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非公表だった自衛隊員逮捕案件の検証が必要~ハラスメント体質との関連も疑う

 自衛隊の不祥事を巡る以前の記事の続きです。
 海上自衛隊の潜水手当の不正受給で、自衛隊内の警察機関である警務隊が昨年11月、4人を逮捕していたにもかかわらず、防衛相に報告がありませんでした。防衛省は「文民統制の観点から適切ではない」との見解を公表し、防衛相に速やかに報告する仕組みを整備するとともに、今後は特段の事情がない限り、速やかに公表するよう運用を改めました。その初のケースが8月1日、発表されました。

 海上自衛隊大湊地方警務隊(青森)は1日、部下の隊員を殴り、けがをさせたとして傷害の疑いで大湊警備隊の2等海曹(44)を逮捕した。海自が同日、発表した。防衛省が7月、警務隊による逮捕を可能な限り公表するとしてから初めてのケースとなった。
(中略)
 逮捕容疑は7月4日午後0時半ごろ、大湊地方総監部の敷地内で、部下の顔を殴り鼻を骨折させるなどした疑い。
 ※記事では2等海曹は実名

▽共同通信「海自警務隊の逮捕、初公表 2曹が部下殴った疑い」=2024年8月1日
https://www.47news.jp/11282727.html

 防衛省が新方針を明らかにしたのは7月26日でした。それから1週間足らずで最初の事例が起きたことになります。警務隊による逮捕権の行使が決して稀ではないことを示唆しているように思えます。いったいこれまでに、どれだけの逮捕の事例、つまり自衛隊員の犯罪容疑が伏せられていたのか、検証が必要です。
 逮捕は個人の人権を制限する重大な行為です。だからこそ、警察が扱う事件では、原則として容疑者を実名で公表しています。防衛省が警務隊の逮捕事例を意図的に公表してこなかったことは事実上、自衛隊員の犯罪容疑を隠蔽していたことになりますし、逮捕権の行使が適切だったのか、との論点も出てきます。
 今まで、どれだけの逮捕事例が非公表だったのか、マスメディアは防衛省に、そのデータも開示を迫るべきです。
 もう一つ、気になるのは、海自大湊警務隊の逮捕案件が、部下への暴力行為である点です。7月4日は木曜日。自衛隊の施設敷地内で、平日の日中、部下を殴って骨折を負わせたことになります。パワーハラスメントの延長上の傷害事件である可能性が疑われます。そうだとすれば、自衛隊のハラスメント体質は指摘されている以上に深刻だと感じます。今まで、ハラスメントが暴行や傷害にエスカレートして逮捕されても公表されずにいたことが、ハラスメントをはびこらせる一因になっていなかったか。そうした観点からの検証も必要です。

【写真】防衛省のハラスメント防止リーフ