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放送法「政治的公平」の新解釈 民意も疑問視が多数~高市氏「捏造」主張に「納得できない」62%(朝日新聞調査)

 3月18日~19日の週末に実施された世論調査の結果が報じられました。放送法の「政治的公平」の解釈を巡る総務省の行政文書についても、いくつかの設問が含まれています。国会の審議を通じて、この文書が捏造でないことが総務省によって明らかにされた一方で、内容が正確かどうかは、総務省は確認を避けている部分もあります。この文書の内容の信ぴょう性はどのように考えればいいのか。人によって考え方は異なるかもしれませんが、総務省の官僚たちがこうした文書を残した動機はまさに記録のためだと考えることは、極めて合理的だと思います。わざわざ内容を改ざんして記録に残す理由は見当たりません。

※共同通信「総務省、文書捏造なかったと結論 放送法『安倍氏に説明』」2023年3月22日

www.47news.jp この行政文書によってわたしたちが知ることができたことは、安倍晋三政権の当時に、特定の民放番組に不満を募らせていた礒崎陽輔首相補佐官(当時)が、総務省の担当部局を時に恫喝しながら、放送法の「政治的公平」を巡る政府解釈を変えさせようと画策し、そこに安倍首相(当時)の意向も加わり、当時総務相だった高市早苗氏の国会答弁で、解釈変更(ないしは新解釈の追加)が実現に至った、その大きな流れ、経緯だろうとわたしは考えています。
 高市氏は、この行政文書のうち自身に関する4枚については、捏造された内容だとの主張をいまだに続けているようです。しかし、行政文書が文字通り文書化された記録であるのに対し、高市氏の主張は自身の記憶です。記録の文書と個人の記憶では、信ぴょう性を比較するのに無理があります。記録性のレベルに大きな差があります。
 以前にもこのブログで触れたことですが、高市氏の解釈変更の国会答弁に至るまでに、別の経緯があったことを高市氏が一定程度、客観的な記録とともに証明でもしない限り、この行政文書の内容をいくら否定しても、説得力を欠くとしか言いようがないと感じます。

 さて、先週末に実施された世論調査のことです。設問でこの行政文書の問題や、放送法の解釈変更の問題を取り上げているのは朝日新聞(3月18、19日実施)と毎日新聞(3月18、19日実施)、読売新聞(3月17~19日実施)の3件の調査です。
 朝日新聞の調査によると、礒崎補佐官の総務省への働きかけに対しては、「問題がある」が50%で、「問題はない」28%と大きな差が付きました。高市氏の「捏造」主張に対して「納得できる」は17%にとどまる一方、「納得できない」は62%に上りました。

▽朝日新聞調査 3月18~19日実施
・放送法は、テレビ番組に対して「政治的に公平であること」を求めています。安倍政権時代に、特定のテレビ番組の内容を問題視した首相補佐官が、放送法の政治的公平性をめぐり新たに解釈を加えるよう総務省に働きかけました。あなたは、この働きかけは問題があると思いますか。問題はないと思いますか
問題がある 50%
 問題はない 28%
 その他・答えない 22%

・放送法の政治的公平性をめぐる総務省の文書について、当時の総務大臣だった高市早苗さんは「捏造(ねつぞう)で内容は不正確」と説明しました。あなたは、高市さんの説明に納得できますか。納得できませんか。
 納得できる 17%
 納得できない 62%
 その他・答えない 21%

 毎日新聞も総務省の行政文書を元に、礒崎補佐官が総務省に解釈変更を求めていたことをどう思うかを尋ねています。「問題だ」43%に対し、「問題だとは思わない」12%です。「公文書が正しいか疑問だ」との選択肢もあります。高市氏が捏造を主張して譲らないことを考慮したのでしょうか。並列の選択肢として適切かどうか疑問を感じますが、それはともかく回答は24%で、「問題だ」と「問題だとは思わない」のほぼ真ん中の水準であることは興味深く感じます。

▽毎日新聞調査 3月18~19日実施
・総務省の公文書によると、安倍政権時代に首相補佐官が総務省に対し、放送法の「政治的公平性」について解釈を変更するよう求めていました。どう思いますか。
 問題だ 43%
 問題だとは思わない 12%
 公文書が正しいか疑問だ 24%
 わからない 20%

 読売新聞は、安倍内閣時代に政府が「政治的公平性」に新解釈を加えたことについて、問題と思うかどうかを尋ねています。回答は「思う」59%、「思わない」26%でした。礒崎氏や高市氏は、一つの番組だけでも政治的公平性を判断できるとの解釈を、従来の解釈の変更とは認めず、補充的な説明だと強調しています。そういう中で、読売新聞が質問文の中でとはいえ、「解釈を加えた」との表現で新解釈と断じたことは目を引きます。

▽読売新聞調査 3月17~19日実施
・放送法は、テレビやラジオの放送局に番組の「政治的公平性」を求めています。政府は従来、番組全体で公平性を判断してきましたが、安倍内閣時代に1つの番組だけでも判断できるとの解釈を加えました。このことは、問題だと思いますか。
 思う 59%
思わない 26%
答えない 15%

 民意は総じて、放送法の解釈の問題も、その経緯も、高市氏の「捏造」主張も、冷静に見ていると感じます。