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「国民は選挙の時だけの主権者」か〜秘密保護法案衆院通過に批判の社説多数

 問題が多い特定秘密保護法案が26日の採決強行で衆院を通過しました。このことを全国の新聞が社説でどのように取り上げたか、ネットで各紙のサイトを見てみました。27日から30日までに少なくとも35紙(中日新聞東京新聞は同じ社説なので1紙にカウントしています)が関連の社説を掲載し、衆院通過に理解を示しているのは読売新聞、産経新聞のほか、地方紙の北國新聞の計3紙でした。対して32紙はいずれも衆院通過が強行されたことを批判する内容でした。うち7紙は、参院での審議入りなどを受けて30日までにもう1回、関連の社説を掲載しています。
 北國新聞の社説は、中国が一方的に尖閣諸島上空に防空識別圏を設定したことなどを挙げ、 極東アジア情勢が緊張度を増しているとして「1日も早く国家安全保障会議(NSC)を開催し、対策を練るべき場面である。特定秘密保護法案はNSCの運用に欠かせない法案であり、今国会での成立が望ましい」と指摘し、本来は時間をかけて審議すべきだが「風雲急を告げる極東アジアの情勢は、長々と審議する余裕を与えてはくれない」としています。
 衆院通過を批判する社説の中では、信濃毎日新聞が「有権者は選挙で、一つ一つの政治課題について意思を表明できるわけではない」と指摘していることが目を引きました。選挙で大勝したといっても有権者から「白紙委任」を得たのではない、ということです。「選挙の後は、政党は個別課題で国民の声に丁寧に耳を傾けることが求められる。そうしなければ、国民は選挙の時だけの主権者になってしまう。参院でも数の力で押し採決を強行するようでは、国民の政治不信が高まるのは避けられない」との指摘は同感です。この法案の中身も問題ですが、国会での審議や採決にもまた問題が多く、民主主義のありようの観点から軽視すべきではないと思います。
 以下に、各紙の社説の見出しと、いくつかは本文の一部を引用して書き留めておきます。なお、ネットでは社説を公開していない新聞もあり、すべての新聞を網羅しての調査ではありません。


衆院通過に理解:3紙
【27日】
▼読売新聞「秘密保護法案 指定対象絞り『原則公開』確実に 参院で文書管理の論議を深めよ」
産経新聞「秘密保護法案 成立に向け大きな前進だ」
北國新聞「秘密法案が衆院通過 今国会で成立が望ましい」

 特定秘密保護法案が衆院特別委員会で可決され、衆院を通過した。与党が「数の力」で 押し切る結果となったのは残念だが、対案を出した民主党が時間を稼ぎ、継続審議を狙う姿勢を鮮明にしたことで、与党側がしびれを切らした格好である。
 中国が一方的に尖閣諸島上空に防空識別圏を設定し、日米両国が非難声明を出すなど、 極東アジア情勢は緊張度を増している。1日も早く国家安全保障会議(NSC)を開催し、対策を練るべき場面である。特定秘密保護法案はNSCの運用に欠かせない法案であり、今国会での成立が望ましい。
(中略)
 いかなる法案であれ、与野党の意見が割れる場合は十分な時間をかけて審議すべきであ る。特定秘密保護法案のように、国が都合の悪い情報を隠すことに利用されかねない法律はなおさらである。野党やメディアからも「拙速を避けるべき」「審議不十分」の声が漏れるが、風雲急を告げる極東アジアの情勢は、長々と審議する余裕を与えてはくれない。


衆院通過を批判:32紙
【27日】
朝日新聞特定秘密保護法案 民意おそれぬ力の採決」
毎日新聞「民主主義の土台壊すな」1面肩掲載
日経新聞「秘密保護法案の採決強行は許されない」
北海道新聞「秘密保護法案、衆院通過 ノーを突き付けて廃案に」

 国民の「知る権利」を脅かす悪法を数の力で押し通すとは、政府・与党の横暴というほかない。
 政府が指定した機密の漏えいに厳罰を科す特定秘密保護法案がきのう衆院を通過し、参院に送られた。与党が採決を強行し、みんなの党が賛成、日本維新の会は棄権した。
 法案はきょう成立する日本版「国家安全保障会議(NSC)」創設法と一体で、安倍晋三首相が掲げる積極的平和主義に基づく安全保障政策を推し進める狙いがある。
 首相は最終的に自衛隊の海外での武力行使に道を開くことを目指している。両法制定はその第一歩だ。
 秘密保護法の危険は国民の身近な生活にも及ぶ。特定秘密と知らずにある情報を取得しようと、だれかと話し合っただけで処罰されかねないような怖さを法案は抱えている。
 国の行方から市民の日常まで深刻な危険にさらす法案だ。何としても廃案に追い込まなければならない。
 参院審議で問題点を徹底的に明らかにするとともに、国民が反対の声をより強く突き付ける必要がある。


河北新報「秘密法採決強行/疑念払拭へ審議を尽くせ」
東奥日報「国民の懸念を置き去り/「秘密法案」衆院通過」
▼デーリー東北「秘密保護法案 民主国家の根幹揺るがす」
秋田魁新報「秘密保護法案 禍根を残す採決強行だ」

 横暴にもほどがある。これでは将来に禍根を残す。審議が深まらないまま、自民、公明両党は特定秘密保護法案の採決を強行、衆院を通過させた。みんなの党も賛成に回った。
 なぜ急ぐのか。重要法案がめじろ押しで審議日程が窮屈なのは確か。年末には税制改正や予算編成が控える。しかし、それ以上に安倍晋三首相の素顔がのぞいた好例といえる。
 「知る権利」をはじめ、大切な権利が脅かされる恐れのある法案である。性急であればあるほど、国民の不安は増し、理解が遠のくことを安倍政権や与党は知らなければならない。


岩手日報「秘密法案衆院通過 恐ろしい社会への一歩」
茨城新聞「秘密保護法案衆院通過 『知る権利』極めて危うい」
▼神奈川新聞「『秘密法』の衆院可決 立法府の魂を捨てるな」
信濃毎日新聞「秘密保護法 採決強行 議会政治の自滅行為だ」

 特定秘密保護法案が自公の与党とみんなの党の賛成により衆院で可決された。論戦の舞台は参院に移る。
 法案の審議入りから約3週間での衆院通過である。国民の「知る権利」を侵害する心配など、問題をはらむ法案としてはいかにも拙速だ。
 公聴会福島市で開いただけ。中央公聴会の開催を求める意見に与党は耳を貸さなかった。
 一般から意見を求めるパブリックコメントには約9万件が寄せられ、8割近くが反対意見だった。疑問の声がこれだけ多く寄せられながら、政府は法案に反映させていない。形ばかりの意見公募だったのは明らかだ。
 野党との修正協議も形ばかりのものだった。みんなの党日本維新の会との協議で部分的に手直ししたものの、政府の判断で秘密指定し、厳罰で漏えいを防ぐ仕組みは動かしていない。
(中略)
 有権者は選挙で、一つ一つの政治課題について意思を表明できるわけではない。選ぶことができるのはひとかたまりになった政策の全体である。選挙の後は、政党は個別課題で国民の声に丁寧に耳を傾けることが求められる。そうしなければ、国民は選挙の時だけの主権者になってしまう。
 参院でも数の力で押し採決を強行するようでは、国民の政治不信が高まるのは避けられない。


新潟日報「特定秘密法案採決 強行は国民主権の冒涜だ」
中日新聞東京新聞「国民軽視の強行突破だ 特定秘密保護法案」

 広く疑念の声があがる特定秘密保護法案が衆院の本会議で可決した。巨大与党が力ずくで、渦巻く反対論をねじ伏せたのだ。強行突破は看過できない。
 福島で二十五日に開かれた地方公聴会は、いったい何のためだったのだろう。首長や学者ら七人が意見を述べたが、賛成者は一人もいなかった。「慎重に、国民のために議論を尽くすことが大切だ」「外国の信頼よりも、国民の信頼を得るべきだ」−。もっともな意見が続出した。
 とくに原発事故で放射能の拡散予測が隠された体験があるだけに、「一番大切なのは情報公開だ」と語った人もいた。
 その翌日に衆院の本会議で、一部野党との修正協議を経た法案が、駆け足で可決された。つまり、福島の公聴会はたんなる“儀式”にすぎず、与党は耳をふさぎ、尊重もしなかったのだ。あまりに乱暴である。
 さまざまな危うさが指摘される秘密保護法案であるため、報道各社の世論調査でも「慎重審議」を求める意見が、60%台から80%台を占めていた。国民の声すら軽視したに等しい。
 与党は圧倒的な数の力におごっている。修正案に加わった日本維新の会さえ、この採決には退席した。この強行可決をあえて暴挙と呼ぼう。


岐阜新聞特定秘密保護法案 国民の『知る権利』が危機」
福井新聞特定秘密保護法案強行可決 強権政治、知る権利どこへ」
京都新聞「秘密保護法案 数の横暴は許されない」
神戸新聞「秘密法案採決 『数の力』で押し切るのか」
山陽新聞「秘密保護法案 なぜ拙速に成立急ぐのか」
中国新聞「秘密保護法案採決 国民の懸念置き去りに」
山陰中央新報「特定秘密衆院通過/「知る権利」が危うくなる」
愛媛新聞「秘密保護法案衆院通過 強行採決は説明責任の放棄だ」
徳島新聞「秘密法案衆院通過 『知る権利』踏みにじるな」
高知新聞「【秘密保護法案】将来に禍根残す強行採決

 これが民主主義の根幹に関わる法案を扱う、国会の態度だろうか。
 特定秘密保護法案が衆院本会議で、自民、公明両党とみんなの党の賛成多数により可決された。民主党やその他野党の反対を押し切っての強行採決である。
 あいまいで、政府の解釈でいくらでも広がりかねない秘密の範囲や処罰の対象、半永久的な秘密指定の恐れなど、法案の持つ危険性に対する懸念は消えていない。
 国会審議や一部野党との修正協議を経てもなお、疑念は解消するどころかむしろ深まった。私たちはこの欄で、問題だらけの法案は廃案にして、いったん白紙に戻すことが必要だと主張した。
 日本ペンクラブ憲法や刑事法の学者、新聞労連など、さまざまな団体が反対や懸念を表明している。おととい福島県で行われた公聴会では、首長や市議、学者や弁護士ら意見を述べた7人全員が法案に反対だった。福島第1原発事故で情報開示が遅れた国への不信感も根強い。
 これらは国会審議の未熟さと拙速さを示している。それを「数の力」に頼って強引に打ち切る強行採決は、明らかに民主主義に逆行し、傲慢(ごうまん)な政権がやることだ。将来に大きな禍根を残すだろう。


西日本新聞「秘密保護法案 あらためて廃案を求める」

 率直に言って、安全保障上の必要性を主眼に掲げた法案の向こうに透けて見えるのは、先進民主主義国の一つのモデルとして情報公開を社会の基本に据えた「開かれた国家」とは異なる、政府・官僚組織による国民統制・治安維持強化の色合いの濃い国家像だ。
(中略)
ここで立ち返るべきは、やはり立憲主義の原則ではないか。
 これまでの安倍政権による憲法96条改正や集団的自衛権に関する解釈変更の動きを見ると、立憲主義の原則や憲法そのものをめぐる論議を飛び越して、安易に個別の政策決定や立法を実現させようとする傾向がうかがえる。
 特定秘密保護法案をめぐっても、「主権在民」や「国民の知る権利」など民主主義社会を支える憲法の基本原理について詰めた議論もないまま、言葉のつじつま合わせで済ます姿勢が顕著だった。


宮崎日日新聞「秘密保護法案衆院通過 『知る権利』の後退は確実だ」
佐賀新聞「秘密法案衆院通過 問題は残されたままだ」
熊本日日新聞「秘密法案衆院通過 強行採決は巨大与党の横暴」

 「数の力」を頼む巨大与党の横暴と言うほかないのではないか。
 自民、公明両党は26日、衆院国家安全保障特別委員会に続き本会議で、機密を漏らした公務員らへの罰則強化などを盛り込んだ特定秘密保護法案の採決を強行、みんなの党の賛成を得て可決した。国民の「知る権利」を脅かすなど国内外から批判があり、修正協議を経てもその懸念は払拭[ふっしょく]されるどころか、政府原案より後退した部分もあるのに、衆院での審議を打ち切った。


沖縄タイムス「[秘密法案衆院通過]数の暴挙は許されない」
琉球新報「秘密法衆院通過 世紀の悪法を許すな 良識の府で廃案目指せ」

 国民の目と耳をふさぎ、主権者が国政の重要な情報を得る道を閉ざす「世紀の悪法」が、成立への階段を一つ上った。その審議は「強権国家化」を暗示する、国民不在の醜悪な展開を見せた。
 国家機密を漏らした公務員や市民らに厳罰を科す特定秘密保護法案は、自民、公明の与党とみんなの党が賛成し、衆議院を通過した。それに先立つ特別委員会は、数の力に頼った強行採決だった。
 報道関係者だけでなく、「知る権利」に携わる研究者、市民団体など、分野を超えて反対する国民が日ごとに増している。だが、危機感は国会に反映されない。
これほど重要な法案に対する国民の意見を聞く公聴会が1回しか開かれていない。国民に背を向けた為政者の姿を際立たせる。
 米軍基地の重圧にあえぐ沖縄で、基地運用の情報は、住民生活を守る不可欠な情報である。その大半が入手できなくなる恐れが強い法案であるだけに、沖縄公聴会は最優先で開かれるべきだが、それもなされないままだ。


【28日】
朝日新聞「秘密保護法案 欠陥法案は返品を」
毎日新聞「秘密保護法案を問う 論戦スタート」
北海道新聞「秘密保護法案 国会は毅然たる姿示せ」
福島民報「【秘密法案衆院通過】県民の声聞いたのか」

 特定秘密保護法案は26日、衆院を通過した。与党が強行採決し、野党のみんなの党も賛成した。25日には本県で衆院国家安全保障特別委員会が地方公聴会を開いたばかりだった。
 意見陳述した県民の代表7人は、事故を起こした東京電力福島第一原発の情報開示が不透明になる恐れがあるなどとして、全員が法の成立に反対か慎重な姿勢を示した。被災地の思いは切実だ。国会は本当に声を聞き、受け止めたのか。採決への単なる「お膳立て」だったとすれば、県民を愚弄[ぐろう]する行為だ。
(中略)
参院の審議が27日に始まった。安倍晋三首相は、秘密指定の妥当性を監視する第三者機関設置に向けた準備室を法成立後に設ける方針を表明している。順序が逆だ。
 国民の「知る権利」を守る第三者機関設置は法成立の前提条件だ。原発事故関連の情報開示義務付けなど、特定秘密の範囲を明確にすべきだ。情報公開の徹底も必要だろう。このまま法が成立すれば、原発事故が収束していない本県の復興にも支障を招きかねない。


信濃毎日新聞「秘密保護法 参院審議入り 民意に沿って廃案へ」
南日本新聞「[秘密保護法案] 『知る権利』の瀬戸際だ」


【29日】
毎日新聞「秘密保護法案 参院審議を問う テロの定義」


【30日】
山陽新聞「秘密保護法案 『二院制』の役割発揮せよ」
高知新聞「【森担当相の答弁】迷走は欠陥法案の象徴だ」
西日本新聞「秘密保護法案 市民の生活も脅かされる」


※追記 2013年12月1日23時30分
 京都新聞が11月30日付朝刊に関連社説を掲載していました。一部を引用して追記します。
【30日】
京都新聞「森担当相発言  秘密法の危うさ見えた」

 「民は由(よ)らしむべし、知らしむべからず」。為政者は民を政策に従わせることはできるが、政策を理解してもらうことはできない、とでも言いたかったのだろうか。
 国の機密を漏らした公務員らに厳罰を与える特定秘密保護法案の審議を始めた参院国家安全保障特別委員会で、公務員と記者の接触に規範を設ける発言が飛び出した。
 発言の主は、秘密保護法案の主務大臣を務める森雅子内閣府特命担当相である。森担当相は、公務員と報道関係者の接触について、「何らかの規範を設けることは重要で、さまざまな観点から検討する」と答弁した。
 森担当相は、きのうになって発言を撤回したが、再び発言を修正して含みを残した。思わず本音が口をついたのだろう。法案の危険な側面が露見したともいえる。