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地方紙は「民意反映」「国民全体の問題」が目立つ〜続・沖縄知事選の社説

 前回の記事(「沖縄知事選の在京各紙論調やはり二分」)の続きです。
 10月30日に告示された沖縄県知事選は、ブロック紙や地方紙も社説で取り上げています。ネット上の各紙のサイトでチェックした限りですが、沖縄タイムス琉球新報の沖縄の2紙以外で、14紙の社説が目に留まりました。掲載の日付と見出しを以下に書き留めておきます。

【10月30日付】
岩手日報「沖縄知事選告示 はや及び腰の政府与党」
北國新聞沖縄県知事選 単一の争点でよいのか」
信濃毎日新聞沖縄県知事選 基地の論戦を見守りたい」
中国新聞「沖縄知事選 大いに論戦を」
徳島新聞沖縄県知事選告示 基地問題に民意反映を」

【10月31日付】
北海道新聞沖縄県知事選 辺野古移設の是非問う」
京都新聞沖縄県知事選 『辺野古』に民意反映を」
神戸新聞沖縄県知事選/民意が決める移設の是非」
山陰中央新報沖縄県知事選告示/基地は国民全体の問題だ」
大分合同新聞「沖縄知事選告示 国民全体で考えよう」
宮崎日日新聞沖縄県知事選告示 基地移設は国民で考えよう」
熊本日日新聞「沖縄知事選 国民全体の“課題”として」

【11月1日付】
佐賀新聞 ※サイト上には見出しなし
南日本新聞「[沖縄知事選告示] 基地問題に向き合おう」


 見出しからもうかがえるように、大半の社説は、米軍普天間飛行場名護市辺野古地区への移設問題には、選挙結果で示される沖縄の民意が反映されるべきだと主張しています。また米軍基地の問題は沖縄だけの問題ではなく、負担のありようは国民全体で考えるべきものととらえている社説も少なくありません。総じて、辺野古移設の既成事実化を急いでいる安倍晋三政権に対しては、批判のトーンが圧倒しているように思います。
 例として信濃毎日新聞京都新聞宮崎日日新聞の社説の一部を引用します。

信濃毎日新聞沖縄県知事選 基地の論戦を見守りたい」10月30日付

 沖縄県には在日米軍専用施設の74%が集中している。基地負担をどう軽減するか。他県の問題と考えるわけにはいかない。知事選を機に、あらためて沖縄の現状に目を向けたい。
 そのためにも候補者には突っ込んだ議論を期待する。例えば、普天間の運用停止だ。政府は2019年2月までの実現を目指すとするものの、米政府は「空想のような見通しだ」と表明したことが分かっている。はっきりさせなくてはならない点の一つだ。
 政府は「普天間の危険除去」を強調し、沖縄に対して「普天間の固定化」か「辺野古移設」かの二者択一を迫っている。負担を軽減する気があるのか疑問と言わざるを得ない。論議を深められるよう移設反対の候補者は別の選択肢を示すことも大事になる。
 政府は知事選の結果にかかわらず移設を推進する構えだ。8月から辺野古沿岸部の海底ボーリング調査を行っている。先日は沿岸部に護岸を設ける工事などの入札を公告した。来年の早い時期に業者を決める段取りを描く。
 1月の名護市長選で移設反対の現職が再選された。9月の名護市議選でも反対派が過半数を保っている。地元の民意を顧みず、既成事実化する政府のやり方は認められない。知事選の結果が出るまで作業を止めるよう重ねて求める。


京都新聞沖縄県知事選 『辺野古』に民意反映を」10月31日付

 「世界一危険」とされる普天間飛行場の固定化は許されない。ならば辺野古移設以外に選択肢はあり得ないのか。選挙戦を通じて議論をさらに深め、県民が真に望む負担軽減策を提示してほしい。
 沖縄では1月の名護市長選で辺野古移設に反対する稲嶺進市長が再選を果たすなど再三「辺野古ノー」の民意が示された。だが安倍政権は辺野古沿岸部で海底ボーリング調査を進め、強引とも映る手法で既成事実を積み上げてきた。
 もう一つ懸念がある。安倍政権が普天間飛行場の「5年以内の運用停止を目指す」と明言したのに、米国側は「それは不可能」と真っ向から否定する。5年以内の運用停止は基地負担軽減策の柱だ。無理となれば事情は違ってくる。
 安倍政権は選挙結果と連動させず辺野古移設を進める方針のようだが、地元の合意抜きにごり押しすれば混乱を招く。県民が下す審判に誠実に向き合うべきだ。
 多くの米軍施設を抱える沖縄の現実や日米安保のあり方は、国民共通の課題でもある。私たちも沖縄県知事選の展開に最大限の関心を寄せ、じっくり考えたい。


宮崎日日新聞沖縄県知事選告示 基地移設は国民で考えよう」10月31日付

 普天間飛行場の移設が曲折をたどることになった要因は、「沖縄県の基地負担軽減」と言いながら移設先が「沖縄県内」であるという提案そのものに内包されている。それは沖縄県民にとっては「矛盾」でしかない。
 基地の撤去を求める普天間飛行場周辺の人々が移設先である名護市民に引け目を感じ、その名護市民が受け入れ反対を叫ぶことにためらいを覚えるのはここから来ている。この苦悩は本来、国民全体で受け止めるべきものだ。
 今回の選挙を「政府と沖縄県民の問題」と傍観しては無責任のそしりを免れない。


 そうした中で北國新聞は異なった主張です。沖縄の負担軽減が必要なことを押さえつつ、日米両政府の合意事項は知事選結果いかんで覆されるものではないとしています。一部を引用します。

 米軍普天間飛行場の移設計画の是非を争点とする沖縄県知事選が30日に告示される。 宜野湾市にある普天間飛行場名護市辺野古へ移設する計画をめぐって沖縄県民の意見は割れており、知事選の最大の争点になるのは当然であろうが、国の安全保障の根幹にかかわる単一のテーマだけで自治体の首長を選ぶことには疑問が残る。
 在日米軍基地の受け入れは地域住民の理解、協力があってこそ成り立つのであり、国の安全保障政策は民意への配慮が欠かせない。しかし、普天間飛行場移設は日米両政府の合意事項であり、一自治体の知事選結果いかんで覆されるものではないことを理解する必要もあるのではないか。

 沖縄の2紙はいずれも告示当日の10月30日付の紙面の社説で取り上げています。見出しは以下の通りです。

沖縄タイムス
「[知事選きょう告示]将来像示し政策論争を」
http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=88603

琉球新報
「知事選告示 揺るがぬ公約の実現を 沖縄の将来決める分岐点」
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-233868-storytopic-11.html

 琉球新報の社説の一部を引用します。

 米軍普天間飛行場名護市辺野古移設の是非が最大の争点であり、沖縄社会にさまざまな影響を与えてきた基地問題の行方を大きく左右する知事選と位置付けられよう。それはすなわち、沖縄の将来像をも決定付ける歴史的な分岐点となることを意味する。
(中略)
 とりわけ辺野古移設問題は、日本の民主主義や人権の在り方を根底から問い直す状況に直面している。ことし1月の名護市長選では移設に反対する稲嶺進氏が再選を果たしたが、安倍政権は辺野古移設方針を堅持し、海底掘削調査や本体工事の入札公告に着手するなど既成事実化を推し進めている。

 前回の記事にも書いたことですが、沖縄に過剰な米軍基地の負担を強いているのは日本政府であり、本土に住む日本人は一人一人が日本国の主権者として、そうした政府を成り立たせていることの責任を免れえない、とわたしは考えています。米軍基地をめぐり沖縄で起きていることを、本土のマスメディアが報じることに特段の意味があると考えるのも、そのためです。琉球新報の社説の「とりわけ辺野古移設問題は、日本の民主主義や人権の在り方を根底から問い直す状況に直面している」との指摘を胸に刻んでおきたいと思います。
【写真説明】告示翌日の10月31日付の琉球新報