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相互不信、相互監視社会を危惧~パチンコ店の店名公表で気付いたこと ※追記 「中傷の電話相次ぎ」1店休業

 大阪府の休業要請を受け入れずに営業を続けたパチンコ店の店名公表の対応に関連して、一つ前の記事(「パチンコ店の店名公表と特措法の危うさ」)の補足です。
 法令違反の行為が認定された事業者の名前が、法令に基づいて官公庁や自治体から公表されることは珍しいことではありません。その情報は市民、住民が消費者として消費行動を決める際の判断材料になります。おかしな商法をしていることが明らかになれば、当然、消費者は利用を避けようとするでしょう。だから制裁としても実効性を持ちます。
 ひるがえって、新型コロナウイルスの特措法に基づくパチンコ店の店名公表です。パチンコに関心がない市民、住民にとっては、自身の行動を決める上では何の意味もない情報です。意味を持つのは、緊急事態宣言下でもパチンコをやるとの確固とした意思を持つ愛好者です。どこの店が営業しているかを知る有益な情報になってしまいました。

 では店名公表によって何が期待されるのでしょうか。つまるところは「皆がいろいろ我慢しているのに、けしからん」という感情が広くかき立てられることではないかと思います。しかし、それだけでは「休業=密集状態の解消」という目的にはつながりません。その感情を基に、営業を続ける店へ直接、間接に抗議が向かい、抗議に耐えきれずに店が休業すれば、制裁措置が機能して目的を達した、ということになります。あるいは抗議はパチンコ店の客へも向かい、その同調圧力に耐えかねて客がパチンコ店を行くのを見送れば、それも目的達成につながるかもしれません。
 この構図はパチンコ店に限ったことではないように思います。平時に「事業者名の公表」が機能しているので、特措法に同じような規定があること自体にわたし自身、あまり留意していませんでした。しかし緊急事態宣言下では、休業要請を受け入れずに営業を続ける施設の名前は、ほとんどの市民、住民にとって直接意味のある、役立つ情報ではありません。今思うのは、この施設名公表の措置は、社会で憎悪の感情をあおる機能しかないのではないか、ということです。仮にそれで「休業=密集状態の解消」という目的が達せられたとしても(目的が達せられないのならほとんど意味がない規定ですが)、社会で市民、住民同士の相互不信、相互監視が強まっていく「副作用」を危惧します。特措法が持つ危険性の一つだと思います。
 重要なのは「密集状態の解消」という目的の達成のはずです。大阪で店名を公表されたパチンコ店1店の運営会社は、休業しても救済措置がないことを訴えたと報じられています。まずは、営業を続けている個々の事情を丁寧に把握し、現実的な救済措置を探ることではないかと思います。どういう条件が整えば休業に入るのか。「私権の制限」という事の重大さに鑑みれば、手続きは丁寧に進めるべきです。

 「施設名公表」に実効性がないから、特措法に改正を加えて「営業停止」の強制力を備える、という発想もあるかもしれません。その場合でも厳密な手続きの規定と厳格な運用が必要だと考えていることは、前記事で触れた通りです。そもそも特措法には不備が少なからずあります。

※追記 2020年4月26日22時50分
 店名が公表された後の25日も営業していた大阪府枚方市のパチンコ店が26日、休業しました。読売新聞の記事によると、「店舗側は府に対し、『営業を続けていることに対し、誹謗中傷する電話が相次いだ』と説明したという」とのことです。

読売新聞オンライン「大阪府公表のパチンコ店、新たに1店舗休業『中傷の電話相次ぎ』」=2020年4月26日
 https://www.yomiuri.co.jp/national/20200426-OYT1T50123/