先週末の12月17、18日に実施された3件の世論調査の結果が週明けに報じられました。敵基地攻撃能力の保有などを明記した安保3文書の改定が、16日に閣議決定された直後の調査です。世論調査の結果とその読み方は折に触れ、このブログで紹介してきましたが、今回は疑問を感じることがあります。特に、敵基地攻撃能力の保有容認に対する賛否が、いずれの調査でも賛成が反対を上回っていることについてです。質問は、「反撃能力」との呼び換えも含めて、政府の主張を前提に賛成か反対かを尋ねています。北朝鮮がミサイル発射を繰り返し、ロシアがウクライナ侵攻を続けている中で、これでは、敵基地攻撃能力の何が問題か、何を巡って論議になっているのかを知らない人なら「賛成」と答えがちになるのではないでしょうか。政府の主張に疑義が多数示されていることを質問に加えるべきではないか、と感じます。「賛成が多数」との結果だけが広まっていくことを危惧します。
少し時間がたってしまいましたが、備忘を兼ねて、これらの世論調査の結果について書きとめておきます。
まず岸田文雄内閣の支持率は、朝日新聞、毎日新聞の2件の調査では前月比で6ポイントも低下しました。毎日新聞の調査では25%です。不支持率もそれぞれ6~7ポイント上昇しています。共同通信の調査では、支持率、不支持率とも横ばいですが、支持が回復しない、とは言えそうです。
【岸田内閣支持率】
▽朝日新聞
「支持」 31% 前月比6P減
「不支持」57% 同6P増
▽毎日新聞
「支持」 25% 前月比6P減
「不支持」69% 同7P増
▽共同通信
「支持」 33.1% 前月比±ゼロ
「不支持」51.5% 同0.1P減
各社とも、岸田政権が軍事費(防衛費)の大幅増を打ち出したこと、財源として増税を挙げていることに対して、複数の質問を設けています。それぞれ、いくつか結果とともに書きとめておきます。
【軍事費の大幅増】
▽朝日新聞
・政府は、来年度から5年間の防衛費を、今の計画の約1.5倍の43兆円に増やす方針です。防衛費をこのように増やす方針に賛成ですか。
賛成46% 反対48%
・岸田首相は、防衛費を増やすために、約1兆円を増税する方針を表明しています。この方針に賛成ですか。
賛成29% 反対66%
▽毎日新聞
・防衛費を大幅に増やす政府の方針に賛成ですか。
賛成48% 反対41%
・防衛費を増やす財源として増税することに賛成ですか。
賛成23% 反対69%
▽共同通信
・岸田文雄首相は、来年度から5年間の防衛費を今の1.5倍に当たる約43兆円に増やすと決めました。あなたは、首相が表明した防衛費の増額に賛成ですか、反対ですか。
賛成39.0% 反対53.6%
・岸田首相は、防衛費増額の財源として、2027年度以降は約1兆円の増税をすると表明しました。あなたは、防衛力強化のための増税を支持しますか、支持しませんか。
支持する30.0% 支持しない64.9%
・防衛費増額に伴う増税について、あなたは岸田首相の説明は十分だと思いますか、不十分だと思いますか。
十分だ7.2% 不十分だ87.1%
軍事費の増大について、3件の調査結果は分かれました。朝日新聞調査では賛否はほぼ二分。毎日新聞調査は賛成が反対を上回りましたが、共同通信調査では逆に、反対が賛成を相当程度、上回りました。質問の文章を比べると、毎日新聞は「大幅に増やす」と簡素な表現なので賛成が増えた、と見ることも可能なように思えます。しかし、共同通信調査と朝日新聞調査では、ともに「1.5倍」「43兆円」という同じ数字を示しているのに、結果にこれだけの違いが出る理由が分かりません。結局、「よく分からない」というほかありません。
これに対して、増税への賛否は反対多数で3件ともそろいました。分かりやすい結果だと思います。
敵国の領土を直接攻撃できる「敵基地攻撃能力」の保有に対しては、以下のように3件とも賛成が反対を上回りました。
【敵基地攻撃能力】
▽朝日新聞
外国が日本を攻撃しようとした場合に、その国のミサイル基地などに打撃を与える能力を自衛隊がもつことに賛成ですか。
賛成56% 反対38%
▽毎日新聞
・政府は、敵のミサイル基地などを攻撃する「反撃能力」を自衛隊に保有させることに決めました。反撃能力の保有に賛成ですか。
賛成59% 反対27%
▽共同通信
・政府は、防衛力を強化するため、巡航ミサイル「トマホーク」を購入し、自衛目的で他国のミサイル基地などを破壊する「反撃能力」を保有します。あなたは、日本がこうした能力を持つことに賛成ですか、反対ですか。
賛成50.3% 反対42.6%
・日本が反撃能力を保有することで、日本と周辺国との緊張が高まると思いますか、和らぐと思いますか。
緊張は高まる61.0% 変わらない33.9% 緊張は和らぐ3.0%
質問の尋ね方にいくつか疑問を持ちました。一つは呼び方です。日本政府は「反撃能力」と呼び、毎日新聞と共同通信は質問文でこの呼び方を使っています。「敵基地攻撃能力」は丸かっこに入れることもしていません。朝日新聞は両方とも使わずに質問しています。「反撃」とは、ごくふつうの日本語の読解力で解釈するなら、敵から攻撃を受けた後にやり返すことです。しかし日本政府は、敵が日本への攻撃に着手した後、敵のミサイル発射基地を攻撃してミサイルを発射させないようにするケースも想定しています。つまり、攻撃を受けていないのに「反撃」するというわけです。これは言葉の使い方自体がまやかしですし、「反撃」と言いながら、実質は「先制攻撃」ではないのか、との疑念も生じます。朝日新聞調査の質問には「反撃能力」の用語はありませんが、「外国が日本を攻撃しようとした場合に」との前提は、政府の主張そのままです。共同通信調査の質問が「自衛目的で他国のミサイル基地などを破壊する」と説明しているのも、やはり政府の主張そのままです。「政府はこう主張しているが、それを支持するかしないか」という尋ね方をしてみれば、どんな結果になるでしょうか。
そもそも、政府が言うような、敵が日本の攻撃に着手したことを察知し、ただちに敵基地を攻撃して、日本に向けてミサイルを発射させないようにする、といった技術は、今は存在していません。開発にはどれだけの時間と費用がかかるか、本当に開発できるのか、納得できる説明もされていません。
質問文を少し変えて、「こうした技術は現在なく、開発にどれだけの時間と費用がかかるか明らかになっていません」と加えるだけでも、賛否の結果は変わるのではないかと思います。
ほかにも、敵基地攻撃能力に対しては、さまざまな疑義が指摘されています。日本がその能力を保有すれば、相手もさらに攻撃力を強めようとして、結果として緊張を高めてしまう、いわゆる「安全保障のジレンマ」はその代表例です。世論調査で、そうした指摘があることにも触れながら賛否を尋ねてみればどんな結果になるか。後続の世論調査に期待したいと思います。
敵基地攻撃能力を巡る尋ね方の問題はひとまず置くとして、3件の調査結果から読み取れることをざっくり並べると、以下の通りです
- 敵基地攻撃能力は、政府の主張に対して賛成が反対を上回っている
- 軍事費の大幅増への賛否は調査によってまちまちだが、増税で財源をまかなうことには反対が多数で共通している
- 岸田内閣の支持率は低下。少なくとも回復傾向にはない
もともと岸田首相が評価を落とし続けているところに、増税への拒否反応が、さらなる支持率の低下に結びついているようにも思えます。では、軍事費の大幅増の財源捻出を増税に求めない、となれば、軍事費増もそろって支持を受ける、ということになるのでしょうか。それはそれで、危惧を覚えます。