ニュース・ワーカー2

組織ジャーナリズムに身を置き40年余

「自公過半数」「改憲勢力2/3割れ」参院選結果、在京紙報道の記録~付記 軽視できない街頭演説からの市民強制排除

 第25回参院選は7月21日投開票が行われました。自公の与党が改選過半数を占めたほか、自民、公明に日本維新の会など改憲に前向きな「改憲勢力」は、改憲の発議に必要な参院全体の議席の3分の2を割り込みました。東京発行の新聞6紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京)の22日付朝刊も、1面はいずれもこの二つの要素で大きな見出しを取っていますが、パターンが分かれています。
 朝日、毎日、日経の3紙はもっとも重要な横向きの主見出しに与党の過半数獲得、2番目に重要な縦見出しに改憲勢力の3分の2割れを据えました。これに対して産経、東京両紙は、主見出しに改憲勢力の動向を取り、与党の過半数は2番目でした。読売新聞は朝日、毎日、日経に近いのですが、「与党勝利」の見出しの大きさに比べると、改憲勢力の議席動向は、紙面を二つ折りにすると下半分になってしまう位置に「与党・改憲勢力2/3割れ」と控えめに置かれています(写真ではこの見出しは見えません)。
 選挙結果を大きく捉えるなら、確かにポイントは自公の改選過半数獲得と、改憲勢力の議席動向になるのだと思います。

f:id:news-worker:20190722183154j:plain

 ※紙面は最終議席が確定する前のものであり、同じ新聞、同じ東京都内でも、降版・印刷の時間帯によって見出しが異なっている可能性があります

 各紙ともそろって1面に政治部長の署名評論を載せたほか、社説でも選挙結果を取り上げています。以下に見出しを書きとめておきます。それぞれの主張の差が読み取れるのではないかと思います。特に憲法改正を巡っては、主張の差は大きいと感じます。

▼1面署名評論
・朝日新聞「多様な価値観 丁寧に論戦を」栗原健太郎・政治部長
・毎日新聞「分断から統合の政治を」高塚保・政治部長
・読売新聞「『6連勝』に待ち受ける道」伊藤俊行・政治部長
・日経新聞「自民・非自民争いの限界」丸谷浩史・政治部長
・産経新聞「改憲へ成否の1年 首相覚悟示せ」佐々木美恵・政治部長
・東京新聞「異論に耳傾ける政治を」清水孝幸・政治部長

▼社説
・朝日新聞「自公勝利という審判 『安定』の内実が問われる」/「緊張」求める民意も/改憲支持と言えるか/先送りのツケ一気に
・毎日新聞「19年参院選 自公が多数維持 課題解決への道筋見えず」/強引な憲法論議避けよ/半数棄権の危機的状況
・読売新聞「参院選19 与党改選過半数 安定基盤を政策遂行に生かせ 超党派で社会保障を論じたい」/長期政権の実績を信任/野党は流動化の可能性/憲法論議の活性化を
・日経新聞「大きな変化を望まなかった参院選」/安全運転だった与党/野党はあまりに無策
・産経新聞(「主張」)「参院選で与党勝利 『大きな政治』の前進図れ 有志連合への参加を試金石に」/憲法改正を説くときだ/社会保障の改革着手を
・東京新聞・中日新聞「改憲派3分の2割れ 政権運営は謙虚、丁寧に」/白紙委任状は与えない/改憲以外に課題が山積/三権分立を機能させよ

 社会面の中心的な見出しも書きとめておきます。各紙、横向きに第2社会面と合わせて見開きで大きな見出しを取り、この選挙の意義のようなものを大づかみに表現しようとしています。その中で、見開き見出しを取らない読売新聞の社会面づくりがやはり目を引きました。
▼社会面ヨコ見出し
・朝日新聞「6年半を評価 求めた安定」「未来変えたい 託した希望」(見開き)
・毎日新聞「なんとなく自民」「野党任せきれぬ」(見開き)
・読売新聞「自民祝勝ムード」
・日経新聞「『安定の自民』選択」「風なき野党 息切れ」(見開き)
・産経新聞「与党 新時代も勢い」「野党 明暗くっきり」(見開き)
・東京新聞「令和の風 女性躍進」「9条守る 決意の1票」(見開き)

 

 以下はわたしの雑多な感想です。今回の選挙では、いくつか気になる点があります。そのうちの一つは、「れいわ新選組」「NHKから国民を守る党」がそれぞれ2議席、1議席を獲得したことです。選挙前には政党要件を満たしていなかったために、新聞や放送のマスメディアの取り上げ方は、決して大きなものではありませんでした。それでも、れいわ新選組は、擁立した候補がそれぞれ社会の課題を体現していたとの感がわたしにもあり、SNSなどを通じて支持が広がったことは理解しやすいと思います。しかし、NHKから国民を守る党は、その主張が真に社会的課題なのかどうか、わたしには違和感があります。議席獲得が、今の日本社会の何をどう示しているととらえればいいのか。その点を解きほぐすことは、マスメディアの課題でもあると思います。

 実は今回の選挙を通じてもっとも気になったのは、安倍晋三首相の街頭演説中に、「安倍やめろ、帰れ」などと叫んだ市民が警察官に取り押さえられ、演説の現場から排除された、という出来事でした。わたしが報道で見ていた限りですが、最初に報じたのは朝日新聞でした。7月15日、札幌市でのことでした。次いで共同通信や毎日新聞なども報じました。
 北海道新聞は演説現場から排除された当事者にも取材して、詳細な記事にしています。一部を引用して書きとめておきます。

※北海道新聞「突然包囲、2時間見張られ… 首相へのヤジ排除『恐怖感じた』『異様』」=2019年7月20日
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/326197

 「なぜ自由を奪われたのか。日本でこんなことが起こるなんて」。大学4年の女性(24)は声を震わせた。JR札幌駅前での首相の演説中、聴衆の後方から「増税反対」と叫んだ。政権に不満や不安を伝えたくて、意を決して初めて上げた声だった。だが、すぐに警察官に囲まれ、両脇を抱えられるように隅に追われた。数えると8人いた。
 首相は次の会場の札幌三越前に移動したが、女性は警察官から「(あなたは)危害を加えるかもしれない」と言われ、行く手を遮られた。逃れたくて200メートル先のレンタルビデオ店に向かったが、店に着くまで女性警察官に腕を組まれたまま。中に入っても外に立っていた。
 警察官がそばから離れたのは約2時間後という。首相は既に演説を終え、札幌市中心部を後にしていた。「罪を犯したわけでもないのに…」。今もそのショックは消えない。

 この強制排除に対しては、法的な根拠を欠いているのではないか、との専門家の指摘も報じられています。仮に、最高権力者におもねるように、あるいは忖度して、警察が法的根拠を欠いて恣意的に動いたのだとしたら、まさに民主主義の危機であり、軽視できません。警察内部で組織的な指示があったのかどうかなど、マスメディアが継続して追うべき課題だろうと思います。
 この出来事については、東京新聞の清水孝幸政治部長が先に紹介した1面の署名評論記事「異論に耳傾ける政治を」の冒頭で触れています。一部を引用して、書きとめておきます。 

 今回の選挙で衝撃的な出来事があった。安倍晋三首相が札幌市で街頭演説していたとき、やじを飛ばした男性と女性が相次いで景観に取り囲まれ、体を押さえつけられて無理やり移動させられた。民主主義国家では考えられない光景だ。
 安倍政権の六年半を振り返ると、国会議事堂を市民が取り囲む中、法案の採決を強行したシーンがいくつも浮かぶ。特定秘密保護法、安保法、「共謀罪」法…。反対意見に耳を傾けず、時間をかけて議論する「熟議」を嫌い、「数の力」で押し通してきた。
 それどころか、首相は批判勢力や反対意見を強い口調で攻撃する。旧民主党政権を「悪夢」とこきおろす。異論を敵視し、唱える人間を排除する意識がにじむ。役人は排除を恐れて首相の意向の忖度に走り、森友・加計問題が起こった。ネット上でも政権批判をする人を攻撃する風潮が広がる。札幌市の出来事は延長線上にあるように映る。