ニュース・ワーカー2

組織ジャーナリズムに身を置き40年余

“違憲”の参政党が「言論の自由」を強調することの違和感~報道業務は「国営または自国の資本」と「憲法草案」に

 このブログの一つ前の記事では、参政党が「新しい憲法を創る」ことを参院選の公約に掲げ、「憲法草案」を公表していることをめぐって、国会議員である神谷宗幣代表、さらには計5人の国会議員を擁する参政党が、現行の日本国憲法に違反している疑いがあることを書きました。参政党の参院選の公約には、いわゆる「押し付け憲法論」が書かれており「私たちが提案するのは、『護憲』でも『改憲』でもなく、まったく新しい憲法を創る『創憲(そうけん)』という考え方です」として、「改憲=憲法改正」を目指していないことを明らかにしています。国会議員を含む公務員には、日本国憲法99条により、この憲法を尊重、擁護する義務が課せられているのに、神谷代表ら参政党の国会議員はその義務を果たそうとしているようには見えません。現憲法を尊重、擁護しないのなら「違憲」です。

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 参政党の「憲法草案」は、一読しただけでも「憲法」と呼ぶにはあまりに異質、特異だと感じますし、現行の日本国憲法と比較すれば、国民の諸権利は大幅に後退しています。その内容が知られるにつけ、SNS上でも、さまざまに疑問が指摘されるようになっています。
 最近では、マスメディアの報道に対する参政党の対応を巡って、看過できないと思う出来事が起きています。長くマスメディアで組織ジャーナリズムを仕事にしてきた一人として、参政党の「報道」に対するスタンス、さらには「報道の自由」の観点からの「憲法草案」への違和感と疑問を書きとめておきます。

 TBSが7月12日に放送した「報道特集」の「外国人政策も争点に急浮上〜参院選総力取材」に対し、参政党が「著しく公平性、中立性を欠く」としてTBSに抗議し、訂正を求めたことを13日、党の公式サイトで明らかにしました。14日になって、「構成の公正性や取材姿勢の偏りといった本質的な問題点には一切触れない回答」が寄せられたとして、TBSの回答文を党の公式サイト上で公表。「放送倫理・番組向上機構」(BPO)の「放送人権委員会」に申し立てることを表明しました。
▼参政党「TBS『報道特集』の偏向報道に関する申入れと今後の対応について」
 https://sanseito.jp/news/n4048/

 参政党が公表したTBSの回答は、以下のような内容とのことです。

今回の特集は、参政党が⽀持を伸ばす中、各党も次々と外国⼈を対象とした政策や公約を打ち出し、参院選の争点に急浮上していることを踏まえ、排外主義の⾼まりへの懸念が強まっていることを、客観的な統計も⽰しながら、様々な当事者や⼈権問題に取り組む団体や専⾨家などの声を中⼼に問題提起したものです。
この報道には、有権者に判断材料を⽰すという⾼い公共性、公益性があると考えております。

【写真】7月12日放送の「報道特集」の一コマ

 わたしの違和感は、参政党が14日の見解の中で「政治的公平性を損なう報道に対して毅然と対応し、民主主義の根幹である言論の自由と公正な報道の確保を強く求めてまいります」と記していることです。参政党の憲法草案の内容との間にある種の矛盾を感じます。
 参政党の憲法草案には「言論の自由」の用語は見当たりません。現行憲法に明記されているような「表現の自由」もありません。「報道」については、以下のような記述があります。

(情報及び防諜)
第十六条 国は、海外情報も含め、広く国民に多様な情報を知らせる義務を負う。
2 報道機関は、偏ることなく、国の政策につき、公正に報道する義務を負う
3 報道及び情報通信に関わる業務は、国営または自国の資本で行わなければならない
4 国は、外国による諜報活動を防ぐ機関を設置し、必要な措置を講じる
5 公務員は、職務上知り得た情報を漏洩してはならない

▼参政党の「憲法草案」
 https://sanseito.jp/new_japanese_constitution/

 現行の日本国憲法には以下の規定があります。

第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

 現行の憲法の下では、この「言論の自由」を含む「表現の自由」から「報道の自由」が導かれています。しかし参政党の「憲法草案」からは「言論の自由」も「報道の自由」も読み取れません。それどころか、報道機関を国営として、国家の統制下に置く発想が濃厚にうかがえるように感じます。「報道の自由」の露骨なまでの否定、ないしは制限の発想です。報道機関には国家が認める範囲内の自由しかなく、国家、政府、政権への批判は許容されないのではないかと思います。
 参政党は憲法を「国家の理想や哲学、国民の意思を反映するものでなければなりません」(参政党公式サイト「第27回参議院選挙」)と規定しています。仮に「言論の自由」は保障しない、報道は国家が統制する、との志向、発想であるなら、「報道特集」に虚偽や捏造、やらせがあるわけでもなく、事実に基づく報道であるのに、自分たちへの批判だとして過剰とも思えるほどに反応することも理解できます。
 ただし、その参政党が「民主主義の根幹である言論の自由と公正な報道の確保を強く求めてまいります」と主張することには、違和感がぬぐえません。「言論の自由」という価値観を認めていないのに、「被害」を強調するのに都合がいいとなれば持ち出してくる、ということではないのか。繰り返しになりますが、参政党が「理想」として掲げる国家像に「言論の自由」の保障はなく、したがって「報道の自由」の保障もないと感じます。むしろ「報道」は国家が統制する、だれにも国家への批判は許さない、となるのではないか。それでいて今、「言論の自由」を主張するのは、どういうわけでしょうか。
 もちろん「言論の自由」、さらには「表現の自由」や「報道の自由」は、民主主義社会に不可欠の市民的な自由、権利であり、他の権利と比べても格段に重要です。守られなければならないのは当然です。しかし、それを参政党が主張することは、現憲法への尊重、擁護義務を果たそうとしないこととも相まって、現憲法が保障するメリットだけは享受しようとする姿勢を底流に感じます。
 仮にこのまま、参政党が「理想」とする社会になってしまうとしたら、まさに民主主義に即した手続きによって民主主義が終焉することになります。そうなってしまうことを危惧します。
 参政党の「憲法草案」の一読をお奨めします。

sanseito.jp

 「憲法」に専門的な知見を持つ研究者らからも、あらためて見解が発信されていいのではないかと思います。

 7月12日の「報道特集」の内容は、以下のTBSのユーチューブ公式チャンネルで見ることができます。

www.youtube.com