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広く論議されていない戦闘機の輸出解禁~世論調査で民意は賛否が拮抗 ※追記:岸田政権が閣議決定

 日本が英国、イタリアと共同開発する戦闘機について、自民党と公明党が3月15日、第三国への輸出を解禁することに合意しました。この戦闘機の輸出方針をどう受け止めているか、16日以降に実施された3件の世論調査が質問をしています。結果はいずれも賛否二分。民意は真っ二つと言っていい状況です。

 かつて日本は、平和憲法の精神に鑑み、武器は輸出しないことが国是でした。安倍晋三政権が2014年、それまでの「武器輸出三原則」を撤廃し、「防衛装備移転三原則」を定めて原則を「輸出可能」に転換。他国と武器を共同開発することも可能にしました。さらに昨年12月には、岸田文雄政権の軍拡路線の一環として、殺傷能力の高い武器でも、ライセンス生産した完成品はライセンス元の国には輸出できるようになりました。今回の自公の合意は、その延長線上にあり、輸出先が広がります。しかも強力な殺傷能力を持つ戦闘機です。
 武器を禁輸としていたかつての「平和国家」のありようが大きく変容しているのですが、それでも賛否が拮抗している、言い方を変えれば、民意の大勢は否定的どころか、4割以上が肯定的にとらえていることに、正直なところ驚きがあります。近年、台湾情勢に絡んだ中国の軍事的脅威が強調されたり、北朝鮮がミサイル発射を繰り返したりといったことに加えて、ロシアのウクライナ侵攻が続いていることが、日本社会で軍事力増強による安全保障を支持する雰囲気の醸成につながっているように感じます。
 一方で、これだけ賛否が拮抗していることには、別の要因もあるように感じます。あくまでも可能性の問題なのですが、この戦闘機の輸出解禁をめぐって、メリットだけでなくどのようなリスクがあるのかや、なぜかつては禁輸が国是だったのか、敗戦にまでさかのぼる歴史的な経緯が社会で十分には共有されていないのではないか、ということです。今回の輸出解禁は自民党と公明党の協議で事実上決まり、公式の手続きも閣議決定によることになります。国会での審議はありません。そのこと自体、「それでいいのか」と思うのですが、主権者の目が十分に届かないところで、なし崩し的に決められてしまっているように感じます。
 そうだとすると、「よくは分からないが日本の安全につながるならいいのではないか」と考えたり、逆に、「よく分からないから慎重にした方がいい」と考える人もいて、結果的に賛否が拮抗している可能性もあると感じます。
 思い起こすのは安倍晋三元首相の国葬です。マスメディア各社は世論調査で是非を繰り返し問いました。その回答状況の変遷は、このブログの記事にまとめています。

news-worker.hatenablog.com

 当初は肯定的評価が否定的評価を上回っていました。まもなく賛否は拮抗。その後、国葬に対する疑義や反対論が報道され、周知されるようになって、否定的評価が肯定的評価を上回っていきました。国葬実施後もその傾向は変わりませんでした。
 現在、国会では自民党の派閥パーティー券の裏金事件が最大の焦点になっていることもあって、戦闘機の輸出解禁、あるいは武器輸出の拡大をめぐるリスクなどの論点は、マスメディアの報道でも十分に報じられているとは言い難い状況だと感じます。国会の論戦の対象になることが期待できないのであれば、マスメディアが独自に多角的に検証し、メリットもリスクも含めて多様な論点を継続的に報じていくことが必要なはずですし、今からでも可能なはずです。そうした報道が社会に届けば、世論調査の結果も今後、変わっていく可能性があると思います。

 日本国憲法9条の第1項は「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と規定しています。禁じているのは戦争だけではなく、「武力による威嚇」「武力の行使」もです。「抑止力」の強化は、相手の立場では「威嚇」とも映ります。強力な殺傷能力を持つ戦闘機の輸出は、場合によっては日本がこの「威嚇」に与することにならないか。このまま「アリの一穴」で武器輸出がどんどん広がる果てに、日本製の兵器が他国の人たちの命を奪う事態が現出することを危惧します。武器輸出と憲法をめぐり、そうした論点に対する突っ込んだ論議は現在、国会では見られません。今後の報道と、民意の動向を注視しています。

 

【追記】2024年3月26日10時20分

 岸田政権は3月26日午前、戦闘機輸出の解禁を閣議決定しました。国会での審議はありません。

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