米国大統領にトランプ氏が1月20日(日本時間21日未明)、就任しました。4年ぶり、2期目になります。初日から大統領令を連発。その内容を見れば、前バイデン政権の政策を大きく転換するだけでなく、国際協調に背を向け、分断と混乱を激化させることは明らかです。こうなるだろうことは、就任前から分かっていたつもりでしたが、その事態を自ら「黄金時代」と呼ぶトランプ新大統領にはあらためて戦慄を覚えます。
初日だけで25以上と報じられている大統領令については、ここでわたしが書くまでもなく、日本のマスメディアも詳しく紹介し、国際社会や日本への影響もさまざまに解説しています。一つだけ、わたしの感想を書きとめておきます。疑問に思うことが少なくない中でも、特に「政府が認める性別は男性と女性だけ」と「議会襲撃事件の服役囚らの恩赦」の二つに対しては、ある種のおぞましさとともに懸念を抱いています。
前者の直接の当事者はトランスジェンダーの人たちかもしれません。ただし、男性か女性かの性自認の問題は、愛する対象が異性か同性かの性的指向とも相まって、マイノリティの当事者が声を上げ続けてきたことで、人権の問題であるとの理解が、曲がりなりにも進んできた経緯があります。米国政府が法的にトランジェンダーの人たちを「存在しない」も同然に扱うことで、広く性的少数者の権利の擁護と拡大を求める声、運動は逆風にさらされることになりかねません。人権意識の後退の風潮が広がることを危惧します。
もう一つの「議会襲撃事件の服役囚らの恩赦」は、それ自体が民主主義をないがしろにする意味を持つように思います。襲撃事件の端緒は、5年前の大統領選の開票で不正があったと、トランプ氏が主張したことでした。何の根拠もないその主張それ自体も、呼びかけに応じた支持者らの議会襲撃も、民主主義への攻撃に等しいと考えています。その張本人による恩赦は、いわばトランプ大統領は決して支持者を見放さない、何をやっても、トランプ支持であれば免罪される、とのメッセージとして受け取られかねないことを危惧します。
報道ではどうしても熱狂的なトランプ支持者の様子が目に付くのですが、当然のことながら米国社会にも、融和と相互理解を求めて声を上げ、行動し続ける人たちがいます。その姿を伝え続けることも、ジャーナリズムの役割です。
以下は、東京発行の新聞各紙の報道の記録です。1月21日夕刊でトランプ氏の大統領就任を伝え、翌22日付朝刊で詳報しています。いずれも、本記はそろって1面トップ。最重要ニュースとの判断です。
21日付夕刊の本記の主見出しは以下の通りです。「黄金時代」「米国第一」のキーワードが目を引きます。
・朝日新聞「トランプ氏就任 大統領令連発」
・毎日新聞「トランプ大統領 再び就任」
・読売新聞「『黄金時代始まる』」
・日経新聞「『米国第一で黄金時代』」
・東京新聞「『米国第一』政策大転換」
22日付朝刊では、各紙とも関連記事を7~10面にわたって掲載。「トランプの米国の黄金時代」の読み解きを試みています。1面や総合面、社会面、社説などを中心に、目に留まった主な記事の見出しを書き留めておきます。
日本とのかかわりで、社会面で目を引いたのは、「トランス 否定される恐怖/トランプ氏『性別は男女のみ』/識者『権力によるヘイト』」の見出しを立てた朝日新聞の記事と、在日米軍基地や性的少数者に触れた東京新聞の記事です。
■朝日新聞(関連記事計9面)
・1面
「初日に政策大転換/トランプ大統領就任/WHO・パリ協定離脱/来月から関税25%方針 対カナダ・メキシコ」/「南部国境に軍/性別『男女のみ』」
「先鋭化し復権 未知の領域に」中井大介・アメリカ総局長
・2面
時時刻刻「トランプ印 政策連打」「バイデン路線否定する大統領令」「『常識の革命』反エリート強調/議会襲撃1500人を恩赦」
・3面
「日本、関税・安保を警戒/秘密裏に『トランプ対策会議』」「防衛強化『アピールするしか』」
考/論「日米同盟 もう特権ではない」元外務省国際法局長 石井正文氏
・社会面
トップ「トランス 否定される恐怖/トランプ氏『性別は男女のみ』/識者『権力によるヘイト』」
■毎日新聞(関連記事計8面)
・1面
「『米国第一』再始動/トランプ大統領就任/パリ協定、WHO脱退/25%関税 来月検討 対メキシコ、カナダ」
「問われるリアリズム外交」古本陽荘・編集局次長
・2、3面
「『脅迫』関税揺さぶり」「トランプ流 はや全開」
※2面カナダ「売り物じゃない」「税率 大恐慌並み水準」
※3面「議会襲撃 支持者を恩赦」「パリ協定離脱『化石』回帰」「基盤強固 準備も周到/8年前とはひと味違う」
・社説「トランプ2.0 米国第一の復活 これが『偉大な国』なのか」/耳疑う領土拡大の主張/日本は主体的な外交を
・第2社会面
■読売新聞(関連記事計9面)
・1面
「トランプ大統領令25本超/パリ協定・WHO離脱 第2次政権初日/関税最大25%示唆 対カナダ メキシコ」
「米国 歴史の転換点」今井隆・アメリカ総局長
・2、3面
「公約実現 矢継ぎ早」「『黄金時代』独善深め」
※2面「関税 初日は見送り」「バイデン氏のAI規制撤回」「世界の感染症対策懸念 WHO脱退」/「首相、早期会談目指す/来月前半で調整『信頼関係を確立』」
※3面スキャナー「融和なし『同盟』触れず トランプ氏演説」「慣例・手順破り 次々/聖書に手を置かず 支持者の前で署名」
・第2社会面
「関税 日本も注視/中小企業 募る危機感」
「熱狂と抗議 分断の首都」
・社説「トランプ氏就任 『米国第一』は何をもたらすか/突破力を難題の解決に生かせ」/バイデン路線を転換/大富豪ら重用の影響は/日米安定の道を探れ
■日経新聞(関連記事計10面)
・1面
「経済・外交 大転換/第2次トランプ政権始動/パリ協定・WHO離脱/カナダ・メキシコ『来月25%関税』」
「『トランプ王朝』は要らない」大越匡洋・ワシントン支局長
・2面
「安保口実に『領土拡大』/同盟関係に触れず/『最強軍隊』で戦争抑止」
・3面
「対中関税、即時発動見送り/習氏と交渉の意向/妥協引き出し優位狙う」
「GDP0.4%減の試算/対中関税も発動なら 世界経済下押し」
・社説「トランプ時代の国際秩序を探れ」/自国第一主義を全面に/多国間協調の主導を
■産経新聞(関連記事計7面)
・1面
「『米国 黄金時代始まる』/トランプ第2次政権始動/不法移民阻止へ軍派遣/対カナダ・メキシコ 関税25%示す」
「パロ協定離脱・WHO脱退・TikTok禁止猶予/大統領令 連発」
「突破力と取引 危うさ抱え」塩原永久・ワシントン支局長
・社説(「主張」)「トランプ氏就任 米国は秩序の守護者たれ/石破氏は訪米急ぎ関係構築を」/ウクライナで功焦るな/安定した同盟生かせ
■東京新聞(関連記事計8面)
・1面
「『米国第一』大統領令連発/トランプ氏 2期目始動/パリ協定再離脱、WHO脱退」
「『独裁者になる』 予告通り政策大転換」
・社説「トランプ政権2期目 対立と分断生む不寛容」/成長促す多様性を否定/多国間協調の重視促せ
・社会面
「トランプ色 やっぱり不安」「基地周辺 騒音が増えない?/性的少数者 不寛容広がる?/自国中心 振り回されない?」※首都圏の声