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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

「戦争」「平和」「民主主義」~在京各紙の元日付紙面

 近年、東京発行の新聞各紙の元日付朝刊1面トップには、その1年を展望する大きなテーマを取り上げた企画記事の初回を据える傾向が定着しています。ことしも各紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京6紙)のうち、読売以外の5紙は企画記事でした。ロシアによるウクライナ侵攻が続く中で迎えた新年です。国際社会がこの戦争を止めることができず、ロシアと同じように強権国家とされる中国や北朝鮮の軍事力拡大が喧伝されている折であってか、各紙の1面で目立つキーワードは「戦争」「平和」、そして「民主主義」です。「民主主義」を「強権政治」の対置用語ととらえるなら、各紙の紙面はやはり今という時代をよく表しているように感じます。
 読売新聞の1面トップは、北朝鮮のミサイル発射を即座に探知して、その情報を共有するために、米国を仲立ちに日本と韓国のレーダー情報を共有する方向で日韓両政府が検討を始めた、との独自ダネです。素人のうがった見方かもしれませんが、日韓両国だけではなく、米国が関与して、というところに意味があるように思います。日本の軍事力が上がることは、米国の負担軽減につながります。日本が敵基地攻撃能力を保有することも同じ構造の中でのことと考えれば、何かにつけ実行力が疑われる岸田文雄首相が、なぜ軍拡には敢然と突き進むのか、分かるような気がします。

 企画記事の5紙も、朝日、毎日、日経はそれぞれにウクライナ侵攻や台湾情勢を絡め、産経、東京は、それぞれの趣はかなり異なるものの、テーマは「民主主義」で同じです。この中では、2015年にノーベル文学賞を受賞したベラルーシの作家、スベトラーナ・アレクシエービッチさん(74歳)にインタビューした朝日新聞の記事が、もっとも印象に残りました。第2次大戦の独ソ戦に従軍した旧ソ連の女性兵士への取材を重ねた「戦争は女の顔をしていない」の作者です。インタビューの詳報は2面に掲載されています。以下の言葉が、特に印象に残ります。

大事なのは、どんな独裁者も、時を止められないということです。どんなファシズムも、時を止めることはできない。彼らは勝てないでしょう。ただ、それまでにとても長い時間がかかるかもしれません。

 アレクシエービッチさんのインタビューは、紙面では元日付の1回だけのようですが、デジタル判の有料コンテンツとしては元日の初回に続き、2日、3日と全3回に分けての公開です。紙面と同じ内容ではなく、ボリューム、つまり情報量ではデジタル版が圧倒しています。新聞社のデジタル展開とはこういうことなのだろうと思いますが、一方で、情報の拡散力、伝播力という観点では、回し読みができ、図書館に足を運べばすぐに読める紙面はそれなりに優れた媒体であるとも感じます。あらためてそんなことも考える記事でした。

※ちょうど「戦争は女の顔をしていない」を読み進めているところです

 元日付の各紙の社説、論説も、「戦争」「平和」「民主主義」のキーワードが目につきます。
 目を引くのは、「年のはじめに 『国を守る日本』へ進もう」の見出しを論説委員長の署名入りで1面に掲載した産経新聞です。岸田政権の軍拡路線に対して、これでも足りないと言わんばかりに、中朝両国がロシアの非人道的な戦術を有事に真似ない保証はないとして、地下シェルター整備が急務だと説き、中朝露が核戦力増強に走っているとして、国民を守る核抑止態勢強化の具体策の取り組みを求めています。
 読売新聞も岸田政権の軍拡路線を支持している点は産経新聞と同じですが、外交や国際世論など、軍事以外の要因にも相当の記述を充てていて、それなりに緻密な論考との印象を持ちました。

 以下に、6紙の1面の記事の扱い(丸数字は順位です)と見出し、社説、論説の見出しを書きとめておきます。

■朝日新聞
▽1面
①【企画:灯 ともしび わたしのよりどころ】「誰もが孤独の時代 人間性失わないで/ノーベル賞作家 アレクシエービッチさん」=2面にインタビュー詳報
②「皇室ネット発信強化へ/活動内容手厚く『中傷』減らす狙い/HP刷新検討」
※ほかに「朝日賞4氏に決まる」の社告
▽社説「空襲と警報の街から 戦争を止める英知いまこそ」/不戦の理想 結実せず/無力感超えた構想を

■毎日新聞
▽1面
①【企画:「平和国家」はどこへ1】「日台に軍事連絡ルート/水面下で構築 現場同士通話/中国の台湾侵攻に備え」=3面に続く
②「卯年生まれ 997万人/18歳新成人 最小112万人」
③「『早く平和になって』/ウクライナ避難民 日本で年越し」
▽社説「探る23 危機下の民主主義 再生へ市民の力集めたい」/進行する「内なる専制」/地方の取り組みに期待

■読売新聞
▽1面
①「日韓レーダーを接続/北ミサイル 探知、即時共有へ/米を経由、迎撃能力向上」/「北、弾道ミサイル3発」
②「技能実習 派遣機関調査へ/厚労省各国で 来日前に多額借金」
③「初詣で にぎわい 浅草寺」
▽社説「平和な世界構築へ先頭に立て 防衛、外交、道義の力を高めよう」/独裁者の暴走を防げ/「備える力」が必要だ/国際世論は無力でない/途上国とのパイプ役に/政治の信頼が国力の礎

■日経新聞
▽1面
①【企画:Next World 分断の先に1】「グローバル化 止まらない/世界つなぐ『フェアネス』/企業・人 複眼で見極め」
②「日立37万人ジョブ型に/全グループで 海外から登用しやすく」
③「中国景況 低迷続く/12月も『50』割れ 感染拡大が打撃」
▽社説「分断を越える一歩を踏み出そう」/「2つの罠」のリスク/政治に変化の芽も

■産経新聞
▽1面
①【企画:民主主義の形 第1部 試される価値1】「民主主義守る闘いは続く/米議会襲撃で警官が得た『教訓』」=2、3面に続く
②「年のはじめに 『国を守る日本』へ進もう」/世論は防衛強化を支持/「シェルター」担当相を 榊原智・論説委員長
③「露攻撃か キーウで爆発/朝日新聞カメラマン負傷 ウクライナ」

■東京新聞
▽1面
①【企画:まちかどの民主主義1 協同労働】「話し合いを あきらめない/みんなが社長 みんなが従業員」=2面に続く
②「東京、小学生数が減少へ/23年、都推計 今後10年で18%減」
▽社説「我らに『視点』を与えよ 年のはじめに考える」/大晦日と元日=昨日と今日/他者の「pov」を持つ男/今年は「違い」を楽しむぞ

 昨年の元日付紙面と比べれば、ことしの雰囲気の重さのようなものが分かるのではないかと思います。

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