少し前のことになりますが、荒井勝喜首相秘書官(当時)が2月3日、報道陣とのオフレコ懇談で、性的マイノリティや同性婚に関連して「秘書官室は全員反対で、私の身の回りも反対だ」「隣に住んでいたら嫌だ。見るのも嫌だ。人権は尊重しますけどね」(共同通信の配信記事より)などと発言し、4日に岸田文雄首相から更迭される出来事がありました。岸田首相自身は、「内閣の考え方に全くそぐわない。言語道断の発言だ」と批判し、性的指向や性自認を理由とする不当な差別や偏見はあってはならないと強調したと報じられました。この首相の発言を、字義通りに受け止めていいのかどうか、わたしは疑問を持っています。
首相秘書官の役職は、キャリア官僚の中でも特に優秀な人材が就くとされています。そうした立場の官僚たちが集まっている秘書官室で「全員反対」となるのは、彼らの上司がそうした考えでいるから、と考えるのが自然です。上司がそうした考えを許さない人物であれば、いくらオフレコでも、優秀なキャリア官僚が「全員反対」などと口に出すはずがありません。そんなことをしたら大混乱になることぐらい、よく分かっていたはずです。上司も同じ考えであると感じ取っている、その確信があるからこその発言だったのではないか。上司とは首相です。いくら岸田首相が秘書官の発言を批判してみせても、本心がどうなのか、疑念は消えません。
2月にマスメディア各社が実施した世論調査では、この出来事に関連する設問が目立ちました。同性婚を法律で認めるべきかどうか(同性婚を法律で認めることに賛成か反対か)では、以下のような結果が出ています。
▼日経新聞・テレビ東京調査 2月24~26日実施
賛成 65%
反対 24%
▼朝日新聞調査 2月18、19日実施
認めるべきだ 72%
認めるべきではない 18%
▼毎日新聞調査 2月18、19日実施
賛成 54%
反対 26%
▼読売新聞調査 2月17~19日実施
賛成 66%
反対 24%
▼共同通信調査 2月11~13日実施
認める方がよい 64・0%
認めない方がよい 24・9%
▼NHK調査 2月10~12日実施
賛成 54%
反対 29%
どの調査でも、肯定的な回答が多数、調査によっては圧倒している、と言っていい状況です。岸田首相は国会で、同性婚導入に慎重な姿勢を示した上で「家族観や価値観、社会が変わってしまう課題だ」と答弁しました。この答弁についても、共同通信の調査では「適切だ」32・2%に対し、「適切ではない」57・7%の結果でした。
報道によると、荒井元秘書官は「同性婚導入となると、いろいろ社会のありようが変わってしまう。国を捨てる人、この国にはいたくないと言って反対する人は結構いる」とまで口にしていました。何を見て、そんな考えを持つようになったのでしょうか。民意の大勢の感覚との乖離が、世論調査の結果からはっきりしました。首相を取り巻く秘書官の全員が同じ感覚だとすれば、その中心にいる岸田首相の感覚も推して知るべきです。そうではない、ということならば、自らの秘書官の差別的発想すら変えさせることができない、おそろしく無力、無能な首相ということなのでしょうか。