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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

疑念強まる特定秘密保護法案〜各紙社説も「反対」「批判」

 批判を浴びている特定秘密保護法案は、衆院で審議入りして1週間余りがたちました。この間の質疑では、疑問点が解消するどころか、逆に法案の問題点と早期成立を図ろうとする政権の側の危うさが一層鮮明になったように見えます。15日には与党と一部野党が修正協議入りしており、与党は一部でも野党の支持を取り付けて今週中の衆院通過を狙っていると報じられています。
 こうした情勢に対して、新聞各紙はどのような論調を展開しているか(展開していないか)、ネットで各紙の社説を当たってみました。前回の報告以後、11月11日から16日までが対象です。また、ネット上では社説を公開していない新聞もあり、すべての新聞の網羅的な調査にもなっていませんが、関連の社説の掲載は、全国紙では朝日新聞毎日新聞日経新聞の3紙、ブロック紙・地方紙では10紙ありました。特徴的と思われることを書き留めておきます。

  • この間に社説を掲載した13紙のすべてが、法案に明確に反対しているか、それに近い論調で厳しく批判を展開している
  • 連続して社説を掲載する新聞が目につくようになってきた。特に毎日新聞は11月に入って9回掲載。地方紙でも信濃毎日新聞琉球新報が連続して掲載している。朝日新聞は16日は2本とも特定秘密保護法案の関連だった。13紙の中のほかの新聞も、関連の社説の掲載は初めてではなく、おおむね閣議決定や国会提出の際に続いての掲載となっている。
  • 全国紙では朝日新聞毎日新聞が明確に反対を掲げ、紙面でも多くの関連記事を掲載。加えて日経新聞が16日付の社説で「このままの形で法案を成立させることには賛成できない」「徹底した見直しが必要」と、事実上の反対を表明した。読売新聞は11月8日の「後世の検証が可能な仕組みに」以降、関連する社説の掲載はなく、産経新聞も10月26日の「報道の自由踏まえ成立を」との社説(「主張」)以降ない。

 また、大阪で日々の紙面に接していると、法案に反対・批判的な朝日新聞毎日新聞、地方紙の京都新聞神戸新聞が連日、複数のページにわたって相当な量の関連記事を掲載しているのに対し、読売新聞、産経新聞の記事の少なさが目立ちます。一例として、16日付の朝刊の各紙の主な記事の見出しを書き留めておきます。
 いずれにせよ、国会では当面ヤマ場が続きそうな状況です。言うまでもなく、マスメディアにとっても死活的に重要なテーマです。それを新聞自身がどう論じ報じたか、ささやかながらも、このブログに書き留めておこうと思います。


 以下に今回(11月11〜16日)目に留まった各紙の社説の見出しを、備忘を兼ねて書き留めておきます。日経と地方紙は本文の書き出しも引用・紹介します。繰り返しになりますが、ネットでざっくりと調べた結果ですので、すべての新聞の社説を網羅しているわけではありません。


【全国紙】
朝日新聞
16日「特定秘密法案 成立ありきの粗雑審議」
16日「特定秘密法案 身近な情報にも影」
12日「秘密保護法案 極秘が支えた安全神話
毎日新聞
15日「秘密保護法案を問う 報道の自由
14日「秘密保護法案を問う 野党 成立阻止が目指す道だ」
13日「秘密保護法案を問う 強まる反対世論」
12日「秘密保護法案を問う 歴史研究」

日経新聞
16日「疑問消えぬ秘密保護法案に賛成できない」

 特定秘密保護法案の審議が国会で続いている。政府・与党は並行して野党側との修正協議を急ぎ、今国会中に成立させる構えだ。
 安全保障にかかわる機密の漏洩を防ぐ枠組みが必要なことは理解できる。だがこの法案は依然として、国民の知る権利を損ないかねない問題を抱えたままだ。
 これまでの国会審議では、疑念がむしろ深まった印象さえある。このままの形で法案を成立させることには賛成できない。徹底した見直しが必要である。


ブロック紙・地方紙】
北海道新聞16日「秘密保護法案 修正より廃案に全力を」

 機密を漏らした公務員らに厳罰を科す特定秘密保護法案をめぐり、与党と日本維新の会みんなの党が修正協議を始めた。民主党も近く対案をまとめて与党との協議に入る。
 国会論戦では、政府が恣意(しい)的に秘密の範囲を拡大できることなど法案が重大な欠陥を数多く抱えていることが一層、鮮明になっている。
 だが、修正協議は秘密保護法の必要性を認めることが前提となる。野党がその土俵に上がれば政府・与党のペースに巻き込まれかねない。
 情報漏えい防止は国家公務員法など現行法で可能であり、新法は不要だ。野党は修正協議よりも、法案の問題点を徹底追及し、廃案に追い込むことに全力を挙げるべきだ。

東奥日報15日「民主主義の理念損なう/秘密保護法案」

 今、国民の「知る権利」が危ない。
 衆院で審議されている特定秘密保護法案のことである。安倍晋三首相をはじめとした政府答弁を聞く限り、なぜ今なのか、なぜこんなに急ぐのか、という根本的な疑問に対する答えが明確に見えてこない。
 明らかになったのは、国民の「知る権利」より国家の安全が優先するという強圧的とも言うべき姿勢だ。

秋田魁新報16日「秘密保護法審議 あまりにも問題が多い」

 あまりにも問題が多い法案である。特定秘密保護法案の成立後、制度見直しを検討する考えを森雅子内閣府特命担当相が国会で示した。見直しを前提とすること自体、法案の不備を裏付けるものだ。国民の「知る権利」を侵害する懸念がある法案を、与党が数の力で採決に持ち込むことは許されない。

岩手日報16日「<秘密法案> 「知る権利」制約 権力監視が妨げられる」
岩手日報15日「<秘密法案> 広がる疑念 やはり廃案以外にない」

 安倍政権が今国会に提出した特定秘密保護法案の審議が進んでいる。国民の「知る権利」が侵害されるという懸念が払拭(ふっしょく)されるどころか、法案の危うさがさらに浮き彫りになっている。
 まずは、特定秘密の基準や範囲が極めてあいまいなことだ。森雅子担当相は環太平洋連携協定(TPP)の交渉内容が特定秘密の対象になると発言。小池百合子元防衛相は「首相動静」が「知る権利を超えている」と述べた。
 菅義偉官房長官新藤義孝総務相が法案の対象にならないと修正したが、当然だ。権力を持つ者が秘密の範囲をできるだけ拡大したい、という本音が透けて見える。

福島民報14日「【原発と秘密保護法】県民の要望に逆行」

 特定秘密保護法案が衆院で審議中だ。やりとりを通じて法の詳細が次第に明らかになってきた。この中で、森雅子内閣府特命担当相(参院本県選挙区)が「テロ防止のために警察が実施する原発警備計画は指定される」との認識を示した。警備計画に関わる事項は範囲が広い。解釈次第で拡大しないか。多くの情報が「秘密」として隠される懸念を拭い切れない。東京電力福島第一原発事故以降、一層の情報開示を求める県民の要望に逆行する。

信濃毎日新聞16日「秘密保護法 修正協議 悪法を手直ししても」

 与党と一部野党が特定秘密保護法案の修正協議に入っている。
 部分的手直しを施すくらいでは法案の危険性は除去できない。野党は修正協議の誘いを拒否して廃案を目指すべきだ。

信濃毎日新聞15日「秘密保護法 衆院審議 食い違うことの危うさ」
信濃毎日新聞14日「秘密保護法 民主党の姿勢 安易な妥協は許されぬ」
信濃毎日新聞13日「秘密保護法 憲法に照らす 国民主権が掘り崩される」

京都新聞14日「特定秘密の範囲  もう危うさが露呈した」

 やはり、この法案を成立させては危険すぎる。
 特定秘密保護法案の本格審議が衆院で行われているが、政府の答弁や自民党幹部によって「特定秘密」の範囲はあいまいで、言うことが食い違う。疑念と不安は募るばかりだ。
 これで「国民の知る権利」を守れるのか。政権が一方的に秘密の範囲を定めることの不気味な本質を、さらけ出している。
 小池百合子元防衛相は新聞各紙の首相動静について、国民の「知る権利を越えている」と発言。菅義偉官房長官が「特定秘密には当たらない」と打ち消した。
 原発関連の情報が秘密にされるのかも、闇の中だ。

高知新聞16日「【秘密保護法案】審議で深まるのは疑念」

 深まるのは理解ではなく疑念。衆院での委員会審議が始まって1週間たった特定秘密保護法案のことだ。
 国家機密の保全には国家公務員法自衛隊法など既存の法律がある。なぜ今、この法案が必要なのか。
 根幹の問いに対する政府の説明は十分ではない。担当大臣の答弁にはぶれも出ている。
 政府、与党は野党と修正協議し、成立を図る構えだが、どこまで修正に応じるかは不透明だ。法案の危険な本質は何も変わっていない。

西日本新聞16日「秘密保護法案 修正でも疑念は拭えない」

 衆院で審議中の特定秘密保護法案をめぐる与野党の攻防が激しさを増している。
 自民、公明の与党は野党との法案修正協議を踏まえ、来週にも衆院を通過させ、参院審議を経て今国会中に成立させる構えだ。
 これに対し野党は世論の反発などを背景に、共産、生活、社民の各党が反対を決め、日本維新の会みんなの党は与党との修正協議に入った。
 民主党は政府案に対する対案を19日にも示す方針を決めた。野党第1党として当然だろう。
 安全保障に関わる国家機密を守る‐。そんな大義名分で政府が情報統制を強め、民主主義の根幹を脅かしかねない法案だ。
 修正協議の結果、一部を手直ししたとしても、国民の「知る権利」侵害などの懸念は拭えない。
 野党は国会審議を通じて、この危うい法案の問題点を徹底的にあぶり出すべきだ。

琉球新報16日「秘密法第三者機関 成立の取引にするな」
琉球新報14日「秘密法と身辺調査 監視社会にはしたくない」

 防衛省が、防衛秘密を扱う自衛官に対し、思想・信条のほか友人関係や交際相手も調べ、携帯電話の通話記録提供まで求めていることが国会質疑で明らかになった。
 戦前の憲兵隊、特高警察とうり二つだ。現在の自衛隊法の下ですら、法の定めのないこのような調査をしているのだから、特定秘密保護法ができれば一層、徹底して身辺を洗うのは間違いない。しかも同法は民間人も処罰の対象だ。
 ジョージ・オーウェルの小説「1984年」もかくやと思わせる監視社会、警察国家だ。そんな国にはしたくない。

琉球新報13日「秘密法案と報道 国の強権行使を許すな」


▽16日付朝刊の主な記事と見出し。全国紙5紙は大阪本社発行の最終版
朝日新聞】※社説も
1面「与党、修正案に『国会報告』」「秘密保護法案 指定チェック方法巡り」
4面「修正協議 接点と課題 維新・みんな」
4面「『大丈夫』その根拠は」(担当記者はこう見た)
4面・主なやりとり
第2社会面「『何でもあり』極めて危険」鈴木宗男・元衆院議員:ワッペン「特定秘密保護法案 体験から問う」
第2社会面「廃案求める声 各地で」


毎日新聞
2面「与野党合意へ『着々』」「みんな『修正案』で秋波」
2面「政令で『保護措置』森担当相」
2面「沖縄変換『密約』 同様の検証可能 岸田外相が答弁」
第2社会面「潜入取材消えていく」ルポライター鎌田慧さん:ワッペン「特定秘密保護法案に言いたい」


【読売新聞】
2面「秘密保護法 民主が対案」「19日決定 与党と維・み 修正協議」


産経新聞
5面(政治面)「秘密保護法案18日再協議」「与党・みんな 首相関与めぐり平行線」
5面「『特定秘密』に資料該当せず 元慰安婦聞き取り調査」


日経新聞】※社説も
4面(政治面)「秘密指定、国会に報告」「秘密保護法案で与党提案」「修正協議が本格化 実効性は疑問符」


京都新聞
5面(政治・総合)「与党 来週通過狙う」「維新、みんなと 協議を本格化」
5面「日米の情報公開 検証を」ピースデポ湯浅一郎さん:ワッペン「問う秘密保護法案 ここが論点」5
5面・論戦のポイント
7面(オピニオン)「自治体の情報統制懸念」全国市民オンブズマン連絡会議事務局長・新海聡
24面(地域・総合)「秘密保護法案『成立すれば恐ろしい国家に』」「元毎日記者 西山さんが批判」


神戸新聞
2面「首相の事前同意拒否」「与党、来週法案通過狙う」
2面「修正協議、強気の政権」「野党不満も、足並みそろわず」
3面(地域総合)「秘密法反対求め要望書」「県内3オンブズ 国会議員に郵送」
5面(総合)「指定対象限定を否定」「森担当相 第三者機関には前向き」
5面「ブログ発信も『報道』 政府」
5面・論戦のポイント
5面「公開内容、日米で落差」ピースデポ湯浅一郎さん:ワッペン「問う秘密保護法案 ここが論点」5
第3社会面「『恐ろしい秘密国家に』」「沖縄密約報道で有罪の西山元記者」「『取材手法問われるべきでない』」
第3社会面「秘密保護法案 大阪で反対集会」/「荻原さんらも反対を表明」