岸田首相あいさつ「ほぼコピペ」、長崎の8割は広島と同じ~改造内閣の第一の課題は「防衛力強化」=「軍拡」

 8月9日は長崎の原爆の日でした。平和祈念式典での岸田文雄首相のあいさつは、6日の広島と同じく、核兵器禁止条約には触れませんでした。気になったのは、枢要な部分の表現が、広島でのあいさつと相当程度、一緒だったことです。「非核三原則を堅持しつつ、『厳しい安全保障環境』という『現実』を『核兵器のない世界』という『理想』に結び付ける努力を行ってまいります」という分かりにくい表現も、一言一句そのままでした。
※「長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典あいさつ」=2022年8月9日
 https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/statement/2022/0809nagasaki.html

www.kantei.go.jp

※広島でのあいさつは以下です
 https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/statement/2022/0806hiroshima.html

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 試みに、長崎でのあいさつ全文計1100字余りのうち、広島でのあいさつと同一の部分を手元で数えてみたところ、約900字でした。約8割です。広島と長崎に同じように向き合う、ということなのかもしれませんが、いわゆる「コピペ」の対応はあまりに事務的であるように感じます。それぞれに誠実に向き合うなら、それぞれの被害の実相に目を凝らすべきだとも思います。安倍晋三元首相も広島と長崎であいさつの文章はほぼ同じでした。先例を踏襲したということならば「お役所仕事」です。
 この点については毎日新聞が10日付の朝刊に「あいさつ ほぼ『コピペ』」の見出しの記事を掲載しています。政治家は何を語るか、その言葉が問われます。ましてや首相の言葉に関わることです。広く報じられていいように思います。

 ■“今ここにある危機”

 長崎市の田上富久市長が読み上げた「長崎平和宣言」の中で、もっとも印象に残ったのは、核兵器の使用が“杞憂”ではなく“今ここにある危機”であるとの指摘です。
 長崎平和宣言は、米ロ英仏中の核保有5か国首脳が「核戦争に勝者はいない。決して戦ってはならない」との共同声明を発信した翌月、ロシアがウクライナに侵攻し、核兵器による威嚇を行ったことを挙げて、以下のように強調しています。

 この出来事は、核兵器の使用が“杞憂”ではなく“今ここにある危機”であることを世界に示しました。世界に核兵器がある限り、人間の誤った判断や、機械の誤作動、テロ行為などによって核兵器が使われてしまうリスクに、私たち人類は常に直面しているという現実を突き付けたのです。
 核兵器によって国を守ろうという考え方の下で、核兵器に依存する国が増え、世界はますます危険になっています。持っていても使われることはないだろうというのは、幻想であり期待に過ぎません。「存在する限りは使われる」。核兵器をなくすことが、地球と人類の未来を守るための唯一の現実的な道だということを、今こそ私たちは認識しなければなりません。

 核兵器の「抑止論」は、もはや現実の前に意味を持ちません。ロシアのウクライナ侵攻はそのことを突き付けています。
 一方で、戦争を起こさせないことは不可能ではない、可能性はゼロではありません。平和宣言の以下の部分には深く共感します。

 私たちの市民社会は、戦争の温床にも、平和の礎にもなり得ます。不信感を広め、恐怖心をあおり、暴力で解決しようとする“戦争の文化”ではなく、信頼を広め、他者を尊重し、話し合いで解決しようとする“平和の文化”を、市民社会の中にたゆむことなく根づかせていきましょう。高校生平和大使たちの合言葉「微力だけど無力じゃない」を、平和を求める私たち一人ひとりの合言葉にしていきましょう。

※「令和4年 長崎平和宣言」=2022年8月9日
https://www.city.nagasaki.lg.jp/heiwa/3070000/307100/p036984.html

※参考過去記事

news-worker.hatenablog.com

 ■「軍拡」内閣

 長崎の原爆の日の翌10日、岸田首相は内閣改造を行いました。安倍元首相の銃撃事件以降、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)と自民党の関係が注目されるさなかですが、首相は記者会見で、五つの重点分野に取り組むと表明。「第一に防衛力強化を挙げ、経済安全保障の推進、経済再生、コロナ対策の強化などを挙げた」(共同通信)とのことです。「防衛力強化」とは「軍備拡大」を呼び変えたものです。広島、長崎の原爆の日の直後、そして8月15日の敗戦の日の直前に、「軍拡」を課題の第一に掲げる内閣が発足しました。

※共同通信「第2次岸田改造内閣が発足/防衛力強化の検討推進」=2022年8月10日

nordot.app

 岸田文雄首相は改造後会見し、年末に向けた課題として防衛力強化を挙げ「必要となる防衛力の検討、予算規模の把握、財源の確保を一体的かつ強力に進める」と政府内の議論を加速する考えを強調。新型コロナや米中緊張を挙げて有事に対応する「政策断行内閣だ」と述べた。

 敗戦から77年。社会で戦争体験を継承していくことがより一層、重要になっています。そこにマスメディアの役割と責任もあります。

 以下は、長崎の原爆の日を東京発行の新聞各紙がどう報じたか、10日付朝刊の記録です。
 朝日新聞、毎日新聞、産経新聞、東京新聞は1面でしたが、読売新聞は本記が第2社会面と、扱いが突出して控え目なのが目を引きました。

【8月10日付朝刊】
▼朝日新聞
・1面準トップ・本記「核批准条約 迫る長崎」/「『被爆体験者』の医療費/がんに至急検討/首相表明」
・4面:首相の会見要旨
・社会面トップ「戦火の世 断ち切る誓い/ウクライナ『ピカドンの恐怖そのもの』」/「被爆者合唱団 最後の式典/高齢化背景 平和『歌い続ける』」/「原水爆禁止2大会閉幕」/「長崎資料館に首相初の訪問」/「両陛下が黙祷」
・第2社会面「『二度と私をつくらないで』/平和宣言『車いすの語り部』の祈り」/「『抜本解決ほど遠い』/被爆体験者の救済拡大方針」
・第3社会面 長崎市長 平和宣言(全文)/平和祈念式典 首相あいさつ(全文)
・社説「核廃絶と首相 核禁条約は『入り口』だ」

▼毎日新聞
・1面準トップ・本記「『核廃絶 先導役に』/長崎原爆77年 平和式典」
・4面・特集「語らしめる『この姿』/被爆で下半身不自由に 故渡辺千恵子さん」/長崎平和宣言(全文)/平和への誓い(全文)/首相あいさつ(全文)/国連事務総長あいさつ(全文)※中満泉・国連事務次長・軍縮担当上級代表が代読
・社会面トップ「被爆体験者 首相に失望/『広島選出』…救済言及なし」/「あいさつ ほぼ『コピペ』/『心こめてほしい』」/「資料館、現職で初訪問」

▼読売新聞
・4面(政治)「首相、核禁条約言及せず/長崎平和式典 米の抑止力 考慮」
・9面(国際) 長崎平和宣言全文/岸田首相あいさつ全文
・第2社会面・本記「惨禍なくす 決意と祈り/核廃絶『未来守る唯一の道』 長崎原爆の日」/「『きょうだい仲良く』生きたよ/式典で献水 母をしのぶ」/「両陛下が黙とう」

▼日経新聞
・4面(政治・外交)「核軍縮 首相が発信強化/長崎で『安全環境との両立へ努力』/来年広島サミット 平和への結束訴え」
・社会面トップ・本記「核なき世界 願い一つ/市長『私用の危機に直面』/禁止条約の批准求める」/「『被爆体験者』救済なお課題/『黒い雨』訴訟で国が新基準/広島との線引き、反発も」/「被爆体験者支援 一部のがん追加/首相が検討表明」

▼産経新聞
・1面・本記「核兵器廃絶『唯一の道』/長崎原爆77年 露侵攻に危機感」
・社会面準トップ「4歳で被爆 体験語らねば/長崎『原爆の日』77年」/「天皇ご一家 ご黙祷」
・第3社会面 平和宣言 要旨/首相あいさつ 要旨/平和への誓い 要旨

▼東京新聞
・1面準トップ・本記「非核化 人類唯一の道/首相 核禁条約に触れず 長崎原爆の日」
・3面「長崎・被爆体験者『被爆者認定を』/首相、支援対象に がん一部追加へ」
・7面 長崎平和宣言全文/「平和の誓い」全文/首相あいさつ要旨
・社会面トップ「核なき世界 きっと咲く/平均81歳 被爆者合唱団『ひまわり』/願い込めて 式典最後の参加」/「『平和が一番』祈り静かに」

 

◆追記 2022年8月17日8時30分
 備忘です。広島、長崎の原爆の日のあいさつだけでなく、岸田首相は8月15日の全国戦没者追悼式典のあいさつも、8割以上が前任者と「一言一句同じだった」と朝日新聞が伝えています。近隣諸国への加害責任には言及しなかった点も同じです。

※朝日新聞「『岸田カラー』見えない首相式辞 8割が前年と同じ 戦没者追悼式」=2022年8月15日
 https://digital.asahi.com/articles/ASQ8H5KG6Q8HUTFK005.html

 東京・日本武道館であった全国戦没者追悼式で岸田文雄首相は15日、首相として初めて参列し、式辞を述べた。全体の8割以上が前年の菅義偉前首相の表現と一言一句同じだった。残りも安倍晋三元首相の式辞を踏襲した部分が目立ち、「岸田カラー」の見えない中身となった。
(中略)
 「積極的平和主義」は安倍氏が2020年の式辞に盛り込み、菅氏も踏襲。岸田首相は菅氏の表現をそのまま用いた形だ。菅氏が昨年盛り込んだ「戦争の惨禍を二度と繰り返さない」に続く、「この信念をこれからも貫いていく」という表現は「この決然たる誓いをこれからも貫いていく」に変わったが、これも20年の安倍氏と同じだった。