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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

脱原発デモの各紙報道に差

 東日本大震災に伴う福島第一原発事故を契機として、“脱原発論議がマスメディアの報道にも目立つようになってきました。その中で先週末、東日本大震災から3カ月の6月11日土曜日に、日本でも各地で脱原発を掲げるデモやパレードがありました。12日付の朝日新聞朝刊は「呼びかけ団体によると、東京、大阪といった大都市や、最多の原発を抱える福井県被爆地の広島市など国内約140カ所で開かれた」と伝えています。
 この出来事をマスメディアがどう伝えるか、特に新聞は扱い方が分かれるだろうと予想していたのですが、実際には予想以上の差でした。私の住む関西地区の12日付朝刊では、大阪本社発行の各紙でいちばん扱いが大きかった朝日新聞は、本記が一面準トップで4段近い大きな写真付き。第1社会面では1ページの3分の2を関連記事で埋め、写真も4枚載せています。破格の扱いと言っていいと思います。対して読売、産経は記事の掲載が見当たりませんでした。ここまで異なると、扱いの差と言うより「報道落差」と言ってもいいかもしれません。
 ちなみに、関西地区の有力地方紙である京都新聞神戸新聞はそれぞれ地元の集会やデモ、パレードを中心に報じています。
 関連記事を掲載した各紙の見出しなどを書き留めておきます。

【朝日】
▽1面準トップ「脱原発デモ 広島で福島で」全5段(写真3・5段=福島県郡山市のデモ)
▽社会面トップ「動く」「『とにかくアクションを』『子ども守りたい』」「脱原発 御堂筋4000人」「被爆地『見過ごせぬ』」写真4枚=広島、大阪、大津、東京・東電
 ※記事で紹介しているのは大阪、東京・新宿、福島・郡山、福井、広島、大津の5カ所
【毎日】第3社会面1段(全3段)「全国で脱原発 初の一斉行動」「130カ所で集会やデモ」(写真2段=大阪市中央区
【日経】第2社会面1段(全3段)「『脱原発』」訴え各地で集会」(共同通信

【京都】第2社会面3段「『脱原発』各地で訴え」「京で600人パレード」(写真=京都市中央区のデモ)「『ノーモア・ヒバクシャ』広島、270人行進」(広島、大阪=共同通信
【神戸】第2社会面3段「『もう原発はいらない』」「全国各地で集会やデモ」「神戸では500人参加 学習会の関心も高く」

 マスメディアによって報道の扱いが分かれる社会事象はままあります。原発のように、新聞社によっては「社論」がはっきりしているようなテーマの場合、その傾向は一段と強まります。「報道しない」との選択も、それが正しいか否かではなく、マスメディアとしての編集上の判断の一つということなのでしょう。
 その上で思うことなのですが、今回の日本各地での脱原発を掲げたデモやパレードの動きは、程度の差はあっても報じるに十分値する出来事、たとえスペースは小さくとも報ずべき出来事だったと思います。
 これからも原子力発電を続けるのか否か、日本では選択肢を絞っての社会的議論はまだこれからの段階のようですが、民主主義の手続きを踏みながら社会的合意の形成が図られていくのだと思います。どのような経緯をたどるにせよ、社会の個々人が自分の意思、考えを決めるには、判断の材料が多種多様になければなりません。政治家や首長、官公庁、電力会社の意思や発言、動向も重要な情報ですが、そうした立場にはない一般の人たち、いわば社会の隣人が全国各地で街頭に出て脱原発を訴えた、直接行動に出て意思表示をした、という状況も、判断材料としては小さくないと思います。
 さらに原発に限らず一般化して言うならば、デモや集会をマスメディアがどう考え、位置づけるかという問題です。デモや集会は、憲法21条が保障する「集会・結社・表現の自由」を路上・街頭で具体的に行使する行為です。憲法上の権利の正当な行使として、何はさておいても尊重、擁護されなければなりません。特にマスメディアは自らの取材・報道が憲法21条に大きく拠っているのですから、相手が誰であれ、その権利の行使を擁護するのは当然です。マスメディアの立場で、公権力の立場にない人たちのこれら権利行使を尊重、擁護するとは、取材して報じることに尽きるのではないでしょうか。

【追記】2011年6月16日午前5時
 12日付の毎日新聞大阪本社発行の朝刊紙面は、前日のデモの記事は第3社会面でしたが、これに先立つ8日(水)の夕刊第2面「特集ワイド」に、「反原発 高まる機運」との見出しで「福島第一原発事故後、原発に反対する市民運動が活況を呈している」との長文のリポートを掲載しています。署名は和泉かよ子記者。4月16日に関西の市民グループの呼びかけで大阪のメインストリート御堂筋で行われたデモに3500人が参加したことなどとともに、11日には全国的な行動として「6・11 脱原発100万人アクション」が予定されていることを紹介。「市民団体がそれぞれの地元でデモやイベントを計画しており、原発では前例のない行動になりそうだ」としています。中之島公園の集会や御堂筋デモなど、11日の関西行動の概要と連絡先もメモ風に掲載しています。
 相当な長文で読み応えがあります。「デモは路上の表現の自由」とのマインドが全編を貫いていると感じましたので紹介します。