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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

「唯一の被爆国のメディア」が記録に残すべき広島サミットの「意義」~「声明からは体温や脈拍を感じなかった」(サーロー節子さん)

 広島市で開催されていたG7サミット(主要7カ国首脳会議)は5月21日、閉幕しました。翌22日付の東京発行新聞各紙の朝刊は、そろって1面で大きく扱いました。それぞれの1面トップの記事の見出しを書きとめておきます。

【朝日新聞】「『戦争なくさねば』広島で/ゼレンスキー大統領、会見」
【毎日新聞】「G7『国際秩序守り抜く』/広島サミット閉幕 新興国と連携」
【読売新聞】「G7・ウクライナ結束/支援と対露制裁 継続/サミット閉幕/首相『核の威嚇許さず』」
【日経新聞】「G7、ウクライナ支援結束/ゼレンスキー氏『強い協力達成』/広島サミット閉幕」
【産経新聞】「ウクライナ連帯 世界に誇示/国際秩序守る決意/中国の責任、G7共有 議長国会見/広島サミット閉幕」
【東京新聞】「核なき世界『追求』 抑止力『強化』/相反するメッセージ発信/広島サミット閉幕」

 ロシアの侵攻を受けるウクライナのゼレンスキー大統領が、21日の討議に加わったことから、ウクライナ支援を前面に立てたトーンが目立ちます。その中でひときわ目を引くのは、東京新聞の見出し「核なき世界『追求』 抑止力『強化』/相反するメッセージ発信」です。世界で初めて核兵器が使用され、おびただしい住民が犠牲になった広島でのG7サミット開催の「意義」が問われている、と感じます。
 広島サミットでは「核廃絶」の具体的な前進はありませんでした。それでも、高いハードル、厚い壁だからこそ、被爆地で「究極の目標」であることをあらためて確認しただけでも意味がある、との評価もありうるかもしれません。しかし具体的な一歩がなかった一方で、19日に発表された「広島ビジョン」では、米英仏の核兵器保有が正当化されました。ほかの土地、他国での開催なら、こうしたことも「いつものこと」であり、「国際社会の現実は厳しい」と語って終わりになったかもしれません。しかしわたしは、「核兵器は有用だ」「保有は正当である」との宣言をよりによって、多くの犠牲者が眠り、被爆者が一日も早い核廃絶を願っている広島の地で行った、ということは軽視できないと考えています。人類史の記録に残されてしかるべきことだと思います。
 カナダを拠点に核兵器廃絶を訴えている被爆者のサーロー節子さん(91)はこのサミットについて「大変な失敗だった」と21日の記者会見で語っています。
※中国新聞「被爆者サーロー節子さん、広島サミットは『失敗』」
 https://www.chugoku-np.co.jp/articles/-/308690

 カナダから広島市に帰郷している被爆者サーロー節子さん(91)は21日、中区で記者会見し、3日間の日程を終えた先進7カ国首脳会議(G7サミット)について「大変な失敗だった。首脳の声明からは体温や脈拍を感じなかった」と残念がった。
 サミットでG7首脳は初めてそろって原爆資料館(中区)を訪れ、被爆者とも対話した。ただ見学内容や首脳の様子は非公表で「本当に我々の体験を理解してくれたのか。反応が聞きたかった」と指摘した。

 期待があった分、「大変な失敗」との厳しい評価になったのだろうか、と感じます。

 「被爆地の新聞」である中国新聞が「『意義』これから問われる」との岩崎誠・論説主幹による総括を掲載しているのを、同紙のサイトで読みました。
https://www.chugoku-np.co.jp/articles/-/308814

 要はこれからだ。参加国の指導者も市民もこのサミットの功罪を検証し、次のステップに生かすべきだ。その上で明るい未来への転機にしてこそ、本当の意味で被爆地で開いた歴史的な意義は確かなものになる。速やかな核兵器廃絶を、私たちは決して諦めない。

 この広島サミットを取材し報じる日本のメディアは、世界中から広島に集まったメディアとは際立って異なる位置づけが可能であること、それは「唯一の被爆国のメディア」であり「不戦と戦力不保持を国是とする国のメディア」であることだと、以前の記事で書きました。やはり日本のメディアが記録し、後世に残すべきことは、被爆地で開催し「核なき世界」を目指すと言いつつ、現実には「核廃絶」どころか核兵器の保有を正当化した、それを世界に公言したサミットだった、ということだと思います。

※参考過去記事

news-worker.hatenablog.com

 東京発行の各紙の22日付紙面を見ていて、少なからず驚いたのは産経新聞の社説(「主張」)の以下のくだりです。

 G7首脳声明は、ロシアに抗戦するウクライナに対し、必要とされる限りの支援を約束した。世界のいかなる場所でも力による現状変更に強く反対するとした。グローバルサウスと呼ばれる新興・途上国との連携を重視し、「大小を問わず全ての国」の利益のため、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を堅持するとした。
 核軍縮に関する広島ビジョンもまとめられ、ロシアの核威嚇と核使用に反対し、中国の核戦力増強に懸念を表明した。
 いずれも世界の平和と秩序の維持に責任を持つべきG7として必要な表明で結束を示した。今後、ウクライナ支援の強化などを通じ、結束の固さを証明していくべきだ。それにはG7議長国の日本も殺傷力を持つ兵器の提供を実現するときである。

※産経新聞・主張「広島サミット閉幕 秩序の維持へ結束示した ウクライナ支援の強化図れ」
https://www.sankei.com/article/20230522-6JSRHG43R5IDFC2SYUP4V4DRKE/

 「防衛装備品」ではなく「兵器」の用語を使っている点は、あいまいさを避けていて分かりやすいです。「殺傷力を持つ兵器の提供」とは、他国の地で日本の兵器によってだれかが殺傷されることを意味します。この主張が世論にどの程度受け入れられるのかを知りたいと思います。

 以下にほかの5紙の22日付の社説の見出しも書きとめておきます。いずれもリンク先で読むことができます。

・朝日新聞「広島サミット閉幕 包摂の秩序構築につなげよ」/多様な国と関係築け/非核の道筋示されず/日本は真の橋渡しを
 https://www.asahi.com/articles/DA3S15641729.html
・毎日新聞「国際秩序とG7 平和創出にこそ指導力を」/ウクライナが試金石だ/「不戦」を政治の使命に
 https://mainichi.jp/articles/20230522/ddm/005/070/014000c
・読売新聞「サミット閉幕 国際秩序守る強い決意示した/ゼレンスキー氏の訴えに応えよ」/反転攻勢前の電撃訪日/新興国との協調カギに/台湾海峡の平和で一致
 https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20230521-OYT1T50225/
・日経新聞「『広島』をウクライナ和平への転機に」
 https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK210ID0R20C23A5000000/
・東京新聞(中日新聞)「広島サミットを終えて 国際秩序立て直し図れ」/民主主義国は少数派に/軍拡の流れを変えねば
 https://www.tokyo-np.co.jp/article/251534