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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

要塞化が進む中での復帰51年~「平和こそ島んちゅぬ宝」(沖縄タイムス) 「原点は『基地のない島』」(琉球新報)

 1972年5月15日、沖縄の施政権が米国から返還されました。ことしはそれから51年です。
 例年、日本本土の新聞も15日付朝刊には、沖縄の基地の現状などに焦点を当てた記事を掲載します。ことしの5月15日は新聞休刊日で、本土の新聞では朝刊の発行がありません。沖縄の地元紙の沖縄タイムス、琉球新報は15日付の紙面を発行しました。それぞれのサイトで、社説を読んでみました。
 昨年12月に岸田文雄内閣が安保3文書を閣議決定し、敵基地攻撃能力を保有する方針が決まりました。沖縄県の南西諸島に配備が進む自衛隊施設がその攻撃の拠点となれば、当然、敵国から攻撃を受ける恐れも高まります。従来からある米軍基地の過剰な負担とともに、自衛隊が展開しているがために、生活の場が戦火に見舞われかねない危険性が、大きくクローズアップされている復帰51年であるように感じます。

▽沖縄タイムス社説「復帰51年 進む要塞化 平和こそ島んちゅぬ宝」
 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1151827

 復帰から、きょうで51年。
 岸田文雄首相は、昨年の沖縄全戦没者追悼式で「基地負担軽減の目に見える成果を一つ一つ着実に積み上げていく」と誓った。
 だが12月、安保関連3文書が閣議決定されて以降、負担軽減の空気はいっぺんに消し飛んでしまった。
 国会でのまともな議論もなく、住民の懸念に正面から応えることもなく、島々の軍事要塞(ようさい)化が急速に進む。
 与那国町への沿岸監視隊の配備に賛成していた住民の中にもミサイル部隊の配備が明らかになるに及んで懸念の声が広がってきた。
 島からミサイル攻撃を行えば、相手国は確実にミサイル発射基地をたたくだろう。
 中国を攻撃できる長射程のミサイルを実際に南西諸島に配備すれば、相手も力で対抗するはずだ。いわゆる「安全保障のジレンマ」である。
(中略)
 戦争が起こる可能性を摘み取ることを最優先すべきである。そのためにあらゆるレベルで対話のチャンネルを維持し、東アジアの緊張緩和につなげるべきだ。

▽琉球新報社説「『日本復帰』51年 原点は『基地のない島』」
 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1710164.html

 南西諸島への自衛隊配備強化が顕著だ。政府は、反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有などを明記する新たな安保関連3文書を閣議決定した。戦後堅持してきた専守防衛から逸脱し「戦争ができる国」へと変貌した。与那国島や宮古島、石垣島に陸自駐屯地が開設されるなど自衛隊増強は加速度を増している。
 この動きに合わせるように政府は米軍、自衛隊施設周辺などの土地利用状況を調査し、取引を規制する「土地利用規制法」の対象区域の候補地に、石垣、宮古、与那国など県内の39カ所を選定した。住民の権利を脅かし、重大な人権侵害を招く恐れがある。
 (中略)
 先の大戦で、沖縄は日本防衛の「捨て石」とされ、敗戦で日本国から切り離された。復帰から51年、依然として軍事の「要石」であり続けている沖縄を、再び「有事」の「捨て石」にしてはならない。沖縄の地理的特性を軍事面ではなく、人間の安全保障に生かし、平和の要石とするよう政府に求めたい。同時に、沖縄に基地の重圧を強いることで成り立つ安全保障体制をいつまで続けるのか、国民全体にも問わなければならない。

 「沖縄に基地の重圧を強いることで成り立つ安全保障体制をいつまで続けるのか、国民全体にも問わなければならない」との一節は、日本本土に住む日本国の主権の一人であるわたし自身も、我が事として受け止めたいと思います。

【写真】琉球新報HP

 東京発行の新聞各紙が沖縄の復帰51年をどのように報じたかについて、1日前の14日付朝刊の各紙紙面を見てみました。見出しを書きとめておきます。

【5月14日付朝刊】
■朝日新聞
1面「沖縄 進む自衛隊増強 復帰51年」
社会面トップ「国防最前線の島 溶け込む自衛隊」/「強まる軍隊の姿/よぎる『捨て石』」
■毎日新聞
第2社会面「沖縄 進む軍事拠点化/あす復帰51年 平和行進始まる」
■読売新聞
第2社会面「本土復帰51年 沖縄『平和行進』」見出し1段
■日経新聞
 ※記事見当たらず
■産経新聞
5面(総合面)「沖縄経済界 『有事』備え探る/あす本土復帰51年 中国脅威 県政転換促す」
■東京新聞
第2社会面「基地なき島求めて行進 沖縄復帰あす51年」/「負担軽減『協議の場を』/ハンストの大学院生」※共同通信の配信記事

 復帰50年だった昨年は、少ないところで3ページ、多いところは朝日新聞のように9ページにもわたって関連記事を掲載していました。昨年との比較では、報道の量は激減しました。1面に関連記事を載せたのは朝日新聞だけです。
 朝日新聞や毎日新聞が焦点を当てているのは、やはり南西諸島への自衛隊の展開です。
 ※参考過去記事

news-worker.hatenablog.com