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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

憲法9条改正の世論調査結果はやはりバラバラ ※追記・自衛隊明記「反対」「どちらともいえない」で過半数(NHK調査)

 前回の記事の続きです。
 2月10、11日に産経新聞とFNN(フジテレビ系列)が合同で実施した世論調査とNHKが10~12日に行った調査、時事通信が9~12日に行った調査の計3件の調査結果が報じられました。
 憲法について、各社の問いと回答を書きとめておきます。
▼産経新聞・FNN
 憲法改正に関する、次のそれぞれの質問について、あなたのお考えをお知らせください。
(A)国政政党は、それぞれの党の思想や理念、考えを反映した憲法草案を作り、国民に示すべきだと思いますか、思いませんか。
 思う 83・9%
 思わない 10・6%
(B)憲法9条への自衛衛隊の明記の仕方について、どの案がよいと思いますか。あなたのお考えに近いものを、次の中から1つだけ選び、お知らせください。
 戦力を保持しないことなどを定めた9条2項を維持して、自衛隊の存在を明記する案 27・5%
 9条2項を削除して、自衛隊の役割や目的などを明記する案 28・8%
 憲法9条を変える必要はない 40・6%
(C)テロや戦争などの有事や、大規模災害のときに、政府に強い権限を与えたり、国会議員の任期を延長したりすることを一時的に認める「緊急事態条項」を、憲法に設けることの是非について、あなたのお考えを次の中から1つだけ選び、お知らせください。
 政府に強い権限を与えることにも、国会議員の任期延長にも賛成だ 18・1%
 政府に強い権限を与えることには賛成だが、国会議員の任期延長には反対だ 38・9%
 政府に強い権限を与えることには反対だが、国会議員の任期延長には賛成だ 14・5%
 憲法に「緊急事態条項」を設ける必要はない 22・8%

▼時事通信
 憲法9条改正について(※質問の詳細は不明)
 2項を維持した上で、自衛隊の存在を明記すべき 35・2%
 9条を改正する必要はない 28・1%
 2項を削除し、自衛隊の目的・性格をより明確化すべき 24・6%

 前回の読売新聞、共同通信と合わせると、4件の調査が憲法9条の改正について尋ねており、9条2項を維持するか否か、9条の改正は必要ないか三つから答えを選択方式は4件とも共通しています。4件の調査の結果を整理すると以下のとおりです。 

  読売新聞 共同通信 産経FNN 時事通信
9条2項を維持して自衛隊を明記 36・0 38・3 27・5 35・2
9条2項を削除して自衛隊を明記 35・0 26・0 28・8 24・6
自衛隊の明記は必要ない 20・0 24・9 40・6 28・1

 質問の文章は細部では違いはあるものの、回答は大まかに「9条2項を維持して自衛隊を明記」「9条2項を削除して自衛隊を明記」「自衛隊の明記は必要ない」の三つに集約しました。各調査とも大意は外れていないと思います。
 共同や時事の調査では「9条2項維持」が最多なのに対し、読売や産経・FNN調査では「9条2項維持」と「9条2項削除」が拮抗。しかも読売は「自衛隊明記は必要ない」が20%にとどまっているのに対し、産経・FNNでは倍の40・6%に上っています。ひと言で言えば、調査によって結果はバラバラで、一致した傾向は見出しがたいように思います。なぜそうなるのかはよく分かりませんが、憲法9条の改正論議について、やはり民意の理解が深まっていないことは間違いがないように思えます。

 内閣支持率は次の通りでした。
・産経新聞・FNN 2月10、11日実施
  支持51・0%(1・6P減) 不支持39・0%(0・2P減)
・NHK 2月10~12日実施
  支持46%(±0) 不支持34%(3P減)
・時事通信 2月9~12日実施
  支持48・7%(2・1P増) 不支持31・9%(1・7P減)

 

【追記】2018年2月18日23時50分
 NHKの世論調査の詳報をネットで見たところ、質問の文章は不明ですが、「憲法を改正して自衛隊の存在を明記することに賛成か反対か聞いたところ、『賛成』が33%、『反対』が20%、『どちらともいえない』が37%でした」との記載がありました。
 「賛成」が「反対」を上回ってはいますが、むしろ「どちらともいえない」がもっとも多く、3分の1を超えている上に「反対」を合わせると過半数を超える点に意味があるように思えます。つまり、自衛隊の明記については、憲法改正に必要な国民の過半数の賛成を、現時点では得られそうにないとみるのが妥当ではないか、ということです。
 ほかの4件の調査は選択肢を「9条2項維持」「9条2項削除」「必要ない」の三つにした結果、それ以外の「分からない」や無回答は多くても10%余りです。NHKの「どちらともいえない」37%や、数字は明示されてはいませんが無回答をも含めると、大きな開きがあるように感じます。尋ね方によって、これだけ回答状況に幅があること自体、やはり、9条への自衛隊明記論議に一般の理解は深まっていないことを示していると言っていいでしょう。

www.nhk.or.jp

憲法改正の機運は高まっていない~「安倍晋三首相の下で改憲」なお半数が反対(共同調査)

 読売新聞と共同通信がそれぞれ2月10、11日に実施した世論調査の結果が報じられています。両社とも憲法改正について質問しており、結果は次の通りです。

▼読売新聞
・憲法に自衛隊の存在を明記することについて、自民党は、戦力を持たないことを定めた9条2項を維持する案と、削除する案を検討しています。あなたの考えに最も近いものを、1つ選んでください。
  9条2項を維持し、自衛隊の根拠規定を追加する 36%
  9条2項は削除し、自衛隊の目的や性格を明確にする 35%
  自衛隊の存在を憲法に明記する必要はない 20%
・自民党が憲法改正案を国会に提出する時期は、いつがよいと思いますか。
  次の通常国会 19%
  今年後半の臨時国会 14%
  来年 14%
  再来年以降 10%
  憲法改正案を提出する必要はない 27%

▼共同通信
・あなたは、安倍首相の下での憲法改正に賛成ですか、反対ですか。           
  賛成 38・5%
  反対 49・9%
・自民党は、憲法に自衛隊の存在を明記する憲法改正を目指しています。自民党内では、戦力を持たないことを定めた憲法9条の2項を維持したまま自衛隊を明記する案と、2項を削除した上で、自衛隊の目的・性格を明確にする案の二つが検討されています。あなたは憲法9条改正についてどう思いますか。
  9条2項を維持し、自衛隊を明記すべきだ 38・3%
  9条2項を削除した上で、自衛隊の目的・性格を明確化すべきだ 26・0%
  自衛隊の存在を明記する憲法改正は必要ない 24・9%

 9条改正については2社の質問の選択肢はほぼ同じで、安倍晋三首相が主張する2項維持のまま自衛隊を明記する案に賛成は読売36%、共同38・3%と結果もほぼ同じになりましたが、2項削除案に賛成は読売35%に対し共同26・0%と差が出ました。9条の改正は必要ないとの回答はほぼ同じと言えそうです。
 共同通信は1月の調査では、「安倍首相は、憲法9条に自衛隊の存在を明記する憲法改正を行う考えです。あなたは、この憲法9条改正に賛成ですか、反対ですか」と尋ねていました。結果は 賛成35・3% 反対52・7%と、反対が過半数でした。質問を変えた今回は、自衛隊の存在の明記に反対の人の割合が減ったようにも見えますが、どう解釈するべきでしょうか。「安倍首相の下での憲法改正」の賛否も共同の調査では反対が50%前後で推移しており、少なくとも安倍首相が意気込みを示すほどには、世論に改憲の熱が高まっているとは言い難いように思えます。

 森友学園の国有地払い下げ問題を巡っても、両社はほぼ同じ質問をしています。
▼読売新聞
・学校法人「森友学園」への国有地売却を巡り、廃棄したとされる内部文書が、財務省に存在していました。国会は、「廃棄した」と答弁していた佐川宣寿・国税庁長官を呼んで、説明を求めるべきだと思いますか、その必要はないと思いますか。
  説明を求めるべきだ 69%
  その必要はない 25%
▼共同通信
・学校法人「森友学園」に国有地が売却された問題で、財務省が「廃棄した」と繰り返し説明していた売却交渉を巡る内部文書が新たに見つかりました。野党は、国会で廃棄の答弁をしていた佐川宣寿国税庁長官の国会招致を要求しています。あなたは、このことについてどう思いますか。  
  佐川氏を国会招致すべきだ 66・8%
  佐川氏を国会招致する必要はない 23・2%
・森友学園の国有地問題で、野党は安倍首相の昭恵夫人が売却交渉に関与したのではないかと追及していますが、安倍首相は否定しています。あなたは、昭恵夫人が、記者会見や国会で自ら説明することが必要だと思いますか。
  必要だ 63・7%
  必要ない 32・1%

 そのほか、目に止まった項目は以下の通りです。
▼読売新聞
・安倍内閣は、沖縄県のアメリカ軍普天間飛行場について、県内の名護市辺野古に移設する方針です。この方針を、評価しますか、評価しませんか。
  評価する 44%
  評価しない 43%

 普天間飛行場の名護移設に対しては、沖縄の民意はこれまでの世論調査ではおおむね6~7割が反対の意思を示しています。読売の調査結果は賛否ではなく、評価するかしないかを尋ねていますが、それでも「評価する」「評価しない」が真っ二つに割れている状況からは、全国的にも、少なくとも多数の支持は得られていないと言えます。

 内閣支持率は、読売は1月の前回調査と同じ54%、不支持率は1ポイント増の36%でした。共同は1月の前回調査から1・1ポイント増の50・8%、不支持率は0・3ポイント増の36・9%でした。

海兵隊が県外、国外移転なら辺野古の基地は必要ない(朝日社説)~名護市長選、在京紙の報道の記録

 前回の記事  (「新市長の公約に『米海兵隊の県外、国外移転』~沖縄・名護市長選の結果は『辺野古移設容認』に直結していない」)の 続きです。2月4日の沖縄県名護市長選の開票結果を、東京発行の新聞各紙は5日付夕刊で大きく報じました(4日は新聞休刊日で5日付の朝刊の発行はありませんでした)。6日付朝刊でも続報を掲載し、そろって社説でも取り上げました。
 当選した渡具知武豊氏が公明党沖縄県本部と交わした政策協定の中に「米海兵隊の県外、国外移転」が盛り込まれていることは朝日新聞の社説が触れており、「海兵隊が使う辺野古の基地は必要なくなるはずである。今後、この公約を果たすべくどう行動していくか。渡具知氏とともに公明党も問われる」と指摘しています。東京新聞は、政策協定に「日米地位協定の改定」も盛り込まれていることにも触れています。社説では「渡具知氏は政策協定を重く受け止め、移設問題に取り組むべきだろう」としています。「米海兵隊の県外、国外移転」と「日米地位協定の改定」が事実上、渡具知氏の公約になっていたことは、本土でも広く報じられるべきだと思います。
 以下に、5日付夕刊については朝日、毎日、読売の3紙、6日付朝刊は日経、産経、東京の3紙を加えた6紙について、主な記事の見出しを備忘を兼ねて書きとめておきます。

【5日付夕刊】
▼朝日新聞
1面トップ「名護市長に辺野古『容認』新顔/『反対』現職破る 移設工事加速へ」/「『争点外し残念』翁長知事」
1面「与党、秋の知事選へ攻勢」
社会面トップ「振興選択 揺れた名護」/「渡具知氏『基地、法律に従う』」/「稲嶺氏『経済優先に敗れた』」
社会面「停滞雰囲気変えて■国からお金を■基地反対続ける/有権者は」
社会面「移設反対『諦めない』/辺野古 続く座り込み」

▼毎日新聞
1面トップ「名護市長に自公系/渡具知氏 移設反対派破る」
1面「政権、次は知事選照準」
社会面「『辺野古はぐらかされた』/稲嶺氏 落選第一声 声振り絞り」

▼読売新聞
1面トップ「名護市長に自公系新人/辺野古反対の現職破る/首相、移設工事『進めていく』」
1面「再編交付金の再開検討 政府」
3面「辺野古移設の進展期待/政府・与党 知事選へ弾み」


【6日付朝刊】
▼朝日新聞
1面「辺野古移設へ政府加速/名護市に交付金再開へ/『容認』新顔当選」
2面・時時刻刻「『辺野古反対』苦境に」/「今秋には沖縄知事選/大敗 翁長氏、迫られる戦略見直し」/「移設 自信深める政権/首相『市民の理解 得ながら進める』」
2面・出口調査分析「渡具知氏 公明票が決め手/稲嶺氏『反対』まとめきれず」
2面・解説「『あきらめ』広がる沖縄」
第2社会面「悩んだ名護 まず暮らし」/「『子どものために』『理想論だけでは』/市長選一夜明け 市民は」/「『複雑な意見 承知』渡具知氏」
社説「名護市長選 民意は一様ではない」

▼毎日新聞
1面「政府、辺野古移設加速へ/名護市長に自公系 翁長氏は、けん制」
2面「翁長氏側に打撃/知事選へ『地元民意』失う」/「再編交付金を検討 政府」/「渡具知氏に投票 3割『移設反対』」
2面「県民投票実施を」名護市辺野古で15年近く聞き取り調査を続ける明星大の熊本博之准教授(地域社会学)/「地方自治に禍根」沖縄大の佐藤学教授(政治学)
3面・なるほドリ「辺野古移設とは? 海を埋め立て 米軍普天間飛行場を移転」
社説「名護市長選で自公系勝利 対立をどうやわらげるか」

▼読売新聞
1面「埋め立て 6月にも着手/名護市長に自公系新人/辺野古」
3面・スキャナー「辺野古移設 加速へ」/「政府・与党『知事奪還』に照準」/「翁長氏 戦略見直し」
4面「公明協力 組織固め奏功/期日前投票 最多の4割超/『自民票の方が多い』けん制も」結果分析
社説「名護市長選 『普天間』の危険性除去を急げ」

▼日経新聞
3面「政府、辺野古移設に弾み/知事選の構図に影響/再編交付金の再開検討」
3面「沖縄の民意 経済を重視」
社説「普天間移設で理解得る努力を」

▼産経新聞
1面「名護市長に自公系新人/現職破る 辺野古移設へ前進」
2面「名護に『交付金』再開検討」/「首相『沖縄の発展 全力支援』」/「与党『知事選弾み』野党に危機感」
社説(「主張」)「名護市長選 辺野古移設を前進させよ」

▼東京新聞
2面・核心「『辺野古』争点化避け/海兵隊県外移転 公明と協定/首相『基地建設進める』」
2面「渡具知氏に投票 3割が建設反対 出口調査」/「市へ交付金再開検討 政府」
26面(特報面)「白黒つけたのは…パンダ?/争点ずれた名護市長選/『ネット批判されやすい招致話』」
社説「名護市長選 移設容認、即断できぬ」

 以下に各紙の社説の一部を引用します。

・朝日新聞「名護市長選 民意は一様ではない」 

 選挙結果は辺野古容認の民意と思いますか。当選した渡具知(とぐち)武豊氏はそう問われると、「思わない」と答え、「市民の複雑な意見は承知している」「国とも一定の距離は置かないといけない」と続けた。
 今回、組織選挙で同氏を支えた公明党県本部は「辺野古移設反対」を掲げる。渡具知氏との政策協定では「米海兵隊の県外・国外移転」をうたった。ならば、海兵隊が使う辺野古の基地は必要なくなるはずである。
 今後、この公約を果たすべくどう行動していくか。渡具知氏とともに公明党も問われる。 

・毎日新聞「名護市長選で自公系勝利 対立をどうやわらげるか」 

 この20年、有権者5万人弱の市で繰り返し移設の賛否を問われる住民に嫌気が広がり「辺野古疲れ」が生まれたとしても不思議ではない。
 しかも今回は辺野古の護岸工事が始まって初の選挙だった。移設に反対でも「工事を止められないのでは」と考える有権者もいただろう。
 政府は3年前から辺野古周辺地区に特別な補助金を出してきた。容認派を増やすための力ずくの手法が分断を助長したことも否定できない。
 「移設容認の民意が示されたとは思っていない。私の支持者にも反対の人がいて複雑な民意だ」。渡具知氏はこう語った。
 正直な心情ではないか。選挙中、移設の賛否を明言しなかった渡具知氏の当選が、直ちに移設容認とはならないはずだ。
 新市長がまず取り組むべきは、長年、市民を切り裂いてきた分断を修復する作業だ。市民の対立をどうやわらげるかに心を砕いてほしい。 

・読売新聞「名護市長選 『普天間』の危険性除去を急げ」 

 渡具知氏は選挙戦で、移設受け入れの是非に言及せず、地域活性化を前面に打ち出した。稲嶺市政は米軍再編交付金の受け取りを拒むなどしたため、地域経済は停滞している。渡具知氏は現状打開を望む民意の受け皿となった。
 名護市長選は1998年以降、移設容認派が3連勝した。2009年に誕生した民主党の鳩山政権が無責任に「県外移設」を掲げたため、保守層内の対立を招き、翌年の稲嶺氏当選につながった。
 移設問題を巡る混乱に終止符を打つきっかけとしたい。
 政府は、埋め立て区域を囲む護岸工事を本格化している。今夏にも土砂の投入に着手する方針だ。22年度以降の完成を目指す。
 関係自治体や住民に対し、移設の意義や作業の手順などを丁寧に説明するとともに、騒音・環境対策にも万全を期すべきだ。 

・日経新聞「普天間移設で理解得る努力を」 

 普天間移設をめぐる政府と沖縄県の調整は20年を超えた。市街地にあり「世界一危険」といわれる飛行場の閉鎖は先送りできない課題だ。日米両政府は「辺野古移設が唯一の解決策だ」と強調してきた。日本周辺の厳しい安全保障の現状を直視すれば、望ましい選択肢であるのは事実だろう。
 一方で政府は「国土面積のわずか0.6%の沖縄になぜ日本にある米軍専用施設の約7割が集中しているのか」という地元の声に長く向き合ってこなかった。これが政府と沖縄の相互不信がここまで高まる原因となっている。
 沖縄県では米軍関係者による暴行事件が後を絶たず、米軍機の墜落事故なども相次いだ。辺野古への移設で市街地での事故の危険性や騒音被害は確かに大きく減る。だが沖縄が担っている重い基地負担を全国でどう分かち合うかという議論は進んでいない。
 今年11月には沖縄県知事選が予定される。名護市長選で与党が推す候補が勝ったからといって、工事をごり押しするような姿勢は次のあつれきを生むだけだ。「県民の気持ちに寄り添う」という首相の言葉を実行し、着実に移設につなげていく必要がある。 

・産経新聞「名護市長選 辺野古移設を前進させよ」 

 移設の進捗(しんちょく)を妨げてきた環境が、大きく改善されることが期待される。政府は適正な手続きの下で、移設工事を着実に進めるべきだ。
 辺野古移設は曲折をたどってきたが、沖縄を含む日本とアジア太平洋地域の平和を保ち、普天間飛行場周辺に暮らす住民の安全を図る方策である。
 中国は、沖縄の島である尖閣諸島を狙っている。原子力潜水艦を尖閣沖の接続水域で潜航させて挑発するなど油断ならない。核・弾道ミサイルを振りかざす北朝鮮は現実の脅威である。
 日米同盟に基づき沖縄に存在する米軍が、軍事的にも政治的にも強力な抑止力となっていることを忘れてはならない。住宅密集地に囲まれた、普天間飛行場の危険性を除くことも急務である。
 昨年12月には、普天間飛行場に隣接する小学校の校庭に米海兵隊のヘリコプターが窓を落とす事故があった。その後も、基地外への米軍ヘリの不時着が相次ぎ、政府が再発防止の徹底を求める事態となっている。
 米軍が運用の改善を図るのは当然として、早期の辺野古移設が必要なのは明らかである。 

・東京新聞「名護市長選 移設容認、即断できぬ」 

 とはいえ、渡具知氏の当選から辺野古移設容認の民意を読み取ることは難しい。政権の全面支援を得たとはいえ、渡具知氏が辺野古移設の容認を明言して選挙戦を展開したわけではないからだ。
 むしろ、移設の是非が争点化することを避け、地域経済の活性化を前面に掲げたことが市民の心をとらえたのではないか。
 渡具知氏を推薦した公明党県本部は辺野古移設に反対の立場で、推薦に当たっての政策協定書には「海兵隊の県外・国外への移転を求める」と明記されている。
 渡具知氏は政策協定を重く受け止め、移設問題に取り組むべきだろう。政権側も、市長選結果を理由に移設工事をこれ以上、強行することがあってはならない。
 首相は二日、沖縄で米軍基地負担の軽減が進まない背景について「移設先となる本土の理解が得られない」と答弁した。本土の理解が得られないことを、沖縄県民に負担を押し付けていい理由にしてはなるまい。翁長氏が「県民をないがしろにする理不尽なものだ」と反発するのは当然だ。
 普天間返還が進まない原因は、沖縄の民意に寄り添おうとしない政権の側にあるのではないか。
 地域振興は名護に限らず、過疎化や高齢化に悩む全国の自治体にとって重い課題だ。地域振興策との引き換えで米軍基地受け入れを迫るような強権的な手法を、政権は改めるべきである。 

 東京新聞の社説(中日新聞も同じ)が指摘している安倍首相の2月2日の「移設先となる本土の理解が得られない」発言は、基地が沖縄でなければならない合理的な理由はないことを問わず語りに語ったものとして、沖縄では反発を呼んでいます。
※琉球新報:社説「『本土理解困難』発言 いつまでも捨て石なのか」2018年2月4日
 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-658830.html 

 安倍晋三首相が衆院予算委員会で、沖縄の基地の県外移設が実現しない理由について「移設先となる本土の理解が得られない」と述べた。裏を返せば沖縄県民の理解を得ることは全く念頭にないことを意味する。これが本音だろう。同じ国民に対する二重基準を放置することはできない。
 沖縄の基地負担軽減策のほとんどが県内移設だ。政府は米軍普天間飛行場の移設に伴い、名護市辺野古への新基地建設を進めている。琉球新報が昨年9月に実施した世論調査では80・2%が普天間飛行場の県内移設に反対した。沖縄の理解など得られていない。それにもかかわらず安倍政権は基地建設を強行している。
 国土面積の0・6%しかない沖縄に在日米軍専用基地の70%が置かれている。沖縄への基地集中は米統治下の1950~60年代に日本各地の基地が移転したためだ。
 56年に岐阜、山梨両県から海兵隊第3海兵師団が移転し、69年には安倍首相の地元・山口県岩国基地から第36海兵航空群が普天間飛行場に移転した。本土住民の反対運動に追いやられる形で、沖縄に基地が移転したのだ。
 しかし防衛省は冊子「在沖米軍・海兵隊の意義および役割」の中で「沖縄は(中略)朝鮮半島や台湾海峡といった潜在的紛争地域に近い(近すぎない)位置にある」と記し、沖縄の基地集中は地理的な理由だと主張していた。今回の安倍首相の見解で、それが欺瞞(ぎまん)であることが一層明白になった。 

 

新市長の公約に「米海兵隊の県外、国外移転」~沖縄・名護市長選の結果は「辺野古移設容認」に直結していない

 米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設問題で注目された沖縄県名護市長選は2月4日の投開票の結果、前市議の新人、渡具知武豊氏が3選を目指した現職の稲嶺進氏を破って初当選しました。移設阻止を前面に掲げる稲嶺氏に対し、市議時代の渡具知氏は移設推進の立場で、市長選では安倍晋三政権の全面支援を受けました。ただ、自身は市長選では移設の是非は示さず「国と県の裁判の行方を注視する」と話すにとどめました。得票は渡具知氏2万389票、稲嶺氏1万6931票で差は3458票。投票率は76・92%。「横一線の激戦」と報じられていたことからすれば、意外なほどに差が開いた感があります。辺野古移設阻止を掲げた稲嶺氏が敗れたことで、移設推進に名護市民の民意の承認を得たとのとらえ方が安倍政権や政権支持のマスメディアでは幅を利かしているようですが、ことはそれほど単純ではありません。
 琉球新報は5日付の「解説」で「市民の中に『反対しても工事は止められない』との諦めムードが漂う中、経済振興を掲げる渡具知氏の訴えが浸透した」と指摘しています。今回の選挙結果によってもなお、辺野古移設への賛否で言えば地元名護市の民意は反対が多数を占めることに変わりはありません。民主主義社会であれば本来、示された民意は結果として形になって当然のはずです。地域の将来を自分たちで選び取ることができるような、そうした選択肢が用意されていないのが沖縄の基地集中の本質的な問題点の一つなのだとあらためて感じますし、そのことの責任は、そうした選択肢を用意できるような政権を選んでいない日本の主権者全体が負うべきなのだろうとも考えています。
 渡具知氏の当選を巡ってとりわけ格段の留意が必要だろうと思うのは、渡具知氏が公明党県本部の支援を受けるに際して交わした政策協定の中に、「米海兵隊の県外、国外移転」があることです。本土マスメディアの報道ではあまり目にしませんが、これは渡具知氏のれっきとした公約であり、渡具知氏に票を投じた名護市民の中には、この点に期待した人も少なくなかったのではないでしょうか。

 ※琉球新報電子版「公明県本が渡具知氏に推薦状 『海兵隊の県外・国外移転』盛り込んだ政策協定結ぶ」=2017年12月28日 

https://ryukyushimpo.jp/news/entry-638833.html 

 公明党県本部は普天間飛行場の県外移設を求めており、2014年の前回市長選では自主投票としていた。今回は、自民党側から強い要請があり、在沖米海兵隊の国外移転を求めるなど政策を一致させて推薦が決まった。 

 安倍晋三首相は5日、記者団の囲み取材で「(渡具知氏が)公約したことを国としても責任を持って応援していきたい」と話したと報じられています。「米海兵隊の県外、国外移転」の公約にどのような対応を示すのか、本土マスメディアの政治報道の重要な課題です。

 ※産経ニュース「安倍晋三首相『沖縄の発展、全力で支援』 政府、渡具知武豊氏の当選で『再編交付金』支給再開を検討」=2018年2月5日 

http://www.sankei.com/politics/news/180205/plt1802050047-n1.html

 安倍晋三首相は5日、首相官邸で記者団に対し、辺野古移設について「市民のご理解をいただきながら、最高裁の判決に従って進めていきたい。県民の気持ちに寄り添いながら、さらなる沖縄の発展に全力で支援していく」述べた。
 また、「現職市長を破るのは難しいと思っていたが良かった。(渡具知氏が)公約したことを国としても責任を持って応援していきたい」と強調した。 

 

 以下は備忘を兼ねて。
 地元の民意はなお辺野古移設に反対が多数を占める、ということについては、例えば、名護市民を対象にしたマスメディア各社の事前の世論調査の結果があります。普天間飛行場の辺野古移設に対しては、選択肢に強弱をつけた沖縄タイムス、琉球新報、共同通信の合同調査では「反対」が53・0%。「どちらかといえば反対」13・0%を合わせると66・0%が反対です。ほかの2件の調査でも同じように6割以上が反対しています。

◇米軍普天間飛行場の辺野古移設への賛否
・沖縄タイムス、琉球新報、共同通信の3社合同調査(1月28、29日実施)
 「賛成」10・5% 「どちらかといえば賛成」17・8% 「どちらかといえば反対」 13・0% 「反対」53・0%
・朝日新聞、琉球朝日放送の合同調査(1月28、29日実施)
 「賛成」20% 「反対」63%
・読売新聞(1月28、29日実施)
 「(日米両政府の)合意通りにすべきだ」17% 「県外に移すべきだ」69%

 沖縄タイムスなど3社合同調査では、「名護市長選の結果に関係なく、普天間飛行場の辺野古移設を進める考えを示す政府の姿勢を支持するか」の問いにも、「支持しない」56・5%、「どちらかといえば支持しない」10・7%が計67・2%で、「支持する」「どちらかといえば支持する」は計27・9%との結果になっています。安倍政権の強硬姿勢は名護市民には受け入れられていません。
 これらの傾向は記事前投票や投票日当日の出口調査の結果でも変わりがありませんでした。4054人から回答を得たとする琉球新報の調査結果(5日付紙面掲載)によると、普天間飛行場の辺野古移設については「反対」46・5%、「どちらかといえば反対」15・2%に対し「賛成」13・4%、「どちらかといえば賛成」14・5%でした。賛成が計61・7%に対し反対は計27・9%です。投票先は、「賛成」「どちらかといえば賛成」の人の91・2%は渡具知氏、8・7%が稲嶺氏でしたが、「反対」「どちらかといえば反対」の人は稲嶺氏76・0%なのに対し、23・9%もの人が渡具知氏に流れています。「渡具知氏への投票」=「辺野古移設への賛意」とは限らないことが十分にうかがえます。さらに普天間飛行場の移設先については57・2%の人が「県外、国外にすべき」と回答し、「そうは思わない」の27・7%を大きく上回りました。

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【写真】東京発行の各紙5日付夕刊

 選挙結果について、東京発行の新聞各紙は5日付朝刊が休刊日で発行なしのため、5日付夕刊で報じました。朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、東京新聞の4紙は1面トップ、経済専門紙の日経新聞も準トップと大きな扱いでした。東京では夕刊を発行していない産経新聞は6日付朝刊で1面の下段でした。5日は佐賀県神埼市で陸上自衛隊のAH64攻撃ヘリが住宅に墜落し、乗員1人が死亡、1人が不明(翌日遺体で発見)になる事故があり、6日付朝刊では産経のほか日経以外の他紙も1面トップでした。朝日、毎日、読売は名護市長選の続報も1面に入りました。

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 【写真】東京発行の各紙6日付朝刊

 【追記】2018年2月10日19時50分
 名護市長選の結果についての沖縄タイムス、琉球新報の社説の一部を、備忘を兼ねて引用します。
 渡具知氏が公明党県本部と交わした政策協定には、日米安保条約に基づく地位協定の改定も含まれていました。米海兵隊の県外、国外移転とともに、渡具知氏の公約であり、安倍首相が「国としても責任を持って応援していきたい」と言明した対象です。

※沖縄タイムス:社説[名護市長に渡具知氏]「基地疲れ」経済を重視=2018年2月5日
 http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/204905 

 辺野古の海を切りさくように次々と護岸が造られる中で迎えた選挙である。
 「もう止められない」との諦めムードをつくり、米軍普天間飛行場の辺野古移設問題を争点から外し、経済振興を前面に押し出すのが渡具知陣営の一貫した戦術だった。
 渡具知氏は選挙期間中、全くといっていいほど辺野古を語っていない。現職の失政が市の閉塞感を招いたとして流れを変えようと訴え、暮らしの向上を求める市民の期待票を掘り起こした。
 勝利の最大の理由は、一にも二にも自民、公明、維新3党が協力体制を築き上げ、徹底した組織選挙を展開したことにある。 
 (中略)
 前回選挙との大きな違いは、自主投票だった公明が、渡具知氏推薦に踏み切ったことだ。渡具知氏が辺野古移設について「国と県の裁判を注視したい」と賛否を明らかにしなかったのは、公明との関係を意識したからだろう。
 両者が交わした政策協定書には「日米地位協定の改定及び海兵隊の県外・国外への移転を求める」ことがはっきりと書かれている。
 安倍政権が強調する「辺野古唯一論」と、選挙公約である「県外・国外移転」は相反するものだ。
 本紙などの出口調査では、辺野古移設反対が64・6%に上った。選挙によって辺野古移設反対の民意が否定されたとはいえない。
 渡具知氏が「県外・国外移転」を公約に掲げて当選した事実は重い。市長就任後もぶれることなく「県外・国外移転」を追求し、地位協定見直しに向け積極的に取り組んでもらいたい。 

※沖縄タイムス:社説[名護市長選の後で]SACO合意 検証急げ=2018年2月6日
 http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/205751 

 実際のところ、名護市民は辺野古の新基地建設をどう見ていたのだろうか。注目したいのは、選挙で示された「民意」と「手法」である。
 本紙など3社が共同で実施した出口調査によると、辺野古移設に「反対」「どちらかと言えば反対」は合わせて64・6%に上った。
 当選した渡具知武豊氏は「海兵隊の県外・国外移転」を公約に掲げ、選挙期間中、辺野古移設の是非には触れなかった。
 辺野古移設に対する反対の声は依然として根強いとみるべきだろう。その反面、「基地問題ばかり主張する『オール沖縄』の手法は通用しなくなった」(自民党県連幹部)ことも否定できない。
 辺野古問題を訴える手法が硬直化し、言葉が若者層に届かなかったのは選挙結果を見ても明らかである。
 基地問題を巡る世代間の断絶は深い。
 選挙で浮かび上がったこうした複雑な現実をしっかりと受け止めることなしに、今後の展望は開けない。
 なぜ新基地建設に反対するのか。今、早急に求められているのは何か。県は原点に立ち返って早急に考えを整理し直してもらいたい。
 重大な分岐点にあって歴史を変えるのは「決断」である。 

※琉球新報:<社説>名護市長に渡具知氏 新基地容認は早計だ=2018年2月5日
 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-659247.html 

 渡具知氏の当選によって市民が新基地建設を容認したと受け止めるのは早計である。渡具知氏は、建設容認を明言せず、問題を解決するために国と対話する姿勢を示しただけだからだ。
 安倍晋三首相は2日の衆院予算委員会で、沖縄の基地負担軽減について「移設先となる本土の理解が得られない」との認識を示した。普天間飛行場の県内移設は、軍事上ではなく政治的な理由であることを首相が初めて認めたことになる。政治家として無責任で沖縄に対する差別発言だ。渡具知氏の当選をもって、他府県に移設できない新基地を名護市に押し付けることは許されない。
 当選した渡具知氏は辺野古移設について「国と県が係争中なので注視していく」と語っている。新基地容認とするのは牽強(けんきょう)付会である。
 一例を挙げれば、名護市長選を前に、琉球新報社などが実施した電話世論調査から市民の態度は明白だ。米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設計画について、53・0%が「反対」、13・0%が「どちらかといえば反対」を選択し、66%を占めた。一方で「賛成」は10・5%、「どちらかといえば賛成」が17・8%と3割に満たない。
 渡具知氏の当選は、新基地建設の是非を争点化することを避けて経済を前面に出し、前回自主投票だった公明の推薦を得た選挙戦術が奏功したと言える。 

 

 【追記】2018年2月11日0時10分

 2月5日付の東京発行各紙夕刊、および6日付朝刊が名護市長選の結果をどのように報じたか、主な記事の見出しを書きとめた記事をアップしました。

http://news-worker.hatenablog.com/entry/2018/02/11/000313

安倍晋三内閣の支持率の推移(2018年1月~) ※随時更新

 安倍晋三内閣の支持率の推移です。2018年1月以降です。
 ()内は前回比、Pは「ポイント」です。目についたものを随時、更新していきます。

▼2018年

【9月】
・読売新聞 9月21~23日実施
 「支持」50%(±0) 「不支持」41%(1P増)
・共同通信 9月20、21日実施
「支持」47・4%で(3・2P増) 「不支持」40・0%(2・4P減)

※9月20日:自民党総裁選で安倍晋三首相が3選
・NHK 9月15~17日実施
 「支持」42%(1P増) 「不支持」39%(2P減)
・朝日新聞 9月8、9日実施
 「支持」41%(3P増) 「不支持」38%(3P減)
・毎日新聞 9月1、2日実施
 「支持」37%(±0) 「不支持」41%(3P減)

 

【8月】
・共同通信 8月25、26日実施
 「支持」44・2%(0・8P増) 「不支持」42・4%(0・6P増)
・産経新聞・FNN 8月25、26日実施
 「支持」45・6%(3・5P増) 44・4%「不支持」(2・9P減)
・日経新聞・テレビ東京 8月24~26日実施
 「支持」48%(3P増) 「不支持」42%(5P減)
・読売新聞 8月24~26日実施
 「支持」50%(5P増) 「不支持」40%(5P減)
・朝日新聞 8月4、5日実施
 「支持」38%(±0) 「不支持」41%(2P減)
・JNN 8月4、5日実施
 「支持」43・8%(0・7P増) 「不支持」54・0%(1・8P減)
・NHK 8月3~5日実施
 「支持」41%(3P減) 「不支持」41%(2P増)

 

【7月】
・毎日新聞 7月28、29日実施
  「支持」37%(1P増) 「不支持」44%(4P増)
  「関心がない」18%(4P減)
・日経新聞・テレビ東京 7月20~22日実施
  「支持」45%(7P減) 「不支持」47%(5P増)
・読売新聞 7月21、22日実施
  「支持」45%(±0) 「不支持」45%(1P増)
・共同通信 7月21、22日実施
 「支持」43・4%(1・5P減) 「不支持」41・8%(1・4P減)
・産経新聞・FNN 7月21、22日実施
 「支持」42・1%(2・5P減) 「不支持」47・3%(1・7P増)
・朝日新聞 7月14、15日実施
 「支持」38%(±0) 「不支持」43%(2P減)
・時事通信 7月6~9日実施
 「支持」37・0%(1・5P増) 「不支持」40・9%(2・5P減)
・NHK 7月6~8日実施
 「支持」44%(6P増) 「不支持」39%(5P減)

 

【6月】
・毎日新聞 6月23、24日実施
 「支持」36%(5P増) 「不支持」40%(8P減)
 「関心がない」22%(3P減)
・日経新聞・テレビ東京 6月22~24日実施
 「支持」52%(10P増) 「不支持」42%(9P減)
・朝日新聞 6月16、17日実施
 「支持」38%(2P増) 「不支持」45%(1P増)
 「その他・答えない」17%(3P減)
・共同通信 6月16、17日実施
 「支持」44・9%(6・0P増) 「不支持」43・2%(7・1P減)
 「分からない・無回答」11・9%(1・1P増)
・産経新聞・FNN 6月16、17日実施
 「支持」44・6%(4・8P増) 「不支持」45・6%「2・9P減」
・読売新聞 6月15~17日
 「支持」45%(3P増) 「不支持」44%(3P減)
・NHK 6月8~10日
 「支持」37・8%(±0) 「不支持」43・5%(±0)
 「わからない、無回答」18・6%(0・1P減)

 

【5月】
・毎日新聞 5月26、27日実施
 「支持」31%(1P増) 「不支持」48%(1P減) 「関心がない」19%(1P減)
・日経新聞・テレビ東京 5月25~27日実施
 「支持」42%(1P減) 「不支持」53%(2P増)
・朝日新聞 5月19、20日実施
 「支持」36%(5P増) 「不支持」44%(8P減)
・産経新聞・FNN 5月19、20日実施
 「支持」39・8%(1・5P増) 「不支持」48・5%(5・6P減)
・ANN 5月19、20日実施
 「支持」34・1%(5・1P増) 「不支持」51・1%(4・1P減)
・読売新聞 5月18~20日実施
 「支持」42%(3P増) 「不支持」47%(6P減)
・共同通信 5月12、13日実施
 「支持」38・9%(1・9P増) 「不支持」50・3%(2・3P減)
・JNN 5月12、13日
 「支持」40・6%(0・6P増) 「不支持」57・7%(0・7P減)
・NHK 5月11~13日
 「支持」37・8%(0・1P増) 「不支持」43・5%(1・0P減)

 

【4月】
・ANN 4月21、22日実施
  支持29・0%(3・6P減) 不支持55・2%(0・3P増)
・産経新聞・FNN 4月21、22日実施
  支持38・3%(6・7P減) 不支持54・1%(10・3P増)
・毎日新聞 4月21、22日実施
  支持30%(3P減) 不支持49%(2P増) 関心がない20%(1P増)
・読売新聞 4月20~22日実施
  支持39%(3P減) 不支持53%(3P増)
・共同通信 4月14、15日実施
  支持37・0%(5・4P減) 不支持52・6%(5・1P増)
・朝日新聞 4月14、15日実施
  支持31%(±ゼロ) 不支持52%(4P増)
・NHK 4月6~8日実施
  支持37・7%(6・1P減) 不支持44・5%(6・4P増)
・共同通信 3月31日~4月1日実施
  支持42・4%(3・7P増) 不支持47・5%(0・7P減)
・読売新聞 3月31日~4月1日実施
  支持42%(6P減)、不支持50%(8P増)

 

【3月】
 ・朝日新聞 3月17、18日実施
  支持31%(13P減) 不支持48%(11P増)
・毎日新聞 3月17、18日実施
  支持33%(12P減) 不支持47%(15P増) 関心ない19%(1P減)
・共同通信 3月17、18日実施
  支持38・7%(9・4P減) 不支持48・2%(9・2P増)
・NNN(日本テレビ系列) 3月16~18日実施
  支持30・3%(13・7P減) 不支持53・0%(15・7P増)

 ※3月12日 麻生太郎財務相が決裁文書書き換えを正式に認める
・時事通信 3月9~12日実施
  支持39・3%(9・4P減) 不支持40・4%(8・5P増)
・NHK 3月9~11日実施
  支持43・8%(2・6P減)、不支持38・1%(3・8P増)
・読売新聞 3月9~11日実施
  支持48%(6P減) 不支持42%(6P増)
・産経新聞・FNN 3月10、11日実施
  支持45・0%(6・0P減) 不支持43・8%(4・8P増)
 ※3月10日 財務省が決裁文書書き換えを認める方針と共同通信が報道、他メディアも追随
・共同通信 3月3、4日実施
  支持48・1%(2・7P減) 不支持39・0%(2・1P減)
 ※3月2日 森友学園への国有地売却を巡る財務省の決裁文書が書き換えられていたことが分かったと朝日新聞が報道

 

【2月】
・毎日新聞 2月24、25日実施
  支持45%(1P増) 不支持32%(6P減) 関心がない20%(4P増)
・朝日新聞 2月17、18日実施
  支持44%(1P減) 不支持37%(4P増)
・時事通信 2月9~12日実施
  支持48・7%(2・1P増) 不支持31・9%(1・7P減)
・NHK 2月10~12日実施
  支持46%(±0) 不支持34%(3P減)
・産経新聞・FNN 2月10、11日実施
  支持51・0%(1・6P減) 不支持39・0%(0・2P減)
・読売新聞 2月10、11日実施
  支持54%(±0) 不支持36%(1P増)
・共同通信 2月10、11日実施
  支持50・8%(1・1P増) 不支持率36・9%(0・3P増)

 

【1月】
・朝日新聞 1月20、21日実施
  支持45%(4P増) 不支持33%(5P減)
・毎日新聞 1月20、21日実施
  支持44%(2P減) 不支持38%(2P増) 関心がない16%(1P増)
・産経新聞・FNN(フジテレビ系列) 1月20、21日実施
  支持52・6%(5・1P増) 不支持39・2%(5・4P減)
・共同通信 1月13、14日実施
  支持49・7%(2・5P増) 不支持36・6%(3・8P減)
・JNN(TBS系列) 1月13、14日実施
  支持54・6%(1・9P増) 不支持43・9%(1・8P減)
・時事通信 1月12~15日実施
  支持46・6%(4・0P増) 不支持33・6%(2・5P減)
・読売新聞 1月12~14日実施
  支持54%(1P増) 不支持35%(1P減)

続・議論と理解が進んでいない憲法9条改正と自衛隊~世論調査結果から

 前回の記事の続きになります。
 1月20、21日実施の世論調査結果3件が報じられています。憲法9条の改正問題では、朝日新聞が「安倍政権のもとで」を前提に、自衛隊の存在を明記する改正の賛否を問うたところ、賛成34%に対し反対は46%と12ポイントの差で反対が賛成を上回りました。しかし、自衛隊の明記の賛否だけを尋ねた産経新聞・FNNの調査では、賛成が58%と過半数です。やはり、社会的な議論と理解は進んでいないと言ってよいと思います。

【内閣支持率】(カッコ内は前回比、Pはポイント)
・朝日新聞 1月20、21日実施
  支持45%(4P増) 不支持33%(5P減)
・毎日新聞 1月20、21日実施
  支持44%(2P減) 不支持38%(2P増) 関心がない16%(1P増)
・産経新聞・FNN(フジテレビ系列) 1月20、21日実施
  支持52・6%(5・1P増) 不支持39・2%(5・4P減)

【憲法改正】
・朝日新聞
「安倍首相は新年の記者会見で、『今年こそ憲法のあるべき姿を国民に提示する』と述べ、年内に憲法改正を具体化させていくことに、強い意欲を示しました。あなたは、この安倍首相の姿勢を評価しますか。評価しませんか。」
 評価する 41% 評価しない 42%
「あなたは、憲法改正は優先的に取り組むべき課題だと思いますか。そうは思いませんか。」
 優先的に取り組むべき課題だ 32% そうは思わない 54%
「安倍首相は、憲法9条を改正し、自衛隊の存在を憲法に明記することを提案しています。あなたは、安倍政権のもとで、こうした憲法の改正をすることに、賛成ですか。反対ですか。」
 賛成 34% 反対 46%

・毎日新聞
「自衛隊の存在を明記する憲法改正について、あなたの考えは次のどれに近いですか」
 憲法9条の1項と2項はそのままにして自衛隊を明記する 31%
 憲法9条の2項を削除して自衛隊を戦力と位置付ける 12%
 自衛隊を憲法に明記する必要はない 21%
「大きな災害や外国からの攻撃で国政選挙ができなくなった場合に、国会議員の任期を特例として延長できる規定を憲法に設けるべきだという意見があります。一方、憲法を改正しなくても、参議院の緊急集会で対応可能だという意見もあります。国会議員の任期延長に関する憲法改正に賛成ですか、反対ですか。」
 賛成 33% 反対 46%
「憲法を改正するには、国会が改憲案を発議して国民投票にかける必要があります。憲法を改正するには、国会が年内に改憲案を発議した方がよいと思いますか。」
 年内に発議した方がよい 36%
 年内に発議する必要はない 46%

・産経新聞・FNN
「憲法改正に関する、次のそれぞれの質問について、あなたのお考えをお知らせください。」
A) 「国会は、憲法改正に向けた議論を活発化させるべきだと思いますか、思いませんか。」
 思う 67・2% 思わない 29・6%
B) 「憲法改正の国会発議について、望ましい時期を次の中から1つだけ選び、お知らせください。」
 年内 22・5%
 年内である必要はない 48・9%
 憲法改正は必要ない 26・9%
C) 「あなたは、憲法に自衛隊の存在を明記することに賛成ですか、反対ですか。」
 賛成 58・0% 反対 33・0%

【安倍首相の続投】
・朝日新聞
「安倍首相の自民党総裁としての任期は今年の秋までです。あなたは、今年の秋以降も、安倍首相に自民党の総裁を続けてほしいと思いますか。それとも、続けてほしくないと思いますか。」
 続けてほしい 40% 続けてほしくない 43%
「あなたは、次の自民党総裁にふさわしいのは誰だと思いますか。(択一)」
 安倍晋三 31% 石破茂 20% 岸田文雄 6% 野田聖子 8% この中にはいない 29%

・毎日新聞
「安倍晋三首相は自民党総裁として現在2期目で、任期は今年9発までです。安倍首相が3期目も引き続き、自民党総裁を務めた方がよいと思いますか」
 総裁を続けた方がよい 37%(2P増)
 代わった方がよい 47%(6P減)

・産経新聞・FNN
「秋に行われる自民党総裁選挙で勝った人が、次の首相となる可能性があります。安倍首相が3期目を務めるか注目されています。あなたは、次の首相として、誰がふさわしいと思いますか、次に挙げる自民党所属国会議員の中から1人だけ選び、お知らせください。]

安倍 晋三氏31・7% 石破 茂氏20・6% 岸田 文雄氏6・0% 小泉 進次郎氏18・1% 河野 太郎氏5・0% 野田 聖子4・1%

【防衛費】
・朝日新聞
「日本の防衛費は、新年度予算の政府案で、およそ5兆1900億円に増え、4年連続で過去最大となりました。あなたは、このように防衛費を増やすことに賛成ですか。反対ですか。」
 賛成 39% 反対 45%

議論と理解が進んでいない憲法9条改正と自衛隊~世論調査の設問によって回答に大きな差

 年明け後の世論調査結果がいくつか報じられています。目に付いた項目を書きとめておきます。

 安倍晋三内閣の支持率はおおむね微増で共通しています。それなりに高いレベルで安定しているとみてもいいように感じます。前回比で4ポイント増と、やや増加傾向が出た時事通信は記事で「民進党と希望の党が安全保障関連法をめぐる立場の違いを残したまま統一会派結成を目指す動きに出た結果、政権への期待が高まった可能性がある」との見方を示しました。

【内閣支持率】(カッコ内は前回比、Pはポイント)
・読売新聞 1月12~14日実施
  支持54%(1P増) 不支持35%(1P減)
・時事通信 1月12~15日実施
  支持46・6%(4・0P増) 不支持33・6%(2・5P減)
・共同通信 1月13、14日実施
  支持49・7%(2・5P増) 不支持36・6%(3・8P減)
・JNN(TBS系列) 1月13、14日実施
  支持54・6%(1・9P増) 不支持43・9%(1・8P減)

 憲法改正については、共同通信が安倍首相の下での憲法改正の賛否を尋ねているのに対して、反対が前回より6ポイント余り増えて過半数になっているのが目を引きます。続いての設問で、9条に自衛隊を明記する改正への賛否を問うたところ、やはり反対が過半数の52・7%で、賛成の35・3%と大きな差があります。同じ9条について、読売新聞は設問を「憲法に自衛隊の存在を明記することについて」との書き出して始めました。その結果は、三つの選択肢のうち「自衛隊の存在を憲法に明記する必要はない」は2割にとどまっています。つまり、設問の立て方によって回答結果は相当大きく変わっています。それだけまだ社会的な議論と理解が進んでいないと言ってもいいようにも思います。安倍晋三首相が意欲を燃やす憲法改正は今年、最大の政治課題に上ってきそうな気配ですが、この民意の状況はマスメディアも十分に留意する必要があると考えています。

【憲法改正】
・読売新聞
「憲法に自衛隊の存在を明記することについて、自民党は、戦力を持たないことを定めた9条2項を維持する案と、削除する案を検討しています。あなたの考えに最も近いものを選んでください。」
 9条2項を維持し、自衛隊の根拠規定を追加する 32%
 9条2項は削除し、自衛隊の目的や性格を明確にする 34%
 自衛隊の存在を憲法に明記する必要はない 22%
「国会は、憲法改正の具体案について結論を出すよう、議論を進めるべきだと思いますか、その必要はないと思いますか。」
 議論を進めるべきだ 62%
その必要はない 30%

・共同通信
「あなたは、安倍首相の下での憲法改正に賛成ですか、反対ですか。」
 賛成33・0%(3P減) 反対54・8%(6・2P増)
「安倍首相は、憲法9条に自衛隊の存在を明記する憲法改正を行う考えです。あなたは、この憲法9条改正に賛成ですか、反対ですか。」
 賛成35・3% 反対52・7%

・JNN
「あなたは、日本国憲法を改正すべきだと思いますか、それとも改正すべきでないと思いますか?」
 改正すべき 42% 改正すべきでない 43%
「安倍総理は、憲法9条について戦争放棄や戦力を持たないことなどを定めた今の条文は変えずに、新たに自衛隊の存在を明記する考えを示しています。あなたはこの考えを支持しますか、しませんか。」
 支持する 44% 支持しない 44%

【安倍首相の続投】
・共同通信
「今年9月に安倍晋三首相の自民党総裁としての2期目の任期が終わります。あなたは、安倍首相に自民党総裁選に勝利して、首相を続けてほしいと思いますか、思いませんか。」
 続けてほしい45・2% 続けてほしいと思わない47・5%

・JNN
「安倍総理は自民党総裁としては現在2期目で、任期は今年9月までです。秋には総裁選が行われる見通しですが、立候補の可能性が取りざたされている次の5人のうち誰が最も総裁にふさわしいと思いますか、一人だけ選んでください。」
 安倍晋三 32%
    石破茂  26%
    岸田文雄  8%
    河野太郎  6%
    野田聖子  8%

【自衛隊の巡航ミサイル導入】
・時事通信 ※質問不明
 賛成49・6% 反対38・3%

・共同通信
「政府は、航空自衛隊の戦闘機に射程の長い長距離巡航ミサイルを初めて導入する方針です。長距離巡航ミサイルの保有は、他国を攻撃しない専守防衛の考えに反するという指摘がありますが、政府は専守防衛の考え方に変更はないとしています。あなたは、長距離巡航ミサイルの導入に賛成ですか、反対ですか。」
 賛成41・7% 反対46・7%

「恥ずかしさを感じてもらいたい」沖縄知事の激しい怒り~事故、トラブル続発でも飛行やめない米軍機、止めない日本政府

 沖縄で先週末の連休中、米軍ヘリの不時着が相次いで起きました。6日の土曜日に、うるま市伊計島の砂浜にUH1が、次いで成人の日の祝日の8日、読谷村の廃棄物処分場の敷地内に攻撃ヘリAH1がそれぞれ不時着しました。いずれも海兵隊普天間飛行場の所属。けが人がなかったとはいえ、それぞれ住宅やリゾートホテルまで100~数百メートルだったと報じられています。沖縄では昨年10月11日、普天間飛行場所属の大型ヘリCH53が東村高江の牧草地に不時着して炎上。12月には宜野湾市の保育園にヘリの部品が落下し、小学校の校庭には操縦席の横の窓が落下しました。それ以前にも普天間所属の輸送機オスプレイが大分空港に不時着したり、豪州沖で訓練中に墜落したりしています。年が改まっても、米軍機のトラブルは収まりません。
 9日午前に行われた小野寺五典防衛相とマティス米国防長官との電話会談では、小野寺防衛相は再発防止策や点検整備の徹底などを申し入れたものの、抗議はせず、沖縄県が求める全機種の飛行中止も要求しませんでした。マティス長官も謝罪はしたものの、事故が頻発している理由は説明しなかったとのことです。
 沖縄県の翁長雄志知事は9日午前、記者団の前で、米軍と日本政府を批判しました。沖縄タイムスの電子版記事によると、「言葉を失う。日本政府も当事者能力のなさを恥ずかしく感じてもらいたい」と述べたとのことです。東京発行の新聞各紙夕刊では、1面で報じた毎日新聞が詳しく、それによると知事の発言は「日本国民である沖縄県民がこのように日常的に危険にさらされても何にも抗議もできない。当事者能力がないということについて恥ずかしさを感じてもらいたい」というものでした。何と激しい言葉かと思います。「恥ずかしさを感じてもらいたい」とは、つまりは「恥を知れ」ということです。また、琉球新報によると翁長知事は「(日本政府が)『負担軽減』『法治国家』という言葉で押し通していくことに大変な憤りを改めて感じている。日本の民主主義、地方自治が問われている。単に一機一機の不時着の問題だけではない」と述べ、沖縄の声が日米両政府に聞き入れられない構造的問題にも言及しました。
 読谷村の不時着ヘリは9日午前、自力で普天間に戻った後、午後には飛行を繰り返しました。UH1やCH53、オスプレイを含めて普天間飛行場所属の海兵隊機はこの日、通常通り訓練を展開したと、沖縄タイムスや琉球新報は伝えています。訓練続行に対して、日本政府からはアクションはありません。沖縄県民を危険にさらす状況が続いています。同じようなことは、沖縄以外の日本国内でも起こり得るのでしょうか。翁長知事が「日本国民である沖縄県民がこのように日常的に危険にさらされても何にも抗議もできない。当事者能力がないということについて恥ずかしさを感じてもらいたい」と、「恥を知れ」と激しい怒りを直接投げ掛けた先は日本政府であるとしても、沖縄以外の日本国内に、この知事の言葉は広く知られる必要があると思います。

 以下は沖縄2紙の関連記事のリンクです。

ryukyushimpo.jp

www.okinawatimes.co.jp

ryukyushimpo.jp

 2件の不時着を東京発行の新聞各紙(朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、日経新聞、産経新聞、東京新聞)はどのような扱いで報じたか、それぞれ7日付と9日付の朝刊の主な見出しなどを書きとめておきます。

【7日付朝刊】
▼朝日
社会面3段「米軍ヘリ また不時着 沖縄の砂浜」写真・住民が撮影した不時着ヘリ(沖縄タイムス提供)、地図
▼毎日
1面3段「米軍ヘリ不時着 沖縄・伊計島」写真・不時着したヘリ(住民提供)、地図
第2社会面3段「『被害なしは偶然』/米軍ヘリ不時着 住宅まで130メートル」写真・不時着ヘリ、小型無人機で撮影(琉球新報提供)
▼読売
第2社会面3段「米軍ヘリ 砂浜に着陸 沖縄」写真・不時着したヘリ(提供写真)
▼日経
社会面2段「沖縄、米軍ヘリ不時着/伊計島の砂浜、けが人なし」
▼産経
第2社会面2段「米軍ヘリが不時着/沖縄・伊計島、けが人なし」写真・不時着ヘリ(小型無人機から、琉球新報社提供)、地図
▼東京
社会面トップ4段「沖縄で米軍ヘリ不時着/伊計島 砂浜 住宅まで100メートル」写真・不時着ヘリ(小型無人機から、琉球新報社提供)、地図/「『米に申し入れる』河野外相」
社会面3段「保育園部品落下1カ月 原因究明進まず」

【9日付朝刊】
▼朝日
1面3段「米軍ヘリまた不時着/沖縄・読谷 住宅地から300メートル」写真・住民が撮影した不時着ヘリ(沖縄タイムス提供)、地図
社会面3段「不時着『なぜこんなに』/米軍ヘリ わずか2日後、憤る沖縄」写真・伊計島のヘリは撤去
▼毎日
1面3段「米軍ヘリまた不時着/沖縄・読谷村 ホテルから数百メートル」地図
社会面4段「『沖縄の空飛ぶな』/米軍ヘリまた不時着 県民怒りの声」写真・住民が撮影した不時着ヘリ(沖縄タイムス社提供)
▼読売
第2社会面3段「米軍ヘリまた不時着/沖縄・読谷 ホテル近く けが人なし」写真・不時着したヘリ(住民撮影)
▼日経
社会面4段「米軍ヘリ また不時着/沖縄・読谷村 付近にはホテル」地図
▼産経
第2社会面3段「米軍ヘリ また不時着/沖縄・読谷村 伊計島の機体は撤去」写真・伊計島のヘリをつり上げる大型ヘリ、地図
▼東京
1面トップ4段「沖縄米軍ヘリ また不時着/読谷村 ホテルまで250メートル」写真・不時着したヘリ、地図
社会面トップ4段「続く不時着『極めて異常』/怒る沖縄 突然異音 低空飛行」※琉球新報 表・沖縄県での最近の主な米軍機トラブル
社会面3段「『北朝鮮よりも脅威』『米軍機恐怖感じる』」/2段「伊計島 不時着ヘリ撤去」写真・ヘリをつり上げる大型ヘリ

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写真:読谷村での攻撃ヘリ不時着を1面で報じた9日付の朝日、毎日、東京各紙朝刊

 

■追記1 2018年1月10日8時25分
 共同通信の出稿によると、河野太郎外相は9日午後、ハガティ駐日米大使と電話会談し、沖縄で米軍ヘリのトラブルが相次いでいることに対して抗議を申し入れたとのことです。

 

■追記2 2018年1月10日23時30分
 9日午前の翁長雄志・沖縄県知事の発言を、東京発行の各紙はどう報じたか、直接引用の部分を書きとめておきます。
・朝日
「米軍のだらしなさ。日本政府も当事者能力がないことに恥ずかしさを感じてもらいたい」=9日夕刊
・毎日
「日本国民である沖縄県民がこのように日常的に危険にさらされても何にも抗議もできない。当事者能力がないということについて恥ずかしさを感じてもらいたい」
「本当に言葉を失うほどだ。何としても悪い循環を断ち切るようにしないと、沖縄のみならず日本の民主主義や地方自治が問われている」=以上9日夕刊
・読売
「日本国民である沖縄県民が日常的に危険にさらされても抗議もできない。日本政府は当事者能力がないことに、恥ずかしさを感じてもらいたい」=9日夕刊
・日経
「本当に言葉を失う。県民が危険にさらされている」=10日付朝刊
・産経 ※夕刊発行なし
「県民が日常的に危険にさらされている。日本政府は当事者能力がなく、恥ずかしさを感じてもらいたい」=10日付朝刊
・東京
「本当に言葉を失う。(再発防止について)何一つ前に進まない」=9日夕刊

 

■追記3 2018年1月12日6時50分
 2件の不時着事故を伝える琉球新報の紙面が手元に届きました。1月7日付、8日付、9日付です。
 6日に不時着した多用途ヘリUH1の機体は8日、米軍の別のヘリがつり上げて現場から撤去、回収しました。同じ日に攻撃ヘリAH1の不時着があり、9日付の紙面はそちらの方が大きな扱いになっているのですが、このUH1の回収方法にも批判があったようです。社会面の記事によると、つり下げられた機体は、うるま市伊計島から海上を飛んで約10分後に米海軍ホワイトビーチのヘリポートに下ろされました。飛行コースは、沖縄本島と津堅島を結ぶ民間フェリー航路を突っ切っており、数分後にフェリーが通過。ヘリを目撃したフェリー乗客の「風であおられて落ちないかねと怖かった」との証言を紹介しています。フェリーの運航会社の代表も「定期船は安心・安全が第一だ。一歩間違えれば事故につながる」と憤慨。ヘリ移送の通知があったのは約1時間前のことで「ウチナーンチュが見下げられている」と批判したとのことです。在京紙の報道にはないに欠けた視点です。

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東京発行各紙の2018元日付1面と社説(備忘)

 備忘を兼ねて、今年も東京発行新聞各紙の元日付け朝刊紙面の主な記事と社説の見出しを書きとめておきます。近年は各紙とも1面トップには、1年の内外の課題を見据えた企画記事の初回を据えることが多かったのですが、今年は6紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京)のうち企画は朝日と日経の2紙で、4紙はストレートニュースでした。うち毎日、読売は北朝鮮関連だったのは今年らしい特徴と言っていいように思います。

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 以下は各紙の1面の主な記事の見出しと論説、社説の見出し、リードです。

 【朝日新聞】
▼1面
・トップ「一瞬のハッピーがあれば、人はまた走れる」=企画「平成都は」第1部 時代の転機 3幸福論
・「仮想通貨長者 把握へ/国税 資産分析 税逃れ防止」
▼社説
「来たるべき民主主義 より長い時間軸の政治を」場当たり的政権運営/シルバー民主主義?/われらの子孫のため  

 現在の安倍政権になって6回目の新年を迎えた。近年まれな長期政権である。
 しかし、与えられた豊富な時間を大切に使い、政策を着実に積み上げてきただろうか。
 正味5年の在任で、例えば、社会保障と税という痛みを伴う難題に正面から取り組んだとはいえまい。持論の憲法改正も、狙いを定める条項が次々変わり、迷走してきた感が深い。
 原因の一つは、国政選挙を実に頻繁に行ったことにある。   

 

【毎日新聞】
▼1面
・トップ「『拉致解決 資金援助が条件』/北朝鮮元高官証言/『調査部門残っている』」/解説「勝手な論理許されぬ」
・「計画公表前 受注リスト/リニア談合 年度内の立件視野」
▼社説
「論始め2018 国民国家の揺らぎ 初めから同質の国はない」機軸をめぐる試行錯誤/民主主義の統合機能を 

 2018年が始まった。
 北朝鮮の核・ミサイル危機は越年し、トランプ米政権の振りかざす大国エゴも収まりそうにない。国家が人間の集合体以上の特別な意思を持って摩擦を生み続けている。
 日本にとって今年は1868年の明治維新から150年にあたる。その歩みにも、日本の国家意思と国際社会との衝突が刻まれている。
 あるべき国家像とは。自らを顧みて問いかけが必要な節目である。
 明治を特徴づけるのは、身分制を廃して国民国家を目指したことだ。ただ、人びとが自動的に「国民」になったわけではない。明治政府は国民の「まとまり」を必要とした。  

 

【読売新聞】
▼1面
・トップ「中露企業 北へ密輸網/タンカー提供 決済仲裁/国連制裁の抜け穴/石油精製品/本紙、契約文書を入手」
・「児童ポルノ7200人購入名簿/検事、警官ら 200人まず摘発」
▼社説
「緊張を安定に導く対北戦略を 眠っているカネは政策で動かせ」戦後最大の「まさか」/「キューバ」を教訓に/中国との信頼醸成図れ/国民負担議論の好機  

 70年余り続く平和と繁栄を、どう守り抜くのか。周到な戦略と、それを的確に実行する覚悟と行動力が求められる年となろう。
 北朝鮮による緊張が高まっている。広島型原爆の10倍を超える威力の核実験を行い、大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射した。核の小型化と弾頭の大気圏再突入の技術があれば、米本土への核攻撃能力を手にすることになる。
 冷戦後、圧倒的な軍事力を持つ米国は、ロシアや中国との「核の均衡」を維持しつつ、世界の安全保障を主導してきた。米国を敵視する北朝鮮は、自国の独裁体制維持を目的に、安定した国際秩序を崩そうとしている。  

 

【日経新聞】
▼1面
・トップ「溶けゆく境界 もう戻れない/デジタルの翼、個を放つ」=企画「パンゲアの扉 つながる世界」1
・「銀行間振込 夜も休日も/全銀協、10月から即時決済」
・「電子攻撃機の導入検討/政府 電磁波で通信網無力化」
▼社説
「順風の年こそ難題を片付けよう」財政・社会保障の姿を/雇用改革も待ったなし 

 新年を迎え、目標に向けて決意を新たにした方も多いだろう。2018年をどんな年にしたら良いのか。政府と企業の課題を考えてみよう。
 「世界経済は2010年以来なかったような、予想を大きく上回る拡大を続けている」。米ゴールドマン・サックスは18年の世界経済の実質成長率が17年の3.7%から4.0%に高まるとみている。地政学リスクなどあるが、久しぶりの順風である。 

 

【産経新聞】
▼1面
・トップ「中国、2030年までに空母4隻/原子力検討、アジア軍事バランス変化/米と覇権争い 主戦場は南シナ海」
・「自衛隊で『わが国存立』/改憲、自民が複数条文案」
▼論説
・1面「年のはじめに 繁栄守る道を自ら進もう」石井聡論説委員長 

 異例の新年である。「戦後最大の危機」を抱えたまま、幸運にもこの日を無事に迎えることができた。
 朝鮮半島をめぐる緊張がさらに高まる場面も訪れるだろう。平和への願いは尊い。だが、祈りだけで国や国民を守るのは難しい。正月とはいえ、そうした状況に日本が置かれていることを忘れてはなるまい。
 極東に浮かぶ島国が世界の荒波にこぎ出した明治維新から、150年という大きな節目に当たる。
 当時の列強の組み合わせとは異なるものの、日本を押さえ込み、攻め入ろうとする国が出現している。
 世界経済に目を向けると、座標軸はめまぐるしく変化している。少子高齢化を切り抜けるため、有効な手立てが見つかったわけでもない。
 難局を乗り越えて生存していくには、国も個人も自ら針路を決めなければならない。その選択をためらっている暇はあまりない。 

 

【東京新聞】
▼1面
・トップ「福島除染『手抜き』/汚染土詰めた二重袋 内袋を閉めず/1000袋発見 不正横行か/雨水入り、漏れる恐れ」
・「改憲 今年中の発議目指す/2019年春までの国民投票想定/自民方針」
▼社説
「年のはじめに考える 明治150年と民主主義」明治憲法つくった伊藤/民衆の側から見る歴史/広場の声とずれる政治 

 明治百五十年といいます。明治維新はさまざまなものをもたらしましたが、その最大のものの一つは民主主義ではなかったか。振り返ってみましょう。

 日本の民主主義のはじまりというと、思い出す一文があります。小説・評論家で欧州暮らしの長かった堀田善衛氏の「広場と明治憲法」と題した随想です(ちくま文庫「日々の過ぎ方」所収)。 

  

 紙面づくりで目を引いたのは産経新聞です。
 2面と3面には見開きで朝鮮半島有事のシミュレーションを掲載。「米の北攻撃 3月18日以降」「予備役招集 開戦シグナル」の見出しはインパクトがあります。
 7面では「BPO 中立性に疑義」「委員リベラル寄り『国民不在』」の見出しで、放送倫理・番組向上機構(BPO)を真っ向から批判。まずやり玉に挙げたのは、沖縄の米軍基地反対運動を批判した東京MXテレビの番組「ニュース女子」について「重大な放送倫理違反があった」とした意見書。「一部の政治活動に“お墨付き”を与える存在」との評論家潮匡人氏のコメントを紹介し、意見書についての民放労連の委員長談話も「反対運動批判を封じにかかった」と批判的に評しています。
 8面と9面は「新春2018年 首相と語る」。安倍晋三首相と女性4人の座談会です。4人はジャーナリスト櫻井よしこ、気象予報士・女優の半井小絵、「琉球新報、沖縄タイムスを正す県民・国民の会」代表運営委員長の肩書を持つ「沖縄・政治活動家」の我那覇真子の各氏と田北真樹子記者。女性4人は田北記者も含めていずれも着物姿、安倍晋三首相はスーツ。場所は首相公邸。見出しを拾うと「日本の立ち位置は強力」「タブーに挑み 国民守る」「自衛隊論争に終止符を」「拉致被害者 帰国見たい」「安保環境 非常に厳しい」「印象操作の沖縄地元紙」「安保法 対北で不可欠」となっています。
 13面の国際特集は「粛清・洗脳…2018年正恩政権の行方」で、「Q 反乱の可能性は/エリート層使い統制」「Q 経済制裁 影響は/穀倉地帯で餓死恐れ」「Q 地方住民 生活は/楽しみは韓流ドラマ」の記事3本と図解で構成。北朝鮮社会の実情に詳しいアジアプレスの石丸次郎氏の話を紹介するなど、深い内容も盛り込まれています。
 1面トップの中国の軍拡記事も含めて、全体として中国、北朝鮮が安全保障上の脅威であることをリポートしつつ、それに対応しようとする安倍晋三政権の政策を評価するトーンが貫かれていると感じました。

進む「軍拡」、「敵」は北朝鮮、政府批判は「反日」~ジャーナリズムの使命は戦争させないこと

 2018年になりました。うっすらと不安を感じながら迎えた年明けです。

 昨年、「米国第一」を掲げて登場したトランプ米政権は、やはり何をしでかすか予測が付きません。北東アジア情勢では、核・ミサイル開発をやめようとしない北朝鮮に対して、軍事攻撃に踏み切る可能性がマスメディアでも取り沙汰されています。

 そうした中で昨年、日本で顕著になったことの一つは「軍拡」です。年の瀬、海上自衛隊のヘリコプター搭載護衛艦「いずも」を空母に改造することを防衛省が検討しているとのニュースがマスメディアを駆け巡りました。メディアによって内容に若干の差異はありましたが、要は政府が「空母ではない」と言い張っている「いずも」を改造し、米国製の最新鋭ステルス戦闘機F35Bを運用できるようにするということです。ほかにも陸上配備型迎撃システム「イージス・アショア」は国会での論戦もなく、閣議決定だけで導入が決まりました。巡航ミサイルも防衛省の言い値で予算化されました。2018年度の防衛費は6年連続増で過去最大です。

 今や安倍晋三政権は軍拡路線をひた走っています。しかし、空母を例にとってみても、そんな米軍並みの攻撃型兵器は「専守防衛」の自衛隊には配備できません。だから各メディアとも、これまでの日本政府の憲法9条の解釈との整合性を問題視しているのですが、国民の目の届かないところでまず兵器の導入が決まり、9条との整合性は後回しになっているのが実情です。そこに憲法遵守の姿勢は見られません。それでも「軍拡反対」の民意の大きなうねりが生じるわけではないのは、やはり「北朝鮮の脅威」のゆえなのでしょう。

  北朝鮮の弾道ミサイル発射実験を巡っては昨年、ミサイルが8月29日と9月15日の2回、日本列島を越えて宇宙空間を飛行した際に、日本政府はそれぞれ全国瞬時警報システム(Jアラート)で「国民保護情報」を発出して避難を呼びかけました。このJアラート発報とその報道に対しては、このブログの昨年9月17日の記事に書いた通り、危機の実相に見合ったものではなかったとわたしは考えています。

 ※参考過去記事:「危機の実相に報道は見合っているか~『ミサイル再び日本越え』は有事ではないし、災害と同列ではない」

news-worker.hatenablog.com

 しかし日本の社会では、このJアラートによって、北朝鮮の標的になっていることが強調され、そうとはっきりとは日本政府が言わずとも、北朝鮮を「敵」と考える雰囲気が広がっているように思えます。全国各地でミサイルを想定した避難訓練も続いており、「何もやらないよりは、万が一の時に被害を軽減できるかも」との心理で、知らず知らずのうちに「危機」を受け入れ、順応する人が増えつつあるようにも感じます。そうした状況をひっくるめて、「危機」は作為的に演出されている一面があるように私には思えます。

 軍事面では、より直接的に北朝鮮を「敵」ととらえた行動が顕著です。海上自衛隊は、米国の原子力空母と日本海で共同訓練を何度か実施しました。航空自衛隊も米空軍の戦略爆撃機と日本近海上で共同演習を繰り返しています。これはひとたび有事となれば、北朝鮮を攻撃する米軍を日本は支援することを示した北朝鮮へのメッセージであり、米軍と一体となった北朝鮮への軍事的な威嚇です。日本のマスメディアは、北朝鮮に対する「圧力」や「警告」と表現していますが、言い方はどうであれ、日本国憲法が国際紛争を解決する手段として放棄しているのは戦争だけではなく、武力による威嚇、武力の行使も含まれます。ここでも憲法遵守の姿勢は希薄です。

※参考過去記事:「トランプ米大統領の「威嚇」と日本、憲法9条~思い起こすゲーリングの警句」

news-worker.hatenablog.com

 ここで思い出すのは、ナチスドイツの大立者だったヘルマン・ゲーリングがドイツ敗戦後、米軍に拘束されていた間に残した言葉です。上記の昨年11月12日の記事を始め、このブログで何度か紹介しました。国民はだれも戦争を望まないが、政治指導者が国民を戦争に駆り立てるのは簡単なことだ、我々は攻撃されかかっているとあおり、平和主義者のことは愛国心が欠けている、と言えばよい、これはどんな国にも当てはまる―。

 このブログで初めてこの言葉を紹介したのはちょうど2年前、2016年の元日にアップした記事でした。

※参考過去記事:「ヘルマン・ゲーリングの言葉と伊丹万作の警句『だまされることの罪』〜今年1年、希望を見失わないために」

news-worker.hatenablog.com

 2年前は、さすがに安倍政権も日本が他国から攻撃されかかっているとまでは言っていませんでした。しかし今はまさに、北朝鮮を「国難」と呼び、ミサイルからの避難訓練を繰り返しています。一方で、敵基地を先制して攻撃することにも使える巡航ミサイルやF35B戦闘機、空母などの攻撃型の兵器の導入を図り、武力には武力で対抗する軍拡の道を歩んでいます。まさに日本は北朝鮮から攻撃されかかっている、あるいはすぐにでもそうなる可能性がある、との雰囲気が醸し出されつつある、というのは考え過ぎでしょうか。

 「平和主義者には愛国心が欠けている」とのレッテル張りは、もう既にわたしたちの社会で始まっていることのように思えます。沖縄の米軍普天間飛行場の辺野古移設を巡り、現地で反対、抗議活動をする人たちには、激しい誹謗中傷が加えられています。中国や韓国との歴史問題でも「自虐史観」などの用語で批判が加えられ、近年ではより直接的に「反日」という言葉も、主に安倍晋三政権を批判する人たちや組織に対して用いられるようになっています。

 「軍事」を「国防」「防衛」と言い換えながら、無理を重ねて軍拡を続けていけばどうなるかは、73年前にわたしたちの社会は経験済みのはずでした。わたしはマスメディアのジャーナリズムを職業として選び取って、まもなく35年になります。この間、マスメディアの労働組合運動に一時期、身を置く中で、かつて日本の新聞が戦争遂行に加担した歴史を学び、その中から、ジャーナリズムの使命は第一に戦争を防ぐこと、起きてしまった戦争は一刻も早く終わらせることにあるとの確信を持つに至りました。それこそが、ジャーナリズムに職業として関わる者の責任であり、矜持であると考えています。その意味で、ゲーリングの言葉が現実のことになりつつあるように思える現在の日本社会で、戦争を起こさせないためにジャーナリズムが負っている責任は極めて重いのだと自覚しています。

 2年前のブログ記事では、戦前の映画監督、脚本家で、俳優、映画監督の伊丹十三の父、伊丹万作の警句についても紹介しました。伊丹万作は1946年に発表した「戦争責任者の問題」で、戦争はだます者だけでは起こすことができず、だまされる者がいることで起こると説き、こと戦争については「だまされていた」ということで何ら責任を免れるものではない、むしろ、だまされることは罪であると看破していました。

 これは2年前にも書いたことですが、仮にゲーリングが言うように国民があおられ、平和主義者が誹謗中傷を受けるとしても、「だまされることの罪」を社会の側が自覚しているならば、戦争への道は決してゲーリングの言うように「どこの国でも有効」とはならないのではないか、そう言う意味で、希望は失わずに済むのではないかと思います。

 幸いなことにわたしは、同じように多くの人たちが戦争に反対していることを知っています。決して絶望することなく、マスメディアの組織ジャーナリズムの一角で働く一人として、自分の立場でできることを悔いの残らないように一つずつやっていく1年にしたいと思います。

 本年も、よろしくお願いいたします。

 

※参考 

 ゲーリングの言葉について、日本で入手可能な確実な出典を探して手にしたのは、ジョセフ・E・パーシコ(Joseph.E.Persico)というアメリカの伝記作家の「ニュルンベルク軍事裁判」上・下(白幡憲之訳、2003年原書房刊)という本でした。その下巻の171ページに、以下のくだりがあります。 

 「もちろん、国民は戦争を望みませんよ」ゲーリングが言った。「運がよくてもせいぜい無傷で帰ってくるぐらいしかない戦争に、貧しい農民が命を懸けようなんて思うはずがありません。一般国民は戦争を望みません。ソ連でも、イギリスでも、アメリカでも、そしてその点ではドイツでも、同じことです。政策を決めるのはその国の指導者です。……そして国民はつねに、その指導者のいいなりになるよう仕向けられます。国民にむかって、われわれは攻撃されかかっているのだと煽り、平和主義者に対しては、愛国心が欠けていると非難すればよいのです。このやり方はどんな国でも有効ですよ」  

  

ニュルンベルク軍事裁判〈上〉

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  • 作者: ジョゼフ・E.パーシコ,Joseph E. Persico,白幡憲之
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ニュルンベルク軍事裁判〈下〉

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 「戦争責任者の問題」は著作権保護期間を過ぎた作品を集めたネット上の図書館「青空文庫」に収録されていて、だれでも自由にアクセスできます。全文で7000字ほどです。
  ※伊丹万作「戦争責任者の問題」
  http://www.aozora.gr.jp/cards/000231/files/43873_23111.html