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「ジェンダーギャップ報告」の報道に大きな差異

 世界経済フォーラム(WEF)6月21日、各国の男女平等度を順位付けした「男女格差(ジェンダーギャップ)報告」を公表しました。日本は対象146カ国のうち125位。2019年公表時の121位を下回り、過去最低とのことです。先進7カ国(G7)では最下位でした。
 朝日新聞は21日夕刊、翌22日付朝刊に関連記事を掲載。朝刊では1面の本記に加え、2面をほぼすべて関連記事で埋め、詳しく報じています。朝日新聞社は2020年4月に「ジェンダー平等宣言」を発表しており、紙面の報道でもジェンダーに関連した記事には「Think Gender ジェンダーを考える」のワッペンを付けるなど、ジェンダー平等への積極姿勢が目立ちます。
 朝日新聞によると、今回の報告では、日本は「教育」「健康」の分野では男女平等に近いものの、「政治」と「経済」で課題が大きいとのことです。政治分野では、衆院議員の女性比率が1割と低く、過去に女性の首相がいないこと、女性の閣僚もわずかであることなどが要因です。経済分野では、企業の役員や管理職の女性の比率が低いことが、順位を押し下げているとのことです。
 男女格差は日本社会でも関心が高い問題であり、報告からは国際比較の中で日本の位置がよく分かります。マスメディアが大きく報じていいニュースのはずです。しかし、東京発行の新聞各紙の扱いは大きく分かれました。しかも、これまでにない分かれ方だと感じます。

 扱いがいちばん大きかったのは朝日新聞で、前述の通りです。次いで東京新聞。記事は共同通信の配信ですが、22日付朝刊では、本記のほか上智大の三浦まり教授の大型の識者談話を大きく掲載しました。
 日経新聞と毎日新聞は21日夕刊、22日付朝刊にそれぞれ記事を1本ずつ掲載していますが、記事の長さ、内容の詳しさでは、日経新聞が毎日新聞を上回っています。読売新聞は21日夕刊に1本だけでした。情報量としては毎日新聞と同等とみていいと思います。
 産経新聞は東京本社では夕刊の発行がなく、22日付朝刊の掲載です。第3社会面に、共同通信の配信記事のリード部分だけを短信として載せています。全文で200字足らず。素っ気なさが目立ちます。
 国別の順位などの図表は、朝日新聞、東京新聞(共同通信)、日経新聞が掲載。毎日新聞、読売新聞、産経新聞にはありません。
 共同通信の記事の配信先は地方紙が中心で、どの記事を掲載するかは地方紙によっても異なります。比較が難しい面はあるのですが、このニュースでどれぐらいの記事を共同通信が配信しているか、情報量の面から見るなら、朝日新聞と遜色ない紙面が組めるだけの出稿がありました。
 以上のような在京6紙と共同通信の計七つのメディアの報道ぶりの違いを、それぞれのニュースバリュー判断の違いとみなして、ニュースバリューが高いとみている順にならべてみると、以下のようになります。

 テーマによっては、在京紙の扱いが分かれることは、珍しいことではありません。ただし近年は、朝日、毎日、東京の3紙と、読売、産経の2紙に分かれることが多いと感じます。安倍晋三政権以降は、世論が割れるような政治課題では、おおむねこのパターンでした。ジェンダーや多様性に近い問題で、例えばLGBTや同性婚、夫婦別姓などが政治テーマとして報じられるときもそうした傾向が見て取れます。しかし、今回のジェンダーギャップ報告に対しては、毎日新聞の報道は朝日新聞、東京新聞よりも読売新聞や産経新聞に近い印象があります。これまでにないパターンだと感じます。
 新聞産業は、男女平等については課題が多い産業です。例えば日本新聞協会が公表しているデータでは、記者職の中の女性の割合は、2022年4月時点で24.1%。2018年に20%を超えて、年に1ポイント程度ずつ増えてはいますが、3割に達するのにもまだしばらくかかりそうです。
 ※日本新聞協会「新聞・通信社従業員数と記者数の推移」
 https://www.pressnet.or.jp/data/employment/employment03.php

 そんな中で、今回の朝日新聞の報道量は、やはり「ジェンダー平等」を企業の姿勢として、また報道の姿勢として公表しているからこそのことではないかと感じます。

 以下は、世界経済フォーラムの「男女格差報告」を東京発行の各紙がどう報じたか、6月21日夕刊と22日付朝刊の扱いと記事の見出しを書きとめておきます。

【朝日新聞】
▽21日夕刊1面「男女平等 日本は過去最低125位/今年 世界146カ国中」
▽22日付朝刊
・1面「男女平等125位 過去最低/日本、政治・経済分野で遅れ」
・2面「男女格差 直視の時」「政治138位 派閥優先・増えぬ女性議員、閣僚」「経済123位 経営陣の多様性 求める投資家」/いちからわかる!「男女平等ランキング なぜ日本は低迷?/過去に女性首相がゼロ。管理職比率の低さも響いた」/識者談話2人

【毎日新聞】
▽21日夕刊第2社会面「男女格差指数 日本後退125位」※短信
▽22日付朝刊第3社会面「男女格差指数 日本後退125位/G7で最下位」

【読売新聞】
▽21日夕刊3面「男女平等 日本125位 過去最低/世界経済フォーラム/G7では最下位」
▽22日付朝刊 (見当たらず)

【日経新聞】
▽21日夕刊1面「男女平等、日本125位/過去最低 政治や経済分野悪化」
▽22日付朝刊2面「男女平等 達成率68%/世界の格差指数 日本、過去最低の125位/政治・経済の壁なお」

【産経新聞】
▽22日付 第3社会面「男女格差 日本は過去最低125位」※短信

【東京新聞】※共同通信の配信記事
▽21日夕刊1面「男女平等 日本過去最低/125位、政経分野で深刻」
▽22日付朝刊3面「男女平等 日本125位/過去最低、G7で最下位/政治・経済で最低水準」/「遠い道のり 総動員で是正を」上智大・三浦まり教授