ニュース・ワーカー2

組織ジャーナリズムに身を置き40年余

「橋下か、反橋下か」の対立軸がもたらしたもの ※追記 橋下氏の強さと危うさが分かる毎日「記者の目」

 11月27日の大阪市長選、大阪府知事選のダブル選挙は、既に広く報じられている通り、大阪市長橋下徹氏、知事に松井一郎氏が当選。橋下氏が代表の「大阪維新の会」が完勝しました。得票は市長選で橋下氏が75万813票、一騎打ちの相手の現職平松邦夫氏が52万2641票でした。知事選では松井氏は200万6195票、2位の前池田市長、倉田薫氏が120万1034票。2つの選挙とも、橋下、松井両氏の圧勝と呼べる大差がつきました。特筆すべきは投票率で、市長選は前回を17・31ポイントも上回る60・92%、知事選は3・93ポイント上回る52・88%でした。平松氏も前回から得票を伸ばしているのですが、それを上回る勢いで橋下氏が支持票を掘り起こしたと言えそうです。正直なところ、これほどまでに差がつくとは思っていませんでした。
 この選挙結果を、大阪発行の大手紙各紙は1面から総合面、社会面と、当然のごとく破格の大きさで報じています。すべてのページの見出しを拾おうとすると膨大な作業になります。今回は1面トップと社会面、第2社会面の主な見出しだけを書き留めておきます。在阪大手5紙と、京都新聞神戸新聞が対象です。

1面トップ
【朝日】
橋下維新 圧勝
大阪市長当選 知事は松井氏
都構想へ「統合本部」

【毎日】
橋下維新 ダブル選圧勝
大阪都構想 推進へ
市長橋下氏 知事松井氏

【読売】
市長・橋下氏 知事・松井氏
維新、大阪ダブル選完勝
都構想 具体化へ

【産経】
維新圧勝「大阪変える」
橋下市長 松井知事
再編へ「民意示された」

【日経】
市長橋下氏 知事松井氏
維新勝利 都構想に支持
大阪ダブル選

【京都】
大阪市長に橋下氏
知事・松井氏 維新圧勝
「都構想」を推進

【神戸】
大阪市長に橋下氏
ダブル選「維新」圧勝
23万票差 平松氏制し初当選

 各紙におおむね共通しているのは、橋下氏と大阪維新の会が公約に掲げた「大阪都」構想が有権者の信任を受け動き出す、とのトーンが見出しに反映されている点です。実際のところ、橋下氏が27日夜の記者会見で、都構想実現へ向けた法改正が進まなければ、維新の会が国政選挙に候補を立てると表明したこともあり、28日以降、都構想の行方は一気に全国的な関心を集めているかに見えます。
 在阪各紙に戻ると、社会面の主な見出しは以下のようでした。

【朝日】
▽1社面 大阪一新 はや全開 「職員・教委、結果受け止めよ」
▽2社面 反独裁連合 空振り 平松氏「橋下さんは強かった」

【毎日】
▽1社面 大阪統合 任せた 橋下さん「役所は民意認めよ」
▽2社面 のまれた発信力 平松さん「街守る」通じず

【読売】
▽1社面 橋下流 なにわ統一 「府市100年戦争に終止符」
▽2社面 都構想 両輪そろう 200万票松井さん「緊張感」

【産経】
▽1社面 「100年戦争に終止符」 橋下氏 職員には“宣戦”
▽2社面 「反独裁」訴え届かず 平松氏「強い相手だった」

【日経】
▽1社面 託された変革 どう導く まず府市統合本部
▽2社面 都市再生 手探りの実験 平松氏「市民チェック厳しく」

【京都】
▽1社面 橋下パワー独壇場 「府市100年の争いに終止符」
▽2社面 反維新連合 無残 平松節悲痛「発信力の不足」

【神戸】
▽1社面 橋下維新 大阪のむ 「府と市 争いに終止符」
▽2社面 守りの平松氏 落城 「敗因 この街の閉塞感」

 各紙の紙面を並べて眺めるにつけ、選挙の争点は大阪都構想をはじめとして多々ありながら、詰まるところは「橋下か、反橋下か」が焦点だったのではないか、との感があります。都構想を前面に掲げ、かつ大阪市役所を敵に定めて徹底的に批判した橋下氏に対し、迎え撃つ立場だった平松氏は、橋下氏を「独裁」と批判しました。この構図のために、マスメディアの選挙報道は最初から最後まで、「橋下」で占められる結果になりました。違いがあるとすれば「橋下支持」なのか「反橋下」なのか、ぐらいです。プロ野球で言えば「アンチ巨人」が結局は巨人人気の支えの一助になっている、ということに似ています。
 最大の争点は大阪都構想と、これもまた最初から最後まで報じられていました。しかし、以前のエントリーでも触れたとおり、有権者への世論調査では、大阪都構想は決して関心の高いテーマではないことがはっきり示されていました。橋下氏を支持した人は都構想をも支持したということは言えても、都構想実現を望んで橋下氏を支持したわけではないことは、はっきりしていました。なのに「最大争点は都構想」と位置付けられることによって、十分には論議が深まらなかった争点もあったのではないでしょうか。
 「橋下か、反橋下か」が選挙戦の対立軸になったために、必然的に報道も橋下氏が中心位置を占めることとなり、争点報道でも橋下氏が前面に掲げた都構想が大きな比重を占めるに至った―。少し乱暴かもしれませんが、この間の新聞各紙の選挙戦報道をひと言でまとめると、こんな感じになるのではないかと思います。
 大阪ダブル選挙についてのエントリーは今回で一区切りにします。これから大阪で何が起こるのか、それが他地域にどんな影響を及ぼすのか、注視していきます。
【追記】2011年12月10日午前7時40分
 毎日新聞の9日付朝刊「記者の目」に、大阪本社社会部の林由紀子記者が選挙戦を取材した記者の立場から、橋下氏と大阪維新の会の圧勝の要因を分析しています。冷静な筆致で、橋下氏の強さとともに弱さ、危うさもよく分かる好リポートです。

記者の目:大阪ダブル選「橋下・維新」圧勝=林由紀子
http://mainichi.jp/select/opinion/eye/news/20111209k0000m070091000c.html