経緯から、最大の焦点は高プロ制度の新設が認められるかどうかに絞られていたと感じます。朝日、毎日、東京はこのスタンスで、野党や過労死遺族の反対にもかかわらず高プロ制度創設が決まったことに重きを置いています。
 一方で、批判はあるものの改革を前向きに受け止めるスタンスもあり、日経がもっとも顕著なように感じます。読売も本記の見出しに「高プロ」は取っておらず、残業規制を主見出しにしています。産経が1面で「賃下げ懸念くすぶる」とし、社説でも「残業代削減の還元考えよ」と掲げているのは、ある意味、ざん新に感じます。
 過労死した方の遺族の方々の各紙の報じ方も書きとめておきます。
 東京新聞は1面に遺影とともに参院本会議を傍聴した遺族の方々の写真を掲載しました。朝日は社会面トップで遺族の方々の思いを紹介し、毎日も遺族の方々の記者会見を独立の記事で紹介しています。朝日、毎日とも写真付きです。
 産経は社会面に遺族の会見を独立の記事で掲載。主な過労死の表を付けていますが、写真はありません。
 読売は社会面トップに高プロ制度に対する歓迎と懸念の双方の声を紹介する記事を掲載。その末尾に22行のコマ立てて遺族の声を紹介しました。写真はありません。
 日経は記事が見当たりませんでした。

「働き方改革」法案 とサッカーW杯

 6月28日は大きなニュースがありました。
※47news=共同通信「働き方法案、参院委で可決 29日に本会議で成立へ」
 https://this.kiji.is/385021644025988193?c=39546741839462401

 安倍政権が今国会の最重要課題に位置付ける働き方改革関連法案は28日夜の参院厚生労働委員会で、与党などの賛成多数で可決された。29日の参院本会議で可決、成立する方向となった。これに先立ち、参院議院運営委員会は立憲民主、共産などの野党が提出した島村大厚労委員長(自民)の解任決議案を本会議では取り扱わないと決めた。

 参院厚労委は午後の理事会で、参院野党第1党の国民民主党と28日中に働き方法案を採決することで合意し、29日の可決、成立の方向がバタバタと決まりました。
 法案に含まれる「高度プロフェッショナル(高プロ)制度」の創設に対しては、国民民氏、立憲民主、共産、社民の野党各党は、長時間労働を助長し過労死を招くとして反対してきました。必要性についても、厚生労働省のヒアリング対象はわずか12人で、制度設計前に実施したのはわずか1人だけだったことも明らかになって、内容、立法の手続きともにずさんだと批判を受けていました。過労死遺族も反対を表明していました。
 報道によると、その中で国民民主が採決に応じたのは、廃案に追い込むことは不可能と判断し、留意事項を盛り込んだ付帯決議をせめて可決させるため、との指摘があります。
 29日付の東京発行の新聞各紙朝刊は予想通りでした。朝日、毎日、読売、産経、東京の5紙は、サッカーW杯で日本代表が決勝トーナメント進出を決めたことが1面トップ。日経も1面に入っています。働き方改革法案は朝日、毎日、読売、東京は1面で準トップの扱い。日経、産経は3面でした。

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 それでも新聞は、総合面などには各紙とも働き方改革法案の関連記事を掲載しています。新聞を手にする習慣がない人たちにこのニュースはどう届いているのか、ふと、気になりました。試みにスマホに入れているニュースアプリを見てみると、「トップ」にはこのニュースはなかなか出てこず、ジャンル別の「政治」でようやく、テレビ局や新聞社のサイトからの関連記事を目にしました(29日午前8時現在)。「政治」ジャンルを見る習慣がなければ、どうなるのでしょう。

 以下は私見です。高プロ制度は働く者にとって、柔軟な働き方ができるようになる方向には進まないと思います。むしろ、仕事がある限りは働くことをやめられなくなる恐れがあります。「きょうは○○時間働いたから」というのは、仕事を切り上げる動機、理由にはなりません。この制度の最大のメリットは、経営者が残業代を支払う必要がない、という点です。財界に待望論があるのは、多様な働き方によって労働者の健康を守ることができるからではなく、残業代の心配をせずに済み、人件費を一定額に抑制できるからです。この制度の下では、過労死が自己責任にされかねません。実際に過労死した方の遺族の方々が「反対」を声に出して訴えていることには大変な重みがあるのですが、与党だけでなく、採決に応じることとした一部の野党にも、過労死遺族の声は届かなかったと言わざるを得ず、とても残念です。

安倍晋三首相「それぞれが選択すべきこと」~二階氏「『産まない』は勝手な考え」発言に

 二階俊博・自民党幹事長の「『産まない』は勝手な考え」発言に批判や反論、異論が相次いでいるようです。国会で6月27日午後に行われた党首討論でも、立憲民主党の枝野幸男代表が質問したのに対し、安倍晋三首相は「子どもを持つか、持たないかはそれぞれが選択するべきことで、私たちが意見を言うべきではないと思っている」などと答弁したと報じられています。

 ※朝日新聞デジタル「党首討論 枝野氏は二階氏の『産まない方が』発言追及」
  https://www.asahi.com/articles/ASL6W4DYLL6WUTFK00W.html

 トップバッターの立憲民主党の枝野幸男代表は、自民党の二階俊博幹事長が26日に「子どもを産まない方が幸せじゃないかと勝手なことを考えて(いる人がいる)」と述べた発言について取り上げた。首相は「子どもを持つか、持たないかはそれぞれが選択するべきことで、私たちが意見を言うべきではないと思っている。私の家庭も子宝に恵まれていない。産みたい人が産める社会をつくっていく」と述べた。

 評論家の荻上チキさんは自らのラジオ番組の中で、入手した二階幹事長の発言の録音を、前後の文脈も含めて再生した上で、「これはアウト」との判断を述べています。番組のサイトには当該部分の文字起こしも掲載されています。

 ※「【音声配信・文字起こし】自民党・二階幹事長の『子どもを産まないは勝手な考え』発言を検証▼2018年6月26日(火)放送分(TBSラジオ『荻上チキ・Session-22』)」
  https://www.tbsradio.jp/266680

 二階幹事長の発言は講演の場でのことだったようですが、一般には、政権党である自民党幹事長の発言として受け止められるはずです。安倍晋三氏は、首相として国会で「私たちが意見を言うべきではないと思っている」とまで言ったのであれば、自民党総裁として二階幹事長に何らかの行動を取るべきであるように思います。

二階俊博氏「『産まない』は勝手な考え」「食べるのに困る家ない。こんなに素晴らしい幸せな国はない」

 自民党の二階俊博幹事長が6月26日に行った講演がマスメディアに報じられています。

 ※47news=共同通信「二階氏『産まない』は勝手な考え 都内で講演、少子化問題巡り発言」
 https://this.kiji.is/384253021293397089

 自民党の二階俊博幹事長は26日、東京都内で講演し、少子化問題を巡り「この頃、子どもを産まない方が幸せじゃないかと勝手なことを考える人がいる」と述べた。子どもを持たない家庭を批判したようにも受け取れ、波紋を広げそうだ。
 (中略)
 貧困問題に関しては「今は食べるのに困る家はない。こんなに素晴らしい幸せな国はない」と言及した。

 ※朝日新聞デジタル「『子ども産まない方が幸せ、勝手なこと』自民・二階氏」
 https://www.asahi.com/articles/ASL6V5WRYL6VUTFK01T.html?iref=comtop_8_08

自民党の二階俊博幹事長は26日、東京都内で講演し、「子どもを産まない方が幸せじゃないかと勝手なことを考えて(いる人がいる)」「皆が幸せになるためには子どもをたくさん産んで、国も栄えていく」などと述べた。子どもを持たない家庭を批判したとも受け取れる発言だ。
 二階氏は、講演参加者から少子化対策について問われ、「食うや食わずの戦中、戦後、子どもを産んだら大変だから産まないようにしようと言った人はいない」とした上で、「子どもを産まない方が幸せ」というのは「勝手だ」とした。 

 ※毎日新聞「自民・二階氏 『産まない幸せ』は勝手 講演で発言」
 https://mainichi.jp/articles/20180627/k00/00m/010/113000c 

 自民党の二階俊博幹事長は26日、東京都内での講演後の質疑の際に、少子化対策に関連して「このごろ、子供を産まないほうが幸せに(生活を)送れるんじゃないかと、(一部の人は)勝手なことを自分で考えてね」と述べた。子供のいない家庭への配慮を欠く発言と受け取られる可能性がある。
 (中略)
 また二階氏は「食べるのに困るような家はもう今はない。今晩お米が用意できないという家はない。こんな素晴らしいというか、幸せな国はない」とも話しており、貧困問題への認識が低いとの批判も浴びそうだ。 

※産経ニュース「自民・二階俊博幹事長『子供を産まない方が幸せだと勝手なこと考える人がいる』」
 https://www.sankei.com/politics/news/180626/plt1806260029-n1.html 

 自民党の二階俊博幹事長は26日、東京都内で講演し、少子化問題をめぐり「この頃、子供を産まない方が幸せじゃないかと勝手なことを考える人がいる」と述べた。「みんな食うや食わずの戦中・戦後の時代に『子供を産んだら大変だから、産まないようにしよう』と言った人はいない」とも語り、「子供をたくさん産み、国が栄え、発展していく方向にしよう」と呼びかけた。 

 読売新聞も27日付の朝刊紙面では「『産まない方が幸せ』は勝手/二階氏が講演会で発言」の見出しで記事を掲載しています。朝日、毎日、読売、産経とも、朝刊紙面では国民民主党の玉木雄一郎共同代表が「特定の家族観、価値観を押しつけるのは間違っている」などと批判したことを紹介しています。

 「子どもを産まないほうが幸せじゃないか、というのは勝手な考え」と言えば、「子どもを産む、産まないは個人の選択の問題だ」との批判が出るのは当たり前です。二階氏は「皆が幸せになるためには子どもをたくさん産んで、国も栄えていく」とも話したと報じられており、批判に対しては「本意はこっちの方にある」と主張するのかもしれません。仮にそうだとしても、わざわざ「勝手な考え」と批判的、攻撃的な言葉遣いをする必要はないはずです。
 もう一つ、驚くのは「今は食べるのに困る家はない。こんなに素晴らしい幸せな国はない」との発言です。報道を総合して考えると、「食うや食わずの戦中、戦後、子どもを産んだら大変だから産まないようにしようと言った人はいない」との文脈から派生した発言なのではないかと推測しますが、もはや日本社会に貧困の問題はない、との認識でしょうか。この発言に対して、貧困の問題に詳しい尊敬するジャーナリストの知人は、「『日本は幸せな国なんだから起こる全ては自己責任なんだよ』と言っているのに等しい」と指摘しています。
 巨大与党の第一党の幹事長の発言です。広く知られるべきでしょう。民主主義社会では、有権者が投票権を行使する際の判断材料になります。
 なお、今回の二階氏の発言を巡っては、紙面とサイトで、発言のどの部分を紹介しているかで相違がある例もあるようです。例えば毎日新聞の紙面(東京本社発行14版)では「食べるのに困るような家は~」の発言部分は見当たりません。

麻生太郎氏「新聞を読まない人たちは全部自民党」

 麻生太郎氏の「新聞読まない人は全部自民党支持」(大意)という発言がありました。
 ※47news=共同通信「麻生氏『新聞読まぬ世代は自民』 昨秋の衆院選に関し」
 https://this.kiji.is/383530313399862369?c=39546741839462401 

 麻生太郎副総理兼財務相は24日、新潟県新発田市で講演し、昨年秋の衆院選に関し、30代前半までの若い有権者層で自民党の得票率が高かったとした上で「一番新聞を読まない世代だ。読まない人は全部自民党(の支持)だ」と述べた。
 若年層の支持動向も考慮して選挙戦略を考えるべきだと訴える中、安倍政権への批判が目立つ新聞報道への不満を漏らした発言とみられる。

 衆院選で若い有権者層で自民党の得票率が相対的に高かったのは事実だとしても、それが新聞購読の動向と相関性があるかどうかは別問題です。麻生氏が講演でどう話したのか分かりませんが、相関性の根拠を示したとは記事には書いてありません。あまり真剣に取り合うようなものではないのかもしれません。


 麻生氏のこの発言を巡っては、以下の記事も目に止まりました。
 ※47news=共同通信「共産・小池氏、麻生氏発言に皮肉 『新聞読めば自民不支持』」
  https://this.kiji.is/383924206326269025?c=39546741839462401 

 共産党の小池晃書記局長は25日の記者会見で、麻生太郎副総理兼財務相が「新聞を読まない人たちは全部自民党(の支持)だ」との発言に関し「麻生氏の言う通りだ。新聞を読んで真実が伝われば、自民支持にならない」と皮肉った。
 麻生氏が新聞購読者の増加に協力しないよう呼び掛けたことに「メディアはもっと怒った方がいい。読売新聞とか産経新聞とか。営業妨害じゃないですか」と語った。 

 若い有権者層の自民党支持の傾向ということで言えば、新聞を読まないからかどうかはさておき、その理由はきちんと見ておいた方がいいように思います。政治参加の経験が浅い世代が、なぜ自民党を支持するのか。人生で初めて行使する1票を、なぜ自民党に入れるのか、です。

安倍晋三内閣の支持率が回復傾向~6月の世論調査

 毎日新聞が6月23、24日の週末に実施した電話世論調査の結果が報じられています。
 安倍晋三内閣の支持率は36%で前回5月の調査結果から5ポイントアップ。不支持率は8ポイント減の40%でした。
 6月のマスメディア各社の調査結果は、上旬実施のNHKは横ばいでしたが、中旬以降は各調査ともおおむね支持率上昇の傾向が一致しています。5月までは、不支持が支持を上回る傾向が顕著でしたが、6月は拮抗した調査結果も目に付きます。

・毎日新聞 6月23、24日実施
 「支持」36%(5P増) 「不支持」40%(8P減)
 「関心がない」22%(3P減)
・朝日新聞 6月16、17日実施
 「支持」38%(2P増) 「不支持」45%(1P増)
 「その他・答えない」17%(3P減)
・共同通信 6月16、17日実施
 「支持」44・9%(6・0P増) 「不支持」43・2%(7・1P減)
 「分からない・無回答」11・9%(1・1P増)
・産経新聞・FNN 6月16、17日実施
 「支持」44・6%(4・8P増) 「不支持」45・6%「2・9P減」
・読売新聞 6月15~17日
 「支持」45%(3P増) 「不支持」44%(3P減)
・NHK 6月8~10日
 「支持」37・8%(±0) 「不支持」43・5%(±0)
 「わからない、無回答」18・6%(0・1P減)

 加計学園の獣医学部新設の問題では、愛媛県が、安倍首相が2015年2月に加計孝太郎理事長と面会し、獣医学部新設の構想について「いいね」と応じたなどと記された文書を国会に提出しました。毎日新聞の調査では、このことを挙げて、安倍首相がこれまで学園の構想を知ったのは2017年1月としてきたことに対し、信用できるかどうかを聞いています。結果は「信用できない」と答えた人が70%に上りました。森友学園への国有地売却を巡る問題では、麻生太郎財務相の責任について「辞任すべきだ」と答えた人は52%います。依然として「モリカケ」の問題は、個別に尋ねれば安倍政権に厳しいと言える結果が出ています。

 ※毎日新聞世論調査「質問と回答」

 ※参考過去記事

news-worker.hatenablog.com

 

【追記】 2018年6月25日18時30分
 日経新聞とテレビ東京が6月22~24日に実施した世論調査の結果も報じられています。
 内閣支持率は前回5月調査比で10ポイント増の52%、不支持は同9ポイント減の42%でした。支持が不支持を上回りました。2月調査以来、4カ月ぶりとのことです。支持理由の回答状況などから、日経新聞の記事は「安倍晋三首相の外交手腕に期待が高まったとみられる」との分析を示しています。

「沖縄のこころ」と平和の詩「生きる」~73年目の「慰霊の日」

 前回の記事の続きです。沖縄の慰霊の日の6月23日、沖縄県糸満市摩文仁の平和祈念公園で正午から沖縄全戦没者追悼式が開かれました。
 沖縄県の翁長雄志知事の平和宣言では、冒頭で第2次大戦末期の沖縄戦の体験について「戦争の愚かさ、命の尊さという教訓を学び、平和を希求する『沖縄のこころ』を大事に今日を生きています」と「沖縄のこころ」という言葉を使いました。そして、米軍普天間飛行場の移転先として、日本政府が名護市辺野古に新基地建設を、沖縄県の反対を押し切って進めていることに対し「平和を求める大きな流れの中にあっても、20年以上も前に合意した辺野古への移設が普天間飛行場問題の唯一の解決策と言えるのでしょうか。日米両政府は現行計画を見直すべきではないでしょうか」と疑問を投げ掛け「沖縄の基地負担軽減に逆行しているばかりではなく、アジアの緊張緩和の流れにも逆行していると言わざるを得ず、全く容認できるものではありません。『辺野古に新基地を造らせない』という私の決意は県民とともにあり、これからもみじんも揺らぐことはありません」と表明しました。「沖縄の米軍基地問題は、日本全体の安全保障の問題であり、国民全体で負担すべきものであります。国民の皆様には、沖縄の基地の現状や日米安全保障体制のあり方について、真摯に考えていただきたいと願っています」との一節は、特に心に留めたいと思います。がんで闘病中の翁長知事の眼光と気迫が印象に残ります。
 ※翁長知事の平和宣言全文は琉球新報のサイトで読めます。
  https://ryukyushimpo.jp/news/entry-744820.html

 一方、安倍晋三首相はあいさつに立ち、沖縄の基地集中の問題については「沖縄の方々には、永きにわたり、米軍基地の集中による大きな負担を担っていただいております。この現状は、何としても変えていかなければなりません。政府として、基地負担を減らすため、一つ一つ、確実に、結果を出していく決意であります」と述べました。
 違和感を覚えたのは「今、沖縄は、美しい自然、東アジアの中心に位置する地理的特性をいかし、飛躍的な発展を遂げています。昨年、沖縄県を訪れた観光客の数はハワイを上回りました」「アジアと日本をつなぐゲートウェイとして、沖縄が日本の発展を牽引する、そのことが現実のものとなってきたと実感しています。この流れを更に加速させるため、私が先頭に立って、沖縄の振興を前に進めてまいります」などと述べたことです。観光を基軸にした沖縄の経済発展やアジアとの交流は日本政府の、安倍政権の功績なのでしょうか。
 安倍首相は終了後の記者団の取材には「今後、普天間基地の一日も早い全面返還を実現するために、最高裁の判決に従って、そして関係法令に則って移設を進めていく考えであります」と述べています。辺野古の工事中止の沖縄県の要請を受け入れるつもりはまったくないことを言明しています。
 ※首相官邸
  「平成30年沖縄全戦没者追悼式における内閣総理大臣挨拶」
   https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/statement/2018/0623okinawa.html
  「平成30年沖縄全戦没者追悼式」
   https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/actions/201806/23okinawa.html

 マスメディアの報道でも指摘しているように、翁長知事の沖縄県と安倍晋三政権の間で、辺野古の新基地建設を中心に対立が激化する構図が浮き彫りになったように思います。
 追悼式では、浦添市立港川中3年の相良倫子さんが平和の詩「生きる」を朗読しました。一語一語が心に沁み渡る思いがします。
 ※「生きる」は東京新聞のサイトで全文が読めます。
  http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201806/CK2018062302000252.html

 特に次の一節には心を揺さぶられる思いがしました。戦争の最大の教訓がここにあるのだと感じます。その教訓を生かすことが、おびただしい犠牲を生んだ悲惨な歴史を無にしないことに通じるのだと思います。

あなたも、感じるだろう。
この島の美しさを。
あなたも、知っているだろう。
この島の悲しみを。
そして、あなたも、
私と同じこの瞬間(とき)を
一緒に生きているのだ。
今を一緒に、生きているのだ。
だから、きっとわかるはずなんだ。
戦争の無意味さを。本当の平和を。
頭じゃなくて、その心で。
戦力という愚かな力を持つことで、
得られる平和など、本当は無いことを。
平和とは、あたり前に生きること。
その命を精一杯輝かせて生きることだということを。

 沖縄タイムスと琉球新報の2紙は24日付の社説で追悼式典を取り上げています。
▼沖縄タイムス「[全戦没者追悼式]この訴え 届け全国に」
 http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/272060
▼琉球新報「『沖縄のこころ』 基地なき島の実現誓おう」
 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-745141.html

 東京発行の新聞6紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京)もそれぞれ24日付朝刊で「慰霊の日」を報じました。1面に入れたのは朝日、毎日、産経、東京です。読売は第2社会面、日経は社会面でした。

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 相良倫子さんの平和の詩「生きる」は東京新聞が全文掲載。朝日、毎日はネット上のサイトに全文掲載とのことです。読売新聞は相良さんの写真とともに詩を紹介する記事は掲載していますが、全文は紙面、サイトともないようです。産経新聞は紙面では相良さんの詩には触れていません。安倍晋三首相のあいさつ要旨は掲載しましたが、翁長知事の平和宣言の要旨はありません。

 以下は朝日、読売、毎日3紙の23日付夕刊の1面です。

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