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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

安保法案「今国会中の成立確実」と報じていいのか〜安倍内閣支持「40%」底割れ ※追記:共同、毎日、朝日に加え、産経・FNN、ANN調査も「支持」30%台

 安全保障関連法案が16日に衆院で可決後に共同通信社毎日新聞社朝日新聞社が実施した世論調査で、安倍晋三内閣の支持率がいずれも下がり、不支持率が上回る結果が出ています。まとめると以下の通りです。カッコ内は前回調査からの変動です。

共同通信 7月17、18日実施
 支持37・7%(9・7ポイント減) 不支持51・6%(8・6ポイント増)
毎日新聞 7月17、18日実施
 支持35%(7ポイント減) 不支持51%(8ポイント増) 関心ない12%(1ポイント減)
朝日新聞 7月18、19日実施
 支持37%(2ポイント減) 不支持46%(4ポイント増)

 後述しますが、安保法案に関する設問の回答状況を見ていくと、衆院での採決を肯定的にとらえている層は17−24%です。この層は、何があっても、「60日ルール」によってでもこの法案は今国会で成立させるべきだと考えている、ととらえていいと思います。安保関連法案は必要と考えている層は27―29%。現在の支持率は35―37%なので、安保関連法案以外の要因で安倍内閣を支持している層も相当程度いるのだと思います。今後、安保関連法案が必要と積極的に考えている層以外の人たちが「支持」から離れていくような展開になれば、支持率が30%を割り込む可能性もゼロではないと言えるのではないかと考えています。
 あくまでも可能性の話です。ただ、これまでは個別の政策の支持が低くても、安倍内閣の支持率は40%台から50%台の高い水準を保ってきました。40%を切る世論調査結果もありましたが、おおむね40%で底を打ち、次回の調査では支持率はまた上向きに転じてきました。しかし、どうやら今回は40%の底は抜けたようです。仮に30%をも切るようなことになれば、これまでの半分程度の支持しかなくなることになります。そうなると、いわゆる「60日ルール」を適用して今国会中に安保法案の成立を図るという安倍政権の思惑もその通りに進むかどうか。高い内閣支持率自民党内の「安倍1強」を、さらには日本政治の「自民1強」を支えてきた要因の一つです。そこが崩れると、自民党内の異論が表面化することもありうるでしょうし、さらに進んで衆院での再議決の際に、いわゆる「造反」が出てくるかもしれません。考慮すべき要因としては、連立を組む公明党の意向もあるでしょう。
 要は、採決を強行して衆院を通過したからと言って、一部のマスメディアが報じたように「今国会中の成立が確実になった」と言えるかどうかは分からない、少なくともジャーナリズムの立場からは、予断を排して今後の日々の動きを見ていかなければならないだろう、ということです。


 さて、衆院で採決が強行される直前の、前週末までの内閣支持率の推移は以前の記事にまとめています。あらためて書き出すと以下の通りです。
共同通信 6月20、21日実施 支持47・4%(2・5ポイント減) 不支持 43・0%(5・0ポイント増)
朝日新聞 6月20、21日実施 支持39%(6ポイント減) 不支持 37%(5ポイント増)
産経新聞・FNN 6月27、28日実施 支持46・1%(7・6ポイント減) 不支持 42・4%(7・9ポイント増)
▼読売新聞 7月3〜5日実施 支持49%(4ポイント減) 不支持 40%(4ポイント増)
毎日新聞 7月4、5日実施 支持42%(3ポイント減) 不支持 43%(7ポイント増)
▼NNN 7月10〜12日実施 支持39・7%(1・4ポイント減) 不支持 41・0%(1・7ポイント増)
▼NHK 7月10〜12日実施 支持41%(7ポイント減) 不支持 43%(9ポイント増)
朝日新聞 7月11、12日実施 支持39%(変わらず) 不支持 42%(5ポイント増)

 以前は、同時期に実施した調査(例えば6月の朝日と共同)でも、「支持」には調査によって8ポイントもの開きがみられたのですが、今回は35−38%の間に収まっています。
 不支持は共同、毎日は51・6%と51%で、下落幅を見てもほぼ同一の結果と言っていいと思います。朝日は共同、毎日に比べると5ポイントの差がありますが、不支持が支持の逆転の幅が拡大したという点では、同じ傾向を示しているのは間違いがありません。
 次に、この週末の共同、毎日、朝日の各調査のうち、安保法案の衆院通過をめぐる設問と回答状況を抜き出してみます。

共同通信
◆政府は集団的自衛権行使を可能にすることなどを盛り込んだ安全保障関連法案を今国会に提出し、審議されています。あなた
は、この法案に賛成ですか、反対ですか。           
 賛成27・5% 反対61・5%

安倍晋三首相は安全保障関連法案を今国会で成立させる方針です。あなたは、この方針についてどう思いますか。     
 賛成24・6% 反対68・2%

◆与党はこの法案を、16日の衆院本会議で多くの野党が退席や欠席する中、可決、通過させ、参院に送りました。あなたは、この採決についてどう思いますか。
 よかった21・4% よくなかった73・3%

◆あなたは安倍政権がこの法案について国民に十分に説明していると思いますか。     
 十分に説明していると思う13・1% 十分に説明しているとは思わない82・9%

◆あなたは、この法案が憲法に違反していると思いますか、思いませんか。        
 憲法に違反していると思う56・6% 憲法に違反しているとは思わない24・4%

毎日新聞
集団的自衛権の行使など自衛隊の海外の活動を広げる安全保障関連法案が衆院で可決され、参院に送られました。あなたはこの法案に賛成ですか、反対ですか。
 賛成27%(29) 反対62%(58)

◆政府・与党は、安全保障関連法案を今国会で成立させるために国会の会期を9月27日まで延長しました。あなたは延長した今国会でこの法案を成立させる方針に賛成ですか、反対ですか。
 賛成25%(28) 反対63(61)

◆安全保障関連法案をめぐり、与党は衆院の特別委員会で野党の反対を押し切って採決しました。あなたは与党が強行採決したことを問題だと思いますか。
 問題だ68% 問題ではない24%

◆安全保障関連法案について、政府・与党は衆院での議論は尽くされたと主張しています。あなたは政府・与党の国民への説明は十分だと思いますか、不十分だと思いますか。
 十分だ10% 不十分だ82%

◆安全保障関連法案は、これから参院で審議されます。あなたは野党にどのような対応を取ってほしいですか。次の三つの中から、あなたの考えに近いものを選んでください。
 法案の審議に協力する20%
 法案の修正を求める32%
 法案の撤回を求める38%

朝日新聞
◆今の国会に提出された安全保障関連法案についてうかがいます。集団的自衛権を使えるようにしたり、自衛隊の海外活動を広げたりする安全保障関連法案に、賛成ですか。反対ですか。
 賛成29%(26) 反対57%(56)

◆この法案は、衆議院の委員会で自民党公明党が採決を強行し、衆議院の本会議では野党の多くが採決に加わらないまま、可決されました。自民党公明党のこうした進め方は、よかったと思いますか。よくなかったと思いますか。
 よかった17% よくなかった69%

◆安倍首相の安全保障関連法案についての国民への説明は、丁寧だと思いますか。丁寧ではないと思いますか。
 丁寧だ13%(15) 丁寧ではない72%(67)

◆安倍政権は安全保障関連法案を、今開かれている国会で成立させる方針です。この法案を、今の国会で成立させる必要があると思いますか。今の国会で成立させる必要はないと思いますか。
 今の国会で成立させる必要がある20%(19)
 今の国会で成立させる必要はない69%(66)

◆安倍首相は、憲法改正の手続きをとらずに政府の憲法の解釈を変え、集団的自衛権を使えるようにする法律の整備を進めています。こうした安倍首相の、憲法改正の手続きをとらない進め方は適切だと思いますか。適切ではないと思いますか。
 適切だ10% 適切ではない74%

 冒頭に書いた「支持率30%割れ」の可能性についてですが、わたしは以下の各点に注目しています。

  • 安保関連法案への賛否 賛成が27―29% 反対57―62%
  • 今国会で成立させることへの賛否 賛成が20―25% 反対63−69%
  • 衆院での採決強行の評価 肯定的17−24% 否定的68−73%

 安保関連法案が必要と考えている層は20%台の後半、3割弱です。今国会で成立させるべきだと考えている層、衆院のような採決の手順でもよいと考えている層は、それよりは少なくなります。つまるところ何があっても、「60日ルール」によってでも、この法案は今国会で成立させなければならないと考えている層がどれくらいいるのかは、衆院での採決を肯定的にとらえている層の「17−24%」を目安に考えていいのではないかと思います。前述したように、現在の支持率は35―37%なので、安保関連法案以外の要因で安倍内閣を支持している層もまだかなりいるのだと思います。そうした人たちが今後、安保関連法案をどのように考えるのかが支持率を左右する可能性があると思います。



【追記】2015年7月20日16時05分
 産経新聞・FNNとANNが18、19両日に実施した2件の世論調査で、安倍晋三内閣の支持率はともに「支持」が40%を切り、「不支持」が「支持」を上回ったと報じられています。「40%」の底が抜けているのは確実なようです。※カッコ内は前回からの変動。ANNは前回6月27、28日実施
産経新聞・FNN 7月18、19日実施
 支持39・3%(6・8ポイント減) 不支持52・6%(10・2ポイント増)
▼ANN 7月18、19日実施
 支持36・1%(7・1ポイント減) 不支持47・0%(9・9ポイント増)


※産経ニュース「内閣支持と不支持が初めて逆転」2015年7月20日
 http://www.sankei.com/politics/news/150720/plt1507200015-n1.html
テレビ朝日安倍内閣支持率“初の30%台に急落” ANN世論調査」2015年7月20日
 http://news.tv-asahi.co.jp/news_politics/articles/000055066.html


 産経・FNNの調査の設問が不明なのではっきりしたことは言えないのですが、記事にはけっこう重大なことが、さらりと書かれています。

 衆院で可決された安全保障関連法案の成立に関しては42・1%が「必要」、49・7%が「必要でない」と回答。今国会での成立については賛成が29%、反対が63・4%だった。

 産経・FNNの前回調査(6月27、28日)では、安保法案に対しては次のような結果が出ていました。

日本の安全と平和を維持するために、安保関連法案の成立は必要だと思うか
必要だ 49・0% 必要ない 43・8%

※参考過去記事「仮説:安倍政権『支持』が減っているというより『積極不支持』が増えている ※追記・NNN調査も『支持』『不支持』逆転」2015年7月12日
 http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20150712/1436703281
 法案の必要性について前回は「必要」が多かったのに、今回は「必要ない」が逆転しています。けっこう重大なことが、さらりと書かれています。


 以下に、この週末の調査の結果をまとめておきます。
共同通信 7月17、18日実施 支持37・7%(9・7ポイント減) 不支持51・6%(8・6ポイント増)
毎日新聞 7月17、18日実施 支持35%(7ポイント減) 不支持51%(8ポイント増) 関心ない12%(1ポイント減)
朝日新聞 7月18、19日実施 支持37%(2ポイント減)不支持46%(4ポイント増)
産経新聞・FNN 7月18、19日実施 支持39・3%(6・8ポイント減) 不支持52・6%(10・2ポイント増)
▼ANN 7月18、19日実施 支持36・1%(7・1ポイント減) 不支持47・0%(9・9ポイント増)