ニュース・ワーカー2

組織ジャーナリズムに身を置き40年余

「殺傷武器の供与」「負傷兵受け入れ」「軍拡」へ疑問投げ掛ける地方紙

 このブログの以前の記事でも触れた通り、5月に広島市で行われたG7サミットは、ロシアの侵攻を受けているウクライナのゼレンスキー大統領が広島を訪問し対面で討議に参加したこともあって、準軍事同盟の色彩が強まったと感じています。議長国の日本が、G7の枠組みごと、軍事同盟であるNATO(北大西洋条約機構)に引き寄せられている観があります。日本のウクライナ支援も、殺傷能力を持つ武器の供与に踏み込むべきだする論調が、マスメディアの中からも出ていることも紹介した通りです。日本国内では、軍事費(防衛費)の大幅増と敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有などの軍拡路線を岸田文雄政権が打ち出しています。日本は専守防衛を超えた軍事大国への道を進んでいるのではないか、との危惧があります。
 そんな中で、ネット上で読める地方紙の最近の社説、論説を見ていて、いくつか目を引かれたものがありました。日本国憲法9条は戦争の放棄を規定しているだけではありません。武力による威嚇、武力の行使も国際紛争を解決する手段としては用いないことを定めています。この憲法の定めに立ち返ることを思い出させてくれるように感じた社説、論説のいくつかを紹介します。

【ウクライナ支援】
■殺傷能力を持つ兵器の供与に対して
▽北海道新聞 5月28日付「防衛装備輸出 殺傷武器解禁許されぬ」
 https://www.hokkaido-np.co.jp/article/852552/

 日本は戦後、国際支援を非軍事に限り、武器の輸出は厳しく制限してきた。殺傷能力のある武器の提供などが国際紛争を助長する恐れがあり、平和主義を掲げる憲法の理念に背くからだ。
 国際紛争を解決する手段として、武力による威嚇、行使を放棄している憲法9条は、侵略戦争によって多くの国々に多大な損害と苦痛を与えた反省に基づく。
 紛争当事国に対する武器の提供は相手国から見れば敵対行為であり、間接的であっても紛争に加担したとみられても仕方あるまい。
 民生部門などでの国際協力を通じて築き上げてきた日本に対する信頼を損ない、かえって地域の緊張を高め、対立をあおることになりかねないだろう。
 平和主義の理念をねじ曲げる武器輸出は許されない。
 (中略)
 ロシアの侵攻を受けるウクライナへの支援について、日本が防弾チョッキなどの装備品の提供にとどめてきたのも、こうした方針を踏まえたからだ。
 欧米が戦車や戦闘機などの高度な兵器を次々と支援する中、自民党内からは日本の殺傷武器の輸出解禁を求める声が強まるが、一線を崩してはならない。

■ウクライナの負傷兵を自衛隊病院に受け入れることに対して
▽信濃毎日新聞 5月20日付「負傷兵受け入れ 許される支援どこまでか」
 https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2023052000064

人道上の意味がある、G7議長国として当然だ…。そう肯定する声はあろう。ただ、異例となる外国軍兵士の受け入れを判断するために必要なはずの情報や議論が、あまりに乏しい。
 ウクライナの医療環境はどうなっているのか、ポーランドなどの隣国の受け入れでは足りないのか。受け入れた兵士が傷を癒やした後、再び戦地の任務に就くこともあり得るのか。それは軍事支援に当たらないのか…。
 かろうじて歯止めがかかっている軍事協力に、なし崩しに踏み込んでいく懸念がつきまとう。

【岸田内閣の軍拡路線】
■中日新聞・東京新聞は「軍備」について、敵基地攻撃能力など兵器の拡充よりも、自衛隊の人員の充足の方が優先課題ではないかと指摘しています。見落とされがちな視点だと感じました。
▽中日新聞・東京新聞 5月29日付「進む自衛隊離れ 装備より人の充実こそ」
 https://www.chunichi.co.jp/article/698625?rct=editorial

 防衛費を関連予算を含めて国内総生産(GDP)比2%程度にするための財源確保特別措置法案が衆院を通過し、参院で審議入りした。「倍増ありき」の防衛論議が加速する一方、要となる若者の自衛隊離れが深刻さを増す。
 「専守防衛」に徹し、実効性のある防衛力を構築するには、敵基地攻撃が可能な装備の充実よりも自衛隊離れに歯止めをかける組織改革が先決ではないか。

■財源法案の審議に対して
▽信濃毎日新聞 5月28日付「防衛財源法案 廃案にして根本から正せ」
 https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2023052800230

 相互に防衛義務を負う北大西洋条約機構(NATO)加盟国の水準に倣い、岸田政権は規模ありきで防衛費を膨らませた。
 敵基地攻撃能力をはじめ、次々と導入を打ち出す新装備には、いまの自衛隊には使いこなせないものも目立つ。さらなる装備の必要に迫られ、それぞれに膨大な維持整備費が伴うことになる。
 専守防衛と整合するのか、なぜ新たな装備が要るのか―。首相は説明していない。官邸と与党の調整だけで防衛政策を大転換しておきながら、国民に〈自発的かつ主体的〉な安全保障政策への参画を要求し、借金か増税かという負担を押しつけている。
 衆院の審議ではっきりしたのは1270兆円もの借金を抱え、人口減少に直面する国が企てる防衛費倍増の無謀さだ。特措法案は廃案にするほかない。討議されてこなかった外交構想を含め、開かれた場で、地に足の着いた安保政策を練り直さなくてはならない。

▽高知新聞 5月26日付「【防衛財源法案】多面的な検討が足りない」
 https://www.kochinews.co.jp/article/detail/653546

 中国が覇権主義的な姿勢を強め、北朝鮮は核・ミサイル開発に突き進む。ロシアはウクライナを侵攻して主権と人命を顧みない。こうした安保環境を受けて防衛力強化を求める国内世論は強まっている。
 しかし、予算規模ばかりが先走る状況に不安感は拭えない。そもそも防衛力整備の在り方を巡る説明が不足したままだ。首相は専守防衛の堅持を表明してはいるが、形骸化の懸念が強まっていく。
 財政規律との兼ね合いも無視できない。財政の柔軟性が失われては、少子化や物価高など山積する政策課題への対応が難しくなる。多面的な検討が必要だ。
 衆院審議は、財政金融委員長の解任決議案の提出、採決などで通過がずれ込んだ。参院での審議は会期末をにらみながらの攻防となる。時間の制約はあっても議論を深めることが国会の存在感を高める。

▽神戸新聞 5月25日付「防衛財源法案/安定確保の道筋見えない」
 https://www.kobe-np.co.jp/column/shasetsu/202305/0016393390.shtml

 岸田文雄首相は昨年末、防衛力の抜本的強化のため、2023年度から5年間で総額約43兆円を投じる方針を決めた。過去5年と比べ約17兆円の増加となる。首相は「内容、予算、財源を一体で議論する」とするが「規模ありき」の感が否めない。財源確保策や使途について、国民の納得がいく説明を尽くすべきだ。

▽新潟日報 5月24日付「防衛財源法案 納得いく議論まだ足りぬ」
 https://www.niigata-nippo.co.jp/articles/-/221648 

共同通信社が実施した世論調査では、防衛力強化のための増税方針については、80%が「支持しない」とし、岸田首相の防衛力を巡る説明に88%が「十分でない」と答えている。
 反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有など安全保障政策の転換を含め、防衛を巡る問題は、今国会の最重要テーマであり、国民の理解が深まる議論が欠かせない。