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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

「問われているのは民主主義の在り方」(琉球新報)~処理汚染水放出 地方紙の社説、論説の記録

 一つ前の記事の続きです。
 東京電力福島第1原発で生じた汚染水を処理した水の海洋放出に対し、多くの地方紙も社説、論説で取り上げています。全国紙各紙と同様に、23日付に掲載した新聞が多いようです。放出の開始日が決まったのが8月22日だったことからの掲載タイミングです。ネット上の各紙のサイトで読めるものを中心にチェックしてみました。
 目を引いたのは、沖縄の琉球新報の社説です。海洋放出について「方針を撤回すべきだ」と明確な表現で取りやめを求めています。日本政府に対しても、地元を顧みず既定方針を進めているとして「沖縄の米軍基地問題にも通底している」と指摘しています。
一つ前の記事でも触れましたが、地域のことは地域で決めるとの「自己決定権」が奪われている点で、福島第1原発事故をめぐる問題と沖縄の基地の過重な負担の問題は同じです。琉球新報の社説が指摘している通り、「問われているのはこの国の民主主義の在り方」だと思います。
▼琉球新報「処理水の海洋放出 漁業者踏みにじる決定だ」=8月23日
 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1770907.html

 漁業関係者の反対は根強く、中国は「核汚染水の海洋放出」として反発を強めている。理解が得られない中での放出開始は認められない。方針を撤回すべきだ。
(中略)
 「寄り添う」と言いながら地元の思いを顧みず、既定方針を進めていくやり方は沖縄の米軍基地問題にも通底する。問われているのはこの国の民主主義の在り方だ。

 北海道新聞も23日付の社説で「海洋放出に代わる方策を追求すべきである」と再考を求めています。ひとまず保管用タンクを増設することは、実現可能な選択肢ではないのでしょうか。

▼北海道新聞「福島処理水海洋放出 まだ理解得られていない」/不誠実な政府の対応/安心どう確保するか/不信が復興を妨げる
 https://www.hokkaido-np.co.jp/article/896759/

 なぜ今、放出を決断しなければならないのか。保管用タンクを原発の敷地外に増設できないのか。トリチウムを除去する方法が将来見つかるのではないか。数々の疑問に対し、十分な説明はない。
 国民の理解を得ないまま重要政策を進める政府の姿勢はあまりに乱暴だ。政府への不信感が長期にわたる廃炉作業や福島の復興の妨げとならないか心配だ。
 国内外に与える影響を見極め、福島をはじめとする地域の関係者との対話を密にして、海洋放出に代わる方策を追求すべきである。

 一つ前の記事で紹介した共同通信配信の論説(筆者は井田徹治編集委員)は、佐賀新聞のほか東奥日報、山陰中央新報、宮崎日日新聞も掲載しています。「大きな過ちは一刻も早く改めるべきだ」と主張しています。

▼東奥日報「議論不十分 禍根は大きい/原発処理水の海洋放出」
 https://www.toonippo.co.jp/articles/-/1622970
▼山陰中央新報「原発処理水の海洋放出 将来に禍根を残すな」
 https://www.sanin-chuo.co.jp/articles/-/438186 
▼宮崎日日新聞「処理水放出 不誠実な政府、東電の対応」
 https://www.the-miyanichi.co.jp/shasetsu/_73015.html
▼佐賀新聞「原発処理水の海洋放出 将来に禍根を残す」
 https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1095531

 ほかにも中国新聞や西日本新聞などが、放出に強い疑問を示し、別の方策の検討を尽くすよう求めるなど、放出を回避するべきだとの考えをにじませているように感じました。

 福島県の地元紙は福島民報、福島民友新聞の二つがあります。
 24日の放出開始の前後では、福島民報の社説は23日付、25日付の2回掲載しています。福島民友新聞は23日付と24日付と2日連続でから25日付まで3日連続で取り上げました。風評被害への対策を含めた全責任は日本政府にあることを強調しています。

▼福島民報
・23日付「【処理水海洋放出】負担の上積み許されず」
 https://www.minpo.jp/news/moredetail/20230823109806

 東京電力福島第1原発にたまり続ける処理水を巡って政府は、県内関係者らの反対が根強い中で24日の海洋放出開始を決めた。国民の理解も十分に深まっているとは言い難い。漁業をはじめ観光など幅広い分野への影響を懸念する声が上がるのは当然だ。県内関係者は廃炉を見据えて苦渋の判断を迫られた。政府は風評対策と漁業者支援を徹底、強化しなくてはならない。
 (中略)
 処理水処分は廃炉を前進させる上で欠かせず、先送りできない問題ではある。同様に、海洋放出による新たな風評を防ぐ取り組みが極めて重要なのは言うまでもない。首相は関係閣僚会議で、漁業の継続を目的とした基金の創設などを確認した。風評による損害を適切に賠償し、漁業者らへの支援体制を構築する考えも示した。ただ、いずれも風評発生後の対策であり、未然に防ぐ対策にも万全を期してほしい。

・25日付「【海洋放出開始】次世代に恥じぬ対応を」
https://www.minpo.jp/news/moredetail/20230825109858

 放出が始まった以上、風評を起こさない、起きた場合も最小限に抑え込む取り組みが、さらに重要度を増す。県やいわき市は海水のトリチウム濃度を独自に測定する体制を強化するという。県民の安心安全確保のため、政府、東電だけに頼らず、県や県内市町村ができることを積極的に進めることも、これからは必要となってくるだろう。こうした取り組みは、ひいては風評の払拭につながるはずだ。
(中略)
西村康稔経済産業相との面会で反対姿勢を最後まで崩さなかった。無理のある一方的な解釈は納得できるものではない。
 岸田首相は坂本雅信全漁連会長との面会で「今後数十年の長期にわたろうとも、全責任を持って対応する」と約束した。新たな約束をどう果たすのか、厳しい目を持つとともに、福島の復興を託す未来の世代に恥じぬ対応とは何かを私たち県民も真剣に考え続けたい。

▼福島民友新聞
・23日付「処理水・放出開始決定/完遂の全責任は政府にある」
 https://www.minyu-net.com/shasetsu/shasetsu/FM20230823-800143.php

 政府は、24日に処理水の海洋放出を始めることを決めた。放出は今後の廃炉作業を安全かつ効率的に進めるのに必要な対策だ。廃炉は新たな局面へと前進する。
 (中略)
 漁業者の反対が残りつつも、最後は政府が政治決断で対処するしか、この問題を前進させる方法はない。首相は、政府が前面に立って放出を開始することを国内外に強く示すことが不可欠だ。
 首相は坂本会長らに対し、風評被害対策などの予算措置を長期間講じる考えを伝えた。数十年先の放出完了まで、国内の漁業を守っていくことは簡単ではあるまい。
 漁業者への支援を、放出開始にこぎ着けるための甘言に終わらせることがあってはならない。政府は、水産業を守る姿勢を行動で証明し続けられるかが問われる。

・24日付「処理水・きょう放出/科学だけで風評は防げない」
 https://www.minyu-net.com/shasetsu/shasetsu/FM20230824-800414.php

 この数カ月、中国政府が処理水を「核汚染水」と呼び、安全性に懸念を示している。韓国のインターネットメディアがデマを流したこともあった。日本政府や与党幹部らは、中国の主張に抗議するだけでなく、これまでなかった個別の報道などへの反論を行った。
 本県への誤解、偏見を招く主張やデマが以前からあることを踏まえれば、政府の対応が遅きに失したのは否めない。一方、「政府が前面に立つ」という言葉を実行し始めたことは評価できる。
 海洋放出に反対する中国と香港が、対抗措置として水産物の輸入規制を強化した。処理水問題は国際社会の利害が絡んだ外交・通商問題と化している。
 放出の賛否にかかわらず、国会議員らには国の産業を守る責務がある。誤った主張をただすと同時に、水産物の国内の消費拡大、代替輸出先の調整など、具体策を講じることに力を傾注すべきだ。

 そのほかにも多くの地方紙が23日付の社説、論説で取り上げています。各紙のサイトで確認できたものについて、以下に見出しを記録しておきます。本文を読めるものは、一部を書きとめておきます。その後も、中国との関係悪化などを巡って社説、論説の掲載が続いています。後日、まとめてみたいと思います。

【8月23日付】
▼河北新報「処理水あす放出開始 禍根残す「なし崩し」の決定」
▼秋田魁新報「原発処理水放出 漁業者の未来、守れるか」
 https://www.sakigake.jp/news/article/20230823AK0008/

 政府が海洋放出による処分を決めた21年4月から2年余りあった。だが、漁業関係者の不安払拭に至っていないばかりか、放出以外の処分法の検討が不十分との指摘さえなおある。漁業者の不安や疑問に向き合う政府の努力は不足している。
 (中略)
 目先の補償だけあればいいわけではない。風評被害対策や漁業者への支援が長く続くような状況で、漁業の未来に明るい展望が開けるだろうか。数十年に及ぶ放出が次の世代への継承に与える影響は計り知れない。政府はこうした漁業者の危機感も理解し、対応していく必要がある。

▼山形新聞「原発処理水の海洋放出 信頼構築へ努力尽くせ」
 https://www.yamagata-np.jp/shasetsu/index.php?par1=20230823.inc

 科学的な安全を、消費者が安心と受け止めるのは一朝一夕にはいかない。政府は国際社会に対して安全性の周知などに努めてきたが、日本の漁業を守る本格的な取り組みは、放出がスタート地点となろう。
 風評被害は時がたてば薄らぐと考えるのは大きな間違いだ。処理水放出の理解を得るための活動を甘く見て、時間を無駄にした愚を繰り返してはならない。

▼山梨日日新聞「【処理水 あす放出】見切り発車では『安心』遠い」
▼信濃毎日新聞「処理水放出決定 結局『理解』は言葉だけに」
 https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2023082300074

 政府にすれば、反対が続いていても、「丁寧な説明」を重ねて理解が進んだ、ということなのだろう。閣僚から「一定の理解は得られた」との発言も出ている。
 何をもって「理解」とするのかはっきりしない中での、一方的な解釈と言わざるを得ない。
 実態は、先送りし続けて保管場所がなくなり、追い込まれた末の見切り発車である。丁寧に解決策を探ったというより、実質的に海洋放出ありきだった。
 (中略)
 政府は、廃炉のため放出は必要と訴える。だがその廃炉自体、見通しが付いていない。廃炉を巡る数々の課題を先送りし、結局は地元に我慢を強いる。そんな対応は責任ある態度とは到底言えない。

▼新潟日報「処理水放出決定 約束守る覚悟を求めたい」/理解得たと言えるか/風評被害を防がねば
 https://www.niigata-nippo.co.jp/articles/-/268642

 漁業者の反対を押し切り、約束をほごにしたと言わざるを得ない決定だ。方針ありきで進めた政府の対応は禍根を残す。
 これでは数十年に及ぶ海洋放出を前に示された新たな約束も、守られる確証を持てない。政府には真摯(しんし)に約束を果たす覚悟が求められる。
 (中略)
 政府は安全性を確かめる放射性物質モニタリング(監視)を強化し、国内外に情報発信するとしている。
 国際社会の信頼を得るためにも、監視を徹底しなくてはならない。政府と東電は、異変があれば立ち止まり、何度でも説明を尽くす必要がある。

▼中日新聞・東京新聞「処理水放出 『全責任』を持てるのか」
 https://www.chunichi.co.jp/article/753979?rct=editorial

 約束を反故(ほご)にしての放出開始。いくら首相が「責任を持つ」と繰り返しても、にわかに信じられるものではないだろう。海洋放出の実施については、まだまだ説明と検討が必要だということだ。
 これほどの難題を抱えつつ、あたかも別問題であるかのように、政府が「原発復権」に舵(かじ)を切るのも全く筋が通らない。
 日本の水産物輸出先一位の中国は先月から税関検査を強化。七月の輸入量は前の月に比べ、三割以上減少した。拙速な放出開始は将来にさらなる禍根を残す。

▼北日本新聞「原発処理水放出/本当に責任持てるのか」
▼福井新聞「福島原発の処理水放出 あらゆる責任負う覚悟を」
 https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/1854272

 今回、過去の約束をないがしろにせざるを得なくなったのは、こうしたその場しのぎの言説と弥縫(びほう)策を繰り返してきたからにほかならない。政府は廃炉には海洋放出が不可欠と訴えてきたが、直ちには保管タンクの削減にはつながらず、廃炉も加速しない。難航するデブリの取り出しや、汚染した構造物、行き場のない放射性廃棄物も大量にあるほか、汚染水そのものの発生も抑制する必要がある。
 不祥事まみれの東電に、数十年に及ぶ海洋放出を担えるのかという疑念もつきない。国際原子力機関(IAEA)の監視を仰ぐというが、東電の隠蔽(いんぺい)体質の払拭が前提だ。異変があれば直ちに立ち止まり、何度でも説明を尽くす姿勢を徹底できるかにかかっている。

▼京都新聞「処理水放出へ 重大な禍根残す決定だ」
 https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/1093475

 放出に反発する中国は、日本からの水産物の輸入規制を強化している。放出決定を受け、香港は10都県の水産物を輸入禁止にするなどの動きが出ている。政府は手を尽くし、日本の水産業への影響を抑えねばならない。
 加えて、30~40年かかるとしている事故原発の廃炉作業は、当初の計画から大きく遅れ、溶融核燃料(デブリ)取り出しのめどは立っていない。
 したがって、処理水の発生が止まる見通しもなく、地元では今回の決定が「終わりなき放出」につながるのではないかとの不安が消えない。
 厳格な安全管理を長期間担うことになる東電に対し、不信感も根強い。
 政府と東電は十分な情報公開と説明を続けるとともに、地元や漁業者らの声に真摯(しんし)に向き合うことを改めて求めたい

▼神戸新聞「処理水放出決定/漁業者の理解なき強行だ」
 https://www.kobe-np.co.jp/opinion/202308/0016728959.shtml

 肝心の廃炉で、東電は最難関のデブリ取り出しに難航している。今年中に作業を始める予定だが、総量約880トンのごく一部に過ぎない。デブリが取り出せない限り、汚染水がなくなることはない。東電には廃炉の見通しを示す責任がある。
 (中略)
 基金を創設して済む問題ではない。放出開始後も漁業者らの声に耳を傾けて対応を見直し、処理水の現状に関して国民や諸外国に丁寧に発信する努力が欠かせない。
 漁業者や消費者が最も望んでいるのは、近海で取れる魚介類への安心である。政府は海洋環境と魚介類の安全性の確認にあらゆる手段をつくすとともに、問題が見つかれば速やかに公表し、処分の方法を再検討してもらいたい。

▼中国新聞「処理水放出決定 理解得られたとは言えぬ」
 https://www.chugoku-np.co.jp/articles/-/350069

 政府と東電の放出計画では、ALPSで処理できないトリチウムが国基準値の40分の1未満になるよう海水で薄め、海底トンネルを通して1キロ沖に流す。政府もIAEAも「国内外の原発の排水にも含まれる物質」と説明するが、通常運転の原発の排水と、デブリに触れた水では比較になるまい。トリチウム以外の放射性物質も完全に取り除けるわけではない。
 政府と東電は、モニタリング(監視)を強化し、数値が基準を超えればすぐに止めるとしているが、チェック体制は十分なのだろうか。異常があっても回収する手だてはなく、一度流せば取り返しがつかない。このまま放出に踏み切れば、将来に禍根を残す。

▼愛媛新聞「原発処理水あす放出 漁業者の不安置き去りの決定だ」
▼徳島新聞「原発処理水 放出に失望禁じ得ない」
▼高知新聞「【処理水放出へ】政府は地元と対話継続を」
 https://www.kochinews.co.jp/article/detail/674980

 首相は、廃炉や福島の復興のため放出は先送りできないとする。しかし政府が信頼されないようでは、それこそ復興に支障が出かねない。政府にはこの先も漁業者らとの対話を継続し、政府方針に理解を得るよう強く求める。
 その上で、少なくとも30年かかるといわれる放出の間、安全の確保や風評対策などを確実に実行する責任が問われる。

▼西日本新聞「原発処理水放出 漁業者との約束に反する」
 https://www.nishinippon.co.jp/item/n/1119372/

 原発にある処理水の保管用タンク千基が満杯に近いことは、放出を急ぐ理由にならない。原子炉からのデブリ取り出し作業は計画から遅れ、事故から40年で廃炉が完了するのは困難との見方が強い。作業場所を確保するために、処理水を慌てて処分する状況ではないはずだ。
 政府の小委員会は20年に、処理水の処分方法として海洋放出と水蒸気放出が現実的な選択肢と示した。研究者や市民団体が提案する陸上タンクでの保管継続、半地下でのモルタル固化に関して時間をかけて検討した形跡はない。
 他の手法との比較検討を尽くさずして、海洋放出への理解は広がるまい。

▼大分合同新聞「原発処理水の海洋放出 被災者の声、軽視するな」
▼熊本日日新聞「処理水放出開始へ 責任ある風評被害対策を」
▼南日本新聞「[原発処理水放出] 漁業継続の願い応えて」
▼沖縄タイムス「原発処理水放出 地元置き去りの判断だ」

写真出典:経済産業省資源エネルギー庁ホームページ

https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/fukushima2021_02.html