※エキサイト版「ニュース・ワーカー2」から転記です。http://newswork2.exblog.jp/8677380/
毎日新聞の27日付朝刊(東京本社発行、最終版)に訂正とおわびの2つの記事が掲載されました。一つは小泉元首相の引退表明をめぐる飯島勲元秘書官のコメントの引用についての訂正。もう一つは英文サイト「毎日デイリーニューズ」のコラム「WaiWai」問題で、毎日側が記事を無断で利用、翻訳していた出版社、新聞社が32社に上っていたことの新たなおわび(サイトにもアップされています)です。2つの問題自体は異なる事柄ですが、新聞社のジャーナリズムの在り方からは、必ずしも相互に無関係ではないように思えます。
飯島元秘書官の発言の引用を訂正した記事は、26日付朝刊の政治面(5面)に「存在感 神通力薄れ」「『支持』小池氏も総裁選惨敗」などの見出しとともに記者の署名入りで掲載されました。背景事情として、小泉元首相の政治的影響力が弱まっていたことを指摘する内容のいわゆる「サイド記事」です。関係部分を引用します。
「小泉氏は(サプライズを生む)魔法のつえをなくしてしまった。次期衆院選で小泉氏が応援しても小泉チルドレンは負けるだろう」
長く秘書として仕えた飯島勲元首相秘書官は、引退の報を聞くと周辺にこう語った。
この記事について27日付朝刊の同じく5面に、発言していない言葉が掲載されたとして、飯島氏が毎日新聞社社長、政治部長、記者の3人を名誉棄損、信用棄損、業務妨害の疑いで警視庁に告訴状を提出したことを伝える記事とともに、「訂正」を掲載しています。引用します。
26日朝刊で、小泉純一郎元首相の飯島勲元秘書官の話として「小泉氏は(サプライズを生む)魔法のつえをなくしてしまった。次期衆院選で小泉氏が応援しても小泉チルドレンが負けるだろう」とあるのは、飯島氏の数日前の話を誤って形で引用したものでした。飯島氏は、小泉元首相引退の報を聞いてこのようなコメントはしていません。この部分を取り消します。
毎日新聞の訂正記事では、数日前ではあるものの発言自体はあったことになります。しかし、なぜ時期を間違えてしまったのかは定かではありません。気になるのは、発言自体の有無(時期はともかくとして)についての飯島氏の主張は、他の報道によれば必ずしも毎日新聞の説明と一致しないことです。例えば共同通信の記事では「飯島氏は『毎日新聞から(取材の)電話も受けていない。捏造だ』と発言を否定。週明けに損害賠償を請求する訴訟も起こすとしている。」とあります。
発言は確かにあったが時期を間違えて引用してしまったのか、それとも発言自体が存在していないのか。後者だったとすると、次には毎日新聞が記事で「周辺にこう語った」と記述している「周辺」など毎日新聞の情報源の信ぴょう性が問題になります。飯島氏に対する毎日新聞記者の直接取材はなかったと推察されることも含めて、毎日新聞記者の取材は妥当だったのか、という問題です。
毎日新聞本紙の取材と記事の掲載のありようという問題は、もう一つのおわび記事のWaiWai問題にも関係してくるのではないかと思います。
毎日新聞はことし7月20日付朝刊に、WaiWai問題の検証記事を掲載しました(サイトにもアップされています)。その中には次のようなくだりがあります。
毎日新聞本紙では、記者が書いた原稿はデスクが目を通し、事実関係や表現について筆者に細かく確認を取ったうえで出稿される。さらに、紙面に掲載されるまでには、記事の扱いや見出しを決める部署や校閲部門、当日の編集責任者など何重ものチェックを経る。しかし、「WaiWai」ではこうした綿密なチェックは行われていなかった。原典の雑誌記事との照合も行われず、ほとんどが外国人スタッフの間で完結していた。
WaiWaiの不適切な記事とは異なり「何重ものチェック」を経ていた本紙の記事で、なぜ今回のような誤報が起きたのかは、つまるところWaiWai問題の再発防止策にも密接にかかわってくる、と言えるのではないでしょうか。毎日新聞社には、WaiWai問題でみせたように、飯島氏の発言引用問題でも誤報の経緯を検証し、読者に説明する真摯な対応を期待しています。
WaiWai問題は何度かこのブログでも取り上げてきました。過去エントリをまとめておきます。(新着順)。
外国人記者の「働かされ方」に問題はなかったか〜毎日WaiWai問題検証で考えること
ひとこと:英文毎日コラム問題で毎日新聞が内部調査結果を掲載
ひとこと:英文毎日問題で7月中旬に調査結果公表
趣の異なる新聞不祥事〜英文毎日の不適切コラム問題