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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

朝日新聞は500円の値上げを公表~高齢読者層へのサービス強化が意味すること

 朝日新聞は4月5日(水)付の1面に、新聞の購読料を5月1日から値上げするとの社告を掲載しました。朝刊、夕刊セットの月ぎめ購読料を、現在の4400円から500円値上げして4900円にします。1部売りは朝刊180円(現行160円)、夕刊70円(同60円)です。
 理由については、以下のように新聞用紙など原材料の高騰や戸別配達の経費増を挙げています。

 新聞用紙など原材料が高騰し、読者のみなさまにお届けする経費も増加しています。コスト削減を続けていますが、報道の質を維持し、新聞を安定発行するため、ご負担をお願いせざるをえなくなりました。物価高が続く中で心苦しい限りですが、ご理解をお願いします。

 ほぼ同じ内容が同社のホームページにも掲載されています。
※「本紙購読料改定のお知らせ 文字拡大、読み解き重視の新紙面」
 https://www.asahi.com/corporate/info/14877612

【写真】4月5日付朝日新聞朝刊1面の社告

 ホームページの社告によると、愛知、岐阜、三重の3県では5月1日から、夕刊を休止し、夕刊のコラムなどを掲載した、新たな構成の朝刊を月ぎめ購読料4000円で届けることも明らかにしています。
 このブログの以前の記事で触れましたが、新聞用紙の高騰による新聞社の負担増は、公開データを基にした手元の試算でも、全国紙では年間数十億円規模に上ることが見て取れます。
 新聞はジャーナリズム媒体であるとともに、印刷工場で生産される紙媒体の流通商品の性格もあります。商品の原材料価格が高騰すれば、その分を価格に転嫁する、つまり値上げするのは商業主義の原理原則に外れていません。ただし、値上げせずに踏みとどまるのもまた経営判断です。
 これも既にこのブログで触れていますが、読売新聞は既に向こう1年間は値上げしないことを公表しています。全国紙で発行部数1位の読売新聞と、2位の朝日新聞が正反対の対応を取ることが確定しました。新聞の発行部数の減少傾向が続いている中で、それぞれ発行部数がどう推移していくのか。読売新聞は近年「唯一の全国紙」を社内外で強調しています。強みを持つ各種の事業と新聞発行を組み合わせて生き残りを図るのが読売新聞グループの戦略のようです。朝日新聞の部数がどうなるか、さらに毎日新聞、日経新聞、産経新聞がこの物価高騰の中でどういう対応を取るかによっては、読売の「唯一の全国紙」は現実化するかもしれないと感じます。

 https://news-worker.hatenablog.com/entry/2023/03/19/212043

news-worker.hatenablog.com

 https://news-worker.hatenablog.com/entry/2023/03/29/225954

news-worker.hatenablog.com

 少なからず気になるのは、朝日新聞社が値上げの社告の中で、本文に使う文字を12年ぶりに拡大することを明らかにしていることです。詳細を20面(東京本社発行最終版)で「くっきり はっきり 新紙面」として紹介しています。サービス強化で購読者をつなぎとめようということなのだろうと思います。文字が大きくなると同じスペースに収容する文字数は減ります。朝日新聞社は十分な情報を届けることとし、社会総合面は記事掲載スペースを拡充して、必要な情報量の確保に努めるとしています。ただ、それでもやはり一般論として情報量の減少は危惧されます。それでも文字拡大がサービスとして効果的な顧客とは、どんな読者層でしょうか。

【写真】4月5日付朝日新聞朝刊20面の特集ページ

 推測ですが、値上げに伴うサービス強化の重点対象を高齢者層に置いているのではないか、と感じます。20代や30代で新規に購読してくれる人はごくわずかです。月5000円近くともなれば、単身者の新規購読はほぼ見込めないのではないかと思います。新聞購読の中心になっている高齢者層のつなぎ止めに注力しつつ、デジタル展開を急ぎ、デジタルの収益が計画通りの軌道に乗った時点で新聞発行は終結モードに移行し、いずれは全国紙から“ネットメディア化”していくのではないか。あくまでも推測ですが、そんなことを考えます。そういう意味で、今回の値上げに合わせた文字拡大は、朝日新聞社が経営方針として「全国『紙』」を維持するのかどうか、という点にもかかわるように感じます。
 もう一つ、朝日新聞社の動向で目を引くのは、組織改編です。同社は4月1日付で、ビジネス関連部門を「メディア事業本部」に「統合しました。
※朝日新聞社から「ビジネス関連部門を統合した『メディア事業本部』 4月に発足」=2023年2月27日
 https://www.asahi.com/corporate/info/14849197

 メディア事業本部は、朝日新聞社が提供するメディア、コンテンツ、イベント、サービスなどの商品を一元的に扱い、お客様に最適なソリューションを提供することを目的に、機能単位でシームレスに統合された一つの組織として運営します。当社のビジネス関連部門が持つ提供価値を集約した「アカウントソリューション」「プランニング」「プロダクト」「ビジネスIT」「業務推進」の各機能を「戦略」機能が統括し、一体的に運用していく体制となります。
 お客様のニーズがより多様化・高度化している中、今回の統合により、朝日新聞社はじめグループ会社の持つ課題解決策・最適なリソースを組み合わせたサービスや商品をワンストップで提供し、最大限活用していただける体制を目指します。
 これまで各部門がそれぞれに担ってきた新たなメディア、新商品・サービスの開発を「戦略」機能が統括し、最適なリソース配置、投資戦略を実行、研究開発機能の活用によって、商品開発を加速させます。

 組織一覧を見ても、恥ずかしながらカタカナの部署名からは何をやる部署なのか、わたしには見当もつきません。同社内では若手記者の採用減、ベテラン記者の地方配置のほか人員削減の動きも急であることもうかがわれ、人事人員や組織の面からも、急速に「脱新聞社」化が進んでいるのではないか、との印象を受けます。