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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

公約の監視は選挙後も〜大阪ダブル選と新聞 ※追記 敗れた側の日常が問われていないか

 大阪ダブル選挙の投開票日までにもう1回ぐらいは記事のアップを、と思いながら、前回の各紙世論調査の紹介以降、更新がないまま当日になりました。今夜遅くには、新しい大阪市長大阪府知事が決まる見通しです。新聞各紙もネット上の自社サイトで当選速報にしのぎを削ることになりそうですが、選挙戦の総括としての掘り下げた分析や解説などは28日付の朝刊紙面になると思います。
 知事選で17日間、市長選で14日間にわたった選挙戦で、現職の平松邦夫氏、大阪府知事からの転身をはかる橋下徹氏の一騎打ちとなった市長選が構図的にも分かりやすいためでしょうか。有権者の関心は高く、期日前・不在者投票は市長選で前回比7割増、知事選も同6割増と、大幅に増加したと報じられています(26日朝日新聞夕刊)。統一地方選で躍進した「大阪維新の会」を率いる橋下氏に対し、「反独裁」を旗印に民主、自民、共産各党が平松氏を支援するなど、党本部レベルはともかくとして地元レベルでは政党別の支持関係も明確でした。
 新聞各紙も市長選を中心に大きな紙面を割いて報道してきました。終盤戦のここ数日で目についた傾向は、あらためて平松氏と橋下氏を、公約のほか街頭演説の内容なども含めて比較する記事の仕立てです。
 朝日新聞は23日付朝刊社会面トップで、両氏の街頭演説を情報政治学の研究者に実際に見比べてもらい、口調や仕草などの特徴をそれぞれにまとめました。続く24日付朝刊の社会面トップでは、両氏の演説内容の変遷をまとめています。平松氏についての見出しは「封印」「『反独裁若者に響かぬ』」、橋下氏は「防御」「『市バラバラにしない』」です。演説については、産経新聞も24日付朝刊の1面に、平松、橋下両氏がともに劣勢をアピールし合っている、とのリポート記事を載せました。
 両氏の比較で目を引かれたのは、毎日新聞が23日付朝刊の第2社会面に掲載した「『ブレーン』に聞く」の囲み記事。平松陣営からは神戸女学院大名誉教授の内田樹さん、橋本陣営からは元経済企画庁長官の堺屋太一さんが登場し、それぞれに平松氏と橋下氏を支援する理由を語っています。見出しは内田さんが「合意へ調整能力」、堺屋さんが「信念貫く純真さ」。毎日新聞は24日付朝刊の3面(総合面)をほぼ丸1ページ使った「クローズアップ2011」で、「都構想」「教育基本条例」「自治体の役割」の3項目について、知事選、市長選の各陣営の主張の違いをまとめています。
 読売新聞は22日付朝刊から第2社会面にルポを掲載。平松氏、橋下氏、知事選の主要3候補と続き、25日付朝刊では民主、自民、共産、公明の各既成政党の動きも丁寧に紹介しています。
 いずれも大阪に隣接する地域の地方紙ですが、23日付の神戸新聞京都新聞の朝刊に「かすむ教育条例案」の見出しの記事が載りました。共同通信の配信記事です。大阪維新の会が争点に掲げた「教育基本条例案」に関し、選挙戦終盤の街頭演説などで橋下氏の言及が少なくなっていることを指摘しています。教育行政への政治関与を明記したこの条例案には府の教育委員会も含めて異論が絶えず、だからこそ橋下氏・維新の会側も選挙公約として府民や市民に問う、とした経緯があります。ダブル選挙の結果がどうあれ、当選した候補が「選挙民の信任を受けた」として、自らの公約を政策として実施に移すのは構わないのですが、選挙中に公約として有権者に十分に意識され、内容にも理解が得られていたかどうか、という問題があることは、マスメディアも有権者も、今のうちから意識しておいていいと思います。選挙が終わっても、公約の監視は新聞をはじめマスメディアの役割の一つです。
【追記】2011年11月28日午前3時40分
 放送やネットで大きく報道されている通り、大阪ダブル選挙は大阪市長橋下徹氏、知事に松井一郎氏と、ともに大阪維新の会の候補が圧勝しました。新聞各社も自社のサイト上で、投票締め切りの午後8時になるや、「当選確実」とアップするいわゆる「ゼロ当確」の速報でした。
 投票所で投票を済ませた有権者にアンケートする「出口調査」の分析記事なども既に新聞社のサイト上ではチラホラ見えますが、大阪の新聞各紙が選挙結果をどのように分析しているのかは、紙面を見た上で後日、取り上げたいと思います。
 この選挙結果で想起するのは、小泉純一郎首相当時の2005年の郵政解散総選挙です。国政選挙と地方選挙など違いも小さくはありませんが、有権者が「変化」や「改革」を強いリーダー像に託したという点では同じだとの直感を抱いています。小泉氏が労働組合を「抵抗勢力」と一刀両断にしたことと、橋下氏が大阪市役所を批判し続けたこととがダブって見えます。そして、平松邦夫氏をはじめ、橋下氏に対抗しようとした諸々の側(連合をはじめとした労働組合も含めて)には、2005年の教訓がありながら、不安、不満を抱えている人たちにふだんからきちんと向き合っていたのかどうか、日常のありようがどうだったのかが問われているのではないか、とも感じています。橋下氏の「独裁」の危険性を訴えるだけでは、そうした人たちに届かなかったのではないかと思います。
 かつての自民党の場合は、2005年の空前の大勝利からわずか4年で信を失い、政権を明け渡しました。年越し派遣村が大きな社会的関心を集めたのは、その前年の2008年暮れから年明けにかけてでした。これから大阪では何が起こるのか、それをマスメディアはどう報じるのか。29日から新たなステップに進むのだな、と感じています。