ニュース・ワーカー2

組織ジャーナリズムに身を置き40年余

東京大空襲から76年、在京紙の報道の記録

 第二次世界大戦の末期、1945年3月10日未明に東京の下町、現在の江東区から墨田区にかけての一帯は米軍のB29爆撃機の大編隊の空襲を受け、一夜にして10万人を超える住民が犠牲になりました。「東京大空襲」です。以後、日本中の都市が次々に空襲で焦土と化し、沖縄戦や広島、長崎への原爆投下を経て、8月に日本は無条件降伏しました。もしも、この東京大空襲の前に戦争が終結していれば、その後のおびただしい住民の犠牲は避けることができていたかもしれません。76年たった今年、そんなことを考えながら、この日を迎え、過ごしました。
 東京の戦争被害の体験を風化させないために、東京発行の新聞各紙は例年、この日の紙面には関連の記事を載せています。ことしは、東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所事故の発生から10年を翌日に控えて、その関連記事が紙面で大きな扱いを占めましたが、それでも各紙各様に東京大空襲の関連記事も載せました。
 読売新聞と東京新聞は10日夕刊で、墨田区の東京都慰霊堂で開かれた慰霊祭の模様を伝えています。それによると、新型コロナウイルス対策として、昨年に引き続き規模が縮小され、一般の参列は取りやめになりました。
 以下に、各紙の記事の扱いと主な見出しを書きとめておきます。

【10日付朝刊】
▼毎日新聞
都内版「王貞治さんが逃げた道/同行の姉『もう二度と』/墨田の資料館 初展示」
▼読売新聞
1面コラム・編集手帳 ※「東京大空襲60年 母の記録」(岩波ブックレット)森川寿美子さんの逸話
▼産経新聞
1面・朝晴れエッセー「守られた命を大切に」 ※東京都世田谷区の78歳の読者
都内版「生きた証し 伝え続ける/慰霊大法要 遺族代表 石坂健治さん(71)」/「王さん 家族と逃げた道/墨田で企画展 姉への聞き取りで判明」
▼東京新聞
1面トップ「321人の証言 埋もれ20年/都、祈念館凍結で映像放置/東京大空襲 きょう76年」
26面(最終面)「被災の実態 地図で迫る/墨田区の石破氏学芸員 独自の地図を作成」/T発「あの日の記憶」「今も目に焼き付く炎」植木成さん(89)/「一夜で孤児になった」大塚祐司さん(86)
社説「究極の判断迫らぬ世に 3・11から10年」/「生の声」を残したい/美談にしてはいけない/命守る行政を最優先に

【10日夕刊】
▼朝日新聞
社会面「戦災孤児の海老名さんへ 米大使からの便り/東京大空襲の犠牲者 悼む集いに『感謝』」
▼読売新聞
1面コラム・よみうり寸評 ※外交評論家・清沢洌「暗黒日記」の逸話
社会面「『戦禍 風化させぬ』/東京大空襲76年 追悼法要」
▼日経新聞
社会面「『吹雪みたいにトタン飛来』『隅田川の桜並木 遺体並ぶ』/体験者と若者ら ネットでつながる」
▼東京新聞
社会面トップ「世界の王さん 命つないだ道/共に逃げた姉『戦争もう二度と…』/墨田で避難経路展示」/「追悼する機会 Thank you/慰霊続ける海老名さんに米臨時大使が手紙」/「祈り静かに/法要、コロナで縮小」

 朝刊、夕刊ともに東京新聞の大きな扱いが目立ちました。中でも、社説(中日新聞と共通)で、東京大空襲と福島原発事故とを取り上げていることが目を引きました。

 ※東京新聞・中日新聞:社説「究極の判断迫らぬ世に 3・11から10年」/「生の声」を残したい/美談にしてはいけない/命守る行政を最優先に
 https://www.tokyo-np.co.jp/article/90604?rct=editorial

 戦争を引き起こすのは人間です。原発事故も、自然への畏怖の念を忘れた人間のおごりが生んだものだとすれば、両者の間には通底するものがあります。ともに教訓を忘れることなく、語り継いでいくことが必要です。